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精霊の担い手  作者: 天剣
1年時
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第28話 対決と対話~2~

今回もほぼ戦闘。


しかし、一対一ならまだ書けるが、多対多、もしくは一対多になると途端に変になるな……。


課題が多いな~~……(汗

「お~、すごい戦いだったよ~」


「お疲れ、アイギット」


模擬戦が終わった後、疲れた様子で皆の所に戻ってきたアイギットは、タクトとコルダの言葉に、手を上げて答える。その後タクトは、気絶し倒れているマモルに気づき、彼の回収に向かっていった。その光景を見やり、アイギットはまめだね~と苦笑を浮かべる。


コルダの方をふりむき、今度は微笑みを浮かべた。


「ああ、ありがとう。……でも、マモルの奴、強いな」


「まぁ、あれで一応ランク五位相当。お前さんとだいたい同じだから、実力が拮抗するのは当たり前だ」


頷きつつ答えるのは、ふわふわと浮かんでいるクサナギであった。


本当は、マモルやタクト、レナ、コルダの四人は第十位のランクを持っている。しかしこれは、フェルアントで行われる昇級試験を受けていないためであり、本来なら四人とも、第五位相当の実力の持ち主達である。


アイギットは第五位のランクを持っているため、彼らと実力が対等なのは当たり前のことだった。


ちなみに、第五位というのは、成人の精霊使いの平均ランクである。つまり彼らは、この年で一般的な強さを持っていると言う事であった。


「でも、ランクと言っても大体の目安でしょ? 当てになるの?」


「人の強さは十段階にはわけられないからな。レナの言うとおり、大体の目安さ」


ふと疑問に思ったレナの言葉に、そっと手を伸ばしながらクサナギは言ってのける。それに反応したのか、彼女は素早い動きでサッと彼から距離を取る。


クサナギが伸ばしていた手の先には、レナのおしりがあった。どうやら感づかれたらしく、彼女の向く目はとても冷たかった。


「……変態……」


「くっ……やはり、気づかれてしまったか……」


「……クサナギィ~、お酒のことはどうしたの?」


拳を握りしめながら悔しさをにじませる彼に、間延びした声が届く。コルダは、あきれ果てたような表情を浮かべ、ふうっとため息をつく。その言葉に、彼は「ばれなければ良いんだ、ばれなければ」と大まじめな顔で言っている。ふんっと鼻を鳴らしながら、


「大体、こんな家から離れた所にいるのに、触ろうとしていることがばれるはずがーー」


ーーない、と言おうとしたところで。突如、遠くの方からガシャーンと言う、何かが割れるような音が鳴り響いた。ちょうど、ガラス瓶を”たたき割ったような”、そんな音が。


それを聞いた瞬間、一同は数秒沈黙。やがて、クサナギが振り向き、次の模擬戦をやるタクトとコルダに目を向けた。


ーー半泣きの目で。


「さぁ、次はお前らの番だ。……ぐす……」


「クサナギ……」


「……俺は、泣いてない……。……泣いてない……はずだ」


マモルを回収し、会話の一部始終を聞いていたタクトは、哀れむような目で彼を見、クサナギは目に涙を浮かべつつ、それを否定する。そんな光景に、一同はもらい泣きをしかけーー


『自業自得だ』


「って、やかましいわぁぁぁ!!」


ばっさりと切り捨てる。クサナギの絶叫が、五月蠅いほどに道場に響き渡った。




「……はい、次は二戦目。タクトとコルダ、両者は前へ」


やる気と元気が無くなってしまった声音で、クサナギは手を上げる。その理由については完全に自業自得だが、やはり少しかわいそうに思えてしまうのは、タクトの人の良さ故か。


本当にお人好しだなと、自分で認め、苦笑するその眼前には、コルダがいる。


彼女と模擬戦したことは、正直に言ってない。わかっていることは、弓矢系の証を使うと言う事だけである。いつも通りの笑顔を浮かべ、悠然と弓を手に構える彼女を見て、頭の中に声が響いた。


(気をつけろよ。彼女は、何を考えているのかわからん)


(心配性だなぁ。大丈夫だって)


日本刀を片手に、タクトは己の精霊にそう告げる。コウはそれを聞いてなお、その声音には心配そうなものが含まれていた。


(多分だが、彼女を侮らない方が良い。これは私の勘だが、彼女は何か切り札を……)


(ストップ。コウ、それ以上は言わなくて良いよ)


自身が感じ取ったことを伝えようとしたのだが、それはタクトによって遮られてしまった。驚きを露わにさせるコウに、彼はすまなさそうに苦笑する。


(ごめん。だけど、これは真剣勝負だからさ、何も言わないで欲しいんだ)


(……お前)


それを聞き、コウは深いため息をついた。彼の言い分は最もだったからだ。真剣勝負に口出しするほど、コウもお節介ではない。故に、コウは只一言タクトに送った。


(……がんばれよ)


(うん)


その一言に、タクトは心の中で頷き、頭に響く声が消えたのを感じ取った。刀を両手で持ち替え、中段の構えを取った。正眼に構えたその切っ先の向こうに、コルダがいる。


彼女は、余裕とも言える表情のまま、退屈そうに弓の弦を何度か弾いている。そして、タクトの視線に気づくなり、にこっと微笑んできた。その笑顔に、彼は苦笑を浮かべた。


二人の様子を見て、準備が出来たようだと悟ったクサナギは、上げていた手を下ろして、一言呟いた。


「ーー始めっ!」


クサナギが言うと同時、コルダが動き出した。いつの間にか展開させた白い法陣から、矢を取り出すなり、それをすばやい動作でつかえる。


「そんじゃ、行くよ-!」


そのまま、タクトの方へ矢尻を向け、矢を放った。意外に素早いその動きに、タクトは驚きに目を見開く。がーー。


「瞬歩っ!」


バッと横に一歩踏み込み、高速で矢の射線から外れる。矢を躱すなり、再度瞬歩を発動。今度はコルダへ向けて、一直線に突き進む。


「霊印流壱之太刀ーー」


コルダの眼前に現れた彼は、上段からの一撃を叩き込まんと振り上げる。


彼女からしてみれば、いきなりタクトが消え、突然眼前に現れたように映っただろう。その証拠に、コルダの表情には驚きが浮かんでいた。


その表情を見ても、何ら感慨もわかずに、タクトはただ刀を振り下ろす。


「ーー爪魔っ!」


魔力を纏い、威力を上げたその一撃は、コルダに向かってまっすぐに振り落ちて。


「甘いよっ!」


「えっ!?」


しかしその一撃は、コルダが展開させた法陣によって受け止められ、受け止めたと同時にそれを破壊する。その衝撃に、刀は弾かれ、タクトの頭上に持ち上がった。


今度驚きの表情を浮かべるのは、タクトであった。彼は、驚愕に目を見開き、しかし同時に彼女が新たな矢を使えたのを目の端で捉えた。


「もういっちょっ!」


「くっ……っ!」


呻き、表情を歪めながら、無理矢理瞬歩を発動させ、後ろに後退。放たれた矢はぎりぎりで掠め、躱した。無くなってしまった右耳のあたりを掠め、彼は内心で深いため息をつく。


「っ!?」


一息つく間もなく、体を襲う寒気に反応し、それと同時に足下で何かが”煌めいた”。それを確認すると、タクトはその場を飛び退く。


「フレイムッ!」


コルダの叫び声が聞こえ、タクトが先程までいた地点から炎が吹き上がった。その光景を見て、タクトは顔色を悪くする。


もしあの場に止まっていたら、今頃あの炎に焼かれていただろう。その事実に、タクトはくっと表情を歪ませる。


先程煌めいた何かは、赤の法陣だったのだ。つまり、属性変化術。たまらず、タクトは彼女に声をかけた。


「ちょ、コルダッ!」


「ごめんね~。でも、焼き加減ぐらいするから」


「そう言った問題じゃないよっ!」


その言葉に、彼女はすまなさそうに謝り、しかし全然違う意味合いの事を口に出していた。彼は思わず突っ込んだが、すぐさま飛来してきた矢に気づく。


炎越しに飛んできたそれをはじき飛ばし、すぐに次の矢が来たことを察知した。その矢も同様に弾くが、再び新たな矢が飛んでくる。


(……なんて矢の連射速度だっ!)


飛んできた矢をーー矢”達”を弾きながら、タクトは唇を噛む。その連射速度は、下手な銃器よりも上回っていた。


気がつけば、視界いっぱいを埋め尽くさんばかりの、大量の矢が一気に飛来してきた。


「なっ!?」


「なんて数っ!?」


その矢を見て、驚いたのはタクトだけではない。外野にいる、レナやアイギットまでもが呆然とした表情を浮かべている。


「……あいつ、ホントに第五位相当か?」


クサナギが、眉根を寄せながら、鋭い指摘をする。だがその言葉は、誰に聞かれるもなく、レナの叫び声にかき消された。


「タクトッ!!」


「っ……霊印流、”重ね太刀”」


彼女の叫びを聞き、我に返ったタクトは刀を構えた。この量では下手に防御は出来ない。そして既に、回避できるタイミングではないーーならば、迎撃するのみ。


そして彼は、即座に自分が使える最も手数が多い太刀を”編み出す”。


「ーー瞬牙・残っ!」


瞬牙の特性により、斬撃が高速化。一呼吸の間に数十の斬撃を放つ。それと同時に、”残刃”の特性が表れた。


残刃の特性は、斬撃の分裂である。一本の剣撃が本体も含め、五本になる。つまり、数十の斬撃は、一瞬で”数百を超える”斬撃となった。言わば、斬撃の壁である。


その斬撃の壁が、タクトに向かってきた矢を全てはじき飛ばす。


霊印流の太刀、それら一つ一つは能力が偏っている。だが、それら複数を”重ね合わせる”ことによって、複数の能力を持つ太刀を編み出せるのだ。無論、魔力消費も大きくなってしまうが。


「へ~、すごいねぇ」


大量の矢を何とかやりすごし、いつも通りのコルダの声が響く。


「不反応持ちなのに、あの矢の大群を無力化するなんて、やるね~」


ようやく炎が収まり、タクトはコルダの姿を見ることが出来た。確かに普通なら、風を起こして矢の大群を吹き飛ばすだろう。だが、呪文を唱えても発動できない彼には、それが出来ないのだ。


タクトはそのことに、何ら反論もせずに、逆に彼女の事を褒め称えた。


「コルダも中々だよ、すごい矢の連射速度だ。……でもーー」


そう言うなり、即座に一歩”踏み込んだ”。


「余裕を噛ましすぎだよ」


「っ!?」


”背後から聞こえた”タクトの声に、コルダは驚きの顔を浮かべ、彼の方を、つまり後ろを振り返った。何のことはない、タクトは即座に瞬歩を発動させ、彼女の背後に回ったのだ。だが、コルダはそれに気づけなかった。


(ーーいつの間に!?)


胸中叫ぶが、それより先に体が動いた。頭上から振り下ろされた斬撃を真横に飛ぶことで何とかかわす。しかし、無理な体勢で躱したため、後が続かない。


そのスキを、タクトは見逃さなかった。


「重ね太刀ーー爪魔・瞬っ!」


今度は、魔力で覆われた刀が、視認できないほどの速度で、コルダの体に吸い込まれる。腹の部分に、ドンッという重たい衝撃を受けた後、コルダは気がついたら壁際まで吹き飛ばされていた。


彼の一撃を受けたーーそのことに気がついたのは、吹き飛ばされた後の事だった。


「くっ……!」


おなかを押さえて、彼女は立ち上がった。まさか、技と技を組み合わせるなんて、思いもしなかった。彼女はうっすらと笑みを浮かべる。


実際には、彼が重ね太刀を使ったのはこれが二度目なのだが、最初は炎で視界を塞がれていたので、見えなかったのだ。


「こりゃ、やばいかな~?」


あははは、とのんきに苦笑を浮かべつつ、コルダは弓を構える。あの一撃を受け、弓を手放さなかった自分を褒めてあげたい。


彼女は脇に小さな法陣を展開させ、そこから矢を取り出す。その矢を弓につかえると、精一杯引き絞り、同時に呪文を唱える。


即座に矢尻の先に赤と緑の二つの法陣が展開された。赤と緑、火と風の法陣は互いに煌めき会いながら、”その時”を待っている。


「いっくよ~! 私が使える、一番強力な矢をっ!」


そしてーー炎と風が生まれ、その二つが矢尻に集まる。その二つを宿した矢を、コルダは迷うことなく放った。


「いっけぇぇぇ!!」


放たれたその矢は、その途中で矢尻に集まった力を解放、一瞬で”炎の竜巻”を作り出す。それを見て、タクトは背筋が凍る思いを味わった。


「でぇぇ!!?」


その炎の竜巻は、フェルアントに現れた外魔達を、一瞬で葬り去った一撃だったのだから。喰らったら死ぬ、その思いに彼は突き動かされた。


瞬歩を使い、その軌道から外れる。が、瞬歩は前へ飛ぶと言う特性のため、一直線にしか進めないのだ。ーーその弱点を、コルダに突かれた。


「”戻って”」


してやったり、とばかりに笑顔を浮かべたコルダは、放ったそれに向かってそう呟く。瞬間、炎の竜巻の先端にある”矢”が、途中で軌道を変えた。カーブを描きつつ曲がり、ついには百八十度転回、避けたタクトの”背後から”襲いかかる。


ゴォォッと言う凄まじい音が、背後からだんだんと大きくなっていくのを感じ取り、タクトは表情を歪めながらその場で回転。


炎の竜巻と向き合った。


「あいつ、馬鹿かっ!?」


彼の行動に、アイギットが叫ぶ。が、それには全く気にせずに、タクトは刀を振り上げた。


集中集中……。そう自身に言い聞かせ、タクトは炎の竜巻の”先端の矢”をジッと見つめる。


炎に惑わされるな。その実体の軌跡を変えればーー!


その思いに捕らわれ、自身の魔力を刀に纏わせる。


「重ね太刀ーー爪魔・飛っ!」


叫びと共に縦に振り下ろし、飛刃よりも一回り大きな飛刃が刀身より放たれた。爪魔・飛は迷わず炎の竜巻へ、その先端の矢へと向かい、衝突する。


その時、刃のカーブを利用して、矢を頭上へ跳ね上げた。


「えっ……!?」


その光景に、コルダは思わず素っ頓狂な声を出す。頭上へと上げられた矢に連れられて、炎の竜巻も上へと上がっていく。


「これで、何とか回避成功、と」


タクトは盛大にため息をつきながら、コルダへ視線を向ける。ーー即座に、瞬歩を発動した。


「壱之太刀ーー爪魔」


その途中で刀を振り上げ、攻撃の予備動作を終わらせる。彼女の眼前へと出た瞬間に、刀を一気に袈裟に振り下ろした。


「っ~~!」


魔力で覆われたその一撃を、コルダはかろうじて展開させた法陣によって受け止めた。だが、最初のように法陣を破壊され、弾かれるよりも先に、タクトは刀を握る力を弱め、強引に振り切る。


「っ? ……っ!」


その動作に目を細めるコルダ。しかし、次の瞬間にはその意図を的確に見抜いた。


振り切った刀を、タクトは”爪魔を発動したまま”返す刀で一閃。今度は下から上へ、逆袈裟へ振り上げる。


その刀は、峰の部分でコルダの脇腹へと吸い込まれた。

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