第10章 激突
ブラッドリー城の前では、二人が対峙していた。
金髪で、刀を二本携えた女。
緑髪で、どこにでもいる若者の恰好をした男。
「行くぞ、武器はいいんだな」
「武器とか、使えないからよく分かんない」
「貴様ぁっ!!」
風を体に纏い、リートは速度を上げて両剣で切りかかった。
しかし、寸手の所でシルキーは漆黒の羽を開き、飛び上がった。
「危ないなぁ、もう」
「ふざけるな!」
リートはバックパックから魔法弾を取り出した。魔力を込めて投げるだけで爆発させられる代物だ。
「ふんっ!」
2発、投げる。
しかしその二つは凍りついて地面に落ちた。
「俺、氷属性の魔法使えるんで」
彼に挑発の意思はない。しかし、彼の言葉の一つ一つは、リートには怒りを燃え上がらせる言葉でしかなかった。
「畜生…!!」
魔力を集中させ、自分も飛び上がって切りかかる。
しかし彼女は元から魔力がそう強くなく、その剣先はシルキーのどこにも届かなかった。
「飛びたいなら、こうでしょ」
シルキーは指先一本でくるくるっと光を作り放った。
すると、リートの足元から巨大な氷柱が現れあっという間にシルキーの目線まで高くなった。
二人の目が合う。
「まだ降参してくれない?」
「煩い!!まだだ!!」
ふん!という力を発散する声が放たれたかと思うと、刀が一本、風の力を纏って音速のように飛んで行った。
その先には勿論、シルキーがいる。
大きな盾状の氷を作ってよけようとするが、羽を傷つけられてしまい失速する。
リートは勝ち誇ったように氷柱から降りた。
「さぁ。これでもう空にはよけられまい」
シルキーは脂汗を額に浮かせていた。傷が思ったより深い。
羽を縮め、邪魔にならない程度に留める。
「じゃ魔法で頑張るかな、少なくとも俺の方が出来そうだし」
「このっ………!!」
シルキーは氷の盾を地面に投げ、両手で大気から空気を掴むようにして詠唱を始める。
その隙にリートは切りかかる。
「その詠唱する腕から切り落としてくれるわ!!」
「もうっ」
シルキーは避けながら少しずつ魔力を集中させる。
ピッ。
シルキーの脚に切り傷が現れる。
「いったいなー…」
「黙れ!黙って切られろっ!!」
彼女から風の魔法を感じる。
速度を上げてきた。
「途中だけど」
シルキーは掌から力を放った。
大きな氷塊が空から落ちてくると、小さく鋭利な氷柱がリートを襲う。
「ちっ」
上がったスピードのまま避ける。しかし、避ける事に集中するのが精いっぱいだ。
シルキーには幾らかの余裕が出来る。じっくりと詠唱して、氷柱を次々に出す。
―魔力のスタミナ戦。これなら勝てると踏んで。
―ブラッドリー城の少し手前 ホワイトとヒューリー―
「やっぱり置いて行かれたわね…」
ホワイトが珍しく息を切らして山道を歩く。
「…仕方…ありません…」
ヒューリーもくたくたになりながら、それでも気力で歩いている。
「…始まったかしら…」
「………はい、たぶん」
二人は言葉少なに、激突する二人が倒れていない事を祈りながらひたすらに歩く。
―城下街 ミルク―
―待ってて、シルキー。絶対、助けるんだから…!
彼女は風だけで空を飛んでいた。
膨大な魔力が消費されるが、それでもとにかくあの城に着かなければならなかった。
―ブラッドリー城前 大庭園―
リートは風魔法を解き、己の剣で氷柱を切り刻んでいた。
「もういいっすか」
「……ふ、ふざけるなっ…」
時折防ぎきれない氷柱が彼女の体に傷を付ける。
「…あ」
シルキーは小さく唸った。
ミルクが魔法を使っている。
魔力が体を迸る。
美しい魔力に、体が反応する。
氷柱の勢いが緩む。
リートはその隙を逃さなかった。
「覚悟ーーーッ!!」
シルキーは立ち竦んだまま。
リートは懐に目がけ、剣を向ける。
ピキピキピキピキっ
リートの足元は氷で固まってしまった。
直ぐにそれは太ももまで広がり、そのまま剣も腕も、背中まで固まっていき、ついには胸を残すのみで身動きが取れない。
リートは自分が窮地に陥っている事は容易に理解できた。
動かせる所はもう、口しかない。
力ずくで壊そうにも、びくとも動かない。
更に、周囲に氷塊がいくつも刺さってきた。
まるで鏡のように。
まるで、監獄の様に。
窮地………。もう、彼女は、打開策が思いつかなかった。
次話以降、結末がいくつか分岐しています。