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第6章 疑問

フロライト家の離れとして、奥行き10メートルはある長い平屋がある。

石で出来た堅固な作りは、魔法練習や剣術鍛錬のための頑丈で静かな空間となっている。


その中で一人、ミルクはきちんと練習していた。


まずは風を操作する。

両手の指を合わせ、目を瞑り意識を集中させる。

「みんなこの指に集まって、ここだけに集まって」

魔力と風が渦巻く。

「もっと小さく集まるよ」

合わせた指を組み、人差し指だけを合わせた状態にする。

そっと目を開け、ターゲットの木人形に目線を向ける。

「いくよ…!!」

すぅ、とゆっくり腕を水平にし、針のように形成した風を放った。

ビュゥゥー…………パァン!!

木人形は下半身を残し、胸から上が弾けるように飛び散った。

木屑の破片は大きく、しかし組み合わせても元通りには戻らないような無残な散り様だった。

「あっ…」

ミルクは驚いて固まってしまった。

胸を狙って、人形を倒すだけのつもりだったから。

「…どうしよう……と、とりあえず」

慌てて走り寄り、人形を壁に寄せてその壁から箒を持って来る。

「どうしよう、これ、怒られるよね…でも練習だし…捨てるわけにもいかないよね…」

ふと、閃いた。

今とにかくどうするべきか。

「とにかく、この人形が壊れればいいんだよね!ショウコインメツ、だよね!」

どこでその言葉を覚えたかは知らないが、どうも証拠として残らなければいいという結論に至ったようだ。

「さって、じゃちょっと試してみたかった魔法があるんだよねーっ」

強くなったという確信が芽生えた彼女には、もう魔法練習という考えよりも「何でもできる」という自信があった。

「シルキーがくれたお守り、効果抜群だよっ!」

ニコニコとしながら呟く独り言で、彼女の頬は紅潮していた。


そして次の練習に励み、結局この日は木人形一体を跡形もなく片づけてみせたのだった。



―それから5日後の夜、鍛錬場。

「ミルク、木人形が5体も足りないんだが」

「さらに言えば足元の綺麗な石畳がガタガタになっているんだが」

リートは溜息と同時に、イライラした空気を放っていた。

「あ、あの」

「正直に言ってみろ」

ミルクは意を決して、自分に自信を持って伝える。

ぐっとリート姉様を見上げ、しっかりした目で話す。

「風の魔法を撃ったら木人形が半分爆発しちゃって、そのままに出来ないから半分は同じ練習に使って…」

「………」

リートは眉間にしわを寄せながら押し黙っているが、続けた。

「それから、木人形の破片がいっぱいあったから、蔦を使う魔法で土に戻そうと思ったら、外からじゃなく地面から出てきて、石畳ががちゃがちゃになって…」

「もういい、よく分かった」

リートは眉間にシワこそ無いが、険しい表情でミルクを見下ろす。

「ように、ミルクは強くなった」

ミルクはぱぁっ、と笑顔が弾けた。

「が、鍛錬場を修繕しなければならない程だ。それに木人形もまた揃えないといけない」

溜息を一つ挟み、続ける。

「それを黙っているようでは良いとは言えない、修繕する間部屋で謹慎だ」

「えっ…あ……」

「以上、分かったら部屋に戻れ」

リートは踵を返し、さっさと屋敷に戻って行った。

ミルクはその場で、肩を落とし暫く立ち竦んだままだった。




―フロライト家4階 ホワイトの部屋―

「ホワイト、今いいか」

「ええ、どうぞ姉さん」

リートはその足でホワイトの部屋に向かっていた。

ホワイトは水やら薬草を広げ、薬の調合をしていたようだが、手を休めた。

「鍛錬場を見たか」

「できるようになったわね、ミルク」

「そうじゃない!」

威厳ある怒鳴り声が響く。

「早すぎじゃないか、力が急激に付いているし、何かよからぬことでも学んだんじゃないかと思って」

「うーん…どうかしら、うちにある本ならヒューリーに聞いてみた方が早いわよ」

「そうだな」

三女のヒューリーは家の本を読み漁って、すべて読み切ってしまうほどの本好きだ。

「そうだな、うん、そうだ」

―もしかしたら、何かそういう強くなるような本をミルクが読んだとしたら。

自分の考えを頭で巡らせるリート。

「…あんまりお勧めしないけど、そういう心配するなら監視でもしたら?」

ホワイトは調合作業に戻る。

「気付かれれば気分悪いけどね」

「……うむ…」

「あたし明日の討伐用医療薬作って忙しいから、ゴメン」

ホワイトはもう作業に集中してしまったようだ。

「すまない、ありがとう」

そっと出ていき、静かに扉を閉める。


足音が静かになった所で、調合した葉を煎じる。

そして、部屋の隅の青い花瓶に精製水を垂らす。

すると、花瓶は光を放ち、たちまちメシィが現れる。

「何、どうしたのホワイト」

「確認したいことがあって」

「急に呼んで。高いよ」

「別に構わないわ。おたくの子、相変わらず変態?」

「シルキー?何か一週間くらいかな、部屋から出てこないんだよねぇ」

メシィは頭を抱える。

「しかも、アアとかイイとかダメとか、一日に一回以上煩いし」

「やっぱり」

「何、面白い話?」

「本人に聞いてみなさいな。うちの子に何を干渉してるか知らないけど、殺しちゃやァよ」

「釘刺し係で呼ばれたってトコ?」

二人の間に僅かに重い空気が流れる。

「それはオマケ、確証欲しかったから」

ホワイトはメシィに抱きついた。

「お礼はキスでいいかしら。今、みんないるし」

「今度覚えとけよ」

二人は重い空気を崩し、暫し二人の世界に身を委ねた。




―3階 ヒューリーの部屋―

「リートだ。…ちょっといいか」

「お待ちください、鳥を籠に戻しますから」

リートは鳥が苦手だった。

鳥籠と鳥ばかりのヒューリーの部屋にはあまり来なかったが、今は彼女が頼りだ。

意を決して扉の前で待つ。

「どうぞ」

ちょっとした冷や汗をかきながら扉をあけると、どうやら鳥は少ないようだ。見る限り、2匹。

「ふふ、今日は伝書鳩と伝書フクロウが夜間練習に出ているのでそんなにいませんよ」

見透かしたように、ヒューリーは微笑んで椅子を勧める。

鳥が少ない。それだけで暫くぶりに、少し肩から力が抜ける。

「ミルクの事なんだが」

「はい」

「最近いやに魔法が強くなっていて、何か本でも読んだのかと思って。知ってるか?」

「いいえ?ミルクは本を読む子じゃないですし…聞かれもしていません」

「そうか」

考えは外れた。

―では何故…いや、今はこの部屋を一刻も早く出たい。

リートはもう一つの要件を伝える。

「それから、ミルクを部屋で謹慎させることにした。それで、何かいい監視魔法はないか?」

「監視ですか」

ヒューリーは少し驚いたような表情になった。

「あまりいいことではないですね…いいんですか?」

「心は決めている」

ヒューリーは目を伏して、一つ息を吐いた。

「気の流れを感知する事なら、風の魔法で出来ます。但しあまり屋敷から遠ざかると切れてしまいますが」

「それでいい」

リートの返事は即決だと言わんばかりの早さだった。

「…わかりました、ただし」

ヒューリーは人差し指をピンと立てた。

「明日の討伐には赴きますが、魔法が切れそうになったら留まります」

もう一方の人差し指も立て、明日の討伐には途中までしか付いて行けないであろう事を見せる。

「あと、まだ距離と使用魔力の関連については試験段階ですので、ちょっと試験させてくださいね」



―翌日。

ミルクは出陣前も部屋にいた。

見送る気分ではない。

いつぞやのように、ベッドに突っ伏してむすっとしていた。


ベランダから声が響く。


「出発!」


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