SS-3:あたし様と王子の攻め女子会
鈴理と玲のある攻め女達の女子会光景です。
空にとって知らない方が良い女子会かもしれません。はい。
「鈴理。好敵手として少々情報交換というものをしてみないだろうか?」
某月某日の日曜日。
あまり立ち寄ることのないファーストフード店で、攻め女と称された二人の女子高生が昼食を取っていた。
幼少から変人扱いを受けていた竹之内財閥三女と御堂財閥長女は気が合う仲であり、好敵手として日々競り合う仲。切磋琢磨する関係だった。
奇しくも同じ人間を好きになった二人だが、今のところ譲る気はなく、己の自尊心のため、気持ちを通すために好き恋敵として関係を築き上げている。
そんな攻め女と称された片割れ、男装少女の御堂玲がこのような申し出をしてきたため、ホットケーキを食べていた鈴理の手が止まる。
「それは空の情報交換か?」
問いに玲は頷く。
「というか、疑問が少しあってね」指を組み、その上に顎をのせる彼女に鈴理は興味を示す。
彼の情報は相手よりも豊富に持っていると自負しているため、例え相手が彼と婚約していようと優勢に立てる自信があった。
「疑問とは?」まさか婚約についての疑問なら、安心して自分に譲るが良い。大切に食べてやるから! HAHAHA! 笑声を上げる鈴理に、玲は不機嫌な顔を作り、それをあしらうと話題を引き戻す。
「豊福は、そのなんだ。少し異常じゃないか」
「ふむ、ケチな部分か? それは今更だと思うのだが」
「そこも疑問なのだが、やはり一番は彼のご両親に対する気持ち……だろうか。尽くし方が間違っているような気がしてね」
自他ともに認めるファザマザコンの彼の一面について話題がのぼる。
確かに両親に対する気持ちは厚いが、なにぶん空は養子である。自分を引き取ってくれた両親に感謝の意を示したいのだろう。それは鈴理が彼と付き合っていた頃から見え隠れしていた部分だ。此方がどうこう言おうと変わらないと思うのだが。
「空のご両親に対する気持ちは変えようがないぞ。玲」
「僕は否定するつもりなんて一切合財ないさ。けどね、時々引く……というか、なんというか。例えば街中でティッシュ配りに遭遇する。そうすると彼は他にもポケットティッシュ配りがいないか徘徊。見つからないと、その場にいたポケットティッシュ配りのバイトに多めにもらっていいか聞くという。なんでそうするのか? 聞くと、『塵も積もれば山となるですよ先輩。母さんに少しでも楽をさせようと思って!』……後日、大量のポケットティッシュを持ち帰ってお母様にプレゼントする彼がいたというね」
「そんなの日常茶飯事だぞ。空と付き合っていた頃、よくそれを目にしていた」
「お茶をしていたら、おもむろにタッパーを取り出し、ご両親のために持って帰ろうとする」
「ああ、していたしていた。美味な食事はご両親と分かち合いたい傾向にあるからな」
「クーポン券はすべてご両親のために取っておくし」
「あいつの財布はレシートとクーポン券だらけだもんな」
「ご両親の話題を出すと活き活きと語りだす。此方が好い雰囲気を作っているのにも拘らず……あれはキスの雰囲気だろ。普通に考えても」
「はっはっはっは! 残念だったな! 空は簡単に落とせないのだよ!(そしてあたしもそれは経験しているっ……)」
「理想の男性女性像を聞く即答で両親と答えられる……あの虚しさ」
「……それは、まあ、分かるな」
「奥手で腰が重く、いざという時になると理性が上回って決して情事にもつれ込もうとはさせない。ファザマザコンでケチな草食男」
「そんな男を美味そうと思ったあまりに心を奪われしまったあたし達、か」
「………」
「………」
「豊福の親を思う気持ちを逆手に取ろうと思っている僕は、非常に悪い女だろうか?」
「それは違うぞ玲。あたしは常に気持ちを逆手に押し倒そうとしていたのだから!」
ニコッ、ニコッ、攻め女達が意味深長な笑みを浮かべた。
「そうか、良かった。なら、これからはそれも戦略に入れて彼を落とそうと思う。鈴理、君も情報や疑問があれば聞いてくれよ。ここは勝負の公平を保つためにも」
「丁度良かった。あたしも疑問があったところなのだ。空の嗜好についてなのだが、あいつの趣味がいまいち分からなくてな。何度も監視、じゃない観察をしていたのだが節約くらいしか情報を得られなくてな」
「分かる分かる。あいつは趣味という趣味を持っていないからね」
時折開かれる女子会ならぬ、攻め女子会。
彼女達は互いに好敵手でありながらも、こうして和気藹々と情報交換をしたり、意中の話題で盛り上がっているのである。
「ぶーえっくしゅん! ……なんだろう、さっきからくしゃみが止まらないや。風邪かな?」
悪寒もするんだけどっ、ズズっと鼻水を啜る彼にとってこの攻め女子会は知らない方が身のためかもしれない。
Fin.