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精霊の担い手  作者: 天剣
1年時
80/261

第32話 ”あの子”

ふふふっ……手違いで二度ほど消してしまい、心が折れまくった天剣です。


とりあえず、この32話で第一章的な物もようやく終了なのですが……。さて、どうなることやら……(え

フェルアント本部にある地下牢は、実際に入って見るとそれなりに快適であった。


立方体の空間であり、冷たい石床に太い鉄格子、目つきの鋭い牢番もなく、どこか収容施設じみた雰囲気は隠せないまでも、それを除けばここの設計者は個人のプライバシーを守る程度の甲斐性はあるようだった。


ふかふかとまでは行かないまでも、柔らかめのベットが無造作に置かれており、ここで寝起きしていろということだろう。


マスターリット二人に連れてこられたグラッサは、早速そのベットに横になり目を閉ざしていた。微かに聞こえてくる寝息から、彼が深く眠りについていることがわかる。


かれこれ数時間ほど眠った頃だろうか。急にこの部屋と外界をつなぐドアの向こう側からノックする音が響いた。それに意識を覚醒させたグラッサは、上体を起こして目を細める。


数秒ほど待つと、再びノックの音。どうやら向こう側にいる人間は、自分を呼んでいるみたいである。軽く首を振って眠気を飛ばすと、そちらに向かって声をかけた。


「良いぞ、開けても。何のようだ?」


「……面会です」


その言葉と共に、ドアが開かれた。そこから現れた若者の顔を見てグラッサは苦笑を浮かべる。その表情から緊張が窺え、さらに元本部長に対する敬意からか、困惑も見え隠れしていたのだ。そんな彼に、グラッサは優しく語りかけた。


「わかった。すぐ行こう」




「……来たか」


「……これは驚いた」


看守に連れてこられた面会室に、ガラス1枚隔てた向こうに、見知った顔が座っていてグラッサは本気で驚いた表情を浮かべた。まさか彼がここに来るとはーー。しかも、数時間ほど前に彼の”息子”によって連れてこられたことを思い出し、よほど神様は悪戯好きなのかと呆れた考えが頭をよぎる。


「まかさ、君が来ようとはね。桐生アキラ」


その名を呼んでやると、彼は慇懃に頷いた。短く刈り込んだ髭が生えている顎を軽く触り、考えこむように目を閉じていた彼は、そこで瞳を開いた。自分よりもあまり年は離れていないはずなのだが、白いものが混ざり始めた髪を見ていると、かなり年の離れているように思えてならない。


アキラはその言葉に頷くと、


「お前が捕まったと聞いてな。……少し話したいと思って、この場をもうけさせてもらった」


ガラスを境界とした面会室で、グラッサ側にある椅子に腰掛けながら聞いた。自嘲気味な笑みを浮かべると、


「そうか……これでようやく、君の助けを期待出来る」


「………」


ぴくり、とアキラの目尻が動いたのを、グラッサは見逃さない。


「……ここから出してもらおう、などという助けだったら、生憎出来ないぞ」


「それはわかっているよ。君にも、君の立場があることはさ」


「なら何を助けて欲しいのだ?」


「……」


グラッサは俯いて、自身の両手首を拘束する手錠を見やった。当然、これにも呪文がかけられており、自分は今一切の魔力が扱うことが出来ない。ーーだが、彼はそれを外すことも、ここから出る気もなかった。唐突に、グラッサは話題を変えた。


「覚えているか? あの子の事を……」


「あの子?」


流石にそれだけでは何のことか見当も付かないのだろう、察しの良いアキラは目を閉ざして眉を寄せる。


「……呪いの子。終わりを導く者」


「………っ!!」


ぽつりと呟いたその二言に、アキラは目を見開いて驚きを露わにさせる。ガタッと音を鳴らして椅子から立ち上がった。


「会ったのか!? あの子にッ!!」


「……十年ぐらい前に……」


それを聞き、アキラは再び目を見開くと彼に詰め寄る。無論、ガラス1枚に阻まれ、苛立ちを表すように握りしめた拳をそこに叩き付けた。丈夫なはずのガラスが、僅かに軋むような音を立てた。


「何故言わなかったッ!!」


本来、怒るときは静かな怒りを見せる彼が、これほど声を荒げるというのは珍しいことではないだろうか。つまりは、そうさせるほど、彼の行動に腹を立てたと言うことだろう。


「……言わなかったんじゃない、言えなかったんだ」


「何……っ?」


だが、怒った彼を前にしても、冷静でいられるグラッサの胆力も並みではない。静かに言い返し、その口調と何かありそうな様子から、アキラは僅かに怒りの矛を鞘に収める。


グラッサは続ける。


「俺には、”ある呪い”がかけられていた。それで彼を……”アイギット”の命を担保にかけられていた」


「……なんだと?」


彼の告白に、激しい驚きを露わにさせ、彼はその場に座り込んだ。俯いて何かを考えるような表情をぴくっと動かし、次いでじっと何かを見透かすような瞳でグラッサを見やった。その視線に気付き、彼は首を振った。


「君なら……私の言っていることが真実だとわかるだろう?」


「……ああ、不本意ながら、だな」


その言葉に、不承不承と言った様子で頷くアキラ。何故それだけで、彼が嘘をついていないと見分けられるのか。


「アイギット君か……まさかとは思ったが、お前の子供だったとはな」


「会ったのか?」


「ああ、学園が夏期休業に入ったときにな。家に遊びに来たさ」


「……それでアイツいなかったのか」


くす、とグラッサは笑みを浮かべた。数ヶ月前、事を起こすことを決心した彼は、家族との最後の食事でもしようかと思い、一度家に帰省したことがあるのだが、そのときにアイギットはいなかった。


だが、あの家の雰囲気では落ちついて食事をすることなど出来なかっただろう。現に、彼は家に帰るのを毛嫌いしている節がある。


「そのことについては世話になったな……」


「いや、良いさ。家内も喜んでいた。……それで、少し聞きたいことがある。何故あの子は呪いをアイギット君ではなく、お前にかけたんだ? 普通逆ではないのか?」


先ほどの、呪い、アイギットの命が担保にかけられている、ということから、彼が人質に取られていることを悟ったのだろう、相変わらず勘の良いアキラを頼もしく思った。


「ああ、全く持ってその通り。……だが、流石は終わりを導く者ともあって、考えることがえげつない」


アキラの考えは、まさしく通り。だが、あえて違う事をすることに、あの子の性格の悪さがにじみ出ているようであった。拳を強く握りしめ、爪が掌に食い込んで血が流れたが、それさえも気付かずに彼は続けた。


「あの子は俺に呪いをかけた。それは……俺がこの事を誰かに言えば、”俺にアイギットを殺させる”っていうな……っ!」


「……何だと」


流石の答えに、アキラも目を見開いた。その言葉の意味をかみしめた途端、わき上がってきた怒りに表情を険しくさせてしまう。


流石はあの子だな……。やることがえげつない……ッ!!


歯を食いしばり、こみ上げてきた怒りを何とか飲み下し、落ちついた声が出ることを祈りつつアキラは口を開いた。その言葉は、微かに震えていた。


「それは……つまり、お前を操って殺させると言うことだろうな……。なら、それを私に言ってしまっても良いのか?」


「お前なら、俺を止めてくれるだろう? それに……」


信頼に満ちた、どこかすがるような面持ちでそう言われれば、断ることなど出来るわけがない。はぁ、とため息一つ漏らしてから彼は続きを待った。


「それに、彼は洞窟内でこう伝えてきた」



『君はおおむね僕の要望に応えてくれた。……だから君をどうするのかは”彼”に一任しようと思う』


『ちなみに彼、僕にも”見えない”んだ』


『この世のどんな物事も”識る”ことが出来る僕にも見えない。だからもしかしたらーー』


『……君は、生き残るかも知れないよ?』



「……なるほど。ということは、お前は用済みと言うことだな。……一言も言っていないのは不安だが、まぁ安心して良いだろうな」


「やっぱり、君もそう思ったか」


そう告げると、グラッサも頷き、どこか自嘲を含みながら続けた。


「だから、打てる手は打っておこうと考えたんだ。と言っても、出来たのは数少なかったんだがな……。まず、かけられた呪いの解術。だけど、これは”未知の魔法”を使われていたから、不可能だった」


「……ヤツの、”未来視”か?」


「おそらく」


アキラの鋭い質問に、彼は頷いて応えた。


”未来視”。これは、彼ーー二人の会話で交わしている”あの子”が持つ力。その名の通り、未来を見通す力である。


よく予言と間違われるのだが、はっきり言って全くの別物と考えて良い。何故なら、予言というのはあくまで”起こるかも知れない”という予想であって、あやふやな物でしかない。


だが、この未来視は違う。さらに付け加えるなら、”格が違う”のだ。


未来視は、将来起こることを直接”見て”、”識る”ため、予言のようなあやふやな物ではなくなる。いわば百発百中の予言ーーお告げなのだ。


恐らくあの子は、その未来視の力を使い将来どこかの世界で使われている魔法を、そのまま行使したのだろう。そう理解した瞬間、背筋に冷たい汗が流れる。


未来で使われている技術を、現代で使う。そんなことをされたら、あの子は間違いなく歴代最高の魔法使いになるだろう。しかもそれに、性根が悪いと来ている。


「早急な対策が必要か……いや、何でもない。続けてくれ」


ぽつりと漏らした呟きに、顔を上げて反応したグラッサにそう言って先を促した。ともかく、今は話を行くのが先である。


「ああ。それで二つ目に打った手だが……それが、今回の事件さ」


「……アニュラス・ブレード」


全てを切り裂く剣。その名を呟くと、彼は大きく頷いた。


「そう、その剣。……アンネルに手回しさせてまで回収しようとしたんだが、その際に暴走して、ここに来るとは思わなかったがな」


それが、この計画の要であり、偶然によって起こった出来事が予定を大きく狂わせた。


本来なら、エンプリッターがアニュラスを運ぼうとしたのをアンネルに襲わせ、容易く剣を手に入れようとしたのだが、そのときに起こったルージルの暴走によって台無しになってしまった。


これだけ派手にやってしまえば、立場上追撃を命じざるを得ない。また、そのときにアニュラスに宿っていた黒い泡ーーダークネスの事も懸念に思い、期間を置いた上でルージルと接触。結局、ダークネスの正体はわからなかったが、その危険度は身にしみて痛感した。


グラッサはそこまで考え、次いで首を振って雑念を追い出す。今はそのことを言うときではない。


「幸いなことに、未来視の力は”理”が絡むと見えなくなるそうだな。それに助けられたよ」


「なるほど、だからあの子に今まで感づかれなかった訳か」


感心したように首を振るアキラは、頭をポリポリとかいた。


「だが、エンプリッターのヤツに協力するとは……我々の掲げていた御旗を、忘れたのか?」


「忘れたわけではない。だが、どうしてもそうしなければならなかったんだ」


かつて、共に旧フェルアントに立ち向かった同士に問いかけると、グラッサは落ちついた表情で首を振り否定する。


「私がいたあの門の向こう側ーーそこに何があるのか、知っているだろう?」


「………」


彼の問いかけに、アキラは無表情のまま無言を貫いた。普段なら無言の肯定と取りたいところだが、その表情からは不思議と否定しているようにも見える。相変わらず、うまいポーカーフェイスだ。


だが、彼は知っていなくてはおかしいのだ。何せ彼はーー。


「……言い伝えによれば、あの門の向こう側は”禁地”であり、”終焉者”が眠る場所だ。そして終焉者は、強大な力を持っている。エンプリッターの連中は、その力をほしがっているようだけどね……。でも、封印された状態では大した力はない。だからーー」


「ーーだから、アニュラスを使って終焉者を滅ぼそうとしたのか」


グラッサの言葉を遮るように、アキラはぽつりと呟く。その呟きに、グラッサはしばし閉口したが、やがて大きく頭を振る。


「ああ、そうだ。そうすれば、あの子を……俺にかけられた呪いも……」


うわごとのように、グラッサは言う。だが、その終焉者とやらを滅ぼすことが、何故呪いを解くことに繋がるのだろうか。拳を開いたり閉じたりしながら俯いている彼を見て、何を悟ったのかアキラは沈んだ表情を浮かべた。


「……お前の事情を、もっと早くから知っていれば……私も、協力できたのだがな……」


「気にするな。君には、君の役目がある。それにそう言ってくれるだけで、充分助けになるよ」


「……そうか」


ようやく顔を持ち上げ、グラッサは笑って見せた。その笑顔に、強ばっていたアキラの表情も緩んでいく。そんな彼の面持ちを眺めていたグラッサだが、やがて顔を背けると昨日のことを話すかのように口を開いた。


「……桐生タクト君、だったっけ?」


「ああ」


突然会話に出て来た甥の名を聞き、アキラは瞳を瞬かせた。表情にはっきりと、いきなり何を言い出すんだと書いてある。


「流石は、あの人の息子だな。……彼には、助けてもらったよ」


「……?」


首を傾げるアキラを、愉快な気分で眺めた。自然と頬に微笑が刻まれ、瞳に柔らかい光が浮かんでくる。もうずいぶんと昔のことのように感じる光景を、脳裏に思い出しながら口を開いた。


「ここに連れてこられるとき、息子とすれ違ったんだ。そのとき、アイギットの瞳には殺意が浮かんでいてね。……私は悟ったよ。ああ、ここで死ぬのだな、とね」


「………」


「私はそれでも構わない、と思った。それだけ、私はアイギットを傷つけたのだからな。彼の隣を過ぎるとき、私は目を閉じて、アイギットにこの身を晒そうと思った。……それしか、彼に償える方法を思いつかなかった」


「………そうか」


静かに、口を挟まずに聞き入っているアキラ。彼はグラッサの一人語りを、人ごととして聞き流すことは出来なかった。かつて友誼を交わした友と言うのもあるのだが、1番の理由はいつか自身もそうなるのではないか、という漠然とした思いがあるからだ。


ーーいつの日か、剣を交わらし、自分の命を奪う相手。その人物の顔は、複数思い浮かび、その中に自分の息子がいるのだ。


ぞっとする話である。冗談ではなかった。自分はまだまだ強い。いつものように、そうやって馬鹿げた考えを振り払ってきた。


「だが、いつまで待っても、私の体は貫かれなかった。目を開けると……息子の手を止めている、タクト君の姿があった」


「………」


「そのとき、彼はこういった。”お父さんでしょ”とね。それを聞いて、私はようやくわかった。……今まで、バカなことをしてきた物だよ。どんな事情があろうと、私は、アイギットの父親なんだ。……情けないことだが、そのことにやっと気付いた」


グラッサは長くしゃべり続けてきたためか、喉にごくごく僅かな痛みが走る。これほどの長広舌を振るったのはいつ以来だろうか、と漠然と考える。


無論、まだ年若い彼にそのような当たり前のことに気付かされ、己が情けなくなってくるが、悪い気はしなかった。


「流石は、あの人の息子だよ。……タクト君に伝えたのかい? 父親のことを」


外見は似ていないが、芯の部分ではよく似ている父親のことを思い出しつつ、アキラにそう尋ねる。だが帰ってきたのは、首を横に振る動きである。


「いや……あの子の教育方針は、妹に任せているからな……。そして風菜フウナは……どういうわけか、あまりアイツのことを知らせたくないようだ」


苦笑を浮かべながら訳がわからないとばかりに首を振る。口ではそう言いつつ、アキラも、何となくフウナの気持ちに察しは付いていた。


もし父親のことを知らせたら、タクトは背負いきれない重荷を背負うことになる。それも、本人の意思とは関係なしに。フウナは、そんな重荷を我が子に背負わせたくないのだろう。だから、何も伝えずにいる。


グラッサはアキラの言葉を真に受けたのか、ふむと考えこむような表情を浮かべて数秒ほど押し黙る。だが、これは他家の事情なのだ。真剣に考えてくれているのはありがたいが、その思考を中断させた。


「そんなことよりも、一つ、最後に聞きたい」


「っ? 何だい?」


神妙な面持ちで問いかけ、その見えない圧力を感じ取ったようにグラッサは顔を持ち上げた。アキラの瞳を真っ向から見つめ、先を促す。


「……ミレイスさんを……自分の”妻”を殺したのは、お前なのか……?」


小さく呟いたその問いかけは、今までの会話の中で1番重く、グラッサにのしかかっていた。問われ、自然と顔を俯かせるが、それも仕方のないことだろう。


だが、それでも。彼はぽつりぽつりと語り始めた。


「……何を言っても言い訳にしかならない」


「それでも良い。言い訳かどうかは私が判断するのだからな」


「……相変わらずだな。まぁいい。……殺したのは、私だ」


「直接手を下したのは、お前なのか。……だが、”呪い”もあったのだろう」


「っ!」


まるでわかっていたかのように、断定した口調で話すアキラに驚き、グラッサは目を見開いて彼の顔を凝視する。微かに震え始めた唇をそのままに、彼は続けた。


「……知っているのか?」


「……理詰めと分析だ。私の得意な、な……」


そう言って、口元をにやりとつり上げた。


「おかしいとは思っていた。お前は十年前に”あの子”に会ったと言っていたな。ミレイスさんが亡くなったのも、だいたいその時期だ。なら、こう考えられる。ーーあの子に脅されたときに、その本気度を表すために呪いの効力を実践して見せた。……あの子の性格なら、やりかねないだろう?」


「……はは、お前さては、あの子の回し者だな? この裏切り者」


その予想は、驚くべき精度でぴたりと一致していた。だいぶ皮肉と冗談が混ざった物言いになってしまうのも、仕方がないぐらいに。


「……だいたい、その通りさ。あの子に操られ、私は、自分の証でミレイスの腹を………っ」


そのときの現象を思い出し、グラッサは歯を食いしばる。ぶるぶると震え始めた両腕を眺め、次の瞬間には頭を抱えて椅子の上でうずくまった。


「……自分の意思では……どうすることも……っ…ただっ……ただ、体が勝手に動いて……ッ!!」


「もういい、喋るな」


哀れなことに、体全体を振るわせてうずくまるグラッサの声は、悲痛に満ちていた。ガラス1枚で隔たれた境界越しでは、彼に慰めの言葉をかけるのが精一杯であった。


「……っ、アキラ……二つ、お願いがある」


「な、なんだ……?」


「アイギットを……あの子の事を……頼む。そして……今のことを……”真実”を、伝えてくれ……」


「………」


途切れ途切れに言う言葉を聞き、アキラはため息ついて椅子から立ち上がった。ガラスを隔てた向こう側で、哀れに振るえているグラッサを最後にもう一度見やり、静かな声で伝える。


「……一つ目は、やってやるよ。だが、二つ目は……」


そこで彼は身を翻し、背後にもうけられた扉から面会室の外へと足を踏み出した。そのとき、ドアが閉まる音に混じって小さな囁き声がかけられる。


「……いつか、自分で伝えるんだな……」


そして、ドアがバタンと閉まられた。

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