SS-2:どうして俺達は恋に落ちることができないのか
時系列的には肉食②後半(ネタバレ注意)
鈴理と大雅の幼馴染コンビで恋愛話。
二人が恋に落ちることができたら、きっと家族とぶつかることがなかった。けれど、やっぱり二人とも俺様あたし様だから、自分の感情に従って各々恋に落ちる。そんな話。
「どうして俺とお前は好意を寄せ合えねぇんだろうな。鈴理」
前触れもなしに始まった会話は奇怪なものだった。
現段階で婚約者となっている幼馴染に視線を流すと、「一応俺等は王道じゃね?」同意を求めてくる。ケータイ小説のことを指しているのだろう。
「そうだな。幼馴染との恋は王道も王道だ。なんだ、あたしに惚れたいのか?」
底意地悪く尋ねる。
「そうなら、楽だったかもしれねぇ。そう思った」
返ってきた言葉はやや疲労を帯びている。らしくない。あたしは目を細め、大雅への意地悪をやめた。
百合子に寄せている思いの丈があいつを疲労させているのだろうか? ぼんやりと宙を見つめソファーに寝転ぶ幼馴染を観察をしていると、「お前だったら良かった」そしたら親父達も万々歳だったのにな、と大雅。苦笑いを浮かべ、同意してやる。本当にな。
「お前と性格が似ちまったから、伴侶じゃ馬が合わないんだろうけどよ。合っていたら、順風満帆に過ごせていたかもしれねぇ」「そうだな。存分にあたしが鳴かせていただろうにな」「誰が鳴かされるかボケェ」「それでこそ大雅だ」
「幼馴染だから上手くいかなかったのかもしれねぇな。だってよ、長年付き合っているんだぜ?仮に恋に落ちて恋人になっても、今更な話。どう女としてみれば良いか分からねぇよ。女のお前より、幼馴染のお前の方が年月が長い。それは覆せない事実だ。馬鹿みてぇにテメェと喧嘩して、遊んで、騒ぎまくって。幼馴染の枠はぜってぇに抜け出すことができねぇよ」
「だが百合子も幼馴染だろ?」「あいつは、傍にいる時間が短い。テメェより随分とさ。お前とは傍にいる時間が長すぎた。もう兄弟同然だ」「大雅」「そうだろ?」「ああ、そうだな」
「家族以外で、誰よりも長く傍にいるのはお前だ。良い思い出も悪い思いでも恥ずかしい思い出も、なんでも知っている仲だ」
「ああ、それもそうだな」「だから俺達は恋心が生まれなかった。兄弟みてぇだから」「……ああ」「生まれたら良かったのに。時々思うんだ。手前の人生の成功を思うと」
大雅は曖昧に笑い、今日は感傷に浸ってしまうようだと足を組んで吐息をついた。「鈴理」「なんだ?」「俺のことで嫉妬したことあっか?ちなみに俺はあるぜ。豊福に関して」「何故?」「兄弟を取られた気分になったから」やっぱらしくねぇと大雅はあたしに背を向けるように寝返りを打つ。
まさか大雅がそんなことを思っていたなんて。驚き返るあたしに、「気付けば嫉妬していたりするんだ」これが恋愛感情ならまだしも、家族愛から生まれる感情だから厄介なのだと大雅。「豊福との関係を応援しているのにな」変な話だと婚約者は笑声を漏らす。
「だからさ。豊福と復縁できなかったら責任持ってお前を幸せにするって決めているんだ。あいつからお前を奪ったのは事実だ。お前も俺と付き合いたくて付き合っているわけじゃないし」
一端の好意は寄せられねぇけど幸せにするってことくれぇは可能だし。大雅はあたしに背を向けたまま告げた。
「あんた、あたしを大事に想ってくれているのだな」自惚れるなと悪態をつかれるかと思ったが、「ああ」あいつは素直に返事した。癪だが大事に想っていると返し、笑いたきゃ笑えと自嘲気味に鼻を鳴らした。笑えるわけなかった。こんなにも想ってくれている奴を笑えるわけ、ない。
あたしは大雅をどう想っているのだろう?あいつの言うとおり、大雅は兄弟のような存在だ。喧嘩ばかりしてきた男だが、傍にいた時間も長い。理解している点、理解されている点も多い。仮に想い人と大雅が危機に陥ったら、多分薄情なあたしは後者を取るだろう。
「好きになれたら良かったのにな。お互いに」ダンマリになった大雅の背に呼びかけると、「俺はこれで幸せだけどな。だって好きになっていたら受け男の危機だぜ? 冗談抜かせ」ようやく彼らしい悪態が飛んできた。まったくだな、あたしは目尻を和らげ目を伏せる。
幼馴染の恋愛は王道だが、あたし達には通じない。
今更一端の男女として見られないし、見る術を見出せないのだから。
けれど大雅が決めているように、あたしも腹に決めておこうか。婚約を破棄できなかったら、我が儘でムカつくこいつを幸せにしてやろう、と。
Fin.
幼馴染の恋を成就させるって難しいと思います。
私自身も体験がありますが、幼馴染を一端の男女として見るのは凄く難しい。異性よりも、幼馴染の年月の方が遥かに長いのですから。互いを理解にしているなら尚更です。大雅と鈴理の関係は、家族愛で溢れた関係なのです。