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5話 白米は甘くなるまで噛みましょう

第五話目

陽人くんはどうなってしまったのか! 陽人くん視点です。

「うぅぅ…」


 目を開けると真っ白な天井があった。消毒液の匂いが鼻につく。


「頭いてぇ……なんなんだよ……」


 俺は頭痛に苛まれながらも今まであったことを思いだしてみる。

 確か、『竜王寺様を愛する会』の七条院たちから逃げた後に俺はある女性に出会った。この桜樹学園に今日からやって来た古典の教師の桐ヶ谷七栄先生。ポニーテールで胸が大きいのが特徴だというのが印象深い。


『君、竹井陽人君って男の子、知ってるかな?』


 そうだった。俺が竹井陽人だってわかった瞬間、桐ヶ谷先生は俺に何かを吹きつけられて気を失ったんだった。

 周りを見回してみる。周りはカーテンに囲まれている。そして俺は白いベッドに寝かされていた。

 ここには見覚えがあるし、一度だけ来たことがある。桜樹学園高等部の保健室だ。

 俺がゆっくり体を起こそうとすると左手のある方からガシャンという音と共に引っ張られた。左手首には銀色に光る手錠がかけれられていた。鍵が掛かっていて、いくら引っ張っても外れる気配がない。

 ほんと、なんなんだろうかこの状況は……。

 美人女教師に眠らされて、保健室に手錠で繋がれて……時計を見てみるとすでに放課後……。

 少し考えてみて一つの言葉が脳裏に浮かび上がった。

 

 『放課後のイケナイ個人授業~保健室編~』

 

 うおーーー!! お、俺は何、思春期全開な事考えてんだよ!! いや確かにあの人、美人だし、スタイルいいし、胸とか魅力的だから思わず卑猥なこと考えちゃうんだけど!

 お、落ち着け! 俺! この状況なんだよく考えろ竹井陽人。手錠で繋がられてんだぞ。犯罪じゃん。冷静になるんだ。




 カツン、カツンという足音が廊下の方から近づいてきたと思いきや、保健室の扉が開けられた。


「はぁ~授業疲れたなー」


 吐息と共に聞こえたこの声には聞き覚えがある。桐ヶ谷七栄先生だ。


「こんなに疲れたから誰かさんにマッサージを頼みたいな」


 カーテンを開けた先生の胸元のボタンが二つ取れていて、開かれていて、魅力的な胸の谷間が見えていた。

 先生がベットに座る。そして俺の眼前に大きな胸が迫る。ゴクリと喉がなる。

 そして先生はポケットから取り出した鍵で手錠を開けると


「ねぇ。陽人くん。マッサージを頼めるかな?」


 甘い吐息で俺の耳元で囁く。

 先生は上着を脱ぐ。そして俺の手をとったかと思うと先生の肩に乗せた。つまり肩を揉めということなのか。


「ほらどうしたの?」

「え、えっとですね。このまま向き合ったままですか?」


 俺と先生は向き合ったままだ。肩もみというのは本来、肩もみを受ける人が背中を向けるものだ。


「もしかして、恥ずかしがっているのかな? 陽人君」

「そりゃ、当たり前ですよ。こんなのって」


 目の前には美女がいて、なんだかいい香りするし、巨乳の谷間あるし。なんだ? この天国は。鼻血が出そうなんですけど。神は俺に良い意味で死ねというのか。


「……喜んでやらさせていただきます」


 俺は先生の肩をゆっくりと揉む。ツボを探して適度に力を加えていく。

 

「んっ……」


 俺の肩もみがよかったのか。先生は気持ちよさそうな顔をして、色っぽい声が漏れる。そして俺の肌に吐息がかかる。なんだかエロい。

 体中が火照ってくる。やばいぞ。このままだとなにかが起こるぞ。俺の理性が……

 肩もみをするたびに俺と先生の距離が徐々に近づく。


「君、うまいね。もっと頑張ってマッサージしてくれたら。ご褒美をあげようかな?」

「ご、ご褒美ですか?」

「そうね。例えば」


 俺の喉がなる。

 先生は胸元のボタンをもう一つ取ると、さらにその巨乳を見せつけてくる。そしてニッコリ微笑む。


「オッパイのマッサージを頼もうかな」




「パイオツの為なら頑張らせていたただきます!!」


 俺は右手を高く突き上げながら叫んだ。その拍子に左手の手錠がガシャンと引っ張られて痛みがやってくる。その痛みのお陰で正気を取り戻した。

 あ、よだれ出てた。なんてこった。

 さっきのは俺の妄想だ。冷静になろうとしてエロい妄想をしていたようだ。思春期の悲しき性という奴か? 


「でもそんなのだったらいいな~アハハッのハ」


 スケベな顔でそう呟いていると廊下のほうからカツンカツンという足音が近づいてくる。そして保健室の扉が開かれる。


「あ~授業疲れたな~」


 俺の妄想通りここに来たのは桐ヶ谷先生のようだ。カーテンの向こうの先生が俺に気づくと


「あ、起きたんだ。ちょうどよかった。君には大切な用があるんだよ。君を眠らせたのはそのためなんだけど」

「あ、はい。そ、それって」


 カーテンが開かれると先生がいて、胸元のボタンが二つほど取れている。

 もうこれは俺の妄想通りになっていくんじゃないかと、期待が膨らんでいく。

 先生は俺にゆっくり近づいてくる。ウエストポーチに手をかけながら。

 それを見たとき、俺の中で嫌な予感がした。なんだ? この感じ。あのウエストポーチからは絶対に良いものは出てきそうにない。そう、俺が眠らされた時のスプレーのように。


「君の持っているものを私は欲しいんだよ」


 ウエストポーチからカッターナイフを取り出しながら先生は悪い笑顔で言った。

 俺の中の理想が割れた。変な期待なんてするもんじゃない。俺の血の気が引いていくのがわかる。嫌な汗が吹き出る。


「パ、パイオツは……?」

「は、何言ってるの?」


 そうだよな。ハハハ。よくよく考えたら俺の妄想なんて1パーセントの確率もねーよ。

 手錠で繋がれてる時に気づくべきだったよな。犯罪じゃん?

 俺は今、ここで何をすべきか、考えるまでもない。


「たすけてーーー!!っんぐ!」


 俺が叫ぼうとすると先生が手で俺の口を塞いで、カッターを目の前に持ってくる。

 

「叫んだら君、怪我するよ」


 俺は必死に首肯して叫ばないことを約束する。


「わたしが欲しいのはね。打出の小槌のこと。知らないなんて言わないよね?」

「は、はい」


 俺の前で先生はカッターをちらつかせる。こんな人にシラを切ったところで怪我するのが目に見えている。素直に答えておこう。

 そういえば、俺が気を失う前に先生はこの「打出の小槌」のワードを言っていたような。


「あれはかなり高価なものよ。国家資産より高いかもしれないほどの宝物なのよね。さらにその打出の小槌に秘められた力があるの。使いようによっては国をひとつ落とせるかもね」


 言われてみればあの打出の小槌は見るからに高そうなものだった。

 打出の小槌の秘められた力っていうのはミニマムになってしまった夜月を元に戻すような力のことなのだろうか?

 先生は続けて俺に聞いてくる。


「打出の小槌はどこにあるのかな? わたしはそれが欲しいの」

「……先生は一体何者何ですか。なんで脅してまで打出の小槌が必要なんですか」


 先生がニヤッと口元に笑みを浮かべる。


「そんなの決まってるよ……」グゥ~~


 先生が何か言ったのだが、何かの音が遮って聞こえなかった。なんだ今の音?


 グゥ~キュ~~グゥ~


 ほらまた鳴った。これはなんだか腹の虫が鳴いているようだな。って言っても俺のお腹は空いてはいるがここまで大きくなるほどではない。じゃあ、これは……。

 桐ヶ谷先生の方を見てみるとフラフラと左右に体を揺らすとベットに倒れた。


「えっ? 桐ヶ谷先生?」

「すいた……」

「え?」

「お腹……すいた……」


 桐ヶ谷先生は弱々しく言った。


「五日……五日だよ。ろくにと食事とかしてないんだよ。限界だよ。あぁ最後においしいご飯食べたかったなぁ……」


 桐ヶ谷先生が今にも泣きそうな瞳をこちらに向けてくる。そしてまた先生のお腹がなる。


「打出の小槌売って美味しいもの食べたかったな~」

「打出の小槌が欲しかった理由ってそれ?! 国一つ落とせるとか言うから壮大なこと考えてたよ俺!」

「わたし、もう疲れたよ。ペトラッシュ」

「ペトラッシュ? なに? そんなのいないよ!?」

「あ、綺麗な花畑がある~。そこにいるのはおっぱいに挟まれて死んだはずのおじいちゃん!! 久しぶり~! え、わたしの好きな肉じゃが作って待っててくれたんだ~。美味しいィィ。幸せ。まるで天国だー!」

「おいぃ! 見えてはいけないものが見えちゃってんじゃん! 空腹で天国行こうとしてるよ。この人!……って、この人のおじいちゃんどんな死に方してんだ!」

「お腹がいっぱいに~~にいひひ」

「ダメだこりゃ」


 先生の目がどこかにトリップしている。

 先生の周りをよく見てみると、手錠の鍵らしきものが落ちていて、それを手錠に使ってみると外すことができた。

 これで手錠から解放されて自由の身な訳だが……


「あ、あれ? わたしのご飯どこに行くの? 待って。待って~~あ~~」


 さっきの幸せそうな顔から苦しそうな顔に変わった。お腹がさらに大きくなって顔が青ざめていく。

 ダメだ。この人。死ぬかも。

 どうする俺。今なら逃げれるんだぞ。で、でもこんなに苦しんでいる人をこのままにしておくのも……。でもこの人は俺を脅してきた人だし。でも辛そうだし。

 どうするんだ俺!!



 *****



「うまい! うまい! こんなまともなの5日ぶり。夢以外でご飯が食べれてるよ」


 桐ヶ谷先生は頬に涙を伝わせながら俺の昼食の弁当を食べている。

 結局、飢えに飢えまくっている桐ヶ谷先生を餓死させるのは忍びないと思った俺は教室に戻って俺が食べ損ねた弁当を持ってきてあげたのだ。

 まぁでもウチの昨日の晩御飯の残り物で構成された弁当をこんなに美味しそうに食べてくれるんだから悪い気もしない。俺を手錠で繋いだりしていたのはきっとお腹が減って、気が動転していたからなんだろうな。そうだよ。そういうことにしておこう。

 よし、幸せそうな先生はほっといて、教室の荷物を取ってから帰りますか。

 そう思いながら俺は保健室の扉に手を……


 スパッ! スパッ! スパッ!


 俺の足元に3本のカッターが扉に突き刺さり、進行を妨げた。


「ぬわぁぁ!!」


 危なかった……俺が扉に手をかける前で良かった。手をかけていたら指が三本くらい持っていかれていたかもしれない。だいたいカッターを扉にどうやって突き刺せることができるんだ?! 普通折れるだろ。


「な、なにするんですか!」

「ふぁだほわってないわふ」

「飯食うか、しゃべるかどっちかにしてください。何言ってんのかわかんないですから」


 桐ヶ谷先生は何度かもぐもぐと噛むと飲み込んで


「わたし、ご飯とかは甘くなるまでよく噛んで食べる主義なの。待ってくれてもいいじゃない」

「しらねぇ!」

「よく噛むといいわよ。満腹中枢っていうのが刺激されて少量の食事でも満腹に感じることができるんだから。さらに白米をよく噛むことで、白米からマルトースが分泌されて甘く感じるんだよ。いざ、甘いもの食べたいときに有効なんだから」

「どんだけ貧乏なんだよ! あんた!」

「せっかちな男は嫌われるよ」

「カッターを生徒に投げてくるような人に言われたくないです」


 桐ヶ谷先生は弁当を少し時間をかけて食べきった。

 その間、俺は椅子に座って待っていたわけなんだけど。そりゃ逃げたかったよ? でもあのカッターが飛んでくると思うとここから脱出なんかできませんよ。


「弁当を貰ったから穏便に本題に入ろうかな」

「お気に召したようで」

「君、打出の小槌は持ってるんだよね」

「ま、まぁ……」

「どこにあるの。あれを頂戴」

「別に先生に譲ってもいいですけど……」

「……ふむ。なんだかワケアリかな?」


 桐ヶ谷先生が興味ありげに聞いてくる。

 俺は仕方なく、俺の妹の夜月に起こった出来事―――ミニマム化―――と夜月を元に戻すためには打出の小槌が必要だということを告げた。


「なるほど。その妹さんが解決するまで待ってくださいと?」

「そうです」

「それが解決したら打出の小槌は確実に譲ってくれるのね」

「はい」


 桐ヶ谷先生が少し考えてから


「じゃあ。今から竹井くんの家に行こう!」

「え?! なんで」

「なんでもなにも打出の小槌の現物を確認したいし。それに体が小さくなった妹さんとやらを見てみたいじゃない。もしかしたら竹井くんが脳内設定の妹さんのお話をしてるかもしれないし」

「本当にいるから! 妹!」

「それに今晩何も食べるアテがないんだよね」


 もしかしてこの人打出の小槌うんぬん言いながらどっちかというとウチの晩御飯を目当てで言ってるな。

 俺は呆れ顔でため息をついた。

 

次回をお楽しみに~~


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