表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/13

第8章 憤怒

―フロライト家2階 リートの部屋―

「さて、どうだったヒューリー」

重厚な剣の並ぶ部屋に、今の殺気立ったようなリートの雰囲気がマッチして、何とも重い。

「…落ち着いて最後まで聞いて下さいね」

リートの眉がピクっと動いた。

「外部侵入がありました」

「何だとッ!!それは誰だ!何だ!!」

リートはヒューリーに掴みかかりそうな勢いで立ち上がり、詰め寄る。

「姉様、落ち着いて下さいと言いましたよね」

ヒューリーは至極落ち着いて、姉をなだめる。

「これが落ち着いていられるものか!」

「じゃいいです、そのまま聞いて下さい」

諦めたように、リートを立ちっぱなしにして話し始める。

「悪魔の気配でした。ロンリ…あの白い鳩を出して見たところ、緑の髪に灰色のローブだったと」

「悪魔!?」

「姉様煩いです」

ヒューリーは自身の耳を押さえながら、文句を言った。

「何だと…このっ…!!」

「それからですが」

「もういい!!ヒューリー!さがれ!」

もう話は聞いて貰えないようだ。

というか、机に座って自分の世界に入ってしまったようだ。

「…では…何かあれば…」

すっと椅子から立ち上がるが、何の反応もない。

「落ち着いたらいらして下さい」

やはり、反応がない。

もうヒューリーの話は、一つも耳に入っていないようだ。




―フロライト家4階 ホワイトの部屋―

「ホワイト姉様、よろしいでしょうか」

「ヒューリー?大丈夫だった」

「ええ」

ホワイトはかちゃりとドアを開け、すっと中に入れた。

「随分早いわね。何となく想像ついちゃうわ」

「まぁ恐らく想像どおりでしょうけれど、入ってきた事を伝えただけでダメでした」

「全く…ま、座りましょ」


―書簡は手短に書いて、ホワイトの部屋のドアの下から忍ばせておいた。

 

 悪魔の気が入ってきました。

 ロンリに見に行かせたところ、緑髪で灰色のローブだったそうです。

 悪魔である証拠ではありますが、気や風の流れが穏やかだったのが気にかかります。

 リート姉様に報告はしますが、万が一詰問になったと思ったら宜しくお願いします


「で、悪魔みたいね」

「はい。気が濃縮したチリのようで、悪魔じゃないかと思って見たらそうでした」

「その割に、気が穏やかだったと」

「はい、ミルクも、悪魔も穏やかでした。終始といっていいと思います」

「ふーん………」

ホワイトは余裕を見せながら、しかし熟考するように足を組み、腕を組んだ。

目を瞑って暫く沈黙していたが、やがてヒューリーの目を見据えて言った。

「遅かれ早かれ、会っておくべき人がいるの」

ホワイトは立ちあがって、精製水の大びんから手で水を救うと、部屋隅の空の青い花瓶に注いだ。

「ヒューリーなら分かっていると思うけど、他言無用よ」

花瓶は光り出し、やがて一人の赤髪の人が出てきた。


―見る限り、人間?そもそも、綺麗で性別が分からないわ…


「…何これホワイト」

男の声だった。やや高いが、男の声だった。

「ごめんねメシィ。状況があまり芳しくないようだから」

「つーかこのメンツが芳しくねぇよ」

男はちらりとヒューリーを見た。

「初めまして、メシィ・ブラッドリーよ。貴女達に危害は加えないから安心して」

お辞儀の所作の後、ニコリと微笑む。

「…初めまして、妹のヒューリー・フロライトです…ええと、あなたは」

困惑するヒューリーに、ホワイトが口を挟む。

「医大の親友で、このナリで悪魔よ」

「悪魔っ…!」

悪魔は緑色の髪をしている、という常識には到底当てはまらない真っ赤で美しい髪。

更に困惑を持ちながらヒューリーは身構えたが、メシィは両手を上げて戦意がないことを伝える。

「待って待って、危害は加えないって言ったでしょ。…ちょっとホワイト、状況」

「はいはい、ごめんなさいね」

ホワイトは悠々とハンカチで手を拭くと、自分の椅子に座った。

「さて、今日ミルクの部屋に気配感知魔法を置けってリート姉様が言ったから彼女にやってもらったんだけど、見事に動きがあったわ」

ヒューリーに手を向ける。続きを、と言わんばかりだ。

「…悪魔の気が入りこんでいました。鳥を出したら、緑の髪と灰色のローブが見えたとのことです」

「でも終始穏やかだったそうなのよ。つまり」

「デキてるって?」

メシィが割り込んだ。

「メシィったら言い方が悪いわね。まぁとにかく、この事がリート姉様の耳に入れない訳にもいかなくて」

「先程お話に上がったら、大声を出しながらイライラしておりました」

「…そういった訳で、明日はちょっとした衝突があると思うの」

ホワイトはメシィに歩み寄った。

「万が一に備えて、私達は医療チームとしていつでも動けるように今から支度するわ」

「任せときな…ってどういう冗談だよ」

「全部ホントよ。で、人間人体も勉強してあるんでしょ、天才外科医さん」

「まぁね」

「で、内科医療のプロのあたしもいるから万全ってワケ」

…どうやら二人には制止させるつもりなんて毛頭ないようだ。

「そこでね、ヒューリー」

「はい?」

「ヒューリーには水と火を用意して欲しいの。鳥でも魔法でも構わないわ。腕だけじゃ手術は出来ないのよ」

ホワイトは、ヒューリーの出来る事をきちんと把握していたようだ。

ヒューリーは少し、嬉しくなる。

「はい、勿論です。早速今から準備にかかります」

微笑むヒューリー。救護作戦は万全である事を意味する。

ホワイトは一息ついて、しっかりとした口調と威厳を備えた。

「明日、フロライト家はリート姉様の追尾をします。状況によってはメシィ、出てきてね」

「オッケー」「了解です」

「じゃ、各自明日のために準備!」




―同時刻 フロライト家2階 ミルクの部屋―

「ミルク!!」

バタァン!!と大きな音を立ててドアを開けたのは、長女リートだった。

思わず身震いし、ベッドの中に逃げ込むミルク。

「待てっ!!」

すかさず布団を剥ぐ。手首を鷲掴み、両足を自らの足で挟め固定する。

小さなミルクにはこれで十分だ。

「痛いよぅ…」

「うるさい!」

怯えるミルクに、一喝を入れる。

「おいっミルク、お前悪魔と会ったのか!?」

「あ…くま…?」

「緑の髪をした、灰色の上着の奴だ!!」

「え…」

―悪魔?

ミルクは理解に苦しむ。

緑の髪というのだから、シルキーの事なのだろうけれど…

「違うよ、シルキーはエルフだよ…エルフの耳、持ってるもん…」

「戯言を言うな!!」

手首を締める力が一層強くなる。

「なんで、なんで!何でこんなことするのっ!!」

ミルクは目に涙を溜めている。

「そいつは悪魔だ!!なぜ分からん!!」

乱暴に体を離すと、ドカドカと足音を響かせつつ部屋を出る。

「明日討伐してやるからな!謹慎していろ!!」

バタン!!とまた大きな音を立てて扉は閉まった。


ミルクは、呆然としながら泣いていた。

大好きなシルキー。

悪魔呼ばわりされて…でも、姉様が言うんだからもしかして…

明日討伐される…

さっき交わした言葉が、単語として頭を漂う。

「…何で……何で……」

ミルクにはもう言葉がなかった。



―フロライト家3階 ヒューリーの部屋―

リートはドアをドンドンと叩いた。

「おい!ヒューリー!いるか!」

「おりますが、静かにして頂けませんか…鳥たちが怯えています」

「……もういい!ここで話す!」

鳥嫌いの彼女が部屋に入らなくて済んだことは助かったはずだが、今はそれすらも重要事項ではないらしい。

「お静かにお願いしますね」

「……ああ、その悪魔の髪色なんだが、サンプルはあるか」

「ありますよ、少々お待ち下さい」

ガサガサと探す音が、ドア越しに小さく聞こえる。

「灰色の上着と髪、他に特徴は?」

「ええと…ああ、ありました」

「本当か!」

彼女はドアの下隙間から、染色した栞を差し出した。

「で、他の特徴は」

素早く取って、見つめる。

常盤色、と書かれた文字まである。

「あ、特徴ですか…他には…眩しいと言っていました、耳のようですが。何かアクセサリーでもあったのでしょうか」

「ありがとう」

それだけ聞くと、リートは足早に去って行った。


「…焦っていますわね、リート姉様…」



―フロライト家2階 ミルクの部屋―

「ホワイトだけど、入っていい?」

静かに混乱し泣き続けるミルク。返事はない。

「入るよ?」

そっとドアを開けると、ベッドの中からすすり泣きが聞こえる。

ベッドの側で、囁くように伝える。

「大丈夫よ、私とヒューリーに任せなさい」

「絶対にその子は助けるから」

静かに立ち上がる。

「おやすみなさい」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ