第3章 末っ子の魔力
あれからミルクはとにかく鍛錬を積んだ。
一日二日程はいつもと変わらない気がしていたが、変化はすぐに訪れた。
―あの日から三日目。
一人じゃない。
友達がお守りも描いてくれた。
その気持ちが、日々ミルクを高ぶらせていた。
「はぁぁぁー………!!」
目を瞑り、高く掲げる右手。
周囲の空気がミルクに集まってくる。
「やぁっ!!」
ピキッ…ギギギギギギギギ
ガシャーン!!
「…あ、あれ?」
嫌な音にそーっと目を開ける。
ガラス片が粉々になって窓枠の周辺に落ちている。
「窓…窓飛んじゃった?」
ミルクから血の気が引く。
ものすごく怒られる。失敗だと言われる。またチリ討伐が遠のいていく…
頭がぐるぐるになりそうなほど、ミルクは混乱と悲愴の思いで一杯になってしまった。
「どうした」
「あ……ホワイト姉様」
いつものクールな顔で練習室に入ってきたのは、フロライト家次女、ホワイト。
魔法の腕は秀逸でフロライト家のエースと名高い。
医学者でもあり、まさに「絵に描いたような秀才」である。
「すごい音がしたと思ったら…窓?」
ホワイトはミルクに目もくれず、銀鋼鉄の枠だけになった窓に歩み寄り、しゃがみ込む。
「そんなに飛び散っていない…圧力?いや、上昇風…しかし…」
考察を呟きながら、立ち上がって窓枠も観察している。
「ミルク」
ミルクに向けられた目は、いつも通り穏やか…だと思う。
「そこから打って、この状態なのね?」
「…うん」
何かを察したように、ホワイトは小さくほほ笑んだ。
ミルクの頭に手を置いて、そっと撫でる。
「大丈夫だよ。どの魔法?」
「風だよ。いつもなら、窓開いて、びゅーって外に風が流れていくの…でも…」
ミルクは大きな瞳に涙を溜めている。
今にも、こぼれてしまいそうだ。
―怒られる。
ミルクは身を縮め、目をぎゅっと瞑った。
「魔法も、何も怖がること無いよ」
ホワイトはミルクの頭を肩に寄せ、ぽんぽん、と触った。
「ミルクは上手になったんだよ。風の魔法が」
ミルクはそっと目を開け、姉を見上げた。
溜めた涙がこぼれそうだった。
「ここ最近一杯練習してたでしょ。今度からは離れの練習室でもいいかもしれないね」
ぱぁっと、ミルクは笑顔になって思い切り頷く。
「うん!もっともっと頑張る!!」
ありがとう、とミルクは心の中でつぶやいた。
シルキーのおかげで、強くなれた気がする。
今までと違う何かが、脚から迸っていったの。
魔法を放つ瞬間、すごく力を貰えた気がしたの。
―ブラッドリー城 居間―
―…あ。ミルクちゃん、魔法使ったんだ。
すごいよ、分かる。その魔力、俺に届いてるよ…!!
ぞくぞく、と体に走るのは魔力だけではなかった。
電気信号のような、鳥肌の立つ胸の高鳴り。
―ああ、ミルクちゃん。もっともっと魔法を使ってよ。
俺に魔力と、この胸の高鳴りをもう一度おくれ…
仮説は成功した。
呪詛を持った人間が魔法を構えると、周囲の魔力を吸収し、強く放たれる。
それと同時に、呪詛を刻んだ人間に、ごく小さな割合で還元される。
つまり、呪詛を持った人間が魔法を使い続ける限り、また大きな魔法を使うことで、効率よく魔力を得られる。
その、恐ろしい仮説が完全に完成してしまったのだ。
彼女の魔法反応が、シルキーという悪魔に最高の快感を与え続ける。
シルキーは自分が良過ぎて、壊れるんじゃないかとさえ思った。