第27話 桐生家~1~
どうも、天剣で~す。
最初に一言。かなり遅れてごめんなさい。(土下座
それでは、リハビリも兼ねた第27話、始まりです!!
異世界間での転移は、やや体調に不良を来す。とは言え、その不調とやらも、めまいがする程度の軽いもの。大した気にならない物ではあるのだが、この感覚はやっぱり慣れないな、とタクトは思っている。
「よし、到着だ」
やがてその感覚も消え、視界がハッキリしてくる。と、セイヤが口元に笑みを浮かべながら、そう呟いた。六人が今いるその場所は、どこかの山の中なのか、あたりは木々に囲まれており、眼下には街が見える。
「うあ……!」
「すごい!」
その光景を見たアイギットとコルダは、思わずそう声を上げた。ここからでは遠くてわかりづらいが、建物の形を見るに、文明だけで見ればフェルアントを凌駕しているだろう。
驚きで呆然としている二人に対して、タクト達三人は懐かしさがこみ上げてきた。
「すごいね。ここを離れてまだ数ヶ月なのに、なんだかすごく懐かしく感じる」
レナの言葉に、タクトとマモルは同意する。
「うん。僕も、すごく懐かしいよ」
「そうだな」
「懐かしく感じるのが、故郷の証さ」
何かを悟ったのか、セイヤは一人でうんうん頷き、その言葉に一同はおおーと感嘆の声を上げている。そんな彼に、タクトはふと疑問を抱いた。
(ここ数年で、何かあったのかな?)
あまり変わらないーーだけど、何かが変わった。彼は再会したセイヤに、そんな印象を持っていた。それが何なのか、まだわからないが。そんな彼の疑問に気づかずに、セイヤはパンパンと手を叩くと、
「ほーら、さっさと行こうぜ。俺達の家はこの山を下りたところだ」
彼を先頭として、一同はそれに続いていく。だが、山から見下ろす景色が気に入ったのか、アイギットとコルダは互いに後ろ髪を引かれる思いで最後尾を着いていく。そんな二人に、タクトは苦笑いを浮かべると、
「ここから見える景色、夜になると絶景だよ。夜になったら、また来る?」
「ぜひ、そうさせてもらう」
「うん、私もー!」
楽しみが増えた、と言うような感じで、二人の表情がだんだんと明るくなっていく。端から見ても上機嫌である。マモルはそれを見るなり、意地の悪い笑みを浮かべた。
「おいおい、はしゃぎすぎて途中で疲れたー、とか言うなよ」
「それはお前だろう? 何か知らんが、先日いきなりニヤニヤしていた事があったしな」
「なっ!!?」
思わぬ反撃を喰らい、マモルは素っ頓狂な声を上げる。タクトはその様子を見て、
「あれ、マモル気がついてなかった? いきなり二ヤつくことがあったから、少し怖かったんだけど」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! いつだ!? 俺いつニヤニヤしていた!?」
「……その様子だと、全く気がついてなかったのね」
と、こちらはレナである。慌てた様子を見せるマモルを見て、彼女は乾いた苦笑いを浮かべた。確かに昨日は、地球に帰った後の事を思っていたが、それが顔に出ていたのだろうか。そんなふうにあたふたとしているマモルに、コルダが追い打ちをかけた。
「フジは四六時中ニヤニヤしていたよー」
「俺そんなにニヤニヤしていた覚えねぇぞ!!」
彼女ののんびりとした口調に、彼は本気で否定する。だが、一同(セイヤを除く)は首を振り、否定する。
『いや、四六時中ニヤニヤしてました』
「……んだよ畜生ーーー!!」
彼の絶叫が、山に響き渡った。その光景を笑いながら見ていたセイヤは、頬をポリポリとかきながら、
「いや~、マモルをここまで弄り倒されるとは。中々良いチームワークじゃねぇか。アニュラスを退けたのも頷ける」
「何だったら、このメンバーであなたと戦ってみますか。勝つ自信はありますよ?」
彼の呟きにそう返したのはアイギットである。彼はニヤリと笑みを浮かべると、そのまま勢いに乗って、渇という風に宣言する。そしてそれは、困ったように笑みを浮かべたセイヤのそれによって流された。
「いや遠慮しとくわ。流石にこのメンバーじゃきつい」
内心では、”お前らが”3分持ったら、何かスキなもの買ってやる、と呟いていたが、当然それは聞こえるはずもなかった。ふーんと言うふうに相づちを打つ彼らを見ながら、セイヤは前を向いて一路目的地を目指す。
「そう言えば言い忘れてたけど、|ここ(地球)に滞在しているときは、変なもめ事起こすなよ。厄介な事になるから」
ふと思いだした注意事項を、家に向かう途中に話し出す。それは地球に来るのが初めてである、アイギットとコルダに向けてのものだった。その注意に、アイギットは首を傾げる。
「はい? まぁ確かに、好んで厄介ごとを引き起こす気はないですけど……」
「約一名、好きこのんでもめ事に首を突っ込む輩はいるけど」
「……ねぇ、なんで僕の方を見るの?」
神妙な顔で告げる彼の言葉を聞いて、コルダはタクトの方を見やる。タクトは納得いかないのか、そう言うが、決闘騒ぎの時も、神器が暴れていたときも、率先して首を突っ込んでいたため、説得力はない。彼としては、持ち前のお人好しの部分が出ただけであるのだが。
「お前も相変わらずだな」
「何が」
呆れたようにため息を吐くセイヤに、キッと睨みつけてやる。それに、彼は「おお、恐っ」等と、全然怖がっている様子もなく呟いて見せた。
「まぁ落ち着け。それより話を戻すけど、厄介ごとを起こすなって言うのは、ここの支部の連中に目をつけられるな、っていることだ。ここの連中は、一人一人がランク上位の奴らばかりだからな」
肩をすくめて気安く言ってのけた。しかしその内容は、決して気安く言えるないようではない。
これが、先程セイヤが言っていた”穴場”である。ランク上位の精霊使いが集合ーーそれは、多くの手練れが集まっていると言うことでもある。
創造神器ーーその正体は、人の思いや願いなどによって生まれた創造神が宿った器のことである。そして創造神が生み出される最たるものは、大抵”神話”等がモチーフとなっていることが多い。
地球には数多くの神話があり、一つの物語に一つの神が書かれているとは限らない。しかも、今タクト達がいる日本だけでも、昔から”八百万の神”がいるとされている。もしそれらが神器となったとしたら、”八百万”の神器が生まれることになる。
日本だけでそれだけあるのだから、地球全体で見ればかなりの数となるだろう。だからこそ、ここには多くの手練れの精霊使いが揃っており、同時、唯一支部にいる精霊使い全員が”神器の事を知っている”者達である。
ちなみにこれは、先程セイヤがアイギットに説明したことでもある。彼が”厄介”と言ったのは、そのためだ。しかもここは、精霊のことが一般的に広がっていないと言うリスクも背負っている。手練れが必要になってくるのは、当然のことと言えよう。
「でもでも、それって裏を返せば、仲良くなれば手合わせとかして貰える、って事でしょ?」
コルダの一言に、アイギットはふと微笑んだ。そうだ、その通りである。何事も、ものは考え用だ。彼女の発言に、流石のセイヤも驚いた表情を見せ、すぐに柔らかく微笑む。
「その通り。実際、俺やこいつらも、結構お世話になっている人がいる。この休み期間中、その人と手合わせして貰え」
そう言って、ぐっと親指を立てた。そして真っ正面を向き、ある一点を指さして止まる。
「さぁ、到着だ。ーーアレが、俺達の家だよ」
「でっかぁぁ!!」
山を下り終え、歩くこと十数分。一同は大きな”門”を目の当たりにし、コルダは驚愕の表情でそう叫んだ。そこの柱に、『桐生』と書かれているため、ここがタクトとセイヤの家であることは容易に想像できる。
しかし、仮にも名門、言ってしまえば貴族であるアイギットは、納得出来なかった。
(なんで……なんで”門”がうちよりでかい……!?)
自分の家よりも大きい”門”ーー当然作りは日本の古風的な作りであるーーを前にして、彼は愕然としていた。しかし、すぐに気を取り直す。
(いやいや、門がでかくても、建物はうちより小さいと言う事も……!?)
変なところで、持ち前の負けず嫌いが発揮するアイギット。家の対して対抗意識を燃やしてどうする、と彼に宿る水の精霊は思った。
「……懐かしいな」
その隣では、セイヤが門の扉に手を触れながら、その感触を楽しむ。家に帰宅したのは、5年ぐらい前のあれが最後である。自然と笑みがこぼれてくるのを押さえきれない。
「おやおやぁ? セイヤさん、何笑っているんですか~?」
「やかましい。その気持ち悪い笑顔をやめろ」
にたにたと気味の悪い笑みを顔に張り付かせ、詰め寄るマモルに、セイヤはばっさりと切り捨てる。彼を一睨みし、そのまま視線をタクトへと向けた。彼も、懐かしそうに門を見上げていた。
「………」
「そろそろ、中に入ろうよ。家はこの向こう側にあるんだから」
そう言って、レナは彼を促す。それにタクトは頷くと、重たい扉を押し始める。ギィィと言う、この扉を開けるときに、決まって鳴り響く音を聞きながら、セイヤは再び懐かしさがこみ上げてくるのを感じていた。
門を開け放つとーーそこには、庭園が広がっていた。
和風な作りの門であったが、中もそれに劣らず、日本家屋であった。しかし、その大きさが並ではない。どこかの城を思わせるほどに大きな、日本家屋であったのだ。これが、タクト達が暮らしていた家である。
だが、そのまわりが、庭園と思わせる物であった。
まず大きな池があり、そこでは錦鯉が悠々と泳いでいる。そして、そのそばにある、十分に手入れが行き届いた、桜の木がこれまた立派であった。また、花壇には色とりどりの花が咲き誇っており、綺麗な風景を生み出していた。
心休まる。そんな空気が、そこには流れていた。コルダはポカーンとした表情を浮かべ、
「うわぁ……門もすごかったけど、中もすごいや。あまり実感わかなかったけど、タクトってお金持ちだったんだね」
「まぁ、曲がりなりにも、伯父さんがここの支部長だしね」
はは、とタクトは乾いた苦笑いを浮かべる。色々と、支部長とやらは融通が利くのである。ちなみに、その隣にいる支部長の息子は、表情を引きつらせるとそっぽを向いた。おそらく、何か知っているのであろう。
(……負けた。うちよりでかい……)
アイギットは、その庭の様子を見て、内心膝をつきたい状態であった。愕然とした気持ちで、庭先をジッと見つめている。
だがそれよりも、少し気になることがあった。
「タクト。一つ聞いて良いか?」
「何? どうしたの?」
「……ここに入る際、何か気をつけなければならない事とかないか?」
貴族であるアイギットの勘が、ここは屋敷と似たような所であると感づいたのだ。そして、大抵屋敷とやらはやや面倒なしきたりがあることが多い。
しかも、アイギットは日本文化には不慣れーーというよりも初めてである。色々と緊張するのも仕方のない事であった。
だが、タクトは何もないよと言うふうに首を振る。
「大丈夫だよ、変に畏まらなくても。そんなことに気を遣っていたら、休めないでしょ?」
「それはそうだが……」
なおも言う彼に、タクトはうーんとしばらく考え、今思いだしたようポンと手を打った。
「そうだ。上がるときは靴を脱いでね。それぐらいかな、気をつけることは」
気安く言ってのけた彼の言葉に、アイギットは表情を緩ませる。その言葉の裏にあることをくみ取ったからだった。
「わかった。気をつけよう」
そう言った彼に、セイヤは腕を回して引き寄せる。体格差からか、ややアイギットが苦しそうな表情を見せた。
「お前さん堅いな。少しはコルダちゃんを見習えよ」
「はぁ?」
いきなり巻き込まれたからか、苦しそうにしながらも、その言葉に素っ頓狂な声を出す。すると、セイヤはクイッとコルダの方に視線を向け、それに釣られて彼も見やる。そこには、アイギットが懸念していたことを、あっけなく無視していくコルダの姿があった。
彼女は持ち前の脳天気さと明るさで、ニコニコと微笑んでいる。それを見て、アイギットはため息をついた。なぜ初めての所で、あんなにも脳天気でいられるのだろうか、と。
「……あれには確かに見習うところがありますけど、あそこまで見習いたくありません」
「まぁそうだな。アレは行きすぎだな」
うんうんと何度か頷き、セイヤは彼を解放する。ようやく自由の身になったアイギットは、一つ伸びをすると、
「そう言えば、タクトが言っていた変態の人……どこにいるんだ?」
そう、気になったことを呟いた。それだけで、周りの空気。特に、タクトやマモル、レナ、セイヤの空気が。
タクトからその人のことを聞かされたとき、あまりのキャラの濃さに中々忘れることが出来なかった。
曰く、風呂場(女湯)を覗いた、とか。
曰く、更衣室(女子)を覗いた、とか。
曰く、下着(女物)をあさった、とか。
……これで忘れろというのが無理な話である。ちなみに、その人は覗きがばれて痛い目にあっても、めげずに何度も覗くという根性も持っている。ーーその根性を、別の所で生かせられないのか、と思わずにはいられない。
しかし、女性の敵であると言うことは変わりない。現に、その人のことを知っているレナは、あたりを警戒するようにキョロキョロしている。ちなみにコルダは、「?」と首を傾げている。
「ま、まぁ、あいつのことは良いよ。今は忘れよう」
「そ、そうだね。クサナギの事は、もう忘れようよ」
マモルの引きつった言葉に、タクトが便乗する。何度も頷く彼らを見て、アイギットは一つ思った。
(俺……地雷踏んじゃった?)
先程とは打って変わって、温度差のある空気となった。それを、彼は実感していた。




