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精霊の担い手  作者: 天剣
1年時
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第24話 従兄弟の絆~2~

食堂に着き、いつものメンバーをタクトは目で探す。しかし、彼が見つけるより先に、セイヤが彼の肩をトントンとたたき、


「あそこにいるの、マモルとレナだろ。……あの二人は誰だ?」


「あ、うん。仲の良い友達だよ」


それだけ言うと、彼はその席に近づいて行く。あの二人というのは、アイギットとコルダのことだろう。


「おはよう、みんな」


「うーす、おはよはよ~……って、セイヤさん!?」


「え? あ、ホントだ!」


一番先に反応したマモルは挨拶をしつつ、タクトの後ろにいる人物に驚き、目を見開く。彼の方を指さしながら固まる彼に、セイヤはニヤリと笑う。


「おう、マモル! お二人さん元気か~?」


「ま、まぁまぁって言うところっすかね……」


朗らかに笑う彼とは対照的に、マモルは表情を引きつらせながら目をそらす。彼はセイヤに苦手意識を持っており、どうやらそれは消え去っていないらしい。そして彼と面識のあるレナは、マモルと同じく驚いた表情をしたが、すぐに暖かな笑みを浮かべて、


「おはようございます、セイヤさん。今日はどうしたんですか?」


と、聞いてきた。その問いに、彼は持っているトレーをその席に置き、座りながら答える。


「ああ、仕事さ、仕事」


「それは熱心なとこで」


顔をしかめながら、マモルはぼそりと呟いた。聞こえているぞ、と言うセイヤの言葉に、ビクッと震える彼を見ながら、タクトは苦笑いを浮かべつつ、その隣に腰を下ろす。そして、同じ席に座っている、事情を飲み込めていない二人に目配せした。


「えっと……?」


「お、そこのお二人さんは初めてだよな?」


「あ、はい。そうですけど?」


牛乳を飲んでいたコルダが、恐る恐ると言った感じで、そう口火を切る。すると、その声に気づいたのか、セイヤは二人の方へ顔を向けた。


「とりあえず自己紹介な。俺はこいつの従兄をやっている桐生聖夜セイヤって言うんだ。よろしく!」


初対面の二人に、タクトに腕を回してフレンドリーに言う。その自己紹介と、タクトが嫌がるそぶりを見せながらも、ほどかないその状況を見て、へぇっと感嘆の声をアイギットは上げた。


「従兄……ですか。でも、なんて言うかその……対照的ですね」


二人の顔を見比べて、いきなり似ていないと言うのも失礼かな、と思った彼は、なるべく言葉を選んだ。しかし、飲んでいた牛乳が入ったコップを、ドンと置いたコルダは、


「似てないね、全く!」


一人でうんうん頷きながら、にこやかに言ってのけた。ちなみに言った後、既に遅いが彼女の口をマモルが素早く塞いで見せた。


「へーふぁなひて!」(手ー離して!)


「ちょっと黙っていろ」


ばたばたと暴れる彼女を、マモルは必死で押さえる。その光景に、アイギットとレナ、タクトまでもが困ったように苦笑いを浮かべていた。セイヤも笑っているが、口元をピクピクさせている。


「似てない、ねぇー。まぁ、そのことは俺達も自覚しているんだけどさ、ハッキリ言うな君は!」


「ぷはっ! でも、事実はじじふがっ!」


何とかマモルの手から逃れられたが、すぐさま口元を塞がれた。そんな彼女に、セイヤはため息をつきつつあることを教える。


「とりあえず君は、”正直は美徳。でもそれは、時と場合による”と言う事を知っておいた方が良いぞ」


「ふぁーい」


塞がれたままだが、声のトーンからして、おそらく生返事だろう。つまり、きちんと聞くつもりはないと言う事か。見た目以上に扱いづらい奴だなと、セイヤは独りごちた。


「ま、俺は親父似で、こいつはおばさんーーつまり母親似って言う訳だからなぁ。でも、こいつ見ていると、母親がどれだけ綺麗か想像はつくだろ?」


「……綺麗なの?」


「すごい美人だよ! どうなったらああなるんだろう……」


完全に解放されたコルダは、隣にいるレナにそう問いかける。すると、彼女はうらやましそうな表情を浮かべて力説する。しかしそれを聞いて、タクトは不満げに呟いた。


「なんだろ、僕を見て母さんが綺麗って言うのは、喜んで良いのか悲しむべきなのか」


一人の男性としては、いささか疑問に思うことを言う彼に、マモルは慰めのつもりで、


「でも、事実だろ?」


「……ぐす」


しかし結局、止めを差す結果となった。半泣き状態となった彼を放置して、一同は会話をしつつ食事を再開した。


「そう言えば、仕事で来たって言ってましたよね?」


「そうだな、それが?」


未だに落ち込んでいるタクトを尻目に、アイギットは丁寧な言葉遣いで尋ねる。やや早いペースで朝食を平らげていくセイヤは頷いた。


「一体、なんの仕事で来ているんですか?」


「あ、それは私も思いました。普通、支部に所属している精霊使いは、余程のことがない限り、学園には来ませんよね?」


レナも思うことがあるのだろう、彼の問いに追従する形で呟く。すると、彼は食器をコトッとトレーの上に置き、真剣な眼差しであたりを見渡した。


「確かに余程のことがない限り、ここには来ないけど……でも、その余程のことがあった、と言ったら、どうする?」


「それは……」


まるで諭すようなその口調に、一同は固まる。さらにセイヤは続けた。


「好奇心は身を滅ぼす近道、と言う言葉があるけど、君たちが聞こうとすることは、まさにそれだ」


と言っても、一部事情を知っている奴がいるけどね、とタクトとマモル、レナの三人を意味ありげに見やる。


先程、タクトの部屋では彼一人しかおらず、しかも彼はある程度の事情を察知していた。だから、セイヤも気軽に話すことが出来たのだが、今回は違う。


まず、コルダとアイギットは、神器のことを何も知っていない。組織一丸となって見つけることにしているのだが、末端の者達には、情報操作により何も知らされていないだろう。つまり、神器の存在を知っているのは、フェルアント本部が信用に足る人物と判断した者、その関係者達である。


三人ーー特にタクトの家族に支部長がおり、それどころかその支部長は、巷では英雄と呼ばれている男。神器のことを知らないと言う事はあり得なかった。


他の二人は彼つながりで、そしてレナはある事情から、よく知ってもいた。


「好奇心は身を滅ぼす……か」


「アイギー?」


しばし固まったままの彼であったが、口元を歪ませ、いきなり呟く。不審な声が聞こえるが、彼はそれを無視して彼に詰め寄った。


「それはつまり、関わるな、と言う事ですか?」


「スキに解釈すると良いさ」


肩をすくめて言う彼に、苛立ちを覚えたのか、アイギットは冷めた目つきで席を立つ。彼は怒ると目つきが鋭くなるという癖がある。直せと言われても、中々直らないものが癖なのだが、次の瞬間、その癖がなくなった。と言っても、癖が直ったわけではない。只単に、心情が怒りから変わったと言うだけだ。


「さて、これで俺はおいとまさせてもらうよ。ご馳走様」


いつの間にか食べ終わっていたのだろう、両手を合わせ合掌すると、彼はカラになったトレーを持って返却口に向かっていった。


「お、おい?」


いきなりの行動に、肩すかしを食らったような感触を受けるが、彼はあることを振り向きざまに言ってのけた。


「好奇心は身を滅ぼす。だけど、それがなかったら成長も出来ない。……知る勇気があるのなら、そこにいる男か女かわからん奴に聞くと良い。多分、手取足取り教えてくれるだろう」


「……セイヤ兄、後で少し話しあおうか」


セイヤのふざけた言いように、ぴくり、とこめかみを引きつらせると、タクトは彼のことを睨みつける。はっはっはと笑いながら去って行く彼は、手を振って答えた。


「……めんどくさくなったな、あの人」


「……そのようだな」


アイギットは盛大なため息をついて、立ち上がっていた事に気づき、その場に座る。そして横目でタクトの方を見た。


「? どうしたの?」


「いや、何でもないさ」


この従兄弟が、どれほど互いのことを信頼しているのか、よくわかる事だった。うらやましげに眺め、すぐに首を振って思い直す。とりあえず、トレーにある冷めた朝食に手をつけ始めた。


「それより、あの黒い奴については、後で教えてくれ。聞かされているんだろう?」


「後でね。教える前に、まず言わなきゃならない事があるし」


「言わなきゃならない事?」


うんと頷くタクトを見て、ふと思った。自分が見てきた世界は、一体どれほど狭いのだろうか、と。




トレーを戻したセイヤは、一つ息を吐いた。これで、俺の仕事とかはあいつが伝えてくれるだろう。そう思い、しかし、心の中はもどかしさで一杯だった。本当は、遠回しに言うのではなくて、直接言いたい。だけど、それは本部からの制約に禁止されている。


神器に関わる事柄なのだ、当然と言えば当然である。だが、納得は出来ない。神器のことを正式に公表すればすむことである。何故、隠れるようにして神器を回収するのだろうか。そのことに、セイヤは納得出来なかった。


頭を掻きむしり、怒りにも近い表情を浮かべながら、彼は食堂を後にする。学園の廊下を突っ切り、職員室を目指す。途中、生徒達から好気の視線を向けられたが、それらを全て無視した。


そして、昨日訪れた職員室前に到着した。と言うのも、昨日の仕事の続きーー只単に話を聞くだけだがーーが残っている。それを終わらせようと、ノックをして中に入ろうとする。しかしそこで、凄まじい躊躇にとらわれた。


(まさか、あいつが教師になっていたとは……)


思い出すのは、自分と同じ地球出身の精霊使いとーー一時期、”交際”していたシュリアのことである。二人のことを思いだし、彼の手がぷるぷると震え出す。


(……なんて、声かければ良いんだよ……)


昨日あった際は、まさか彼女が教師になっているとは思いもしなかったので、普通に挨拶したが、その後何も言わずに部屋から退出してしまったのだ。ーー元カノに、何も言わずに。


これはやばい、果てしなくやばい。彼女の性格を熟知しているがために、その後に起きるであろう出来事に予測が付き、予感が悪寒となって全身を襲う。手の震えが、全身に回ったみたいだった。


(よし、こうなったら、教師達に話を聞くのは後にして、まずは生徒達からにしよう。うん、それがいい!)


扉の前で数分間考え、セイヤは出た結論に満足げに頷く。しかし、彼に宿っている精霊が、


(チキンだな、お前は。どのみち、生徒から話を聞くのも、教師達から許可がいるだろう? 不審者として本部に厄介にはなりたくなかろう)


毒舌を吐き、まっとうな意見を述べてセイヤの考えをぶちこわす。本部の命令で来た精霊使いが、本部に捕まるーーこれほど間抜けなことはないだろう。おそらく、末代までの恥となろう。


心の中で精霊に五月蠅いと怒鳴っておき、しかし全てがその通りなので、彼は大人しくドアをノックする。その心情は、大粒の涙をだらだらと流しているが。


腕を持ち上げ、ドアを叩く。その時彼は、「切腹するときの武士とは、こんな気持ちなんだな」と、いささか場違いなことを考えていた。だが、彼は本気である。


コンコンと音が鳴った瞬間、扉が勝手に開き、セイヤは首を傾げる。開けた覚えないぞ、と思いつつ、開いたそこから現れたものを見て、体を捻ってギリギリそれをかわす。


「………っ!!?」


「……ちっ」


声なき声を漏らしながら、彼は驚きでそれを見ていた。いきなり扉から現れたそれーー槍の穂先である。しかもその槍は見覚えがあり、先程、扉を開けるのを躊躇う理由となっていた、女性の証であった。


その女性は、交わされたとみるや、舌打ちを一つ漏らし、槍を収める。たったそれだけで収めてくれたが、セイヤはキッとその女性を睨みつける。


「お、おい、シュリア!? いきなりなんてものを食らわすんだよ!? 怪我したらどうするんだよ!?」


槍を突き出した女性ーーシュリアは、ふんと詰まらなさそうに鼻で笑うと、


「私は知らん。怪我したお前が悪い」


「相変わらずの女王様気質だな! それが元彼に対する言葉か!!?」


それを言った瞬間、彼は頬にきついビンタを食らっていた。

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