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7話 御伽道具『打出の小槌』

 昔々、あるところに老夫婦が住んでおった。

 その老夫婦は子を持っておらなかったので、住吉の神に子を恵んでくださるようにお祈りをした。

 すると、その老婆に子ができ、元気な赤子が生まれたのであった。しかしその赤子の身長はわずか一寸しかなかったのです。その赤子は何年経っても大きくなることなく、一寸のままでした。

 その子の名は一寸法師。

 そのうち、一寸法師は強い武士になるために京に上りたいと思いました。そして針を刀と見立てて腰に差し、お椀と箸を使って京に上っていきました。

 京に着いた一寸法師は立派な貴族のお屋敷でお仕えするようになります。その貴族のお屋敷には可愛らしい娘がおりました。一寸法師はその娘のお守り役となったのです。

 ある日、一寸法師と娘がお宮参りの旅をしていると、鬼が現れて娘をさらおうとするのです。一寸法師は娘を守るために戦いますが、鬼にその小さな体を飲み込まれてしまいます。そこで一寸法師は鬼の腹の中を刺したのです。すると鬼は痛がって、一寸法師を吐き出して、降参して山に帰って行きました。

 鬼が落としていった打出の小槌を使って、身長を六尺にすると、娘と結婚しました。

 さらに打出の小槌を打ち出すと、米や金銀が出てきて末代まで栄えました。

 めでたしめでたし



 *****


「一寸法師?」


 桐ヶ谷さんの言葉を俺は繰り返して、懐かしい昔話の内容を思いだした。


「そう。日本の御伽噺の一つで、鎌倉時代末期から江戸時代にかけて成立された御伽草子という短編物語の一つの『一寸法師』。日本人で知らないっていう人はいないと思うけれど」


 桐ヶ谷さんはまるで先生みたいに……いや先生なんだけど……授業をするみたいにそう言った。桐ヶ谷さんは並んで座っている俺たちにスマホに写った一寸法師がお椀に乗った絵を見せてくる。

 勿論知っている。夜月もあかねちゃんも当然といったような顔をする。

 しかし、それがどうしたっていうんだ?


「一寸法師…一寸……あ、もしかして」


 夜月が眉を細めて考えたあと、呟いた。それにあかねちゃんは小首を傾げた。


「どうかしたの?」

「にわかには信じられないけど、今のわたしは一寸法師っていうことになるのかも」

「つまり……どういうこと?」

「……わたしがさっきまで小さくなっていた時の大きさってあかねはどれくらいだって言ってた?」

「3センチ」

「その3センチは昔で言う一寸なんだよ」

「あぅ。そうか……つまり……」

「わかった?」

「夜月ちゃんは賢いねってこと?」

「ごめん。私が悪かった」

「えぇ! なぜに謝るの?!」


 いまいちわかってないあかねちゃんをそのままにしておいて桐ヶ谷さんが口を開く。


「夜月ちゃんの身に起こっているのは『御伽道具』による一寸法師の再現だよ」


 桐ヶ谷さんはテーブルに置かれた打出の小槌を持つ。


「これは『御伽道具』って呼ばれる宝物の一つなんだよ。この『御伽道具』現れるところ、おとぎ話の再現ありってね」

「再現って?」


 俺は眉を細める。


「夜月ちゃんがある呪いによって一寸法師のように小さくなってしまった。そして、元に戻るための手段の打出の小槌が出現。呪いをかけた人物を鬼と仮定するとまるで一寸法師の物語の再現になるよね」 


 た、たしかに。それに桐ヶ谷さんが呪いをかけた人を鬼と言っているけど、そういえばネットに書き込まれていた内容に呪いをかけた人は鬼の角というものを待っているっていうものがあったな。その辺りから考えると呪いをかけた人物を鬼とするのはわかる。


「桐ヶ谷さん、鬼の角って夜月が小さくなったことと関係があるんですか?」

「へぇ? 鬼の角を知ってるんだ?」

「ネットで知ったんです。以前に体が小さくなった人が体験談みたいなものを書き込んでいたんですよ。ちなみにそこで打出の小槌を見つけて手に入れたんです」


 桐ヶ谷さんは俺から夜月に向きなおると夜月に確認を取る。


「これであなたに起きたことがどういうことかわかってくれた?」

「まぁなんとなくですけど。信じがたいですけど、実際に私は小さくなってしまってますし、それを元に戻すための打出の小槌がここにあるから信じざるを得ないですよね」


 夜月がすこし眉を細めつつ納得すると何かに気づいたらしいあかねちゃんが挙手して質問をする。


「あの、打出の小槌があるんですから一寸法師になってしまった夜月ちゃんにひと振りするだけで元に戻って終了~ていうことにはならないんですか?」


 そういえばそうだ。今の夜月は打出の小槌を持っていて、いうなれば強くてニューゲームみたいな状況だ。すでに打出の小槌を使用しているから解決していてもおかしくない。

 桐ヶ谷さんは首を横に振りながら答える。


「それじゃあダメなんだよ。それじゃあ一寸法師のお話にならないんだよ」

「どういうことですか?」

「『御伽道具』現れるところ御伽噺の再現ありって言ったでしょ? その言葉通りなら『御伽噺』の話通りに話を進めないと『御伽道具』は本当の力を発揮してくれないっていうこと。だからこの『一寸法師』に関しては鬼を倒さないと打出の小槌は本当の意味で大きくしてはくれないの。もし、一寸法師が鬼と出会う前に打出の小槌を道端で拾って、使って大きくなったら、それは本来私たちが知る一寸法師じゃないよね。それは似通った別物の物語になる」


 自信満々に語る桐ヶ谷さんの言葉に俺は「なるほどな」と思う。夜月たちも静かに聞きながらうんうんと頷いている。

 桐ヶ谷さんが俺たちを見回すと話を続ける。


「で、君たちの反応から察するに夜月ちゃんに何が起こっているのかはわかってもらえたと思う。じゃあこれからどうするのかなんだけど。簡単な話よ。陽人くんが言っていた鬼の角で呪いをかけた人……鬼を倒すというと物騒だから、その鬼の角を破壊するの」

「呪いをかけた人か……」


 夜月が視線を落としながら呟く。


「おや? 心当たりが?」

「打出の小槌を見つけたサイトには呪いをかけた者はかけられた人に対して恨みを持っている物って書いてあったんだけど」

「まぁ基本そうだって言われてるね」

「一応心当たりの人物がいますけど……その人とは今日話しましたよ」

「うん。で、どうだった?」

「鬼の角は持ってないって言ってました。嘘をついてる感じはしませんでしたけど」

「それは君の感じ方でしょ? プロなら嘘をついていても嘘だと見破られないようにするなんてことは可能よ。なんにしてもその人のことは後でよく調べるべきね。私も協力するわ」


 にしても桐ヶ谷さん、さっきから妙にやる気がみなぎっている。目から炎とか出てるイメージだ。


「さぁ、みんな夜月ちゃんの呪いをとっと解いちゃうわよ。打出の小槌でお金持ちになるのもすぐそこだわ。美味しいもの食べ放題よ」


 まぁそのやる気がそういうところから来ているというのはわかっていましたよ。生徒のために奔走する教師の図を俺は思い浮かべたんだけどこの人にはイマイチ当てはまらない。


「それで? その相手って誰?」

「竜王寺康也先輩です」

「あぁ、あの女の子達からキャーキャー言われてたなんだかキラキラした男かぁ。今日見たわ」


 呆れた様子で桐ヶ谷さんが言う。なにやら思うところがあるのだろうか。


「私さ、あーいうのきらい。あのヘラヘラ笑って、周りに優しくしてれば女の子が寄って来るような男が私は嫌いなの」

「まるでモテない男の泣き言みたいなこと言いますね。なにかあったんですか?」

 

 俺はそれとなく聞いてみる。


「いやいや、ちょっと昔にね。キラキラした男とちょっとあってね。学生時代の話だから気にしなくてもいいから」


 とはいえ、桐ヶ谷さんの右手が震えるほどに握られている。怒っているなこれは。

 しばらくすると怒りの震えを止めた桐ヶ谷さんは夜月に楽しそうに言う。


「じゃあ、その竜王寺だっけ。その男について調べようか」

「は、はい…」


 イケメン中学生こと竜王寺康也くんはちょっと危ない人に目をつけられたよな。これ。あまり変なことをしないことを桐ヶ谷さんに期待したいとこだけど……ほっておくと危なそうだな……これ。

 なんて考えていると桐ヶ谷さんが俺の方を見てくる。


「それで……まだかな竹井家の夕飯は? さっき、陽人君たちのお母さんが帰ってきたのがわかったし」

「え? いつの間に?」


 俺でも気づかなかった情報なのになぜこの人が知っているのかと疑問に思った。


「だって、さっきから新しい料理作っているからなのか凄くいい匂いするし」

「桐ヶ谷さん、ある意味すごいです」

「そうでしょ?」

「そんなことでドヤ顔しないでください」


 その時、一階から「夕御飯できたよ~~」という母親の呼び声が聞こえた。


「は……」

「はーーーい! 今行きますよ!」

「って! 俺の返事を遮ってさっさと下に行くんじゃねぇ! 子供かよ!」


 俺たちを置いて嬉しそうに階段を駆け下りていく桐ヶ谷さん。ほんとこの人はよくわからない。さっきまでの真面目モードはどこへやら。……いや、途中から真面目モードが解除されつつはあったな。

 そろそろ俺たちも腹が減ったので、桐ヶ谷さんを追うように自室を出て行く。


「あかね、今日は御飯食べていく? どうせお母さん作りすぎちゃってるだろうし」

「いいの? じゃあお言葉に甘えて」


 あかねちゃんは夜月の申し出に嬉しそうに答える。提案した夜月の方もその表情を見て、照れたのか少しここを赤くした。……なんだよぉ。俺にはそういう表情見せてくれないよな。

 あかねちゃんは遊びに来た際に、遅くなったときにはよく夕御飯を食べていく。そして、休日になれば時々ウチに泊まる。夜月の友達でそういうことをするのはあかねちゃんくらいなのだ。


 竹井家の食卓が今、始まった。俺と夜月、あかねちゃんと母親の食卓は時々あるのだが、今回は桐ヶ谷さん(母親にはヨネスケの某番組のスタッフと認識されている)という客がいる。何が起こるやら。



桐ヶ谷さんの説明回でしたね。いかがでたでしょうか? 打出の小槌について少しはわかって頂けたら幸い。

ギャグテイストは今回は控えめに、真面目な感じにしてみました。


次回をまたお楽しみに~

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