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雪だるまの親子

作者: ハマヤ

 あるところにおじいさんがいました。

 おじいさんはとても頑固者なので、周囲の人は遠ざかっていきました。

 おじいさんの家族も、離れたところで住んでいて、今はおじいさんは一人で暮らしています。

 でも、おじいさんは寂しいなんて言いません。

 孫の小さい女の子がおじいさんの家に遊びに行きたいと言っても、おじいさんは断りました。

 偏屈なおじいさんでした。


 ある日、おじいさんの住む町に雪が降りました。

 夜から朝にかけて、雪が降り続けました。

 朝、おじいさんが目を覚まして窓を開けると、外は一面まっしろな雪でおおわれていました。


「ほお、こりゃすごい」


 久しぶりに見た雪に、おじいさんも思わず頬が緩みます。

 ひんやりとした空気が、町中を満たしています。

 子どもたちが、楽しそうに雪で遊んでいました。


「やれやれ、うるさくてかなわんな」


 でも、おじいさんも嬉しそうです。

 偏屈なおじいさんですが、子どもは好きでした。

 子どもたちの楽しそうな声を聞いていると、なんだかおじいさんまで楽しくなってきます。


「おや、こんなところに」


 おじいさんが玄関の外に出てみると、道端に小さな雪だるまがありました。

 白いきれいな雪だけで作られた、白くてきれいな雪だるま。

 目も口も手も何もついていないけれど、それはとてもかわいい雪だるまでした。

 小さな雪だるまが、道端にひとつ、ぽつんとありました。


「誰かが作ったんだろうか」


 おじいさんはその小さな雪だるまが、誰かにけっとばされてしまわないように、玄関の脇に置いてあげました。

 目も口も手も何もついていない雪だるまでしたが、どことなく嬉しそう。


「お前も一人なのか。わしと一緒だな」


 なんとなく、おじいさんは雪だるまに話しかけました。

 言葉はもちろん返ってこないけれど。


「やれやれ、外は冷えるわい」


 おじいさんは手をこすり合わせたあと、家の中に戻りました。

 外はまだ、子どもたちの楽しそうな声が聞こえていました。

 ちょっぴりと、おじいさんは寂しく感じました。




 翌日も雪が積もっていました。

 昨日よりもたくさんの雪が降り積もっています。

 白くて冷たい雪が、町中を白く染めています。


「ほお、今日もたくさん積もっているな」


 おじいさんは窓を開けて、白い息を吐きました。

 今日も子どもたちの声が響いています。

 きっとおじいさんのお孫さんと同じくらいの年の子どもたち。

 少しだけ、おじいさんはお孫さんの小さな女の子のことを思い出して、ちょっぴりさびしくなりました。


「寒いなぁ」


 玄関脇には、昨日の小さな白い雪だるまがありました。

 溶けて消えてしまっているかと思っていましたが、まだ雪だるまはしっかりと立っています。


「わしと違って、お前は元気そうじゃないか」


 雪だるまに話しかけて、おじいさんは家の外に出ます。

 ふと道端に目を向けると、昨日の小さな雪だるまが置いてあったところに、また白い雪だるまがありました。

 でも、昨日の雪だるまよりもずっと大きくて。

 目も口も手も何もついていない、白くて大きな雪だるまでした。


「また誰かが作ったのかな」


 雪だるまはもちろん答えません。

 よっこいしょ。

 おじいさんはその雪だるまを持ち上げると、昨日の小さな雪だるまの隣に並べました。

 おっきな雪だるまとちっちゃな雪だるま。

 二つ並んでいると、まるで親子みたいでした。


「お前さんたちは、家族なのかもな」


 二つとも、目も口も手も何もついていない、まっしろな雪だるまです。

 おじいさんは少しだけ考えて、家の中に戻りました。

 しばらくして、戻ってきたおじいさんの手には炭や小枝などがありました。


「これで顔を作ってやるぞ」


 おじいさんは目や口を炭で書いてあげた後、小さな雪だるまには小枝の手を。大きな雪だるまには少し大きな枝の手をつけてあげました。

 それだけだと寒そうだったので、枝の先に大小の軍手をつけてあげました。

 雪だるまの親子は、まるで手を繋いでいるように、手を交差しています。

 本当の家族のようでした。


「……これでおまえは寂しくないよな」


 おじいさんは最後に枯葉を小さな雪だるまの上に置いてあげました。

 帽子をかぶった白くて小さな雪だるまは、どことなく嬉しそう。


「はぁ、寒い寒い」


 おじいさんは白い息を吐きながら、家の中に戻ってしまいました。

 雪だるまの親子が、静かに寄り添っていました。

 子どもたちの声が、今日も聞こえてきます。

 少しだけ、おじいさんはさびしく感じました。



 夜になって、また雪が降り始めました。

 明日も寒くなるなとおじいさんは思い、そろそろ寝ようかと思っていた時でした。

 コンコン、と。

 おじいさんの家の戸を、誰かがノックしています。

 おじいさんは玄関に向かい、扉の向こうに声をかけます。


「こんな夜更けに何か用かい」

「ごめんなさい。今日はお礼とお別れを言いに来ました」


 扉の向こうから、声が返ってきました。

 小さな子どもの声でした。


「お礼だって?」

「はい。とってもあったかい手袋をくれたお礼です」


 はて、とおじいさんは首をかしげます。

 手袋を子どもにあげた記憶はありません。


「お母さんとおそろいの、まっしろな手袋です」

「ああ、軍手のことかな」

「はい、きっとそれです。ありがとう、おじいさん」


 その言葉に、おじいさんは声の主が雪だるまだと気づきました。

 はたして夢を見ているのか。

 それとも誰かのイタズラか。

 おじいさんには分かりませんでしたが、でも声はとても優しそうでした。


「いいんだよ。どうせあまりものだったから」

「それでもお礼が言いたくて。それとお別れも」

「どこかに行くのかね?」


 おじいさんの質問に、雪だるまは少しだけ考えてから答えました。


「冬の王様に呼ばれて、白い国へ行く途中だったんです。でも、迷子になっちゃって」

「そうかい。それは大変だったろうに」


 おじいさんは話を合わせます。

 これが夢か誰かのイタズラでも、その声は、おじいさんの好きな子どもの声でした。


「でも、おじいさんのおかげでお母さんと会えました。それにおそろいの手袋まで。だからぼく、お礼におじいさんの一番欲しいものを上げます」


 雪だるまのその言葉に、おじいさんは自分が一番欲しいものが何か考えます。

 おじいさんも長く生きてきたので、いろいろなことがありました。

 その中で、おじいさんが一番欲しいもの。


「わしが一番欲しいもの。それは――――」




 目を覚ますと、今日も雪が積もっていました。

 いつの間にか眠っていたようです。

 起き上がって着替えると、いつものように窓を開けます。

 今日も外は一面雪化粧。

 子どもたちの楽しそうに遊ぶ声も、遠くから聞こえてきました。


「夢、だったのかな」


 昨日の雪だるまの話を思い出して、玄関に向かいます。

 戸を開けて玄関脇を見ると、昨日まで並んで置いてあった雪だるまの親子がいませんでした。

 溶けてしまったんだろうか。

 それとも誰かが持って行ってしまったんだろうか。

 もしかして――白い国に向かったのかもしれません。

 おじいさんはそう考えた後、きっと夢でも見たんだろうと思いました。

 その時、玄関に置いてあった家の電話が鳴ります。

 りりりん、りりりん。

 電話を取ります。


「はいはい、もしもし」

『あ、おじいちゃん! ありがとう!』


 電話口で、突然小さな女の子の声が聞こえてきました。

 聞き覚えるのある声。間違えるはずありません。

 おじいさんのお孫さんの女の子の声でした。


「どうしたんだい、いきなり……」

『おじいちゃんが送ってくれたんでしょ? 雪だるまさん』

「え?」


 女の子は言いました。

 離れたところに暮らしている女の子の家の前に、雪だるまの親子が並べて飾ってあったそうです。

 その町には、雪は降っていなかったので、女の子は大喜びでした。

 白い軍手で、にっこり笑った顔の雪だるまの親子でした。

 白くてちっちゃな雪だるまは、片手をお母さん雪だるまとつないでいます。

 もう片方の手に、雪だるまは手紙を持っていました。


『手紙には、おじいちゃんからだって書いてあったよ。だからお父さんがおじいちゃんにお礼を言いなさいって!』


 女の子の声はとても楽しそう。

 思わずおじいさんも笑顔になってしまいます。


「そうかいそうかい。そりゃ良かったねぇ」

『おじいちゃんのとこには雪が降ってるの?』

「ああ、今日もたくさん積もってるよ」

『わあい。じゃあおじいちゃんの家に遊びに行ってもいい?』

「もちろんだとも」


 女の子と話した後、受話器を置きます。

 ふと、昨日の会話を思い出しました。

 おじいさんが一番欲しかったもの、それは――


「やれやれ、これはすごい贈り物をもらってしまったようだ」


 おじいさんは玄関の外の雪景色をながめます。

 今日も子どもたちの声が楽しそうに聞こえてきます。

 でも、今日はちっともさびしくなんかありません。


「さて、お菓子を買ってこなきゃいけないな」


 遊びに来る女の子のために、おじいさんは買い物に出ようとして、外がとても寒いことを思い出しました。

 少し考えた後、おじいさんはまっしろな軍手をはめました。

 それは、雪だるまの親子と、おそろいの軍手でした。


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