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さあ、世界征服を始めよう

 22**年 1月 それは今から半年前


 甲高い音を立て、爆撃機は滑走路に降り立った。

 積載量一杯に積んでいた爆弾は全て投下されたのだろうか、空になっている。

 着陸に成功したパイロットはコックピットを開け、「ふう」と小さく息を吐いた。

 ヘルメットを外し、髭に覆われた顔を露わにする。その顔は幾多の死線を乗り越えた者の顔だ。

 普段はさぞかし気を張り詰め、険しい表情をしている事だろう。

 が、戦地から帰って来た今に限っては、その顔には安堵が色濃く感じられる。

 無心で戦ってきた反動だろうか。物思いにふけっている様だ。


 それは人類史上、今まで類を見ないほどに大きな戦争だった。

 ――――第五次世界大戦。

 長きに渡る地下資源採掘の結果、世界全土で地下資源が枯渇。

 残された僅かな採掘可能な土地の保有権をめぐり、戦争は始まったのだ。

 その余りにも愚かな戦いは人間自らを滅ぼしかねないほどの規模で世界全土に広がって行った。

 強国同士のぶつかり合い。それに巻き込まれる小国。

 荒れに荒れる戦争は、過去の戦争など比では無い数の死者を、今も出し続けている。

 そんな中で敵国に攻撃を仕掛けて、五体満足で帰って来れた彼は、運が良かったとしか言いようがない。

 いや、彼の祖国、アメリカの指揮系統が優秀で、敵国の増援が来る前に撤退出来たのだから実力か。

「ははっ」

 パイロットは、乾いた笑いを溢す。

 彼は、自分が余りにもどうでもいい事を考えていると、理解しているのだろう。

 運だろうが実力だろうがそんなものはどっちだっていい。

 大切なのは彼が今、生きている。その事実だけだ。

 彼は生き残った。

 死が身近なものであるこの世界で。幸運にも。

 戦場で戦う人間には、神に対する信仰心が薄い者が多いのは知っている。

 それは彼も同じだろう。

 しかし、今に限ってだけは、彼は神に感謝している様に見えた。

 彼は、いずれまた爆撃機に乗るのだろう。敵国の人間を殺し、祖国アメリカに勝利をもたらす為に。

 彼も子供の頃は、人殺しも戦争もいけない事と教わったはずだが、大人となり現実を知った今は、そうは思っていないだろう。

 無論、人殺しはいけない事だ。が、戦争の中での人殺しは『敵だから』というだけで正当な理由になり、殺した相手や人数によっては英雄にだってなれる。

 それは確かに、この世界にどうしようもない事実として、存在していた。

 自国に利益をもたらすという面では、戦争は野蛮なビジネスに過ぎない。でなければ、軍事産業という言葉が生まれるはずも無い。


 ・・・などと、彼を見つめながら考えていたのだが、外の新鮮な空気に体がさらされた事で寒くなったのだろうか、彼は小さく体を震わせた。

 まあ、何時間もいつ死ぬかも分からない爆撃機の中にいたのだろうから、嫌な汗の一つや二つは掻くだろう。

 それが、外の空気に触れれば寒くなるのも当然だ。

「さっさと体洗って今日はもう寝るか」

 彼は独り言を洩らすと、コックピットから翼を伝い、慣れた様子で地面に降り立つ。

 今は深夜の十二時を回っているが、滑走路には照明が当てられ眩しい位だ。足元が見えない、なんて事は無いだろう。

 彼は空を見上げた。今日は満月だ。それを見たかったのかもしれない。

「・・・・・ん?」

 彼は動揺した様子だった。

 美しい満月。

 きっと彼にはその真ん中に、黒いシミの様なものが見えたのだろう。

 見間違いを疑ったのか、彼は目を擦り、もう一度満月を見上げる。

 何度見ても同じだというのに。

 パイロットを務めるものは職業上みな、凄まじく視力が良い。もちろんそこに立つ彼も含めて。

 もしそんな彼がこんなにも明るい中で見間違いを起こしたというなら、即刻パイロットなど止めるべきだ。

 だが、彼がパイロットを止める必要など、どこにもない。

 なぜなら、彼は見間違いなど起こしていないのだから。

 では、彼の目が正常だとするならば、黒いシミとは何か?

 軍用機?

 いや、違う。

 明らかにどの軍用機のシルエットにも当てはまらないはずだ。

 では、シミとは何か?

 彼は心底不思議そうに空を見上げる。

 彼の心中が予想出来る分、何も分からずオドオドする彼の姿は、見ていて何だか面白い。


 ・・・・ふふっ。

 思わず小さく笑ってしまった。

 こんな些細な事で毀れた笑いが、人生かどうかは分からないが、生まれて初めての笑いだった事、その事実もまた、何だか可笑しくて。

 彼は腰に携帯している双眼鏡を取り出し、覗き込む。

「・・・・・・なっ」

 彼は言葉を失っていた。

 双眼鏡を使う事で、目視出来たのだろう。

 ならば、千里眼を使っての観察もここまでか。


 ――――何せ、『我』が見つかってしまったのだから。


 ボロボロのマントに身を包んだ我はさぞかし禍々しく、何より空に留まっているという事実は、人で無い事を如実に表し、彼に恐怖を与えている事だろう。

 彼は慌てて無線機に手を伸ばす。

 報告されても大した問題では無いが、まあ、ここは堅実かつ確実にいこう。

 生まれて最初の大仕事である訳だし、石橋を叩いて渡る位で丁度良い。

 我は、手に持つ錫杖に魔力を込めた。

『ハイフィールド・マインド・パペット』

 広範囲に渡り、洗脳魔法がその効力を発揮する。

 彼の意識もそこで途切れた事だろう。

 その証拠に彼の動きは止まり、ただ命令を待つだけの人形となっている。

 彼だけではない。

 基地にいる全ての人間がみな、人形に成り果てていた。

 ここまでは予定通り。

「さあ、人形達よ!即刻、この基地から立ち去れ!!」

 我の言葉を聞いた瞬間、今までピクリとも動かなかった人間達は一斉に動き出す。

 あるものは車に乗り込み、またあるものは爆撃機に、戦闘機に、戦車に。乗るものが無い人間は徒歩でそれぞれが四方八方基地から離れていく。

 これでいい。

 あとは、全ての人間が安全な距離まで基地から離れた所で、基地を消し炭にするだけだ。


 さあ、世界征服を始めよう。


 我は満足気に笑った。いや、実際満足だった。

 初陣としては大成功だろう。

 まさに我の初陣に相応しい。


 ―――――そう、この魔王の初陣に。


これから少しずつ修正していこうと思います。

今まで投稿していたものよりも面白くしていきますので、ぜひ読んでみて下さい!

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