逆ハーレム応援します!
あれも愛、これも愛、そして逆ハーレムに愛です
「本日はお忙しい皆様にお時間を作っていただけましたこと、まことにありがたく…」
「意味わかんない!さっさと要件言ってよー!ボクら忙しいんだから!」
「はい、失礼いたしました。それでは本題に入らせていただきます。こちらをご覧ください」
突然だが、私は乙女ゲームのライバル女性キャラな転生者である。
悪役ではない、メインヒーローの幼馴染みで主人公のライバルとして張り合ってくるキャラだ。メインヒーローシナリオ終盤でヒロインに敗けを認め、二人の仲を応援しつつ去っていく当て馬。と思わせておいて、後日談でちゃっかりクラスメイトのそこそこイケメンモブに告白されて幸せになっちゃうという、おいしいポジションのキャラである。
で、目の前に居るのが転生ヒロインさんと攻略キャラの皆さん。
存在しない逆ハーを作り出す攻略対象知識とフラグ管理手腕に恵まれ、しかし攻略キャラ以外への配慮に欠けた、つまり前世はオタクでリアルに充実できてなかった疑惑のあるヒロインさんは、日々逆ハーの皆さんとお花畑を耕している。もちろん比喩表現だ。
そしてこの転生ヒロイン、なんとライバルキャラであるわたしを「悪役」として利用して逆ハーレムを完成させようとしているのだ。
ソースは私。裏庭でぶつぶつと計画を呟くヒロインさんを目撃し、呟きをふぁぼることに成功しました|(比喩表現)。
最近の携帯は多機能すぎて使わないアプリばかりだと思っていましたが、用意しておけば使える瞬間というのがくるものだ。
そして私は計画を練った。
逆ハーの皆さんの前に立ち、背後のスクリーンに写し出したポワーンポイント(※登録商標に配慮した名称)に最初の画面を表示させる。つかみのタイトルはこれだ。
『愛はすべてに勝るのか?』
私は聴衆の方を向いて口を開いた。
「愛、それは太古より語り紡がれてきた…」
「ちょっと待ってくれ」
なぜかぽかんとこちらを見ている一同の中、幼馴染みが小さく手を上げて発言する。
「はい、トカシキくん」
「いや、なんか、楽しそうに研究発表ごっこしてるけど、いきなりどうしたんだ?あと俺はトカシキじゃない」
「ふむ、それを聞きますか」
「こっちは、俺たちに聞いて欲しいことが有ると聞いて来たんだけど」
「その通り!そしてこれは、あなた達のための研究発表です!」
胸を張って宣言するが、聴衆一同首をかしげている。
「まぁまぁ、まずは聞いてください。私はみなさんを応援したい!そういう気持ちで今日この時を迎えたのですから!」
「愛を示す方法に決まった形はありません!各々に愛があり、その愛のピースがはまる相手がひとりとは限らない!多少の歪さは愛のエッセンスなのです!」
ロリコンだっていいじゃない!
「家族を愛する心と恋人を愛する心、それも愛、これも愛!愛に貴賤はありません!」
近親相姦だっていいじゃない!
「すべてを愛する愛、それはつまり最上の愛!博愛主義、それは女神の愛!」
逆ハーレムだっていいじゃない!!
私の演説に、逆ハーの皆さんは頷きあっています。そしてその中心にいるヒロインさんは呆気にとられつつ、回りの視線に気づくと恥ずかしそうな演技を交えつつ、微笑みをばらまいています。
「私、皆さんの関係、とても素敵だと思うのです」
「ほ、本当に…?」
ヒロインさんに微笑みかけます。
「モチのロンですよ!ライバルとして切磋琢磨し、誰かがピンチの時には一丸となって戦う、あなた達は固い絆で結ばれています」
男連中がお互いを見てちょっと照れたりしています。ほんとちょろいなこいつら。
「私にはそれがとても、羨ましいと、思ってしまうときもあります」
私の言葉に、ヒロインさんの目が光る。
「でも!」
大丈夫だよヒロインさん、私はあなたの味方です。
「羨ましく思う以上に、そんなあなた達を、そんなあなた達だから…。見ていたい、応援したいって思ったんです!」
そう、『存在しないエンディングを目指すヒロインさん、マジパネェッスよ!』の気持ちで!
だからこそ、安易な悪役を求めようとしたヒロインさんのフォローをすべく、私は行動に出たのだ。
「ですが、残念ながらそのように考えられない人も、その、たくさんいるみたいで…」
「それって…」
「まさか、嫌がらせしようとしてるやつがいるってことか!?」
「なにそれ!そんなの許せないよ!」
「俺たちはただ、愛し合ってるだけなのに…」
早速講習の成果が現れ始めているようです。ほろ酔い通り越して泥酔状態へ移行なう。
「誰がそんなことを言っていたんだ?」
落ち着きなされ、幼馴染みどの。
「具体的な話じゃないんです。ただ羨ましい、いいなーって言ってるだけの人もいれば、彼女のことを気に食わないって言ってる人もいて…。このままじゃ、私が大好きな『あなた達の関係』を壊そうとするんじゃないかって思いまして」
私はぐっと握りこぶしをつくり、演説を続ける。
「皆さんの絆に文句のつけようもないという事実を民衆に突きつけてやりたい、そかで本日は集まっていただいたのです!そう、言うなれば今日の議題は」
はいここでSE入れて。
「『文句のつけどころがない逆ハーレム』です!」
背後のポワーンポイント画面に、『目指せ薔薇色の日々』と表示させる。
「ぎゃく…」
「はーれ、む?」
目を点にしている一同。
「ち、ちょっと!人聞きの悪いことを言わないでよ!」
焦り出すヒロインさん。
「でも、これが皆さんの現状ですし。変におためごかしせずに、オープンに正義を主張した方が色々楽ですよ?」
「ら、楽って…」
「隠すから悪いことのように思われるんです。堂々としていれば世間もそれが普通の事のように錯覚してくれます」
無い胸を張って断言すると、チーム逆ハーは首をかしげながらも、「え、そういうもん?」「まぁ、そういう面が無いとは言えないが」などと話し合っている。
「そーこーで」
手を叩き、注目させつつポワーンポイントを操作。
「正しく逆ハーレムを運営していただくべく、先人のコメントを集めて参りました!」
「えっ、居るの?先人」
「ではVTRどうぞー」
「しかも映像なの!?」
~Aさんの場合~
(テロップつきかよ、凝ってるなぁ)
(の場合って、複数あるの?)
『A様は逆ハーレムをお持ちだそうですね』
「ええ、あたくしにふさわしい殿方たちですのよ」
『逆ハーレムを運営していく上で、苦労なさっていることはありませんか?』
「そうね、やっぱり夜かしら?皆とっても情熱的ですもの。体力作りは欠かせなくてよ」
『なんぴ…何名いらっしゃるんです?』
「6人よ。1日交代で日曜はお休みにしているわ」
『なるほど、同時にはなさらない?』
「まぁ、そんなケダモノのようなまね、ありえないわ。あたくし、しつけは得意ですの」
『ほうほう、やはり滞りない運営の秘訣は…』
「誰が主人であるのか、それをはっきりさせておけばよろしいのよ」
『さすが女王陛下!おみごとにございますね』
「ほほ、それほどでもなくてよ」
~Bさんの場合~
(さっきの女王陛下ってなんだったのさ!?)
(なんかよくわかんないけど面白ーい)
『Bさんは逆ハーレムをお持ちだそうですね』
「わたしたち、そんな汚らわしい関係じゃないわ。みんな、わたしを守ってくれる騎士なの」
『そうなんですか?』
「ええ、そうよ。この世界の救世主たるわたしを魔王の手の者から守ってくれているの!世界を救う旅をしているの」
『そーですかー。旅をしていて人間関係とかで苦労している事とかあります?』
「みんなわたしと一緒に居たがっちゃって、たまに喧嘩になっちゃう時もあったりね」
『そう言う時はどうするんです?』
「がんばって仲裁してるの。みんな!わたしのために争わないで!みんなが仲良くしてないと、魔王は倒せないわ!ってね」
『なるほど、でもそれだと魔王を倒したあとは使えませんよね?』
「世界を建て直していくのに喧嘩なんてしている暇ないでしょ?わたしはみんなの聖女なんだから、大丈夫よ」
『博愛主義なんですね』
「聖女だもの」
~Cさんの場合~
(聖女って…)
(ま、まおう…?いまの何?)
『Cさんは逆ハーレムをお持ちだそうですね』
「え~~。あたしぃ、そんなことぉ、してないですぅ」
『違うんですか?』
「ちがいますぅ。あたしはぁ、ただぁ、みんなと仲良くしたいだけでぇ」
『皆さんの事がお好きなんですね?』
「みんな大好き(はぁと)なんですぅ」
『あなたのことを独占したいという人もいるのでは?』
「そういう人も居ますけどぉ。あたしはぁ、一人だけと仲良くしてぇ、他の人とは仲良くしないなんてぇ、嫌なんですぅ。みんなでぇ、なかよくしたいなぁ~」
『強引な人とかいないんですか?』
「強引な人もぉ、嫌いじゃないですぅ~~!きゃっ、言っちゃいましたぁ!はずかしぃ~~~///」
(何かが切れる音と共に暗転)
~Dさんの場合~
(……)
(………)
『逆ハーレムをお持ちだそうですね』
「まあ、いちおう…」
『一応なんですか』
「なんつーか、望んで作ったわけじゃないしねー」
『苦労してることとか有りますか?』
「や、あんまないかな。男どもが仲いいからさ、なんか有ってもすぐ誰かが何とかしてくれるわけ」
『じゃあ幸せなんですね』
「まぁ、そう、なのかな?めんどくさいけどね」
『面倒ですか』
「基本監禁されてっからさー。まあ出かけたいと思わないからいいけど。だからあいつら以外と話すのってすごい久しぶり」
『大変ですね』
「そうだねー。って、あ、帰ってきたみたいだからここまでで」
『ありがとうございました』
映像が切れる。
部屋には静寂が満ちている。
「と、このように」
「あ、いや、もういいわ」
幼馴染み君が立ち上がる。
「悪いけど、俺たちちょっと話さなきゃいけないことがあるから、席外してもらえないか」
「あいよー」
「ごめんねー…」
「いいってことよー」
プロジェクターやらなにやらを片付ける。何故か無言で片付けを手伝ってくれるチーム逆ハーレムのみなさん。
「それじゃ、お邪魔しました」
「今日はありがとう」
「ボクたち頑張るよ」
「また…明日…」
「じゃあな」
がらがらぴしゃりと扉を閉めて帰宅した。うん、今日はいいことをした。私頑張った!
翌日、なぜかチーム逆ハーレムが解散していた。
解せぬ。
その後、ヒロインさんは幼馴染み君と改めてくっつき、主人公は無事にクラスメイトのモブボーイから告白されました。