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精霊の担い手  作者: 天剣
2年時
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第4話 雨の中で~3~


「……なるほど、さきほど感じていた、誰かにつけられている感覚は、あんただったのか。あのときの洞窟以来だな、覚えてるか?」


「ああ、覚えてるさ」


納得したようにトレイドは頷き、後をつけられていた不快感を相手に叩き付けるがごとく、すでに握っていた証の切っ先を尾行していた相手ーーセイヤに突きつけた。


セイヤがここにいる理由。それは、フェルアント所属の精霊使いとして、目の前にいる不審人物であるトレイドを捉えるためだ。


トレイドがここ最近拠点として在住している異世界ーー主に砂漠と荒野が広がるベリウムは、フェルアントと同盟関係を結んでいる世界である。つまり、精霊のことを広く認知し、さらに世界が無数にあると言うことを周知している異世界だ。しかし残念ながら、はぐれ精霊使いである彼はそのことを知らない。


だからこそ、桐生セイヤはーー否、マスターリットは、彼がここにいると言うことを突き止めることが出来たのだ。今まで未発見世界や、未開発世界、精霊のことを認知されていない世界を中心に回っていると思われていた彼が、ここに来てようやく尻尾を出したわけである。


自分だけが知っている未発見世界を拠点にしていると思われていたために、ベリウムに現れたそのチャンスを逃しはしないと、”彼ら”は本気であった。


(アンネル、目標を発見。こっちに救援と人払いを頼む。と言っても、荒野のど真ん中だから人はいないと思うけど)


(了解。なら視認不可結界でも展開させとくぜ。……気をつけろよ)


あらかじめ発動させておいた念話型の通信魔法を通じて、マスターリットの仮の隊長であるアンネル・ブレイズにそう告げ、セイヤは鋭い視線をトレイドに投げかけた。


「……あのときはまともに戦わせてさえくれなかったな」


「まぁな。あのときは、こっちも逃げの一手だったし。あの狭い洞窟で、お前達みたいな手練れとやり合う気は無かったんだ」


はぁ、とため息をつきながらも、トレイドはセイヤに向けた視線を片時も離さない。自ら言ったとおり、彼の実力は自分には届かないながらも、決して気を抜いて良い相手ではなく、さらにどうやら後数名、彼と同程度の実力者がこちらに来るようである。


精霊王の血筋故に引き継いだ、自然の加護によってそのことを見抜いた彼は、どうするべきかと頭を悩ませる。結論から言えばさっさと逃げた方が良いのだが、先程からずっとつけられていた不快感もあって、彼に一発入れてからの方が今夜は気持ちよく寝られる。


そう思っているうちに、ふと良いことを思いつき、トレイドはにやりと笑みを浮かべた。その笑みに、セイヤは警戒心を露わにさせ、剣状の証を構える。


「あんたが俺の補足係になったのは、やっぱり洞窟で顔を見られたからか?」


「……ああ、そうだ。それがどうかしたか?」


油断無くトレイドを見つめながら、彼の一挙一動に注目する。彼は、自分の父親である桐生アキラがかなり強いと言わしめたほどの実力者。故に、これほど警戒するのも仕方が無いという物。


「いや、あの祭りの時は俺面をかぶっていたんだが、何でばれたんだろうな、と。……あんた、あの場にはいなかったはずだろ?」


「目撃情報とだいたいの背丈、雰囲気。それらを会わせれば、俺とアンネル……あのときのおっさんはすぐにぴんと来たんだよ。お前しかいない、ってな」


「なるほど。それに”理”まで一緒だったら、ほぼ俺しかいないってことか……」


「……”理”?」


いきなり出てきたその言葉に、セイヤは表情をしかめて問い返す。何も、”理”について知らないわけではない。自然の摂理ーー神の力や神自身、もしくは絶対的なルールを表す。それが理である。


セイヤが疑問に思ったのは、理が一緒、ということ。一体、それは何を言っているのだろうか。


(……そうか、洞窟内ではあいつは見ていないのか)


セイヤの反応から、思わず自爆したということが発覚し、トレイドは再度ため息をつく。だが、セイヤの反応を見る限り、何を言っているのかわかっていないのだろう。それが唯一の救いか。


「何でも無い、ただの与太話だ。それより、だ。あのときつけていた面、もういらないからお前さんに返す」


そう言って神霊祭の時、彼がかぶっていた精霊王を模したお面を懐から取り出し、トレイドはそれをセイヤに投げ渡した。ひょいと、力のこもった投げ方ではなく、まるで本当に渡すかのように。


彼の行動が理解できず、眉根を寄せかけるが、すぐにハッと気づいた。ーーこちらに向かってくる面に、”魔力”がやどっていることにーー。


「っ!?」


その瞬間、彼の思惑を理解し、法陣を展開させようとしてーー次の瞬間、セイヤの近くまで飛んできた面が突如破裂した。内部に送り込んでいた魔力を解放させ、破壊したのだろう。


しかしセイヤは、飛んでくる破片を、展開した法陣で全て防いだ。目くらましに乗じて彼に一撃たたき込もうと構えていたトレイドは、セイヤが全て防いだのを見て、ちっと舌打ちを放った。


「……あんた、ただの精霊使いじゃないな? 普通、精霊使いは純粋魔力の扱いが不得手で、気づくこともままならないはず……」


「……そういうお前も、普通じゃないだろう? ここまで純粋魔力の扱いに慣れているなんていうのわよ」


トレイドの疑問に対し、セイヤは同類だと指摘する。その言葉にトレイドは驚いた様子を見せた後、にやりと笑みを浮かべた。


「全く、その通りだよ!」


ーーその言葉とともに、トレイドは猛然と斬りかかった。一気にセイヤに肉薄し、間合いに入るなり袈裟斬りの一撃をたたき込む。突っ込んでくる速度と剣速、そのどちらもかなり早いが、セイヤはあっさりとはじき返した。


いくら速くとも、遠目から繰り出した技などさしたる脅威にはなり得ない。そしてそのことは、繰り出した本人であるトレイドも理解していることだった。ーー故に、即座に体勢を入れ替える。


弾かれた衝撃に逆らわず、その方向へと自らの体を回転させ、体勢を低く保ち、下段から足を払うように剣を振るう。弾いたというのにもかかわらず、即座に反転してくる彼に対し、セイヤは軽い驚きを露わにさせながら地を蹴って一度距離を取る。


「ーー二之太刀、飛刃!」


「っ!」


後方へ飛びながら、セイヤは証を魔力で覆い一気に振り切り、飛刃を放つ。剣の軌跡から放たれた魔力斬撃に表情をしかめながらも、トレイドは飛刃と真っ向から向かい合い、剣を振るってはじき飛ばす。


ーー重い!


見た目よりも遙かに重いその斬撃にますます顔をしかめ、しかしトレイドは何とかはじき返す。やはり、純粋魔力攻撃は物理破壊力が高い。そのことを再確認した彼は、ふとある思いにとらわれた。


(この攻撃……どこかで……?)


セイヤが放った飛刃をどこかで見たような気がして、彼は眉根を寄せる。だが、その思考が形となって現れるよりも先に、地面に着地したセイヤが一歩踏み込んだ。


ーー次の瞬間、セイヤはトレイドの間近にいた。証である剣を頭上に振り上げた状態で。


(なっ……!?)


何の予備動作もなく、踏み込んだだけで行った高速移動。それに彼は瞳を見開いて驚きを露わにさせる。そんな状態ながらも、セイヤの一撃に反応できたのはさすがの一言だ。


頭をかち割ろうと迫り来る剣に対し、トレイドは身をひねって躱すが、その代償とばかりに黒髪を数本持って行かれた。その程度で済んでほっとする間もなく、トレイドは直感に従って飛び退き、続く横薙ぎの”二撃目”を何とか交わす。


視認さえも出来ない速度で振るわれる剣を交わせたのは、まぐれ以外の何物でも無い。その幸運の代償として、今度は服を切り裂かれた。


(そうか、こいつ……あのときのおっさんと同じ剣を……!!)


先程感じた既視感。その正体が判明し、彼は苦虫をつぶしたような表情を浮かべる。記憶によみがえるのは、祭りの際に戦った壮年の刀使い。セイヤの剣は、あの男の剣とひどく似ているのだ。


あの男の弟子か何かだろうか、純粋魔力を用いた剣技に、トレイドは興味を抱き始めていた。


ともあれ、今はこの状況を打破するのが先決である。まだ結界は展開されておらず、援軍も到着していないが、時間がかかれば不利になるのはこちらの方。故に、速攻で決着をつけることを彼は選んだのだが、そのもくろみは頓挫してしまった。


(……なるべく速く、けりをつけるしかない……。……仕方が無い、か……)


セイヤと距離を取り、トレイドは剣を構えた。内心で仕方が無い、と呟きながら己の体に意識を集中させる。呼び起こすのは、”精霊王の血筋の力”。


「……どうしても、俺を捕まえるのか?」


「当たり前だ。お前が所持している神器……ダークネスを回収し、二度と呼び起こされることのないよう封印する」


「………」


血筋の力により、自然の加護を受けるようになったトレイドは、セイヤにそう質問した。その問いかけに意図はなかったのだが、返ってきた答えに思わず息を吐いた。


「……なら、なおのこと、お前らに渡すことは出来ない」


「……?」


息を吐いたのは、彼”ら”の無知さに呆れたからだ。とはいえ、彼らには知りようのないことだし、事実、トレイドも当事者でなければ何もわからなかっただろう。


「……あれは、何千、何万といった人の心の闇の集合体だ。ただ封じるだけじゃ、何の解決にもなりはしないさ」


「……何?」


セイヤは、トレイドが呟いた言葉に疑問符を浮かべ、しかし彼はそれに何も応えない。だらりと下げたままの剣を、軽く荒野の地面に振れさせーー証に宿る知識の力を解放。地面に魔力を流し込み、錬成(水や土などの物体を、魔力を通じて操作したり、その性質を変えること。土ならば金属に変化させること)する。


彼は背後の地面を錬成していき、土塊からいくつもの”剣”が突き出してくる。その様はあたかも、荒野に沈み、眠っていた剣を呼び起こしているようにも見える。


錬成した剣は浮かび上がり、トレイドの背後で一端止まると、その切っ先を全てセイヤに向けてきた。その数は、数十を遙かに、下手をしたら百にも届いているだろう。


「……っ!」


セイヤは歯がみして剣を握る手に力を込めた。これほどの量の錬成をたった数秒で終わらせる、彼の精霊使いとしての実力に寒気がたった。そして彼は、左手でセイヤを指さし、


「いけっ」


「ちーーーっ!? 何っ!?」


呟きとともに、彼の背後で浮かぶ剣が次々と投射され始めた。セイヤは舌打ちを一つ放ち、即座に回避行動に移ろうとして、そこで気づく。自分の両足が、いつの間にか錬成された土で拘束されていることに。


(いつの間に!?)


胸中叫ぶが、その答えが出てくることはなく。何とか抜け出そうにも、その拘束は堅く、自力では抜け出せない。こちらも”知識”を用いて錬成すれば抜け出せないこともないのだが、この足かせはトレイドが錬成した物。


他人が錬成した物を錬成し直す場合は、その他人を上回る力量が必要となってくる。残念ながら、先の剣の生成を見た後では、自分がトレイドを上回っているとは到底思えない。


つまり、この足かせを即座に解くことは出来ない。彼の視界には、投射された剣群がもうそこまで迫ってきている。もう、回避は間に合わない。


「くっ……そぉ……!!」


ーー霊印流重ね太刀、瞬牙・残ーー


声を限りに叫びを上げて、彼は迫り来る剣群に対し純粋魔力を用いた剣技ーー速度に優れた瞬牙と、斬撃を分裂させる残刃を重ねた太刀を、縦横無尽に振り回す。


そうやって出来るのは、剣撃の壁。セイヤの目の前に形成されたそれは、迫り来る剣群を次々と切り払っていく。物質からの魔力変換、知識を宿した証にのみ行えるそれを用いて、容赦なく剣を”切り裂いていく”。


知識を宿した証に触れた魔力は、一時的に魔力変換の能力も付与される。故に、証本体ではなく魔力によって構成された残刃でも、剣を切ることが出来るのだ。


結果ーーセイヤは、数十を超える剣群を全て切り伏せて見せた。だが、純粋魔力で行う攻撃は、当然ながら魔力消費が大きい。軽く荒くなる息を何とか落ち着かせようとしてーーしかし。


「休んでいて良いのか?」


「っ!?」


その隙を、トレイドは与えてくれなかった。剣群を投射した後、セイヤの懐に飛び込んだ彼は、右手に握る細身の長剣を振るい始める。上下左右、縦横無尽に繰り出される連撃を、セイヤはジリジリと後退しながら受けにはいる。


「くっ……!?」


大した力を込めているようには見えない上、細身の剣からは想像できないほどトレイドの剣は重く、鋭い。少しでも気を抜けば、あっという間に防御を崩される。ーー普通なら。


ーー霊印流一之太刀、爪魔ーー


数合剣を打ち合わせ、このままではいずれ防御を崩されると感じ取ったセイヤは、剣の刀身を魔力で覆い尽くす。途端、彼と剣を打ち合わせても、さしたる重みは感じなくなる。それどころか、


「……せいっ!」


「ぬっ……」


重みがなくなったことで余裕が生まれ、セイヤは連撃の隙を突いて爪魔を繰り出す。隙を突いた一撃だが、トレイドはその一撃を予感していたかのような軽い動作で半歩後退し、最小限の動きで交わしてみせる。


「そこっ!」


トレイドが半歩退くのを見て好機とみたか、セイヤも彼の後を追うように前へと出る。振り上げた長剣を返し、袈裟斬りに振り下ろした。力と体重、そして魔力を乗せた爪魔は、距離を詰められたトレイドには容易には回避できず、防御しても態勢を崩されることが目に見えていた。


その、まさに必殺の一撃を、トレイドは精霊王の血筋故に事前に察知できた。故に、それへの”返し技”はとうに思いついている。


自らに向かって振り下ろされる長剣を、トレイドは剣を構えて防ぎ、当然剣と剣が交差、ぶつかり合う。そのぶつかった瞬間、トレイドは自ら体を回転させた。


(ーー何!?)


その行動に思わず目を見開くセイヤ。そして、見た。彼が回転したことによって剣と剣の接触点が動き、トレイドの細身の剣が、セイヤの剣の”剣腹”を叩いたところを。それによってセイヤの剣筋は大きく乱され、トレイドの体をかすめることなく地面へと振り落ちていく。


一方トレイドは、回転動作をやめることなく一回転。回転によって遠心力が乗った一撃を、お返しとばかりにセイヤの横っ腹に叩き込んだ。


「かはっ……!!?」


そのとてつもなく重い衝撃に、肺にたまっていた空気を残らず吐き出してよろよろと後ずさり、膝をつく。ここで倒れなかったのは、自らの矜持故か。膝をつき、咳き込む彼の首筋に、トレイドは容赦なく剣を突きつけた。


「………」


「………」


セイヤは彼を見上げ、トレイドは彼を見下し、互いを睨み付けながら静寂が訪れる。辺り一面に広がる荒野に、風が吹きーートレイドは、ぽつりと呟いた。


「……後ろにいる奴。それから、前から俺を狙っている奴。三秒以内に姿を現さないと、こいつの首は保証できない」


「………っ!」


ーー気づかれていた。セイヤは膝をついた状態のまま、ぐっと強く拳を握りしめる。程なくして、彼が言ったとおり、トレイドの背後から槍を構えた中年の男性が、そして彼の正面ーーセイヤの背後から妙齢の女性が、姿を現した。


雷属性の属性変化改式、光。それを用いて、自身に当たる光を屈折させ、周りの目に写らなくさせる技術。ーー光影消と名付けられたそれを使って姿を消していた”先輩”二人が、素直に姿を現したことにセイヤは驚きの表情を浮かべた。


「クー先輩! それにリーゼルドのあねさんまで……!」


クーと呼ばれた槍を構える中年ーー薄紫色の短髪をオールバックにした、中肉中背の男である。いつも以上に眉間に皺を寄せ、鋭い目つきでトレイドを睨み付ける。


一方、あねさんと呼ばれたリーゼルドは、燃えるような赤い髪を結い上げた、背が高い女性である。中肉中背のクーと比べると、こちらは出ているところは出て、引っ込んでいるところは細いというスレンダーな体つきをしている。彼女は薄く微笑みを浮かべながら、トレイドを見やっていた。


「……ほら、貴方のお望み通り、こうして姿を現したわ。その物騒な剣を引っ込めて、その子をこちらに返してちょうだい?」


「………」


リーゼルドのしおらしい言葉に何の返答も返さなかったが、トレイドは顰めっ面をしたままセイヤの首にあてがっていた剣を下げーー同時に一回転して、背後から襲い来る”槍”を弾いた。


「ぬ……」


後ろを見もせず、不意打ちに即座に反応した彼に、クーの顰めっ面はトレイド以上のものとなる。自らの一撃をこうもたやすくいなされ、クーは苦々しい思いを抱いたのだ。


「ちっ、面倒ね! これだから血筋の覚醒者って言うのは!」


途端、リーゼルドの口調が、先のしおらしさを完全に廃した口の悪さで舌打ちを放ち、即座に銃身が長い狙撃銃型の証を展開させ、頬付けして彼を狙い引き金を引く。


狙撃銃から放たれた弾丸は、トレイドへと向かっていき、しかし彼は身を裁いてあっさりと弾丸を躱してしまう。


「……やっぱし、口が悪い姉さんタイプだったか……」


「……余裕だな、貴様」


どこか残念そうに軽口を呟きながら、トレイドはクーの顰めっ面とともに繰り出される槍を裁き、弾き、返していく。彼の槍の技量はかなりの物だが、セイヤと同様、こちらの相手ではない。ーーそれが、一対一なら、だが。


「っ!!?」


「ーー爪魔・飛瞬残」


常人を遙かに超えた感知能力により、トレイドは自身の右手側から何かが放たれるのを事前に察知し、そこで彼は、この戦いで初めて余裕が消えた。


即座に右手側に法陣を展開させると、ほぼタイムラグなしに法陣に重い魔力刃が叩き込まれる。ーー威力と早さを兼ね備えた飛ぶ斬撃が、五つ。当然ながら、法陣は耐えきれず、軋みをあげて砕け散る。


「ぐっ……!」


法陣が砕けた衝撃に耐えきれず、彼は自ら吹き飛ばされることでダメージを軽減し、しかし息をつく間もなく、リーゼルドが口の端に笑みを浮かべて狙撃銃の引き金を引き、弾丸を放った。


そのタイミングは、トレイドが着地したとほぼ同時。回避は容易ではなく、さらにその弾丸自身にも宿っていた”知識”の力を行使して、弾丸に雷を纏わせて放たれたそれを、着地直後で姿勢が安定しきっていないトレイドは証で直に受け止めた。


「……っ……!!」


声にならない悲鳴を上げ、トレイドは全身を襲う感電に耐えていた。証で受け止めたために魔力変換が働いて雷の威力を減衰させたが、普通の雷とは違い、リーゼルドが変換したものである。即座に変換するはずが、変換に時間がかかり、僅かとは言いがたい量の雷がトレイドに流れ込んだのだ。


(……こいつら……!)


強い、とトレイドは感じ取った。一人一人だと楽に倒せるのだが、三人集まればこうも押し込まれる。昔、ある世界に滞在したときに覚えた格言を思い出す。


一本の矢はたやすく折れる。しかしそれが三本集まれば、おることは出来ない、と。この三人は、まさにそれであった。


(………は)


彼は無言。しかし、その口元には笑みが浮かんでいた。右手に握った細身の剣を強く握りしめ、剣をだらりと下げて構える。一見、隙だらけに見える構えだが、これがトレイドの基本の構えなのだ。


「不意打ち、数の差……上等、てな……」


三対一の不利な状況の中、口元に笑みを浮かべるその姿からは、全く戦意が衰えていなかった。

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