SS-5:彼がヒーローならヒロインにしてしまえばいい
これからの男たちはヒロインになれば良い。これからの女たちはヒーローになれば良い。そうすれば、草食系男子とうまく恋愛ができる。
元祖攻め女の鈴理は格言を残しました。
――お便り【恋したい少女Aさん】より頂いたお悩み相談です。
『今年で二年生になる吹奏楽部の女子高生です。野球部に好きな男がいます。夢叶って彼女になることができましたが、キスも手を繋ぐこともしてくれず、アピールしても振り向いてくれません。彼は女の子に興味がないのでは? 不安に思って率直な気持ちを彼に伝えると、“好きだよ”と言ってはくれます。でも私はもっと強引なことをして欲しいのです。少女漫画や恋愛ドラマの読みすぎでしょうか? どうしたら彼を強引にさせられるか、どうぞアドバイスをお願いします』
――これに対する、ある女子高生二方のご回答です。
「うむ、そんなもの簡単だ。彼氏を押し倒せば良い」
「まったくだ。彼氏を押し倒して自分が強引になると良いよ」
「大体、今どきの男は草食系が多いのだ。彼女など持たずともいいと思う男が増えている。そんな男どもに不満を抱く女は多いだろう。だから女は変わらなければならない! 諸君、今の男どもは受け身だ! そんな男を変えることは困難。ならば自分を変えるしかない! 男が欲しいなら肉食の如く襲え! 押し倒せ! 自分の尻に敷いてしまえ! これからは女子の時代、攻めの主権はあたし達にあるのだ!」
「俺様、鬼畜王子、冷血イケメン。そんなものに振り回される必要なんてないんだよ。いいかい? 可憐な女性の諸君、こういう男に泣かされるなんて馬鹿馬鹿しくないかい? 男に泣かされるなら、先に泣かしてしまえば良い。男に敷かれるなんて真っ平ごめん。僕はそう思うよ。少女漫画のような展開を期待するのなら、是非君が“ヒーロー”になり、彼氏を“ヒロイン”にして翻弄してみてはどうかな?」
ニヤッ、ニコッ。
そんな笑顔に擬音語を付ける攻め女達はノッケから何を仰っているのだろうか。
某Mックでお冷を飲んでいた俺は大雅先輩と共に、お悩み相談を開いているあたし様の鈴理先輩と王子の御堂先輩を遠目から眺めていた。気持ちは限りなく無に近い。言い換えれば現実逃避をしている。まる。
事の始まりは御堂先輩が切り出した、友人の友人に当たる女子高生の恋愛に対する悩みだった。
話を聞く限り、甘酸っぱい青春を感じさせてくれる恋愛相談なんだけど、一挙に雰囲気をぶち壊したのが目前の彼女達。意気揚々に口をそろえて、“主導権を奪えば良い”なんてほざいております。なんて物騒なのかしら! ついでに身の危険を感じたのは俺の気のせいかしら! おほほほ!
「ということだ空。覚悟しておけよ」
「まったく。鈴理、元カノの君は身を引いておくべきだよ。ここは僕が受け持つ担当だからね。君はおとなしく許嫁の大雅でも泣かせておくんだね」
ほっらぁ!
ちっとも俺には関係ないのに、無理やり俺とこじつけようとするあたし様、王子がいるよい!
そんなに俺をヒロインにしたいんですか? 残念。既に俺はアータ達のせいでヒロインに成り下がった情けない男っす! 男の矜持なんてこれっぽちも残っていませんから! ……でもちょっとは残っていると信じたい男の心情である。
「時々思う。あいつ等は生まれるべき性別を間違えたんじゃねえかと。ふっ、俺様としたことが、あいつ等に限っては食うより食われそうな強迫観念を抱いちまうぜ」
大雅先輩が諭したような顔で攻め女達を見つめている。
哀愁が漂っているんですけど! 大丈夫っすか? 先輩、お気を確かに!
「あの、少女は先輩達のような性格の持ち主じゃないんっすよ。夢見る少女は押し倒されたいのでは?」
恐る恐る意見を述べてみると、「あたしには分からん世界だ」深く椅子に座りなおした鈴理先輩がむっすりと腕を組む。
「焦る男を見たいとは思わんのか? 押し倒されて慌てふためき、半べそで逃げようとする男を目の保養にする。最高ではないか!」
「そらお前がドエスなだけだ鈴理」
肉食あたし様にナイスなツッコミだ。大雅先輩。
「僕も鈴理に同意見だ。羞恥を駆り立てて相手を追いつめたいと思わないのだろうか。僕なら喜んで相手に意地悪をするのだけれど」
「不特定多数に向けた言葉だと信じているっすよ。御堂先輩」
「どうだろうね」男装少女の意味深長な笑みに涙が出てきそう。確信犯だよこの人。
「とにかくだ! 恋愛は受け身では成就せん。先程も述べたが男は恋愛に消極的になっている。趣味に走って彼女を作らない男も多い。対照的に女は依然恋愛に積極的だ。ならば、これからの男たちはヒロインになれば良いこれからの女たちはヒーローになれば良い。そうすれば、草食系男子とうまく恋愛ができる。あたしが攻め女というジャンルを確立した暁には、それを必ず証明してみよう!」
「及ばずながら、僕もその活動に参加しようじゃないか。頑張ろうな豊福。子供は最低二人だぞ」
「ははっ、玲。残念だったな。あたしの目標は五人だ! 今は大雅が許嫁だが、いずれは空と……それが駄目なら大雅! 最低五人作るぞ! だが空、一番はあんただ。なにせあんたはあたしのもの。王道カップルはあたし達なのだから!」
「なんだって?」
「最初に付き合ったカップルは様々な苦難を乗り越え、結ばれるものなのだよ」
「これだからテンプレカップルは。古い恋愛より、皆、新しい恋愛を求めるものだろ? 新鮮味は恋愛をより楽しむための一つのスパイスだ」
「ふ、古い……男嫌いのくせに、男の空だけを求めるなんて卑怯だぞ! だから人気者になるのだ。一途に守ったり、他の男に脇目も振らない要素はあたしと同じだというのにっ、ええい馬鹿者! あたしより目立つな!」
「あっはっはっは! 僕っ子王子系がこれからは攻め女ジャンルの中で流行ると僕は確信しているね!」
「れーいー。今すぐここで始末してやろうではないか。そうすれば、必然的に空はあたしの所有物として戻って来る」
「やってみろ、すーずーりー。君をここで始末してしまえば、未練たらたらの誰かさんも心置きなく恋愛が楽しめるだろうからね」
嗚呼、なんとも恋愛、というか子作りに積極的な女性たちなんでっしゃろう。
「俺様、超絶可哀想」「俺の方が可哀相っすよ」「受け男じゃねえのに」「俺もっす」「豊福みてぇにはぜってぇなんねぇ」「大概で失礼な」
抑揚のない声で俺様と会話しつつ、男の俺達はいつまでも火花を散らして笑声を漏らしている攻め女達を見つめていたのだった。
前略、共働きで家計を支えている父さん、母さん。
あなた方の息子は今日も楽しく、悲しく、むなしく、攻め女達のヒロインをしています。ヒーローな彼女達にいつ食われるか、常に冷や冷やしている所存です。
えっと、何が言いたいかって……孫は最低二人以上になりそうです。近未来で驚かせないために、ここにこっそり報告しておきますね。
(終われ)
肉食シリーズの中で一番人気キャラはボクっ子男装少女の御堂玲だったりするので、ヒロイン、じゃない、元祖ヒーローのあたし様鈴理さまはやきもきしています(笑)
二番手に負けないよう彼女にも頑張ってほしいものです!
ちなみに二番目に人気なのは花畑翼、ゴーイングマイウェイのイチゴ軍曹であります。
主人公の空、実はちょっぴり「主人公なのに負けてるって!」気にしています。はい(笑)