1話 ミニマムな妹!!
何度読んだか忘れた漫画を読みながら呟く。
「暇だ」
ベットに寝転がる俺の名は竹井陽人。高校生二年生。
今日は日曜日。朝からとにかく暇している。やることがない。漫画やゲームは既にやり尽くしている。といって、新しい物を買うお金の余裕はない。
友達と遊ぶというのを考えついてその友人数人にメールしてみたけど、その全員の返事が
『今日は彼女とデートなんだ』
「クソ!」と言って、俺はケータイをベットに叩きつける。この世知辛い世の中にはリア充しかいないのか。
(リア充共め、滅べ)
自分でも悲しくなる願いことをしてみる。
暇だからと言っても何処かに出掛ける気持ちにもなれなかった。
一瞬、父親と数年ぶりのキャッチボールをしようかと頭によぎった。しかし、父親は数日前にダイエットのためのマラソンで足を筋肉痛になり、寝込んでいることを思い出す。
諦めて、仕方なく、嫌々ながら勉強しようかと思ってベットを立ち上がった時、ケータイがなった。友人からの遊びの誘いかと思い、ケータイをあける。
そのケータイの表示は『妹』となっていた。
俺は期待外れでため息をつく。もう妹と遊ぶ年齢でもないし、妹も中学二年生だ。無視すると怒るのでめんどくさいので電話に出ないわけにはいかない。
「なに? 我が妹、夜月よ」
『とりあえず私の部屋に来て!』
いきなりツンケンした声で怒鳴られてケータイから耳を放す。なにやら焦っているようだ。最近の妹は思春期のせいなのか兄に対して少々冷たい。昔は可愛かったのにと遠い目をする。
「なんでだよ。おまえが俺の部屋に来いよ」
夜月の部屋は俺の部屋の隣だ。今頃、隣の部屋で勉強でもしているはずだ。
『いいから早く来い! バカ兄貴! どうせ暇してんでしょ?』
「バカ兄貴とはなんだ。家族の中にも礼儀アリだろうが。お兄さんはあなたをそんな風に育てた覚えはありません。お兄さんは嘆かわしいですよ」
『うるさい! 早く来い!』
「頼みの仕方があるでしょうが。それ相応の対応をしないと社会に適応できんぞ」
『……兄貴、早く私の部屋に来てください』
「んー65点」
『は?』
「妹という立ち位置を最大限に活かさないといけないと俺は思うよ」
『なに言ってるの?』
「要は可愛らしく媚びた感じで頼むんだよ。三年前みたいにお兄ちゃんと呼んでみるとか。声を可愛らしくするとか」
『なに? は?』
「はい、お兄ちゃんと呼んでみな」
『は? ふざけてんの?……』
困惑する夜月の声が聞こえる。
なかなか楽しいじゃん。暇潰しには丁度いいかもしれない。
『そう呼んだら来るの?』
「行くよ。お兄ちゃんは約束を守りますよー」
『……』
夜月は黙りこんだ。もしかして怒ったかもしれない。壁を隣からドンッとされた後に部屋に乗り込んでくるかもしれないので俺は枕を構えて、扉を見据える。ついでに土下座で謝る準備をする。最近、夜月は喧嘩が強くなった……わけではなくて兄として勝ちを譲ってあげるだけ。
しかし、しばらく待ってみても部屋に突撃してくる者はいなかった。その代わりにケータイ電話から声が聞こえる。
『お兄ちゃん……』
俺はベッドから盛大に転げ落ちた。
天変地異が起こったのですか? 思春期真っ最中ではありませんでしたか?
それにしてもお兄ちゃんと呼ばれるのがこんなにむず痒いとは……ある種の快感というのかね? 昔はしょっちゅう呼ばれてたのにどうしてでしょうかね? そういえば何年も『おにいちゃん』なんて呼ばれてない。もしかしたら『おにいちゃん』欠乏症になってしまっていたのか。鼻血が出そうだ。いや、たぶんこれはベッドから転げ落ちた影響だと思うが。
どういう心境の変化ですか?と、お兄ちゃんと呼ぶように言った俺が聞くのはおかしいので聞かないでおく。
『お兄ちゃん……ちょっと私の部屋に来てくれない?』
夜月が恥じているのがケータイ越しでわかる。何だかかわいい。しかしここで行かないとマジで乗り込んでくるかもしれない。
「良くできました。わかったよ。ところでどんな要件?」
『来ればわかる』
口調がツンケンしたものに戻った。惜しいな。
部屋を出て、隣の部屋に行く前に台所にいって夜月の大好物のプリンを冷蔵庫から回収しにいく。
さっきのことで襲いかかって来たときのための対処法だ。もし怒っていて、理不尽な虐殺行為をされそうになった時のため。
それにしてもなんで妹の夜月は部屋に来てほしいのか?別段、俺が妹になにかやらかした覚えはない。
では、なにか悩みがあってそれを聞いてほしいのか?
妹もののエロゲーを大量所持していて、それを兄に相談したいのかな?あれ?そんなアニメみたことあるような気がする。
それとも恋愛相談か?この頃の子ならあり得そうだ。もしそんな相談なら聞くこともできないし、聞かない。そんな相談なんて彼女いない歴=年齢の俺にはただの嫌みだし。もし恋愛相談だったら目の前でプリン食って、涙目の夜月を拝んでやる。
夜月が勉強を教えてほしいという可能性もある。しかし、むしろ俺が教えてほしい。そんな余裕も学力もありません。むしろ夜月のほうが賢いような気もするし。
他にもなにか可能性があるだろうか?なんてかんがえながらプリンを冷蔵庫から取り出す。
リビングでは筋肉痛の父親が柿の種を食べていた。どうやらダイエットは三日坊主で終わりそうだ。
プリンを回収して、夜月と自分のぶんのお茶をカップに注いで、お盆に置く。そして夜月の部屋に向かう。
俺が妹の部屋に呼ばれた理由として、夜月が俺に惚れたという可能性を脳裏に走った。微粒子レベルであるかも。俺は願い下げだけど。
大体、義妹ならまだしも実妹エンドなんて嫌ですよ。俺は。
俺は幼馴染がいいよね。なんだか主人公をこっそり優しく見守るとか健気でいいよね。俺はゲームとかだと幼馴染から攻略しちゃう人です。にしても幼馴染が恋愛で負けちゃう作品が多いのはどうかと思うんだよね。幼馴染エンドの漫画とかを誰か作ってくれないかな。
ちなみに、俺は別に妹が嫌いとかではない。恋愛対象としてみてないだけ。まぁそれが普通だろ? ただ、妹とは楽しく仲良くできていたらいい。
微粒子レベルである、夜月が俺に惚れているということがマジであった場合は兄である、陽人先生が血の繋がった兄妹は結婚できないということを教えてあげよう。中二の夜月の頭に理解できるかな?
なにはともあれ夜月の一番の悩みは恋愛相談の気がする。俺の友人も夜月は顔立ちがよくてなかなか美少女でかわいいと言ってたし。だから告白されたとかそういうのを相談したいんだろう。そんな幸せな悩みは聞きませんがね。
なんて考えていると夜月の部屋に着いた。
[ヨヅキ]と書かれたプレートの扉の前で俺はノックする。ノックしないで入って着替え中の妹と遭遇という展開はラノベだけの世界だし、そんなことはまずないとは思うけど一応ノックする。
ていうか、ノックしないと小言を言われそう。もしくは最悪の場合、特に理由のない暴力が陽人を襲う! かもしれない。
コンコンッ
と、叩くが反応がない。ただの扉のようだ。そりゃそうだ。
呼んでおいて不在なんて酷いぞっと思っているとケータイがなった。
「もしもし。兄ですよ」
『部屋、入ってもいいから』
「なんでいちいち電話?」
『入ったら分かるから』
と言うので、扉を開けて失礼する。
部屋には可愛らしい小物やぬいぐるみがあって女の子らしい。しかしその部屋に居るべき人がどこを見回してもいない。天井を見上げてみても見当たらない。うちの妹は忍者でもないので当たり前だけど。
「おまえ、どこにいるの?」
『机のほうに来て』
指示に従い、机のほうに向かう。そこには妹の上着とスカートと下着が散乱していた。ということは着替えて出掛けたか、裸族にでもなってしまったかだ。後者だけはなんとしても止めないといけない。
「黄色のパンツか……小学生くらいのときは純白だったのにな」
「バカ兄貴! どこ見てるのさ!!」
左から怒鳴られた。この声は電話越しではない妹の夜月の声だ。しかし俺の隣は机しかないはずなんだけど。どうしてだ?
そちらに目をやってみる。
机には勉強用具と開かれたケータイがあった。その先に居た。見知った妹の姿が机の上に。
「ちっさ!」
俺は目の前の事に驚いて声をあげざるを得なかった。だってケータイと同じぐらいの大きさの夜月がそこにいたのだから。十センチくらいだろうか。一瞬、人形かと思ったが、こんなに夜月に似ている人形なんてない。実際、今も瞬きをしているし、腕を動かしている。
少し待って!目を数回瞬きをしてみる。こすってみる。頬を叩いてみる。そう試してみても一向に目の前の状況は変わらない。
「あのさ兄貴」
「な、なに」
「私を見てどう思う?」
「すごく小さいです」
ハンカチのような布を纏ってどうしていいか分からないといった感じの顔をする夜月を俺は見つめる。
夜月がどうしてこんなことになっているか分からないが、俺が呼び出された理由がなんとなくわかった。
その理由は夜月の体が小さくなってしまったから。ここに来るまで呼び出された理由は色々と予想していたけど、その予想の遥か斜め上を行くものだった。
「私、どうしたらいいの?」
「ど、どうしたらいいって……」
「どうしたらこの体から元に戻るの!!」
「えぇぇぇぇと、どうしたらいいんだ?」
今までの十七年間の人生の中で小さくなった妹を元に戻す方法なんて知る由なんてない。正直のところこの状況を把握するだけで精一杯。
夜月は長い黒髪をいじって、携帯の上にちょこんと座る。携帯の上に座るって壊れるはずだけど今の夜月なら大丈夫だ。だって今の夜月は十センチくらいの身長になっていて、ちっさいから。ちっさいから。大事なことだから二回言います。
「にしても、ちっさい」
「何回も言うな! わかってんだから」
「おっと。思わず……でもどうするもなにも、これはいつから?」
とりあえずこう聞いてみることに。話を聞くことでなにか分かるかもしれない。
「さっきまで勉強してたんだけど、途中で眠くなっちゃって。それで昼寝を少ししたんだけど」
「うん」
「目を覚ましたら体が小さくなってた」
「体がちっちゃくなっちゃって、裸になったからそのハンカチで包まってると?どうしようもないからケータイで俺を呼んだと?」
夜月は黙って頷く。
なんだこの状況は。こんなことおこってもいいのか?俺はどうしたらいいんだ。
「ねぇ! どうしたらいいの!?」
夜月が焦ったように聞いてくる。こんな困った顔をした妹に知らんがな、と言うわけにもいかない。
「なにか心当たりはないのか?」
「う~ん」
「例えば黒の組織の取引を見てしまって変な薬を飲まされたとか」
「どこの高校生探偵?! そうだとしても小さくなりすぎ!」
「じゃあ、ギアthirdを使ったとか?」
「私はゴム人間か!?」
「雷をあてられたのか?」
「マリオカートか!? ていうか真面目に考えろ!!」
夜月は怒った顔で机を足でゲシゲシと踏みつける。
そう言ったって、自分の妹がこんな風になっていて、内心は焦りまくってるんです。頭がよく回らないのは仕方ないと思う。そのせいでこう怒ってじたばたとしている夜月がかわいいと思ってしまうほどだ。
それは置いといて、どうしたものか。夜月を元に戻すにはどうすればいいのか。
「病院でも行くか?」
「病院でなんとかなるの?」
確かにそうだ。内科に行けばいいのか小児科に行けばいいのか婦人科に行けばいいのかすら分からない。今の医療で夜月をどうにかできるようには思えない。
しかし自分だけではどうしようもない。だからといって親に相談したところでどうにもならないことは目に見えている。小さな夜月を見た両親は倒れたりするのだろうか。
俺はしばらく考える。そして
「そうだ。近くの親戚より遠くの他人。ネットに頼ってみるか」
「えっそれを言うなら遠くの親戚より近くの他人でしょ」
「そうだね……そんなことは置いといて。案外ググったらなんとかなるだろ。そのからだ」
「そういうものなの?」
「そうだろ。このお兄ちゃんに任せなさい」
俺は夜月に手の平を差し出す。俺の部屋にあるパソコンを使うために移動するためだ。
夜月は一度後ろを振り向く。衣類代わりのハンカチが取れないようにするために机にあったクリップを使って端を止めるようだ。別に見えたところで俺はなんとも思わないけどね。まぁ夜月も女の子だからね。
夜月が準備を整えて俺の掌に乗る。体が小さければ重さも人形みたいに軽い。
そういえば特典映像でアニメのキャラが小さくなっているやつ見たことあるな。
「手乗り妹!!」
「ふざけてないで早くパソコン!」
「手乗り夜月たん!! こういうの需要あるだろ。なかなかいいな」
「ムカッ……がぶり」
「いつぁぁ!!」
人差し指を夜月の虫歯のない歯に噛まれた。痛い!彰彦は十五のダメージを受けた!ごめんなさい!痛い!離して!
しばらく噛まれた痛みが引かない。けれど夜月がなんとかしろとわがままを言う…これはわがままじゃないか。とりあえず俺の部屋に向かうことに。
俺の部屋に着いたらまず、パソコンを起動させる。
「相変わらず兄貴の部屋散らかってる」
呆れた顔で夜月に言われた。俺から言うとおまえは小さいよ。夜月は机をウロウロと動き回って、早く解決策を見つけろと言わんばかりだ。何を思ったのか机の上部にある引き出しを開けようとした。
ちょっと待って。物色しようとしないでくれ。そこには――――
開けようとした引き出しを俺は押さえる。そうしたら夜月は怪しげな笑みを浮かべていた。ヤバイな何か弱みを握られた感じだ。後で中身を移動しておこう。
俺はパソコンでインターネットを繋いだら、検索エンジンで検索してみる。
『小さい体を元に戻すには』という検索でいいだろうか。
「なにその検索ワード」
「これ以外に何があるんだ?」
「……そっか」
「んー」
見当たらない。まぁこんなことになるのは夜月だけだろうから仕方ない気もするけど。とりあえずいろんなサイトに入ってみる。すると如何わしいサイトに飛んだ。凄く気まずい。
「あ、これはその。わざとじゃないんだよ」
「うがー」
顔を赤くした夜月に手を噛まれた。ついでにめちゃめちゃ蹴られた。こういうサイトに入らないように気を付けないと。次そんなサイトに入ったらうなじを切られて駆逐されるかもしれない。
しばらく探してみたがめぼしいものはない。ググってダメならヤフッてみる。
「何かないかな……」
いろんなサイトを巡っていると……
「あ! これじゃない? このサイトの一番下にあるやつ」
「なになに? 『俺の体が小さくなった件を解決したんだけど……クソワロタwww』なんだこのスレッド」
「でもタイトルは私が求めてるやつよ」
ワンクリック詐欺とか如何わしいサイトとかに遭わないように気にしながらマウスをタイトルにあわせてクリック。ウイルスとかがあってもこの間、新しいウイルスソフトウェアを入れたから大丈夫な気がする。
するとページが開かれる。かなり昔のスレッドのようだ。
「結構叩かれてるね」
夜月はパソコンの上に乗って、画面を興味深げに見る。それでは俺が画面が見えないんだけど。それでも合間に見える字はかなりの量を誇っていた。
「体が小さくなったなんてことを真面目にネットに書いていたらバカにされるだろうな」
「でもこれは私には重要なことかも」
「そうだな。読んでみるか」
俺は画面をスクロールして読んでみる。この中にはなかなか興味深い内容が書かれていた。
[ある日、俺が目覚めたらあらゆる物が恐ろしく大きくなってた。でもよく見回して解った。俺の体が小さくなっていたんだ。体に不調があるようにも思えない。頬をひっぱたいてみても痛かったので夢じゃないらしい]
「状況は私と同じみたいだね」
[とりあえず俺は知り合いの医者にケータイで連絡してみた。この医者っていうのが変わり者で変な病を専門に取り扱う医者だ。少々怪しいやつで相談するのを躊躇ったが1日考えて俺は仕方ないと思い、連絡した。そしたら奴は嬉々としてこっちに来てくれた]
その医者とやらが来るまでは、デカイリンゴを食ったとかなどの話が書かれていただけなので読み飛ばしていく。
[やっと医者は来た。奴は俺の体を少し調べた後、あるものを取り出した。これはなんというか高級感のあるトンカチ……というか一寸法師とかで出てくる打出の小槌だな。奴はこれでおれを殴れば元に戻るとニヒルな笑顔で言い出す。もちろんそんな不確かなものに俺の身を預ける訳にはいかないので断った。しかし奴は俺のいうことを無視して殴ってきた。結構な衝撃の後、俺は死んだと思った。しかし目を覚ますと俺の体は元の大きさに戻っていやがった! これ、マジで!]
打出の小槌という言葉に俺達兄妹は興味を惹き付けられる。その打出の小槌の画像も載っている。書いている人が言っているように金色の高級感の溢れる装飾がされている。とても高校生には買えそうにない。
「ねぇ! これなら私、元に戻るんじゃない?」
「まぁ、この書いてることを鵜呑みにするならな」
俺は疑いながらこのページを見る。打出の小槌とやらは疑わしいが、俺の妹がちっさくなってしまっているのであるからそういうものがあってもおかしくはない気がする。
小槌の画像の下には[医者からこの小槌をもらった。今の俺には必要ないので他の必要な人のために譲ります]という言葉とともにリンクが貼られていた。
夜月を元に戻す手立てがない俺達にはこの小槌は必要だろうな。そう考えるとこの小槌が貰えるならありがたい。夜月も同じ気持ちなのか真剣な表情で画面を見ている。
いざという時はクーリングオフ制度を使うという手段がある。
リンク先は信頼のアマゾネス様。ふむ。これなら心配ないか?送料はかかるが無料のようだから今日中に届くように追加料金を設定して注文する。
「買うの?」
「もちろん。いつもは送料をけちる俺だが今日は違う。夜月のためだ。お兄ちゃんに任せなさい。夜月の体はちゃんと元に戻すから」
「兄貴……」
「お兄ちゃんを見直したか?」
「20パーセントね」
「低いなーもっと好感度あがれよなー夜月の攻略難易度はプロフェッショナルか?」
なんて俺がボヤいてると、
ぐぅー、という可愛らしいお腹の音が聞こえてきた。夜月の方からだ。
「お腹すいたのか?」
「う、うるさい!!」
恥ずかしかったのか顔を真っ赤にする夜月。ちっちゃいせいかメッチャカワイイんですけど。写メとりたい。
ここで俺はプリンの存在を思い出して手をポンと叩く。
「あ、そうだ。プリンあるけど食べるか?」
「プ、プリン?プッチンの?」
「うんプッチンのやつ」
「た、たべるー♪」
プリンと聞いた途端、夜月は幸せそうな顔をする。俺は夜月の部屋に置いてきたプリンを持ってくる。
体の関係で食べにそうなので俺がプッチンしたプリンをスプーンで掬い上げて夜月の口元の方に持っていく。
「ちょっと!自分で食べれるから!」
「まぁそう言うな。その体じゃあ食べにくいだろ?嫌なら俺が食ってやるぞ」
「ムムッ」
「プリン好きだろ?」
「……分かったよ」
夜月は少し不機嫌な表情をしたようだが大好きなプリンを前に諦めたようだ。素直が一番。
俺は夜月にプリンを食べさせる。その小さい口でプリンを美味しそうに食べる姿を見ると物凄く可愛い。これならずっと愛でていられそう。
あ、俺は別に妹萌えとかロリコンとかじゃないからね。ホントに。感覚的には小動物を愛でている感じだから。
「今、失礼なことを思わなかった?」
「い、いや別に」
ギロリと睨まれて俺は目を反らす。んー俺の考えが顔に出ていたのか?
俺は夜月にプリンをすべて食べさせた。プリンは一般的な大きさより少し大きいビックサイズのやつだったのだが夜月はそれをぺろりと食べきってしまった。その体のどこにこの量のプリンが入ったのかね?
俺はパソコンのサイトのページに再度、目を向ける。すると[次のページ]という表示があるのを見つける。まだ続きがあるらしい。小槌が届くのは今日の夜七時前らしいから暇潰しがてらに覗いてみよう。
[医者は俺の身におこったのは人の感情による呪いのせいだと言いやがった。とてもじゃないが信じられない。そもそも医者がそんな非科学的なものを信じていいのかと俺が聞いてやると、奴はただ一言、この世には不思議なことがあるってよ。まぁいい。体が元に戻ったからな]
[しかし]と少し大きな字で書かれていた。
[医者によるとその小槌で俺の呪いは消えた訳じゃないらしい。どうゆうことかと問うと、俺に呪いをかけた人間を見つけないといけないという。さもなければ小槌の効果は十二時間で切れて、また小さくなってしまうんだとか。一日二回小槌をひとふりで元に戻るようだ。初めは信用しなかったが十二時間でマジで小さくなった。こうなったらと、呪いを俺は医者と解きにいった。ここからは個人情報が大きく関わるので書かない。ただ俺と同じ境遇の者のために言えるのは自分の人間関係で自分のことを恨んでいる人間がいないか探すことだ]
「呪いだと…」
「どーしたの?」
俺がこう呟くとプリンの幸せの余韻に浸っていた愛理がパソコンを覗きこむ。
つまりはこの小槌だけでは解決しないということか。
「夜月の体を戻すには完全に呪いを解かないといけないらしい。さもないとまた体が小さくなるらしい」
「そんな!」
「夜月、おまえの人間関係でおまえのことを恨んでいる人間はいないか?」
「んー? どうだろう?」
夜月は外では友達が多くて、良い子みたいだからそんな恨まれることないと思うんだけどな。まぁ、今のうちに考えておくのもいいかも知れない。その呪いをかけた相手の対処については打出の小槌とともに入っている手紙を読んでほしいと書いてあった。
夜月はしばらく考えて、何か思い出したのか手をポンと叩く。
「そういえば。私、少し前に告白された」
「愛の告白? 春の到来?」
「うん。愛の告白」
「なんだ、ただのリア充か」
「一気に拗ねないでよ。話はここからなんだけど」
「なんだよ。兄を差し置いてよ。結婚式の日程でも教えてくれるのか?」
「飛躍しすぎ! そうじゃない! 死んだ魚みたいな目をしない! 聞け!」
俺は怒鳴られて夜月の目を見る。そりゃ死んだ目になりたくもなりますよ。俺にもラブロマンスがほしいですよ?
夜月は話を続ける。
「えっとその告白なんだけど、断った」
「え? フッたの?」
俺は素っ頓狂な声をあげる。
「なんで?」
「別に今は恋愛とかまだ早いかなって」
「なんだこの返答は! 本当に俺の妹か? 実は血繋がってないんじゃない? と俺は思ってしまう。さすがモテる奴は違うね。彼女欲しいとか思っていた俺とは天と地の差があるよ。死にたくなってきた」
「心中が吐露されまくりなんだけど」
「おっと……それで? なんでそれが呪いの原因だと?」
少し嫌そうな顔をしながら夜月は話し始めた。その彼となにかあったのだろうか?
「その人は私より1つ上なんだけどね。ある日、私が図書館で勉強してたらその人と一緒になったの。その人が分からない問題があるみたいだから私が教えてあげたの。そしたらあの人、私が自分に興味があると思ったみたいで、それからしばらく付きまとわれるようになったの」
「はぁ」
「で、ついに告白された」
「フッたと?」
「でもしばらく付きまとわれたの。しばらく無視した」
「はぁ」
「少し優しくしたら自分に興味があるなんて思い込むなんて。男ってどんな思考回路持ってるの? 兄貴も気を付けたほうがいいよ」
「は、はい」
女って怖いなって思いました。それに妹にこんな忠告されるとは夢にも思ってなかったよ。まだ夜月の体が小さいだけマシの様な気がする。普通サイズの時にいわれたら男としてのダメージを大きく受けるんじゃないかな?
夜月はため息をついて続ける。
「呪いがあるとしたら、その人のせいの気がする」
「なんで?」
「最近、その人が私に付きまとわなくなったの。でも視線は感じるの」
「それでおまえを呪ってると?」
「こんなことならフるときに普通に断るんじゃなくて『鏡を見て出直して』って言えば良かったかな?」
「そんなこと言ったらその人、男として再起不能になっちまうよ。俺だったらショック死しちまうよ!」
我が妹、恐ろしすぎる。まだちっちゃいから可愛げがあるんだけど。
と、とりあえずそれが原因と考えていいかもしれない。付き合ってくれなかった故の呪いということか。これについては後日、解決することにしよう。
まずは夜月の体を元に戻す必要がある。小槌が来るまで俺と夜月の兄妹はしばらく待ちぼうけ。
それから何時間かたって、太陽も顔を隠してしまった頃。
夜月の服がハンカチだけでは可愛そうと思った俺は昔、夜月が愛用していた人形から服を剥ぎ取って、着せようとして、噛みつかれて怒られていた。
夜月は激おこぷんぷん丸で俺に私で遊ぶんじゃないと言っているときに家のチャイムが鳴った。
母親の「何か来たわよー」という声。どうやら小槌が届いたようだ。
俺は玄関へ、代引きでの料金を払って荷物を受け取る。受け取ったら部屋に行って、包みを開ける。
俺の部屋ではペンたてにあったハサミを持って、待っていた。
「それが打出の小槌?」
「うん。この中にあるのがな」
俺は段ボールのガムテープをハサミで切って、開ける。するとそこにはネットのサイトにあった打出の小槌があった。
サイトの画像と寸分違わないようで、金色に輝いている。握って持ち上げてみるとずっしりとした重みがある。
「これで元に戻るのかな」
「やってみるしかないだろ」
夜月は不安そうだ。そりゃそうか。体験談があるといって、それが完全に信用できるかというと、できないからな。
俺は、段ボールの下の方に手紙があるのを見つける。この中に夜月の呪いとやらを解く方法が書いてあるとサイトにはあった。俺がそれに手を伸ばそうとしたとき、
「夜ごはん出来たよー」
という母親の間延びした声が聞こえた。俺は「りょーかい」と答える。
「夜月ちゃんも呼んでー。勉強ばっかしてたら死んじゃうわー」
まぁ死ぬことはないと思うけど。これにも俺は適当に答える。
実は、今日の昼のことなのだが、昼御飯を夜月が食べに来ない理由を「小さくなったから」と答えることもできず、部屋で勉強しているから部屋で食べるという少し強引な理由で俺は誤魔化した。両親共々、あまり細かいことは気にしない人達なので、追求はなかった。しかし次は誤魔化せないかもしれない。
ちなみにその昼御飯は夜月が食べきった。体が小さくなってもたべる量は変わらないよう。
俺は夜月に小槌を構える。
「時間はない。いくぞ」
「う、うん」
俺は夜月に軽く小槌を振り下ろす。
すると、夜月の姿が消えた。
「え?なんで?どういうことだ? よ、夜月?」
俺は小槌に夜月が張り付いてないか裏を見てみたりするが、見当たらない。俺は小槌をとりあえず大きく振ってみた。
ガシャン!!
突然、大きな音がなって、俺はそちらを見る。そこは夜月の部屋から持ってきていた服をかけてあった椅子がある場所だったが、椅子は倒れてしまっている。
そこには夜月がいた。十センチほどの小さい夜月ではなくて、大きな、元の大きさの夜月がそこにはいた。つまり元に戻った夜月だ。
ん? ちょっと待って? 夜月って確か、小さくなったときに服が脱げてハンカチ一つを被ってたよな?つまり裸で……大きくなっても裸で……
「いててっ……あっ! 私、元に戻ってるんじゃない?なんか目線がさっきより断然高いし。やった!」
「あ、うん……」
「どしたの?」
「……」
「なんか寒いな」
そりゃそうでしょうね、中学生にしては発育のいい方の体には一糸纏っていない。生まれたままの姿を晒しているのだから。
夜月は目線を下ろして己の姿を見る。己の姿を見た瞬間、顔を赤くして近くにあった服で体を隠す。
「な……み……」
「あの……えーと、夜月さん?元に戻ってよかったね?」
夜月の表情が見えない。もう嫌な予感しかしないんだけど。覚悟したほうがいいよね。だって夜月の拳が強く握っているもの。
「何見とんじゃゃぁぁぁーーー!!!」
「わざとじゃないよぉぉぉ!! いやぁぁぁ!!!」
俺は夜月の渾身の一撃を食らった。もう顎がはずれるかと思う程の衝撃を受けて、部屋から吹き飛ばされて廊下に飛ばされる。意識が飛びそうになる。もうダメ。
にしても夜月は大きくなった。いや、胸がじゃなくて体が大きくなったという意味で。どうやら打出の小槌の効果は確かにあったみたい。次は夜月の呪いとやらをどうにかしないといけないらしいが今日はこのへんでいいかな。
俺はこのあと、夕飯を食べて、夜月に裸を見たことを謝ったあとに風呂に入って寝た。この日は奇妙な一日だった。
だがこの奇妙な日がまだまだ続き、すこし厄介なことになることを竹井兄妹はまだ知らない。
夜月「次回予告のコーナー!」
陽人「夜月ちゃん?なにこれ?」
夜月「作者に任された」
陽人「そうなんだ。ていうかまだ怒ってる?裸見たこと?」
夜月「うるさい。怒ってない」
陽人「だったら睨まないでくれ。肩身が狭い」
夜月「えーと。次回『陽人、死す』お楽しみにー」
陽人「え?!ちょっと!俺死ぬの?!ネタバレすぎるだろ!ていうかやっぱり怒ってるでしょ!」
夜月「あ、間違えた。次回『陽人、マミる』」
陽人「やっぱり怒ってる!余計ひどくなったからな。それ台本に書いてないし!」
夜月「次回は私の呪いを解きにいきますよ」
陽人「ちょっと、無視しないで。次回までに機嫌を治さないと!」
次回更新したらよろしくお願いします。
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