姫
何とか席に座ったものの・・・
横には信じられないくらいの美少女が居る。
見ると、また見惚れてしまう。
背が低く、顔も残念な俺は格闘技の試合で勝ち進んで有名になるまでは、
女子とまともに話した事すらない。
あいや~~女子に全く免疫が無い事が発覚。結構深刻かも。いや深刻!
と、教壇には野見山先生じゃない違う先生が授業を始めようと立っている。
「起立!!」
ん~懐かしい。中学高校はこんなんだった。と思い出す。
と、立つのが一テンポ遅れた。隣の本間を見ると、にこっ っと目で気にするなと言ってる様に微笑む。
やばい。可愛すぎ。心臓の鼓動が早くなる。心臓が飛び出しそうだ。
高校生もいいかもしれない。
ん?何考えてるのだ俺は。この本間の虐め解放の為にここに来てる事をすっかり忘れてた。
しかし・・・役得かも。
鼻の下が伸びてるのが自分で分かる。どんな間抜けな顔をしてるのか予想が
付くだけに自分のアホさ加減に冷静さを取り戻す。
号令は終わった後だった。立った次いでにテキストの無い俺に、
本間が机をくっつけてくれた。
俺は軽くお礼をして、
「木見です。宜しく。」 とやっと挨拶できた。
「本間です。学校の事は何でも聞いてね?」
と超可愛い笑顔で答えてくれる。
この娘に良い所を見せて、ヒーローになりたい。と強く思う。
まずは、本間とその近辺の状況の把握が必要。
虐めの首謀者の三井は、どこだ?同じクラスなのか、違うクラスなのか。
休み時間しか仕事に掛かれない。
当然だが、授業は全く聞いていない。
最初の段取りを考えるに、休み時間になったら本間に校内を
案内して貰う事にしよう。
メモ紙を取り出し”学校を案内して><” と書いて本間に渡す。
渡して顔を見ると、微笑んで頷いてくれた。
あっ。髪の長さが左右不自然だ。俺の本間に何て事しやがる!!
俺の本間じゃないけど。。
そうこう考えてる間にチャイムが鳴る。
いよいよか。1時限終わりを告げるチャイムが鳴りやんだ。
「本間さん、まずはトイレとか保健室とか日常的な場所を
案内してもらっていい?」
「そうね。早速行きましょう。」
本間の後ろについて教室を出る。
出たら横に並び彼女の歩く速度に合わせて進む。
と、
「ここがトイレ。2年生が普段使うトイレ。他にもあるけど
3年生のトイレは使わない方がいいかも。
その他は体育館、グラウンド、あるけど時間の都合でまたね。」
「んじゃ、次保健室を。」
その時、後ろから呼び止められる。
「本間~約束の~持ってきたか~?」
こいつが、三井郁美か?転入早々ついてるかも。
3人組に女子だった。その3人組を見た本間に険悪な雰囲気が漂う。
「木見君、案内はまた今度。呼ばれてるから先に教室に戻ってて。」
とっさの事に返事できずに、案内されたトイレの女子の方に4人が入っていく。
本間を囲んで逃げれない様に見える。
入ってすぐに
!!! バン !!!
大きな音がした。
ビンゴ~~虐めの現場に違いない。
スマホを取り出し動画モードで録画を押す。
「え~、女子トイレで尋常ではない音がしたので、
だれか倒れてるかも知れないので
入ってみます。断っておきますが覗きではありません。」
動画にナレーションを入れる。
「周りに誰も居ないので、最悪の事態を避ける為に入りました。
ん?誰かの声が聞こえます。
事故ではなかった様なので、安心して出る事にします。」
ナレーションはわざとらしく続く。
「ん?? なんだか言い争いをしてるようですね。
こっそり様子を見てみるとします。」
中をこっそり覗き込むと、案の定、本間が3人に囲まれて責められている。
「おい!3万って言ったよな?」
女子の一人がそう言いながら個室のドアを蹴る。
「1万って舐めてんの?」
再びドアを蹴る大きな音が響く。本間は両手の手のひらで、
こめかみを押さえてる?てか頭を手でガードしてる?の様な感じ。
「先週も3万で、今週はもらえなかったから。ごめんなさい。ごめんなさい」
本間が震えながら震えた声で謝る。
当然ずっと動画モードで録画中だ。
「あんた?何してるの?女子トイレで?」
不意に後ろから声を掛けられる。虐めの現場を録画する事に気を取られて、
後ろの存在に気づかなかった。が、一般の女性徒の様だ。
「しっ! 中で虐めがあってる。」
「あ~またか~。違うトイレに行くか~」
一般生徒は、トイレを出ていってしまった。
この虐めは他の生徒も知ってる様だ。しかし、誰も止める者 が居ない。
虐めが長い期間続いてるって事は、本間の味方の友が居ないのだろう。
本間は?と視線を戻すと、今のトラブルでこっちに気付いた様だ。
4人の視線が俺に向いている。
「お~い。変態君~ 痴漢は犯罪だよ~~?スマホ片手に何してるのかなぁ~?」
気づかれたら仕方ない。4人の前に堂々と立ち、
「何してると思う?聞いて驚くな?草履を編んでるんだ。」
「はぁ~?人呼ぶよ?変態君~」
「そっちは美少女囲んで何してる?」
「こいつが生意気だから躾してるんだ。
人呼ばれたくなかったら出ていきな!」
「躾??お前ら2年だよな?まぁ3年でもいいけど。
同じ世代でお前ら3人はそんなに偉いのか?お前らは神か?
誰に断って上下関係作ってんだ?
躾が必要なのは、お前ら3人だと思うが?」
4人の顔が呆気に取られてポカンとなる。
そこで一気に追い打ちを掛ける。録画中の動画だ。
停止ボタンを押して再生にする。それを見せながら、
「これをもって職員室行ってもいいが?」
動画は、”尋常ではない音がしたので・・・”
の最初からボリュームを大きくして見せつける様に前に出す。
3人の顔に陰りがでた。この顔を確認後、
「取引しない?この動画を買って欲しいんだけど。」
「ふざけるな!こっちに来い!渡せ!」
「忙しい奴らだな。変態出ていけと言ったかと思えば、
こっちに来いってか~?」
更に続ける。
「これって虐めの現場だよな?これが裁判沙汰になれば、
責任能力の無いお前らの親に責任が行く事は、アホなお前らでも分かるよな? お前ら一人一人の家から数百万の慰謝料取れるよな~。」
何て、もっともらしく適当に脅すと、3人の顔が青くなる。以外に快感になるかも。
「おいおい。自分の行動に責任もてよ?」
と、一人がスマホ目掛けて走って来たが、かるくいなす。
「恐喝する気か?男の癖に小さい事するな~。いいからスマホ寄越しな!」
「いや、買って欲しいと取引を持ち掛けただけだが?
当然、断ってもらっても構わないが?
それに恐喝ってのは、今、本間さんにしてるお前らのまんまだと思うが。
何なら、録画してるから見せようか。」
「だから、躾だって言ってるだろう!」
「躾?笑わせるな。1対1は喧嘩。2対2も喧嘩だろう。では、1対3は?
何て言うでしょ~?」
「くっ。」
論破されて、グーの音も出ないとはこの事だろう。
スマホからメモリカードを抜き取り、大事にポケットに仕舞う。
「このまま、速攻で職員室まで走ってもいいけど?
その長いスカートじゃ俺には追いつかないと思うが?」
「くっ。いくらだ。いくらで売ってくれるんだ?」
いい感じで俺のペースになって来た。
「そもそも、お前は本間の何だ?部外者だろうが!」
悪足掻き。悪党はいつもこうだ。TVの見すぎじゃない?
「俺は、本間さんのファンクラブの会長だが?本人の許可は取ってある。
それに、姫とミジンコの俺が会話する事さえ許されないんだが。
そんなささやかな俺の幸せを妨害して、慰謝料取れるぞ?」
一息ついて、本間に視線を向け
「本間さん、今までどのくらいのお金取られたの?」
本間に問うが、目線を俺に向けるが返事は帰って来ない。
丁度再生してる動画が、 ”3万って言ったよな” の所を再生してた。
「3万を5回取られて15万。慰謝料5万で20万で買ってくれ」
「ふざけるな!」
「いや、買わない自由もあるから。
選択を間違えるとお前らの親が10倍払う事になるだろうけど。」
3人は何も言えず、動けず数秒の時間が過ぎる。
3人に近づき、一人が握ってる1万を取り返し、本間の腕を掴んで、
「今日の放課後までに考えといてね。間違えるな?取引って事を。んじゃ、
姫は返してもらうぞ。」
・・・・・・・何か違和感を感じた。何だろう。
トイレの外に本間と出る。
「あ~~怖かった~。姫は大丈夫だった?」
本間の手を握って取り返した1万を返した。
「へんな所見られちゃったね。でもファンクラブって・・・姫ってなによ。」
とても明るい笑顔で返事が返ってくる。
スピード解決で、試験にパスできそうだ。
「あっと、もう2時限目始まるんじゃない?トイレは大丈夫?」
「あっ。安心したら行きたくなっちゃった。」
可愛く舌を出して無邪気に答える。めっちゃ可愛い。
もしかして・・・最高の仕事かも。
ついでに他のトイレも案内してもらい、本間がトイレの間、
3人が追ってこないかを警戒する。
そして、本間と教室に戻った時に2時限目のチャイムがなった。
こうして、俺の初陣が終わった。ほんの10分くらいの時間に、
なんと濃縮された展開だったのだろう。と 思い返す。
次は2時限目の休み時間が舞台となる訳だが。
あの3人の中に三井は居たのだろうか。あの3人は別のクラスだった。
虐め発覚の時期が1年の終わりとわかってるから、別のクラスにしたのだろう。
学校側も、できる対策は取ってる様にも思えるが・・・
くっついてる机。テキストを一緒に仲良く見てる。
俺にはなかった青春に戸惑う。
本間の方をちらっと見る。目が合った!幸せ感が全身を電気の様に走る。
姫を守らないと。とより一層決心を固めるには十分だった。
17歳と24歳・・・結構辛いかも。60歳と67歳って変わらない気がするが、
若い内は大きく違う事をちゃんと冷静に理解してる俺がいた。
仕事が済めば、この子に逢う事もないのだろうか。
色々考えると深入りはできそうにない。当たり前だがテンションが下がる。
授業中の本間は真面目だ。ちゃんと聞いてるし、ノートも取っている。
そんな本間を見てるだけの幸せな時間が過ぎ、2時限目終了のチャイムが鳴った。
まさに、戦いのゴングが鳴った様な錯覚に陥る。
「本間さん、トイレ行く?」
「ううん。大丈夫。」
「だったら、教室で学校の事教えてよ。」
にっこり笑うと頷いた。
本間に近づく奴は居ない。いわゆるボッチだ。
本間と仲良くすると、自分も的にされる。触らぬ神に祟りなし。
って所だろうか。ふと、教室の外で3人組の二人がこっちを見てる。
監視してる様に。しかし入ってくる気配はない。
取引的には、こちらが優勢。向こうの出方をゆっくり待とう。
その時一人が戻ってきた。3人はこちらを見て、薄ら笑いをして去って行った。 まるで勝ち誇った様な顔だった。 何か計略があるのだろう。直感がそう告げる。
俺は架空の人物。怖いものは何もない。
罠だろうが何だろうが力でねじ伏せるだけの力は持っているつもりだ。
楽しみだ。仕掛けてくるならいつでもどうぞ。ってな感じだ。
ふと、辺りを見渡す。本間をやはり避けてる様に思える。
孤立してる。本間は心の強い優しい子だと思う。本間と一緒に居るせいか、
転校してきた俺に話掛ける奇特な奴は居ない。
男子生徒もいるが・・・
アキバに萌えキャラ絵のプリントうちわを持ってそうな奴ばかり。
おまけに影が薄い。
そして、3時限目を告げるチャイムがなる。
気合い入れたものの、何も起こらなかった事に胸をなで下ろす。
何か行動を起こすなら、昼休みだろう。しかし、油断はしない。
気を緩めず3時限目の終わりを迎える チャイムがなる。