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肉食番外  作者: つゆのあめ/梅野歩
肉食お嬢様SS
4/21

SS-4:Sugarless

Twitterに載せていた玲空。

常に二人は切甘な関係で、甘々な鈴空とは正反対な関係です。



 恋愛が甘いなんて本当は夢物語なのかもしれない。俺はそう思って仕方がない。



 最近はとくにそう思う。恋愛は難しい。例えば俺は鈴理先輩のことが好きだった。過去形で(本音は除いて)。だけど、今は彼女と別れて御堂先輩と寄り添っている。あれほど想い合っていたにも関わらず、さ。

 御堂先輩が大切でしょうがない。それは嘘偽りない本音だ。鈴理先輩の気持ちを知っていても、今の俺は彼女を優先して守りたい気持ちを奮い立たせてしまう。御堂先輩を幸せにしたい。鈴理先輩との付き合いを受理した当初はこんな末路が待っていると思わなかった。

 無理やり読まされているケータイ小説には、恋愛を楽しむ若かりしカップルが「あいつを見るな」「私だけを見て」とかささやき合っている描写がある。けど、本当は無理なんじゃないかと思う。相手だけを見て生きていける世界なんてこの世には無い。


 恋愛は生きる世界の一片の出来事。

 外界と切り離して生きていけるものなんかじゃない。好きな人とは別に、誰かに想いを寄せることだってある。それは家族だったり、友人だったり、恩師だったり。恋人にだけ想いを寄せて生きていく、なんてきっと恋愛としては最高のカタチなんだろうけど。

 少なくとも俺には無理な世界だ。恋愛だけを見て生きていく、なんて無理難問の不可能。恋愛ってヤツはその世界で生きていくほど、輝いて見えるんだろうけど、婚約者や家族や友人、周りの人々も大事だって思う俺には窮屈な世界なんだ。

 誰かを想うから苦しくなる。自分の気持ちが制御できないからカライ気持ちを抱く。誰かに想われる愛おしさ、誰かを想いたい(かな)しさ、気持ちに応えられない苦さ。どれも恋愛から生まれるものだ。ほら、相手だけを見て生きるなんて甘いだけの恋愛、この世にありゃしない。


「考え事かい? 豊福」


 ぼんやりしていたら俺の膝でごろにゃあしている御堂先輩に声を掛けられた。

 軽く瞬き、「眠いんっすよ」頬を崩して相手の髪を撫ぜる。わっしゃわしゃにしてやるとハニカミ王女が目に映った。素直に可愛いと思う表情(かお)だ。


「相変わらず豊福の首はエロイな」


 これさえなければ、俺もきゅんなんだろうけどな。

 「エロくないっすから」苦い顔で返事すると、「エロイエロイ」キスマークで一杯だと御堂先輩。誰の仕業だと思っているんっすかッ……アータがつけた痕っすよ、これ!


 「先輩が自重してくれたらエロくなくなります」「エロイは褒め言葉だぞ?」「嬉しくないんですけど」「豊福は元々エロイ」「……」「照れるな豊福」「落ち込んでるんっすよ!」


 どうして俺はおにゃのこにこうもエロイと言われないといけないのだろうか。悲しみの涙が出そう。

 「独占している気分になるな」骨張った指が俺の頬に触れてくる。そのまま首に滑らせる仕草は艶かしい。「既に人の膝を独占しているでしょうよ」俺の意見に、「それだけじゃ足りないんだ」僕は欲ばかりだからね、彼女が上体を浮かす。


「人間なんて我が儘な生き物だと思わないかい?豊福。自分の好き勝手できる自由を求めつつ、誰かを独占したい狭い気持ち抱く。常に相反している気持ちを抱えているんだ。どうしてだろうね?」


「さあ、俺には分からないっす」


「原因は多分、誰かに一番に思われたいせいだと僕は思う」


「自分が何処にいても相手には一番に思われたい。でも自分はもっと広い世界を知りたい。これが人間だと思う。自分のことには甘く、人のことには厳しいのかもね人間ってのは。例を挙げるなら恋愛だと思わないか?」


「恋愛っすか」


「ああ、僕は恋愛こそ我が儘な存在だと思ってしょうがない」


 我が儘、ああほんとうにそうだ。恋愛は我が儘だ。誰かを欲し、求め、独占したくなる。一方で応えられない想いを延々抱くこともある。甘いだけの恋愛なんてやっぱり存在しない。恋愛だけがすべての世界じゃないのだから。

 「豊福」含みある声掛け。俺が空気を察すると同着で「僕も我が儘なんだ」彼女が動いた。薄唇が呼吸を奪ってくる。先輩、俺も我が儘なんっすよ。婚約者の気持ちに応えたい、という我が儘な気持ちが。目を細め、相手の好意を受け入れる。

 御堂先輩は俺の気持ちを知っている。俺もまた御堂先輩の気持ちを知っている。かみ合っているようで、俺達の気持ちはかみ合っていない。非があるとしたら完全に俺だ。それでも尚、俺達は婚約者の名目で行為を許している。相手の愛されたい気持ちと、俺の愛したい気持ちがかみ合っているから。


「好きだよ」


 抱擁してくる彼女の肩口に額を乗せ、「貴方は守りたい人。守ります、必ず」今の気持ちを素直に伝える。視線を交わし、微笑を零しあって、音なく畳に寝転がる。「早く食べたいな」人の浴衣を剥いて鎖骨に唇を寄せる先輩に「健全でいましょうね」と諭す。脹れられたけど譲れない。


「じゃあ痕はつけてもいい?」


 わざわざ聞いてくるのは羞恥プレイっすか? ここで普通にいいっすよ、なんて答えれば機嫌を損ねるに違いない、経験上。


 だから「つけて下さい」誘うことにする。破顔した彼女が猫のように擦り寄ってきた。

 今出来る、俺の精一杯の甘えさせだ。痕を付けること。人を独占すること。自分が自由でいたいこと。どれも恋愛の我が儘だ。苦いよな、恋愛なんて。しょっぱくて苦い。簡単に気持ちが割り切れないのだから余計に。


 俺は上に乗って痕をつけてくる彼女の頭を撫でていた。いつか気持ちが交わればいい、と願いながらいつまでも。




Fin.



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