プロローグ
俺の名前は荒波 渉
今年で29歳になるプログラマー
就職の氷河期といわれどうにか食いっ逸れしないようにと
先生に進められるがままにプログラマーになる道に選んだんだが
道を誤ったかもしれないと後悔の日々を送っている・・・いやいた
今勤めている会社はもう6社目で
なぜか俺の入る会社は程度こそ違うが世間一般でいうブラック会社にばかりあたるんだ
残業時間が月200時間超えが当たり前だったり
残業代が払われなかったり
怒号が飛びかかっていたり
精神病にかかる人が多かったり
人がいきなり失踪していなくなったり
人を人扱いしなかったり
犯罪だと思わしきことが普通にまかり通ってたりと上げればきりがない
これだけブラックばかりに当たると
日本にはもうブラックしか残ってないんじゃないかと思うぐらいだ
休みなく長時間働かされる毎日
寝る時間を除くとほとんど自由な時間が無い・・・というか満足に寝る時間すらない時も多い
そんな人生だったけどその苦労もあと少し報われる
今の案件が終われば元同僚で戦友でもある竹本さんの紹介で
ようやくまともな会社に行くことができることが内々で決まっている
今度の会社はネットで検索してもブラックという文字は出てこないし
半年勤めた竹本さんの話を聞いても特にヤバい話も出てこない
あれだけ虚ろな目をしてやせ細っていた竹本さんも
今じゃぁ目に光を宿して体もそこいらにいる普通のおっさんと呼べるぐらいになってる
「その為にも早いところこのバグを修正して終わらせないとな」
ふと辺りを見回すと外は暗くなっており壁に掛けられている時計は3時を指している
そんな時間なのに会社には何人も徹夜で残ってるこの会社はやっぱりだめだと改めて思った
そこから1時間ほどでようやく残りのプログラム修正とテストを終え
「納期はなんとか守れそうだけど
年のせいかもう昔みたいに連日の徹夜はつらいな・・・頭は痛いし体も重い・・・」
後はこれをサーバーに上げて客先に納品して引き継ぎすれば俺の新しい人生の始まりなんだ
今度の会社では時間ができるだろうし少し運動を始めよう
今までは若さでどうにか体系を保てていたけど最近おなかが気になるし
あともうすぐ30になるというのに女性との出会いもないのも問題だよなぁ
それは今度竹本さんに紹介してもらうようお願いしよう
気分的にやらないといけないことが大体終わったからか頭の中には未来のことがあふれてくる
しかし体のほうはそんな思いと正反対にいつも以上に頭が重く痛い・・・
時計を見ても出勤時刻まではあと4時間ほど残ってそうだ
それまで寝て回復しよう
机の上にあるキーボードを横にどかせて
いつものように腕を枕に机にうつ伏せになり意識を失うかのように睡眠に入る
今日はいい夢が見れそうだ・・・
「いい加減目を覚ませ!」
大きな女性の声で反射的に一気に目が覚める
目を開けると目の前に高圧的な感じな女性が一人
机を隔てて椅子に座っている
「目ー覚めた?とりあえず今の状況わかる?」
さっきまでパソコンがおいてある机の上で寝てたはずなのにと思いつつ
慌ててすこし辺りを見渡すと仕事場とは全く違う個室に女性と二人っきりになっている
もしかして意識がないまま客先に!?
いやでもこの案件の担当者田中さんだったはず・・
もしかして担当変わった?
とりあえず謝っておかないとまずい!
「申し訳ありません。意識が飛んでいたようです。
レジャー施設の予約管理システムの納品の件であっていますでしょうか?」
「全然違います」
女性は間髪入れずに否定
軽いため息をつきつつ一枚の紙をこちらに渡し
「とりあえず説明するのも面倒だからこれ読んでもらえる?」
まだ状況が理解できないが
とりあえず客先ではないことに安堵し素直に渡された紙を読む
2007年4月 株式会社イーツーシーに入社
4月 3日 学校のCMS管理システムの開発に携わる
5月21日 通販サイトの携帯画面開発を兼任
7月 1日 既存鉄工システムの置き換えを兼任
7月15日 学校のCMS管理システムの納品完了
7月16日 田螺商店のショッピングカート開発を兼任
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読み進めて行くと今までの自分のやってきたことがずらずらっと簡単に書かれているもののようだ
自分の経歴書?っということはもしかして竹本さんが紹介してくれた会社の面接中だったりするのか?
そう思い至った瞬間背筋に冷たい汗が流れる
焦りながらも最後まで目を通すと冗談のような文言が一つ
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9月15日 レジャー施設の予約管理システムの開発に携わる
10月 5日 過労により死亡
「過労により・・・死亡?」
現実感がないまま口からその言葉が溢れる
「そうゆうこと。先に言っておくけどこれ嘘でもドッキリでもないから
とりあえず死んだってことを前提に話を進めるわね」
突然のことで信じきれないが
そんなことを気にしないかのように目の前の女性は話を続ける
「簡単に説明するとここはあなたは死んだ
そして本来であればそのままあなたたちの考えで言う輪廻の輪みたいなものに加わるんだけど
今私の所人手不足なのよね
それで第二の人生?ってのの勧誘という話。ここまではいい?」
いきなりのことで正直頭の中では整理しきれていない
しかし本当に自分は死んでいると仮定すると
目の前の人は女神様とかそんなんだったりするんだろうか?
だとすればこれはもしかしてあれか?
ラノベとかに出てくるような展開だったりするのか!?
・・・だとするとやけに服装が俗っぽい女神様だな
いやでもそう思って見るとこの人から神々しさ的なものが見える気がする!
「もしかしてあなたは女神様で別世界で勇者になって魔王を倒してこいとかそんな話でしょうか?」
少し熱っぽい思いを胸に抱きながら目の前の女性に聞く
女神様と思わしき人は一瞬きょとんとしたような表情を浮かべ
少しの沈黙の後
頭に手を当て冷ややかな目をしながら
「あんた何歳よ?夢見過ぎでしょ」
一蹴された
意気消沈した後
口を挟まずに最後まで話を聞くと
どうやら別世界に行くこと自体はあっていたが
やることは魔王討伐でも人の救済でもなく
別世界のシステムの運用・保守・開発
まぁ簡単に言えば別世界のプログラマーのような仕事の話だった
どうやらその別世界は
今までいた世界にプラスしてゲームとか物語でよくある魔法が使える世界らしい
ただ魔法自体は後付けで外注に作らせたらしく
いざ運用を始めるといろいろと不具合が発生してまともに運用できていないそうだ
そして修正する為の人もコストの関係で新たに雇えず
それどころか今まで開発していた外注も既に納品は完了したということで
追加で開発するには費用が発生ししかも高額なため引き続き雇うことができない
そこでこっちの世界の人を勧誘して補おうとしているという話だった
「大体理解できました。それでなんですがまずこの話って勧誘であって強制ではないんですよね?」
話を聞いている感じでは簡単そうに別世界でプログラマーをやれって言ってるが
今までブラックを経験した勘からすると第二の人生を天秤にかけたとしても
行かない方がいいような嫌なそうとても嫌なにおいを感じた
特にコストの関係で人を雇えずってところと外注に逃げられたというところ
それにプログラマーではあるが全く経験のなさそうなシステムの運用、保守、開発を
俺・・・いや俺のような人間の数を揃えて雇おうとしているところが特にやばそう
「まぁ強制ではないけれど断るとそのまま輪廻の輪に戻っちゃうわよ?
具体的に言うと初期化されて今まで生きてきた苦労がなんにもなくなるわけだし」
女性は平静を装い淡々言っているようだが
その言葉の意味から考えるとよけいにそのまま輪廻の輪に戻った方がいい気がする
具体的には第二の人生に奴隷をルビにふるようなそんな感じがする
「それはわかってます。一応です。
それで多分意味的にはあなたが私を雇用する的な感じに受け取ったんですが
仕事の報酬とか勤務体系とかその辺どんなものか教えてもらっていいでしょうか?」
女性はまた一枚の紙をこちらに渡してくる
雇用契約
報酬:第二の人生
勤務:24時間勤務で年1日休暇
仕事内容:世界の運用・保守・開発全般
渡された何度か見直すが内容は変わらず
一応確認の為1日が何時間か1年は何日かを聞くと1日は24時間で1年は300日という回答
「やっぱりか!この雇用条件だと生前よりもブラックじゃねーか!というかすぐ死ぬわ!」
「そこは大丈夫よ抜かりはないわ!
頑強でいて飲まず食わずで寝なくても24時間働ける体を特別に用意するわ!」
「肉体が生きてても精神が死ぬわ!それならこのまま楽になるほうを選ぶわ!」
「なによ!せっかく人が第二の人生を歩ませてやろうってのにその態度!」
今まで一応丁寧に接してきたつもりだったけど
この条件だと第二の人生を謳歌どころか奴隷以下じゃねぇか!
その後も女性との生産性のない言葉のやり取りが数分続き
あきらめたのかと思ったらしぶしぶもう一枚の紙を渡してきた
雇用契約
報酬:第二の人生 成果により勤務時間、日数の緩和
勤務:16時間勤務で月1日休暇
仕事内容:世界の運用・保守・開発全般
「譲歩できるのはこれが目一杯よ!あんたの替えなんていくらでもいるんだから!
これでだめならそのまま消えてもらうわ」
新しい条件を見る限りだと少しの自由と寝る時間とれそう
成果次第では人並みの生活はとれるようにはなる・・・のか?
正直そんなに良い条件というわけではない
もう少しで掴めていたはずのものと比べると深い溜息しか出ない
かといってこのまま輪廻の輪に戻るのであれば
いったい今までの俺の頑張ってきた人生はなんだったんだと思ってしまう
・・・くそ
ブラック生活は延長ってことになるのか
もうだめだったらだめで最悪自殺でも逃亡でもなんでもしよう
絶対に今度こそブラックな環境から抜け出してやる!
そんな思いを胸に抱きつつ契約を受け入れる
「契約完了ね!それじゃぁ時間ももったいないし早速だけどすぐに行ってもらうわ
目を覚ましたら監・・・世話係がいるからその子に詳しくは聞いて」
いきなり他の説明なしに現地入り!?そう声をだそうとするが口を開く前に俺の意識が途絶える