第5話 一日の終わりと始まり
第5話です!!
いろいろと伏線が…!!
「それで、どうですかな。今年の入学者は?」
フェルアント学園の職員室にて、1年担当のシュリアはそんなことを言われた。
時刻は夕暮れ。ちょうど、一人の馬鹿を折檻し終え、そこに戻ってきたところだ。
ともあれ、シュリアはそれを聞いてきたジム先生にふむっとうなずき、
「そうですね、入試の結果を見るに、ほとんどがひよっこです。ですが数名、”即戦力”になる奴がいますね」
それを聞いて、おおーっとそこらかしこから驚嘆の声が上がった。
なにせ、そのように評価したのだ。ーー特に、そう言う面では人を見る目があるシュリアが。
聞いてきたジム先生がにこにこ顔で、
「ほほー、即戦力ですか。ちなみに、名前を聞いても…?」
「……良いですけど、腰を抜かさないで下さいよ?」
シュリアから名簿を貰いつつ、謎かけのような言葉に眉をひそめる。
一体、どう言うことなのだろうか。ーーその答えは、すぐに出た。
「…桐生タクト、鈴野レナ、アイギット・スチム・ファールド、宮藤マモル、コルダ・モランの五人ですか。……って、え?」
名簿に書かれた名を読み上げ、それと同時にあることを思い出す。
顔を、まるで冷水を浴びせられたかのように青くし、ジム先生は目を見開く。
「き、桐生って、あの?あの桐生?ですか?」
「…本人にも確認を取りましたが、”あの”桐生です」
ーーまぁ甥っ子みたいですが。ジム先生がその言葉を聞けたかどうかは定かではない。名簿をシュリアに返した後、ふらふら~っとした足取りでどこかへ行ってしまった。
彼が聞きたかったのは、甥っ子がどうのこうのではないだろうが。とにかく、ジム先生を見送った後、シュリアは無表情のまま自分の机へストッと座り、
「ジム先生どうしたんですか?顔色が優れませんでしたけど…」
突然、隣から1年副担当である西村キミコから話しかけられた。ーー名前からわかるとおり、地球出身である。
栗色のポニーテールを揺らしながら話しかけてくる彼女に、
「…いや、何。コレを見たらわかるだろう」
そう言って、ジム先生が見ていた名簿を差し出した。
「…桐生って、あのですか?」
その言葉に、シュリアはただうなずくのみ。西村先生はへぇーっと相づちを打ち、
「従弟ですか、”彼”の」
「ああ、そうらしい」
そう言いながら、シュリアはうっすらと笑いを浮かべる。ーージム先生が聞きたかったのは、このことだろう。
”あれの従弟か”と言うことを。
西村先生が乾いた笑い声を上げつつ、
「大変ですね、ジム先生。……彼にはいろいろと手を焼かさせましたから…」
「そうだな。おかげで…」
そう言いつつ、二人はそっとジム先生の方を見る。ーー特に、頭を。
「…かなり寂しくなったな」
「シュリア先生、それは」
西村先生が、シュリアの言葉を首を振っていさめる。ーーそこには、苦労人の姿があった。
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翌日の早朝。タクトはうーんっと唸りながら予定表を見ていた。
フェルアント学園には、様々な教科がある。魔力の使い方、魔術の使用法といった物や戦闘系、模擬戦まで。しかも、一言で戦闘と言っても、その中には剣術や槍術、格闘術など、細かく分けられる。
それら一つ一つを取っていたら、卒業はおろか、進級すらできない。なので、学園側としては決められた単位を取れば良いことになっている。
タクトの目の前にある予定表ーーそこには、至る所に丸で囲っている箇所があった。主に魔力講座や物理戦闘(魔力を一切使わない)、魔力戦闘(魔力を使って)、模擬戦、刀術。そう言った”体育会系”の授業にチェックが入っている。
それを見て、召喚されたコウが一言。
「…学問が少ないな」
「うっ……」
肩に止まっている相棒からの言葉に、タクトは言葉を詰まらせる。ーー確かに少ない、と彼も思っている。何せ五つの中で、彼の言う”学問”は一つしかないのだ。
いや、だけどーーっとタクトはつぶやく。
「僕が魔術ダメなの知ってるでしょ。ほかに選べる物がないよ」
「だったら、歴史とかを選ぶしかないな」
その言葉を聞いて、口を半開きにしてタクトは目を見開く。うぅっと半分涙目になりつつも”歴史”の授業に丸をつけた。
彼の一連の動作を見ていたコウは、ふうっとため息を漏らし、
「そんなにいやなのか?」
「いや、歴史はそんなにいやって訳じゃ…」
「魔術の方だ」
タクトが苦笑いを浮かべながら否定するが、コウはそのことじゃないっとばかりに首を振る。
「まだ、使えないのか?」
「使えないよ」
ーー即答だった。コウの問いかけに、見事なまでに。
答えを聞いて呆れたのか、やはり、とつぶやき、
「まぁいい。私は寝る」
そう言うと、コウの足下、つまりタクトの肩ら辺に白い魔方陣が浮かび上がり、赤い小鳥はその中に沈みゆくようにして消えていった。
その光景を見ていたタクトは、ため息を一つ漏らし、持っていたバッグに荷物を入れ、準備する。
ーー長い一日の始まりだった。