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精霊の担い手  作者: 天剣
2年時
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第2話 神霊祭~3~

『フェルアント学園にお越しの皆様にご案内いたします。本日、午前10時より行われる戦闘競技披露会におきましてーー』


「……ほほう?」


学び舎内で響く放送を聞いたトレイドは、まなじりをあげてそれに聞き入っていた。あたりも同じ様子を見せていることからも、この戦闘競技とやらはこの祭りではそれなりに人気があるものなのだろうな、と勝手に推測する。


正直に言えば、トレイドもこのあとやることがなければそれを見物したいところなのだが、どうもそれは無理そうである。


何せ相手側の反応を見るに、どうも厄介なことにしかならなさそうな気がするのである。先ほど、学び舎に入る前に”あれ”を買っておいてよかったと、心底思っていたりする。


「はぁ、やだな。俺は平和に生きていたいだけなんだが……」


「人生の大半が激動ーーていうか荒事に首突っ込んでいるお前が言うと、なんか説得力薄れるな……。ま、それは置いといてだ」


と、こちらはその姿を現していた狼ーー神狼の精霊であるザイの言葉だ。やれやれ、とでも言いたそうな目つきで、トレイドのことを足元から胡乱げに見上げている。


「どうするのだ? このままだと、おそらく”ダークネス”は……」


「言うな。わかってるさ」


ザイを片手で押しとどめ、彼は顔をしかめて首を振りつつも、真剣みを増した口調で言い募る。

「この学び舎には何の恩も義理もないが……それでも、厄介ごとの原因は俺だからな。……けじめはつけるさ、めんどいけど」


「本当にそれだけか?」


今にもにやり、と笑みを浮かべそうな、憎たらしさを浮かべるザイを見、とりあえずその頭をぶん殴ろうとして、あっけなく失敗した。獣じみた動きでーーもともとは獣なのだがーートレイドの拳をよけたザイは、口元を吊り上げ牙をわずかに覗かせると、


「素直になれ。私にはわかるのだぞ」


「……いつか狼肉にして食ってやる」


きっと睨んでおいて、トレイドはため息をつく。もちろん、ザイが言いたいこともわかっている。けじめをつける、ということもあるが、一番はやはり、


「人が傷つくかもしれない、とわかっていて手をこまねくのも、目覚めが悪いしな」


「そうそう、素直でよろしい。……本音を言えば、もう少し素直になればよいものを」


「黙れ」


髪の毛をがりがりとかきながらそんなことを言うトレイドを、ザイは茶化す。今度こそその頭を殴りつけて黙らせた後、その視線を外の大きな建物へと向けた。


彼は知らなかったが、その建物は第二アリーナであり、そして戦闘競技の会場となる場所であった。やるせない気持ちに襲われ、再度髪の毛をかきながら一つのことを思っていた。


ーー悪いなーー


その謝罪は、これから行うことによって、この祭りが台無しになることに対してのものであった。その思考が頭をよぎった後、彼は第二アリーナに向かって歩き始める。


そしてそのあとを、いまだに痛む頭に悩まされながらも、ザイがトコトコと追いかけていった。


ーー少年と青年の、最初の出会いまで、あとわずかーー


~~~~~


「ここが第二アリーナで、ここで試合が行われるよ」


「知っているわ、そんなこと」


ああ、そうですか、とレナは投げやりに頷いて、クサナギの案内に努めていた。アリーナの入り口にたくさんの人が並んでおり、それを見たクサナギはふうっとめんどくさそうにため息をつく。


「……どこかに裏口はないのか、裏口は」


「ないよそんなの。ちゃんと並ぼうよ」


行列に並びたくないため、クサナギはそんなことを口にしたが、すぐにレナの苦笑とともに否定された。憮然とした表情を浮かべて目を閉じるクサナギを見やり、彼女はほっと一息つく。


この様子だと、彼も悪知恵を働かせて無理やり中に入ろうとは思っていないだろう。そのことに対する安堵の溜息だった。だが、レナは少しわかっていなかった。


もしここに桐生家の人間がいたら、クサナギを警戒するだろう。何せ彼は、こういうめんどくさいことを回避するスキル、もしくは悪知恵はかなりのものなのだから。絶対、どんな手段を使ってでもアリーナの中へ入ろうとするだろう。


肩に乗って憮然とするーー考え込んでいるクサナギに微苦笑し、レナは行儀よく列の最後に並ぼうとーーは、しなかった。


「……は?」


「それじゃね、クサナギ。私、これから見回りの仕事があるから」


代わりに列の最後尾に、肩に乗っていたクサナギを放り込むと、笑顔で手を振りそのままアリーナの建物へと向かっていく。その後ろ姿を見送りながら、彼は首をかしげた。見回りの仕事がある、というのは知っているが、それでなぜアリーナのほうへと向かっていくのだろうか。


(……これは、まさか?)


「ママー、お人形さんがふわふわ浮いて、なんか悪そうに笑ってるよ」


「し、見ちゃいけません」


三十センチ大のクサナギが最後尾に放り込まれたため、周囲の人間はひそひそと彼のことを見やり、物珍しげに眺めているが、それは聞いていないふりしてやり過ごす。それこそ、無邪気な女の子と、その母親のやり取りは特に。


女の子いわく、悪そうな笑みを浮かべてレナの後姿を見つめるその姿は、人形じみた大きさでなければおそらく通報されていただろう。ふわりふわりと浮かびながら、頭に浮かんだ考えを試すために列を離れて彼女の後を追いかける。


すたすたすたと前を歩くレナの後を、スーッと音もなく追いかけるクサナギ。彼女のことを見失うまいとするために距離を少々縮めるが、ふとその視線が彼女のある一点に固定されてしまう。


丸く、やや小さいながらも形の良いそれは、上品な医療機関の言い方を借りれば臀部、反対に品のない言い方を借りればおしりである。前方で、彼女が歩くたびに動くそれに、クサナギの目は自然とそれに釘づけになっていた。


(……良い尻してんなぁ~。全く、女ってやつは末恐ろしいやつだぜ)


ほんの十年前まではただのお子様で、今以上に食指が動かなかったはずなのだが。ゴクリ、と思わず生唾を呑み込むクサナギ。このあたりから、もう完全に思考が危ない人である。


フリフリと揺れるお尻を見続けるうちに、だんだんと思考がーー特に理性が薄れ、前述とは違って食指が動き始めた。次第に鼻の下が伸びてくるが、そんなことに気が付きもせず、ただただ彼女の後を追いかけるのみ。


ーーだから気が付かなかった。やがて彼女は体の向きを変えてアリーナに設けられた”裏口”に入ったことに。そして、彼女が後をつけられていることに気が付いている、というこに。


彼女の後を追ってそこに入るなり、視界から急に日の光が消えて、少々暗くなったことに気づいたときには、もう遅かった。はっと嫌な予感を覚えて我に返った瞬間、頭に凄まじい衝撃が走る。


「ドヘフッ!!?」


「……えっ? クサナギッ!?」


頭部に衝撃を感じ、視界が薄れつつも頭によぎったのは、いつの間に室内に入っていたんだ、という問いかけである。しかしそれに誰かが答えるはずもない。


そしてレナも、裏口からアリーナに入るなりさっと身をひるがえすなり物影に隠れて、自らの証である棒を取り出すと、それをついてきた不審者が姿を現すなり、相手を気絶させるほどの勢いで振りぬくが、その正体を見て驚愕した。


ミニサイズの彼の頭部は全体の割合から考えると、せいぜい三センチを少し超えるぐらい。そこにピンポイントで打ち付けた彼女の意外な技量に驚くべきだが、今は感心してはいられなかった。


浮遊していたために、棒で強かに殴られた衝撃で下方に向かって吹っ飛び、地面にたたきつけられる。受け身をとる暇もなく、その衝撃を体全身にくまなく浴びーー彼は気絶した。


ーーが、先ほどの危険な思考をかんがみると、それも自業自得だろう、という気がしてくるのは余談であった。




数分後、意識を取り戻したクサナギは、頭にある膨らみーーたんこぶを気にしながらレナの説教を受けていた。


「もう、何でついてきたのよ!」


「お前がアリーナのほうへ向かっていくから、つい気になってな。……黙ってついていったのは申し訳ない」


素直に頭を下げるクサナギ。しかし、すぐに顔を上げると不満をあらわにさせて言い募ってきた。


「だが、お前が素直に裏口がある、ということを教えれば、私はたんこぶを作らなくてよかったのだぞ!!」


「反省の色が全く見えないんですけど!」


腕を組みつつ頬を膨らませるその様子は、プンスカという表現が驚くほど似合っていた。おそらくそれは、彼の全長の効果ゆえであろう。だが、レナはあきれ果てたようにジトッとした視線を送るのみ。どうも、彼が醸し出す癒し効果は彼女には効かないようである。


「大体、あなたに裏口があるってことを言わなかったのは、知ったらクサナギは絶対ここに忍び込もうとするからだよ!」


「ふん、そんなこと知るか! 進入禁止ならば、わかるようデカデカと張り出しておくべきだろう!?」


「ちゃんと外見たの!? 大きく進入禁止って張り紙張ってますけど!」


「なぬっ!?」


ビシッと彼女が指をさす、先ほど入ってきた場所には、確かに”進入禁止”の四文字が張り出されていた。くっと呻くクサナギに、レナは勝ち誇った表情を浮かべて微笑んだ。


俗にいう、ドヤ顔である。


拳を握りしめ、わなわなと震えるクサナギ。何か言い返したいのだろうが、進入禁止の張り紙を無視した時点でこちらの負けである。


ーー張り紙?


ふと、あることが頭に浮かび、クサナギはもう一度振り返って張り紙を凝視する。そして、そこに書かれた文字を一文字一文字丁寧に読み進めーーふっと口元を吊り上げた。


「ふっふっふっふ……」


「……ク、クサナギ?」


それだけに留まらず、含み笑いまで浮かべる彼に嫌な予感を感じ取り、じりっと後ずさるレナは、少々頬をひきつらせる。だが、それに構わずクサナギは口を開いて、


「はっはっはっは! 私の勝ちだな、レナ! そこにきちんと、関係者以外進入禁止と、大きく書かれているではないか!!」


「……書いてあるけど……関係者以外のところは大きくないよ」


「知るか、そんなこと!! とにかく、お前が入ってよいのなら、私も大丈夫なのだ! 何せ私とお前は、全くの無関係というわけではないのだからな!!」


「先生ーー!! 誰かいませんかーー!! ここにわけわかんないこと言っている、見知らぬ人がいまーす!!」


「ちょ、レナ様、ご勘弁をっ!!?」


容赦なしに無関係説を持ち出す彼女を、クサナギは今にも土下座しそうな勢いでやめてくれと懇願する。そんな彼を、レナはどうしようかな~と、目をそらしてわざとらしく言い募り、それがクサナギの胆を冷やしていく。


例えここで誰かに見つかっても注意されて追い出される程度で済むのだろうが、どちらかというとそのあとに待っているであろうアキラの折檻のほうが怖かった。


無関係の人にしょうもないことで迷惑をかけるな、と散々言っているため、おそらくここで見つかった場合それに引っかかるだろう。脳裏に瞬くのは、過去にあった散々な罰。思い出したくもない、とはクサナギや彼の息子であるセイヤの談である。


汗をだらだら流すクサナギを一目見、次いでレナは軽く噴き出した。笑い声をあげながら、彼女は笑顔で言う。


「あはは、ごめんごめん、冗談だよ。言わないから、心配しないで」


「ありがとうございます、レナ様~~」


割と本気でほっとしつつ、彼は頭を下げた。そんなクサナギを見て再び笑顔を浮かべ、レナは口を開く。


「ほら、一緒に行こう。私と一緒じゃないと、後でどんな目に合うかわからないよ?」


「全力でお供させてください!」


最敬礼で頭を下げるクサナギに、レナは苦笑を浮かべてもういいから、と彼の行動を押しとどめる。やはりレナは優しかった、と胸中でほろりと涙を浮かべ、彼女の肩に乗っかる。


「入ってきたから仕方ないけど。でも本当は、ここ競技に出場する生徒か先生、それに私のような見回りじゃないと入れないんだからね。静かにしておくように」


「あい、わかった」


レナの忠告に、今度ばかりは素直に従うことにする。後で見放されるのが怖いからという理由ではない。そんなんじゃないからな! と、思っていたり。


クサナギがそんな風にツンデレ思考に浸っていると、先ほどのレナとのやり取りを思い出し、彼は微苦笑する。その様子を感じ取ったのか、レナは肩に乗っかる彼を見やり、首をかしげた。


「どうしたの?」


「いや、先ほどのお前とのやり取り。在りし日のタクトとお前のやり取りに似ていると、思ったからな」


「あっ………」


そう思い出し笑いを浮かべながら言うと、どうしたことか彼女は少々傷ついた表情を浮かべて俯いてしまう。その様子に、何か不審なものを感じ取りーーすぐにそれが何なのか、察しが付く。


「……まだ気に悩んでいるのか」


「………」


問いかけは疑問ではない。そしてレナも、それを肯定するかのように俯いたまま無言を通していた。やがてため息をついて、クサナギはやれやれと首を振る。


「あいつは気にはしていないさ。そもそも、あの時のことは……」


「……タクトは、あれでも気にしているんだよ」


彼の言葉を遮り、レナは俯き加減のまま少々震える声で呟いた。クサナギは、彼女の言葉に驚きをあらわにさせて、目を見開いて問いただす。


「気にしている? タクトが?」


うん、と消え入りそうなほどの小さな声で答えるレナ。その様子を見ながら、彼は家長であるアキラの甥の、タクトのことを思い出していた。


ことの始まりは数年前。まだタクトやレナ、マモルが幼かった頃のことである。あの時、外で遊んでいた三人は突如謎の男たちに襲われた。


後になって判明したその男たちの目的は、鈴野レナーーフェル・ア・チルドレンである彼女をさらい、”実験”にかけようとする非人道的なものだった。ーーだがそれも、一部の者たちにとってはどんな犠牲を払ってでも成し遂げたいことであったのも、また事実である。


それは、フェル・ア・チルドレンの誕生に秘密があるが、その実態はフェルアントとしても機密事項である。ゆえに多くは語れないが、これだけは言える。チルドレン達には、”不老不死”の可能性が宿っている、と。


どこからかそれを聞きつけた者たちが、不老不死を得ようと彼女に襲い掛かったのは無理もなかった。


もちろん、襲われた側であるタクトたちも抵抗したが、幼い子供の抵抗が通じるはずもなく、マモルにいたっては精霊と契約しておらず、それどころか”精霊の存在すら知らない”頃だったのだ。


無力な子供三人と、数人の大男。子供たちに勝ち目は全くなく、しかしそれでもタクトは必死に二人を守ろうとした。その結果ーー彼は右耳を切り取られてしまった。


最終的には騒ぎを聞きつけたアキラとクサナギが救助に向かい、男どもを”半殺しにし”(比喩でもなんでもなく、文字通りの意味。あれほど怒ったアキラは久しぶりに見た、とクサナギは語る)、事なきを得たのだが。


思い返せば、あの時からだろうか。タクトとレナの関係というか距離というか、それが変わっていったのは。


「……確かに気にしている、かもしれないな。だがそれは、多分お前達を守り切れなかった後悔からじゃないか?」


顎に手を当てて、珍しく物思いにふけっていたクサナギは、そう自身の思いを伝える。だが、帰ってきたのは、ようやく顔をあげて僅かにほほ笑む、今にも泣きそうなレナの痛々しい笑顔だった。


「……マモルやアキラさん、セイヤさん、それから風菜さんに未花さんも、同じこと言っていたよ」


「……私には相談してくれなんだ……」


ははは、とかすかに乾いた笑い声をあげるクサナギ。それに彼女は微笑みを浮かべるが、今にも泣きそうなことを堪えているのがはっきりわかる。


「あはは、ごめんね。その、クサナギには……うん」


そのうん、がとても気になったが、クサナギは突込みを入れることなく彼女の言葉を待つ。


「とにかく、タクトが傷ついたのは私のせいだから……。それに、彼は傷口を人に見られたくないみたいだし。……私は、たくさんタクトを傷つけたから……」


だから、と俯き、ぎゅっと拳を握りしめるその仕草から、泣きそうなのを堪えているのがわかる。クサナギは困ったように頭をポリポリとかきむしり、やがてあーっと呻いた。


「人の気持ちというのは、全く面倒でかなわん! そういう時は、腹割ってじっくり話す他ないだろうが!」


ズバリと言い切り、彼はどこから取り出したのか、白い手巾をレナに差し出した。彼女は、クサナギの言葉が意外だったのか、目を見開きながら彼の顔を凝視し、次いで手巾に目を落として首を振る。


「……いらない」


「震えた語尾と、うるんだ瞳で言われても説得力が全くない! 良いから拭け! そんな顔じゃ、可愛い顔が台無しだ!」


本来なら、最後の言葉を聞いて頬を赤らめる場面だが、自然とこの時ばかりは、微笑みを浮かべることができた。ーー照れ隠しの裏に潜めた、彼の優しさに気づいたからか。


照れ隠しでそんなことを言うクサナギはくさい。だが、だからこそ、か。彼の言葉をすんなりと受け入れることができた。


「……ありがとう」


「ふん」


鼻を鳴らしてそっぽを向くクサナギを、微笑みを浮かべながら彼女は見やった。彼が差し出す手巾を手に取ると、そのまま目元に充てて流れかけている涙をふき取った。場に流れる静寂、それを振り払うかのように突如声が響いた。


『本日はフェルアント学園主催の神霊祭に、ようこそおいで下さいました。これより、生徒同士によります、戦闘競技が始まります』


しばらくそのままでいると、第二アリーナに放送が流れる。その放送を聞き、クサナギは柄にもなく助かった、とほっと息を吐き出した。先の発言のこともあり、少々気まずさを感じていたのは事実である。


ーーそのことについては、関係ないとばかりに好き勝手やるが。それはそれ、これはこれだ。


「お。どうやら始まるみたいだな。……レナ、すまんが案内してくれ」


「……うん」


クサナギの申し出に、レナは頷くやいなや身をひるがえして歩き始めた。今いる第二アリーナの準備室から細い通路を何度も通ると、どうしたことか観客席に出てきた。ーーが、その観客席も即席で作られたものだとわかる。


「なるべく目立たないようにね」


「うむ」


いつもの雰囲気を取り戻したレナだが、声音が少々こわばっている。まだ完全に元に戻ってはいない様子。


『さぁ、お待たせしました! 栄えある第一戦、開幕です!』


「いいタイミングだな」


アリーナに放送が響き渡った。ちょうどいいタイミングで中に忍び込めたようで、クサナギは満足げに頷いて見せる。うんうんと首を振る彼を苦笑とともに見やり、ついでレナは第一戦の対戦者をすばやく確認する。


「……え?」


「ほう、いきなりか」


そこに出てきたのは、先ほど別れた少年、桐生タクトと。


彼との向かい合うのは、彼との対戦を望むミューナ・アスベルの姿だった。


偶然にしては出来すぎだと思ったが、こういう時のタクトの運は半端なく強い。また、こういうところで運を使ったのか、とレナは呆れたため息をつく。


ーーフェルアント学園、神霊祭。戦闘競技第一戦の出場者は、桐生タクト、並びにミューナ・アスベルである。


だが、この場にいる誰もが、この一戦で神霊祭そのものが終わってしまうとは夢にも思っていなかった。

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