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ちょっと残酷描写あり…ですかね

 ――空の暗さは心の色か。


  地を穿つ雨音は、心の叫びか――




 窓を全部閉めていても、雨音がうるさい。


「…朝、晴れてたじゃないか」


 教室の窓から外を眺めて、浩太は呆然と呟いた。


「昼から雨って天気予報出てたぞ」


 呟きを拾ったクラスメイトが、そう言い残して教室を出ていく。

 彼は最後の一人だった。

 教室には、浩太以外誰もいない。


「はっ、混沌の歪みのせいか!」

「カオスに決まった形なんてあるのかしらねー」


 一人きりの教室に響いた独り言は、すかさず拾われ会話になった。


「沙羅、帰ったんじゃないのか?」


 浩太が振り返ると、ドアに手をかけた格好で沙羅が立っていた。

 警報が出たらしく、部活もなくなった。

 沙羅はクラスメイトに誘われて、一足先に教室を出て言ったはずだ。


「厨二馬鹿のこと思い出して、戻ってきたの。どうせ傘持ってきてないと思って」

「ということは、」

「まぁ、私も一つしか持ってないから、一緒に使うことになるけど」


 そう言って、沙羅は女物にしては大きめの傘を掲げた。


「……仕方がない」


 少しの逡巡の後、浩太は鷹揚に頷いた。

 

 

 雨が傘を叩く。

 足を突っ込んだ水たまりが音を立てる。

 靴を浸食する水が不快だ。


「…忌々しい雨め」


 浩太は濡れた右肩を見て舌打ちする。

 沙羅の傘は、大きめの傘とは言え、やはり二人で使うには小さかった。


「もう少しそっちに持って行っても良いのに」


 左を歩く沙羅が苦笑する。

 右肩をぬらす浩太とは対照的に、沙羅はほとんど濡れていない。

 差した傘は、左に大きく寄っていた。


「今さらだ」


 浩太はまた、水たまりを踏んだ。

 沙羅は水たまりの隣を歩く。


「相変わらず、オンナノコには優しい」

「い、いや…水たまりに入ることによって臭いを消してだな…追跡されないようにするんだ」

「へたくそな嘘」


 沙羅が笑う。

 雨足が少し弱くなった。


「ねぇ、浩太」


 雨音にかき消されそうな小さな声で、沙羅が浩太の名を呼んだ。

「俺の事は紅焔クリムゾンすめらぎ高麗こうまのどれかで呼べって言ってるだろ。…なんだ」


 常とは違う響きに、浩太は沙羅を見た。

 浩太の肩より、僅かに低い位置にある沙羅の頭。


「くだらない、話をするわ」


 だから、沙羅がどんな表情でいるかなど、浩太にはわからない。

 いつものように、浩太を見上げてくれなければ。

 けれど。


「あんたを笑えないくらい、くだらない…そう、作り話」


 自嘲するか細い声が、らしくないことくらい、分かる。


「その子どもは、古くから呪いを生業としてきた呪術士の家系に生まれたわ。子どもはその血を受け継いで…いえ、それ以上の才と力を持っていた。物心がつくころには、呼吸をするように人を殺せた」

「王道の設定とは言え、偉くヘビーだな」


 思わず呟いた浩太の言葉に、沙羅が苦笑を漏らす。


「…そうね」


 肩をすくめたのが見えた。


「世界にはね、魔術協会、薔薇の天秤なんて呼ばれてる組織があるの。不殺生を掲げ、ただ魔術の向上と魔術師の保護を目的とする団体。呪術も立派な魔術。その子も、その子の家も、その組織に所属してる」

「それは矛盾がある。呪術は人を殺めるだろう。むしろ、討伐される側ではないか」


 そういう小説を、読んだこともある。本当にありふれた話だ。


「えぇ。本来なら。でも所詮、不殺生なんて建前よ。召喚魔術には生贄がいるし、気にくわない奴だっている。――、魔術にも色々種類があるからね。薔薇の色で協会での所属が分類されるの。治癒術を得意とする白魔術士たちは白薔薇。逆に攻撃的な黒魔術士は黒薔薇。錬金術研究は黄薔薇。召喚魔術研究は紅薔薇。…そして、組織で唯一殺生を許される、本来あるはずのない薔薇、


青薔薇」



 沙羅が歩みを止める。浩太もそれに倣った。

 ヘッドライトをつけた車が、二人の脇を通る。

 水たまりがはねて浩太の足元を少し濡らした。

 水気を含んだ制服が重い。


「いわば、組織の汚れ役。組織のために都合の悪い奴らを殺すのが彼らの主な活動ってとこね」


 短く息を吐く。

 笑った、のだろう。


「その子どもも、その青薔薇か」

「そう。そして10年前。その子どもは組織からある命を受けた」

「命?」

「組織は、大きな魔術を行使しようと考えていたの。人の力では、その魔術を行使するには至らない。だから、空間にある歪み、混沌を利用しよう、と考えた」

「混沌か!」


 聞き馴染んだ、否、言い馴染んだ言葉に、浩太は過剰な反応を示す。

 その様子を、沙羅は少し見上げて、苦笑をこぼす。


「そこはやっぱり反応するのね」

「まぁな!」


 胸を逸らす。

 もう一度笑って、沙羅はまた俯いた。


「…、でも、混沌には…混沌へ至る扉には、鍵がかけてあったの」

「鍵?」

「そう、とある人間の血が、鍵の役割を果たすと…。その血によって混沌への扉は開かれる。だから…」


 俯いたままの沙羅は、額に手をやった。

 華奢な手首に光る、青いブレスレッド。男の浩太の目から見ても綺麗な、青いバラを摸したものだ。

 彼女が唯一犯している校則違反。昔からつけている見慣れたブレスレッド。


「魔術の準備が整い、機が満ちたときには、その者を抹殺せよ、と」


 そして混沌の扉を開け、と――

 子どもは、命を受けたのだと、沙羅は苦しげに言った。


「そのために、子どもはその鍵に近づいた。万が一にも、その子どもが他に奪われることのないように。命を落とすことのないように。いつも側にいて、長い時間を共有した」

「沙羅…?」

 

 苦しげな沙羅に、浩太が声をかける。

 10年の付き合いがある浩太でも、こんな沙羅は見たことが無い。

 雨足は一段と弱くなり、傘を打つ雨のリズムも、どんどんゆっくりになっている。

 もうすぐ、止みそうだ。

 遠くで雷鳴が聞こえた。


「あっちはまだ降ってるみたいだな」


 何となくそちらに顔を向ける。


「………今、機は満ちた」

「へ?」


 呟いた沙羅に、また目を向ける。


「佐藤浩太」


 浩太を見上げる沙羅の眼は、昏い。

 見たことが、ない。

 さっきから、目の前の少女が誰か、わからない。


「沙羅…?」


 目の端に、銀の光が見えた。


「あなたが、鍵よ」


 届いた声は冷たくて、触れた銀と同じ温度だ。


 あぁ、けれど…――


「泣いて、いるのか…」



 短刀を握る沙羅の眼は、訪れる黄昏の色を昏く映していた。

 そこに、雨はなかったけれど――


「…ごめんね」



 確かに、彼女は泣いていた。




 鮮やかな夕陽を映す水たまりに、赤い滴が散った。


さてさて。



ここからは、


①、沙羅に殺されてバッドエンド。めくるめくダークファンタジーの始まり

②、突然やってきたヒーローに沙羅が殺され助けられた!複雑な気持ちで協会とのバトル勃発!

③、沙羅が協会を裏切り、監視役を殺してめくるめく愛の逃避行!

④、ヒーローに助けられ、沙羅とは敵対する関係となり、ロミオとジュリエットの関係を味わいつつ、バトルファンタジー突入!

⑤、ヒーローと沙羅が手を組んだ!めくるめく以下略


みたいなことをいくつか考えておりました。皆様好きにご想像ください。

気が向けばどれかで続きを書くやもしれません。……どんなのが良いですかね。

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