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精霊の担い手  作者: 天剣
1年時
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第31話 反撃、闇を切り裂いて~3~

ぐっと足をかがめ、引き絞られた弓矢のごとく、アイギットは猛然と走り出し、自らの父へと肉薄する。間合いに入るなり打ち出したレイピアの切っ先に、父親は反応し、体を半身にすることであっさりとかわす。グラッサをかすめて後方へ抜けたレイピアを引き戻し、そこでアイギットも後方へ引く。


「……?」


自ら詰めた間合いを、自ら引いた。そのことに違和感を感じ、グラッサは眉をひそめる。あの場合なら、間髪入れずに再びレイピアを突き出すのがセオリーである。それをあっさりと無視した彼の挙動に、反射的に警戒してしまう。


「……っ!?」


瞬間、背後が突然明るくなり出したのを感じ取り、後ろを振り向いた。視界いっぱいに映った、こちらへ真っ直ぐに進んでくる真っ赤な炎。ーー背後にもう一人、ギリがいる事は承知していたため、容易に彼が放った物であると理解に及ぶ。


問題は、それを”自分に気付かれずに放った”という点である。背後への警戒は怠らなかったはずなのにーー。


目を軽くむいて驚き、反射的に法陣を展開。今までの極小サイズとは違い、やや大きめの、グラッサの体全体を覆うほどの大きさのそれを展開した。炎と法陣が衝突し、炎の破壊力が高いのか、受けた法陣から軋むような音が鳴り響く。


「………っち」


舌打ちをならし、即座に呪文を唱えて法陣を青く染める。自分が一度に扱える魔力の上限ーーそれを魔力量というのだがーーの約半分の量を法陣に込め、それら全てを氷へと変えた。


次の瞬間、法陣と炎の接触面から蒸気が噴き出しーーやがて、その蒸気も法陣からあふれ出す冷気によって再度凍らされ、接触面の近くにある炎も同様の結果を迎えた。


「……なんてヤツだ」


法陣と氷と炎の向こう側から、高温によって氷が溶かされる音に混じって呟きが微かに耳に届く。自分の常人を超えた魔力量に対する称賛だろうか。それを聞いて、口の端を僅かに持ち上げた。


元々炎と氷では、属性的に言えば炎のほうに軍配が上がる。だが、今のように炎を凍り付かせるーーつまり氷の方に軍配が上がったのは、グラッサの魔力量が飛び抜けて上だからなのだ。これは訓練では身につかない、己の才能によるところが大きい。


しかしその才能は、己の血を分けた息子にも流れる物だ。


「っ? ……っ何!?」


足下から忍び寄る冷気。それに気付いたのは、ローブの隙間から流れ込んできた時だった。ーーそしてそのときには、もう遅かった。


足下の冷気が一瞬にして凍結。グラッサの両足をその場に凍り付かせ、動けなくさせた。


自分以外の氷結系魔術の使い手。思い当たる節は、たった一人しかいなかった。視線を背後へ向け、その人物を睨み付ける。


「アイギット、お前……ッ!」


「……」


アイギットは何も答えず、ただ父親を睨み付けて法陣を展開させる。その法陣の色は青。だが、そこから新しく現れたのは、氷ではなかった。


水。属性変化改式ではなく、普通の属性変化術で生み出すことが出来る自然物。大量に生み出したその水を、彼は操りその形を形成していく。


法陣から放出される水は、それ自体が意思を持っているかのような滑らかな動きで、細長いそれーーすなわち”竜”を形成する。


「行け、水竜ッ!!」


叫び、レイピアの切っ先をグラッサに向けーーその動きに合わせ、竜の巨大な顎が牙をむく。大きく開いた口で、グラッサを一飲みにしようと迫り来るそれを、彼は険しい表情で見つめ続ける。


ギリが放つ炎は、まだ止む気配がない上に、足下を氷で拘束されているのだ。回避は出来ず、この状態では防御も危うい。それに対抗するのならばーー。


いくら考えても、打開案が浮かび上がらず、グラッサは険しくさせた表情のまま、瞳を閉じた。ここで終わりかと、そう思い。


『……約束ですよ? ちゃんと……』


「っ!?」


脳裏に蘇った言葉に、彼は冷水を浴びせられたかのような衝撃を受けて、閉じていた瞳を開いた。約束がある。自分が愛した人との、大切な約束がーー。


「……うおぉぉぉぉ!!」


絶対に、ここで立ち止まるわけには行かない。大切な、何よりも大切な約束があるのだから。グラッサは雄叫びを上げ、全魔力を解放させる。


全身から吹き上がる魔力がそれだけで防御壁と化し、水竜の動きを止めた。大口を開けた状態で固まるそれが、どうされたのかわからないが、胴体の中程から吹き飛ばされた。


絶句して押し黙る一同を無視し、グラッサは魔力全てを足下に展開させた白き法陣に注ぎ込みーー”詠唱”を始めた。


「何……!?」


その様子に、アイギットは不審顔で眉根を寄せた。白い法陣、それは精霊系の魔術、または防御用の法陣に使うときにだけ展開する物で、詠唱する物は何もないはず。いや待て、確か……。


「……まさか、精霊召還!?」


一つだけあった。精霊系の魔術で、唯一詠唱する術が。それを思いだし、彼は目を見開いて驚きを露わにさせた。


『我が身に刻まれし精霊との絆を表す章印を持って命ずるーー』


「な、何だとっ!?」


その呪文は、炎越しにいるギリの耳にも入ってきたのか、彼は素っ頓狂な声を上げた。アイギットは知らないが、その呪句はつい先ほど聞いた覚えがあったのも大きい。これからグラッサが何をしようとしているのか、即座にわかったからである。


だが、召還にあれほどの魔力を解放することはなかったはず……。今もなお全身から吹き出す魔力を見つめながらそう思い、しかし思考を中止してこちらも術を中断し、防御に身を固めようとしたーーだが、次に聞いた呪句に、ギリは顔をしかめた。


『”我が望みに従い、我が力となれ”!!』


ーー望みに従い、力となれ……? つい先ほど、タクトが唱えた呪文とは微妙に違う事に気付きーーそしてその違いが、精霊の意思を無視していることを表していたからだ。


『我が望みを聞き入れ、我に力を与えたまえ』


それが、タクトが唱えた呪句。”聞き入れ”は精霊に、召還に応じるよう頼む、という意味が含まれている。それに対し”従い”は強制である。”力を与えたまえ”と、”力となれ”にも、同じようなことが言える。


つまり彼は、”強制的に精霊を召還”しようとしているのだ。そのことに理解が及んだ瞬間、ギリの瞳は大きく見開かれた。


「強制召還ッ!? やめろッ!! このままだとあんた、”精霊が暴走”するぞ!!」


「……もとより、覚悟の上だッ!!」


強制召還は、精霊の意思を無視して召還させる。そのために、召還後の精霊はひどく不安定な状態となりやすいのだ。大量の魔力で何とか安定を図ろうとしているみたいだがーー通用するかどうかは、五分五分である。


血を吐くような叫びを上げて、グラッサはだらりと下げていた腕を持ち上げ、目の前に新しく展開させた法陣に手をかざした。すると、そこからぞくりとするような威圧感と冷気を感じ、ギリとアイギットは思わず身構えた。


召還するための法陣の色は白。その奥から浮かび上がってきたシルエットが、並々ならぬ威圧感の正体なのか。だとすれば、彼が宿した精霊は自然型でも動物型でもなく、幻獣型なのか。もし、タクトが召還したコウと同じタイプなのだとすればーー。


「まずい……ッ!」


もしそうだとしたら、こちらに勝機はない。表情を引きつらせ、ギリは猛スピードで詠唱を始めだした。足下に展開させた法陣の色は半透明。うっすらと浮かび上がるそれに立って唱える呪文は、防御用の物。法陣による防御では、精霊の攻撃を防ぎきれないと思ったのか。


「とりあえず、これで持ってくれよッ!!」


詠唱を終え、自身の目の前に魔力で形成された障壁が展開された。それとほぼ同時に、グラッサの法陣から”それ”が姿を現す。


「っ!? これ……、やっぱし幻獣……ッ!!」


現れたそれは、四つ足の獣ーーオオカミであった。ただ、その大きさが人の2、3倍ほどあると言うことを除けば、であるが。また、その毛皮はやや白く、常にきらきらと輝く物ーーダイヤモンドダストーーを放出しているため、ギリも一目で幻獣だと見抜いたのだ。


目をむいて驚くギリに、グラッサは表情を歪めて叫んだ。


「行け……雪原の氷狼、フェンリルーーダイガ!!」


『ーーーー!!』


その叫びに答えるように、白き狼、フェンリルーーダイガは精霊個人の名であろうかーーは強烈な雄叫びを上げる。その雄叫びは、障壁越しにもギリの全身にびしびしと響き渡った。ーー幻獣型の精霊が持つ共通能力、バインド・ボイス。


「っ……ッ!!」


フェニックスであるコウと同様の力を発揮され、障壁を通しても感じる、全身を殴りつけるかのような雄叫びに、ギリは必死になって耐えるのが精一杯であった。もし障壁がなかったらと思うと、今頃自分は完全に動きを封じられていただろう。


逆に言えば、障壁によってバインドの効力を減少させたために、今彼は動くことが出来るのである。無論衝撃の向こう側へと行く気はさらさらないが、それでもこの事を利用しない手立てはない。


『ーーー!!』


「っ!!? のぁ……っ!!」


しかし、相手もそれに気付いているのか、ギリに行動させまいとダイガは咆哮をやめると、障壁にその巨大な爪を突き立ててきた。それだけで、彼が張った障壁にひびが走り、彼を慌てさせた。


「ちょ、待てって……ッ!!」


そうは言っても、ダイガは待つ気はないとばかりに、爪に込める力を強め始めた。障壁に走る亀裂が、不穏な音と共に広がっていく様を見て、ギリは口元を引き締め、魔力を注ぎ込む。


「……くっ……ちょっと、まずいな……っ!!」


注ぎ込んだ魔力のおかげか、障壁に走ったひびは、やや広がりが鈍ったように見える。しかしそれはほんの数瞬のことで、亀裂の拡大が再び始まりだす。そのときだった。


『ーーーっ!?』


「な……」


突然ダイガが、強制召還の影響だろうか、赤く染まった瞳を突如背後へと向け、それに釣られてギリも見やる。そして、そこで見た光景に、瞳を大きく見開いた。


竜の顎が大きく開かれ、今まさに氷狼にかみつこうとしているところであった。


一瞬の驚きの後、その竜を観察してハッとする。竜に見えたそれは、何のことはない。”水”で形取られていた竜であったのだ。それを認識した瞬間、ギリの脳裏にある人物が浮かび上がる。この竜は、アイギットのーー。


それにこの竜は、先ほどグラッサを一飲みにしようとしたときのヤツと同様の物のように思われる。しかし、あれは胴体の大半を消し飛ばされてしまったはずである。彼はそれを再生させたというのか。一体、何のために……?


その疑問は、次の瞬間あっさりと判明した。ダイガに噛みつこうとした瞬間、竜の頭部から何かが飛び出した。飛び出したそれは、空中でくるくると回転しながらギリの背後へ足から着地。全身びしょ濡れのまま、その”彼”は左手をギリの法陣へと向けて叫んだ。


術待機ホールド解除、マジックシールド発動ッ!!」


瞬間、彼の左の手の甲に展開されていた半透明の法陣が回転を始めーーギリが展開した障壁の内側に、もう一つの障壁が出現した。驚きに目を見開いているギリを傍らに、彼はダイガから目を離さずに口を開いた。


「一応保険はかけといた。でも、強度はあまりないと思うから期待しないでくれ」


それが、新たに展開した障壁のことを言っているのはすぐに理解し、しかし新たな疑問にギリは彼にーーアイギットに向けて尋ねた。


「お前、どうやってヤツのバインドを?」


「水竜の中に潜ったら、水が防いでくれた。……それなりに衝撃はあったけどね」


そう答え、首を振って髪の毛から垂れてくる水滴を吹き飛ばしーーそれに、少々嫌な顔を浮かべてしまうのはどうしようもないーー、彼は氷狼と水竜に視線を戻した。


そういえば、先ほどから障壁にかかる圧力が消えた、と思いそちらを見やると、噛みついてきたアイギットの水竜を振りほどこうともがいている氷狼の姿があった。しかし、噛みついているはずの水竜の方が押されているようである。


それもそのはず、氷狼の毛皮からは、ダイヤモンドダストが起きるほどの冷気が常に放出されており、それによって水竜を形成する水が凍らされているのだ。現に、すでに頭部は完全に凍り付いており、そうこうするうちにしっぽの方まで凍結が進んでいる。


「……幻獣型とは言え、もうそろそろ時間の問題があるはず……」


小さく呟いたアイギットのその言葉を、ギリは聞き漏らさなかった。後数秒ほどで、召還の限界時間を迎えるだろう。その考えを裏付けるように、ダイガの姿がやや薄くなっていき、それに従って水竜が凍り付くスピードが遅くなっていく。フェンリルの力が弱まってきたのだ。


『ーー……』


そしてついに、水竜の全身が凍り付きーーそれとほぼ同時に、ダイガの姿が消え、球体状の小さな魔力の固まりへと変化した。その球体は一目散に現れた法陣の中へと吸い込まれていく。


「……凌いだか…」


「ですね……」


吸い込まれていくのを見送り、ギリのため息混じりの呟きに、同じく吐息を漏らしてアイギットも頷き、二人は押し黙った。あたりに流れる、つかの間の静寂。それを破ったのは、


「うおっ!?」


「なんだっ!?」


二人の、驚愕の叫びであった。


どうにか精霊召還をやり過ごしたという安堵から、ほんの一瞬気を抜いてしまい、それを突く形で二人の体に魔力で形成された拘束具が巻かさってしまう。驚愕の叫びを上げたのはそれだったのだ。


二人とも、手に持っていた証を取り落とし、その場に倒れ込む。拘束した人物を見やるべく、視線だけをそちらに向けて思いっきり叫んだ。


「お、おいグラッサッ!! これを外せ!!」


「外せと言われて素直に外すヤツがいるか……」


ギリの雄叫びに、二人を拘束した張本人であるグラッサは、淡々とした口調でそう答えた。精霊に攻撃させている間に呪文を唱え、それを発動させたか。ともあれ、流石の彼も召喚の影響かうっすらと脂汗がこめかみのあたりに流れている。そのことには気付かず、アイギットが憎悪を込めた視線を寄越した。


「……てめぇ、俺たちをどうするつもりだ……」


「どうもしない。ただ、ここでこうしておくだけだ」


低くしわがれた声で尋ねるが、その答えも簡潔な物だ。それが気にくわなかったのか、アイギットが何か叫ぼうとするが、疲労によってそれを聞く気にはなれないグラッサは、倒れた二人の下に法陣を展開させる。呪文を唱え、それが茶色に変化するのを見計らい、注いだ魔力を土へと変化させた。


変化した土を操り、二人の体をがっしりと固定して、最初に仕掛けた拘束系の魔法を解いた。これで、かなり長い時間動きを封じておくことが出来るだろうと一人頷き、聞こえてくる罵倒を全て無視して後ろに向き直り、そのまま歩き始めた。


ーーだが、残念なことに実際にはすぐに拘束が解かれてしまった。


覚束ない足どりで数歩歩いたとき、いきなり背後から声がかけられた。



「報告を聞いたときは信じられなかったが……。まさか、本当にあんたが主犯の一人だったとはな」



聞き覚えのあるーーそれどころか、その声で誰からかけられたのかわかり、グラッサは飛び退いて距離を取り、右手のエストックを突きだした。


「ほほう、やるみたいだな、本部長殿。なら、あんたの相手は俺がしてやるよ」


青い短髪の男ーーアンネル・ブレイスは右手に、二本の剣が柄と柄の部分で連結した形状の証である双刃を、片手で器用に回転させながら呟いた。彼の全身からは風が吹き荒れ、それにはよって服の裾がゆらゆらとはためいている。


面白がるような、あるいは怒っているような、微妙な光が浮かぶ瞳で、アンネルはグラッサに視線を寄越していた。


こめかみに浮かぶ脂汗が、ますますひどくなったような感覚と、今の体のコンディション、その両方に顔をしかめ、グラッサは重心を低く保つ。


何故ここにマスターリットである彼が、と頭によぎりつつも、今そのことについて考えるのは置いとこうと思った。今は何とかアンネルを退かせるべきである。しかし、彼の背後から響いた音に、グラッサの瞳は大きく見開かれた。


「おう、お前ら。大丈夫か?」


「せ、セイヤさん……?」


「先輩……? そうか、確かもう応援を呼んだっていってたっけな……」


一体どうしたというのか、アイギットとギリを拘束していた土は跡形もなく消し飛び、剣型の証を肩に担いでいる黒髪の青年が余裕たっぷりに二人を順に助け起こした。


「君は……そうか、アキラさんの息子さんか……」


「セイヤって言うさ。桐生セイヤ」


気を抜けば乱してしまいそうになる息を何とか保ちつつ、グラッサの呟きにセイヤは律儀に応じた。二人を助け起こした彼は、体の向きを変えてグラッサに向き直り、その口元をつり上げながら、担いでいた剣を心持ち下段に構え、重心も低くする。今にも飛び出してしまいそうになる彼を、アンネルは諦めたようにため息をついた。


「……良いぞ、ここは任せてお前は奥にいる連中の救援に行け」


「い、いや、俺何も言っていないっすよ?」


「どアホ、自分の顔見て言え。お前が凄まじいブラコンであることは、もう上がってるんだよ」


ブラコンと称されたセイヤは、口の端を先ほどとは違う意味でつり上げ、低く擦れた声音で否定する。


「俺ブラコンじゃ……」


「ああ、そうか。従弟は男の娘おとこのこだったか。じゃあシスコンだな」


「……あんた、後で吊るし決定な」


男の子? と首を傾げる一同をほっぽいて、勝手に会話を進める二人は、やがてセイヤのため息混じりのその一言によって終わりを告げる。


「ーーじゃあ、ここは任せましたよ」


呟きーー次の瞬間、霊印流の歩法、瞬歩を発動させ、グラッサの脇を視認できない速度で通り抜けていく。


「っ!? くっ……!」


そうはさせじとグラッサは止めようとしたが、いかんせん体にたまった疲労と、そのスピードに反応できず、気がついたときには、もう奥へ繋がる通路の4分の1あたりまでに達してしまったその後ろ姿を見送ることしか出来なかった。


「ほう、お前達、よくやったな」


「えっ?」


その反応の遅れを見て、アンネルは会心の笑みを浮かべ、背後で体を起こしたアイギットとギリに称賛の言葉を贈る。


ここまで追い詰めていたか……。上々だ。


それは、グラッサ・マネリア・フォールドーーフェルリットランク”元”第二位の実力を持つこの男を相手に、ここまで善戦した、いや、追い詰めた事に対する称賛である。


赤毛の青年と金髪の少年が、この調子で経験を積み、腕を磨けば、将来きっと良い精霊使いになる。そう確信したアンネルは、双刃を体の中心で構えた。軽く瞳を閉じ、再び開けたその目には、真剣な物が宿っている。


「マスターリット、”風刃”のアンネル。ーーいざ、参るッ!!」


「っ……来るかッ!!」


その言葉と共に、彼は消耗したグラッサへと肉薄した。

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