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精霊の担い手  作者: 天剣
1年時
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第23話 全てを切り裂く力 ~2~

炎を纏った竜巻が異形の集団にぶち当たり、風によってあおられ火力を増した炎が、それらを一瞬で焼き払っていく。


「っ……!」


「くっ……ぅ!」


それを作り出した二人の精霊使いは、声なき声を上げつつ、それの維持に全力を費やす。威力の問題ではない。火と風の相乗効果により、あまり魔力を込めなくても威力を上げることができる。どちらかというと、それのコントロールが問題であった。


アイギットもコルダも、気を抜いたら一瞬で暴走する炎の竜巻を、必死でコントロールする。こんなものが暴走したら、ここら辺一体は火の海になるだろう。それを避けるために、全神経を魔力制御に回す。


こんな事になるなら、学園で魔力制御の講義でも受けとけば良かった、等と二人は思いつつ、額から汗を流していく。


ーー幸運なことに、終わりの瞬間はあっさりと来た。


「二人とも、もういいよ!」


「……っぷは!」


「はぁ……はぁ……」


レナの叫び声を聞いて、二人は苦痛に歪んだ表情のまま魔法陣を消し、炎の竜巻をも消滅させ、その場にへたり込む。知らず知らずのうちに息を止めていたのか、二人は呼吸を荒げていた。


何度も深呼吸を繰り返すうちに、だいぶマシになってきたのか、疲れた表情で立ち上がる。その際、レナが二人の腕を掴んで立たせるのを助けてやった。


「ふぅ……。助かる」


「はは、ありがとね」


「どういたしまして」


立ち上がった二人は、竜巻が衝突した地点に目をやり、そろって目元を引きつらせた。それもそのはず、竜巻が衝突した場所はへこんで小規模のクレーターができあがっていたし、そこを中心に、円形に焼け焦げた後が地面にハッキリと残っているのだ。しかも、その円が半径数十メートルにも及べば、誰だって唖然とするだろう。


当然の如く、異形の群れは残らず全滅していた。


それを実際にやらかした二人は、どこか居心地が悪そうだった。その様子を見て、レナがぽつりと一言。


「……私、二人のことを怒らせないようにするわ」


「………」


「………」


二人とも否定したがったが、この惨状からでは否定できないので、無言を貫くしかなかった。そんな中、コルダが空気を変えるかのように、


「そ、そう言えばタクトとマモルは? 流石にアレに巻き込まれたって言うのはない……よね……?」


空気を変えるために持ち出したその話題は、レナとアイギットの顔を見て、尻すぼみしていく。ーーもしかして。


「……も、もしかして……」


「……やばいんじゃ……?」


コルダとアイギットがあたふたと慌て始めたとき、前の方から瓦礫が崩れる音が聞こえた。そちらの方を見ると、見慣れた茶髪が凄まじい速度でこちらに向かってくる。


「コルダァァァ-ー!! アイギットォォォーー!! テメェら何してくれとんのじゃーー!!」


「うがっ!!?」


「イダッ!!?」


服のあちこちを焦がしたマモルが、二人に跳び蹴りを食らわし吹き飛ばす。蹴られた二人は色々と言いたかったのだろうが、彼の剣幕に何も言えなくなってしまった。マモルは表情を鬼のように引きつらせ、一気にがなり立てる。


「お前らのせいで、こちとらアレに巻き込まれて焼け死ぬところだったんだぞ!!  ちったぁ周りを見ろ!!」


「……すまない」


「ごめんなさい……」


珍しくアイギットもコルダも大人しくしてその叫びを聞いていた。今回のことについては、全面的に悪いのはこちらなので、何も言い返さなかった。その様子を呆れたように苦笑しながら見ていたレナは、もう一人いないことに気がつき、慌てた様子で声をかける。


「ちょっと待って、タクトは!?」


その問いかけに、未だ二人に怒鳴りつけているマモルは、そちらの方を見向きもせずにとある一点に指を差した。レナもそれに釣られてそちらを見たが、そこでは左腕を押さえてこちらに近づいてくるタクトの姿があった。ーー押さえている左腕からは、やけどの跡が見えた。それを見て、レナは素っ頓狂な声を上げる。


「た、タクト!? その傷、一体どうしたの?」


「ちょ、ちょっとね。あの炎でやけどして……」


あはははっと少しばかり疲れたような様子でそう言うが、レナは慌ててその傷に手を当てた。


「こ、コウは何処行ったの!?」


「あいつは今、僕の中で休んで、ってレナ、そこさわんないでよ!」


「た、大変! ちょっと待ってて、直ぐに治癒魔法かけるから!」


「って、だからレナ、そこさわんないで……っで!?」


彼女が触れたそこから感じた痛みは、まるで電気が走ったように全身を貫いた。それに彼は声高にして叫んだ。


「ちょ、痛いってレナ!?」


「我慢して!!」


タクトも叫びもむなしく、レナはそう一喝して彼を黙らせた。そのあまりの剣幕にタクトは口を閉ざし、一生懸命手当をしているレナに、やりたいようにさせた。ーー二人は気づいていないが、端から見たらいちゃついているようにしか思えない。


その隣には、マモルの逆鱗に触れた二人が未だ怒られている。凄まじい温度差を感じながら、タクトはレナにされるがままになっていた。


「ーーっと、これで終わり」


「う……あ、ありがと」


やけどした左腕に治癒魔法を駆けて貰い、だいぶマシになったそれを動かしながら、タクトは照れたように礼を言った。すると、レナはニッコリと微笑んで、


「どういたしまして。それよりーー」


彼女は後ろを振り返り、そちらを見た。先程までは確かにいた異形達が、今は跡形もなく消え去ったままだった。異形を生み出していたあの黒騎士も、黒いバブルもすっかり消えていた。


「あの黒いのは、一体何処行ったの?」


「……わからない。でも」


タクトは首を振ってそう言い、ふとマモル達の方を見た。さんざん喚いてだいぶ彼の怒りも収まってきたのだろうか、今は疲れたような表情を浮かべている。ーー怒られていた二人の方が、それよりも遥かに疲れているが。


そんな三人に、タクトは声をかけた。


「三人とも、大丈夫?」


「おう、疲れた」


「……俺達はもっと疲れたけどな」


「……同じく」


マモルが息を吐き、それをジト目で二人が睨む。しばらくそうしていたが、やがてアイギットが、


「それにしても、よく竜巻に焼かれなかったな」


「実際、危なかったけどな。炎に飲み込まれそうなときに、タクトが防御陣で時間を稼いでくれなかったら危なかっただろう」


それを聞いて、アイギットはタクトの左腕のやけどを見た。おそらくアレは、防御しきれなかったぶんの怪我だろう。そう思い、彼は気まずそうに謝る。


「……すまない。俺達の不注意のせいで」


「気にしなくて良いよ。ほら、こうやって無事だったんだし」


タクトは怪我した左腕をぶんぶんと必要以上に振り回して答えた。おそらくその行為は、沈んだ表情を浮かべている二人を気遣ってのものだろう。だが、それでも、とコルダが呟く。


「……ごめん。私たちのせいで……」


そう言って、彼女は震えていた。ーー”また”、友達を失うのだろうかと思い、顔を上げることが出来なかった。しかし、タクトはそんな彼女に、


「大丈夫だよ。ーー大丈夫」


何度も、そう繰り返していた。それを横目で見ながら、アイギットがしかしと呟く。


「アレを防御陣だけで防げたのか?」


「そんなわけないだろ。出来たらそいつ何者よ」


マモルは顔を歪めてそう答えた。


「じゃあ、どうやってアレを防いだんだ?」


「二人で小規模な結界を作ってな。それで防いだ」


アイギットはその言葉に頷きかけ、しかしその直前で思い止まった。


「”二人で”?」


それが、彼の気になった点であった。二人と言うことは、タクトも含むだろうが、彼は術は使えないはず。なのになぜーー。


「そ、二人で」


「タクトは術が使えないだろ。なのにーー」


「あー、そういう事」


合点が行ったとばかりに頷いて、マモルはニヤリと笑って見せた。


「単純な事さ。術が使えるのは、何も人だけじゃないだろ」


「だから?」


その笑みを見て、少し気に触ったのか、アイギットは苛立ちを込めながらマモルに問い詰める。彼はまだわからないのか、と言わんばかりに、


「精霊も魔術、使えるだろ」


「……精霊が術を使ったのか?」


マモルのその発言に、アイギットは眉をひそめた。確かに、魔術は精霊の物なのだから使えるのだ。しかし、精霊と言うのは体の大半が魔力で構成されている。そんな彼らが魔術を使うと言うのは、命を削って使っていることと等しい。だからこそ、彼らは人の体にいることが多いのだ。


しかし、タクトの精霊であるコウは、不死鳥ーーつまり幻獣種の精霊である。確か幻獣種は、凄まじい魔力を持っている、と言う話を聞いた事がある。ならば、コウが魔術を使ったとしても何ら不思議はない。


(幻獣種ならでは。やっぱり、僕らとは格が違うね)


頭の中で、アイギットの精霊がそう呟く。ーーちなみに、彼の精霊は”水”。自然型の精霊であった。


詳しい詳細は省くが、元々精霊というのは自然物が意思を持った所から始まりであった。そこからどんどんと進化していき、魔力が意思を持ち、それが自然型や動物型、幻獣型になっていったのだという。


そんな過程があるからか、精霊使いが使うコベラ式は、魔力を自然物に変化させる、属性変化術に特化しているのだ。なにせ、元が”自然”なのだから。


話を戻すが、だからといってコウが魔力をーーつまり命を削ったと言う事に変わりはない。今タクトの中で眠っていると言うが、それは魔力を回復させるためだろう。


ふうんと納得し、その隣でレナが、先程から気になっていた事を話し出した。


「ねぇ、先輩方は何処行ったの?」


 ~~~~~


「……どうだった?」


「ーー駄目だ。転移したんだろうな」


炎の爆心地で、ギリは屈んで地面に手を触れる。まだそこは、熱を帯びており、それが竜巻の威力の高さを物語っていた。しかし、彼ら三人がここに来たのは、そのことを確かめるためではない。


セシリアの問いかけに、ギリはよっと立ち上がりながらそう言うが、一つ気になったことを口に出した。


「だけど、その前に術が効かなかったんだよな。ーーまるで、術自体を消された……いや、無力化? ……だけだ、似合う言葉が見つからない」


それが、ギリの抱いた違和感だった。なんというか、今まで感じたことのない違和感だったため、それがなんなのか検討がつけられずにいる。そんな彼に、フォーマは無表情であることを聞いてみた。


「じゃあ、あいつは何処に行ったんだ?」


「ーーそれがわかったら、苦労しないさ」


ギリはお手上げだと言わんばかりに両手を上げ、降参の意を示す。しかし、と彼は頷いて、


「あの黒い方はなんだかわからないけど、多分あれが持っていた剣は、神器で間違いないだろうな」


「やっぱし」


その見解を聞いて、セシリアはため息をついた。だけど、これでやることがわかった。ーー神器が関わっている以上、私たちに出来ることはない。厄介ごとに首を突っ込むのがうまいギリといえど、これは私たちの手に余る、と彼女は思った。


「あ~、もうめんどくせぇな~」


そう言って頭をガリガリとかいているその姿を見るに、おそらく同じ事を思っているのだろう、彼は忌々しそうに言った。


「学園に言って、本部に任せようか。もう俺は知らん」


ばっさりと切り捨てるあたりが、彼らしい。しかし、フォーマがそんな彼を見て一言。


「……本部の誘いを蹴ったというのに、そうして良いのか?」


「大丈夫。いざとなったら、学園にかばって貰うし、先輩のコネでとある世界で精霊使いやろうかなと思っているし」


どこまでも多力本願な彼の言葉に、セシリアは苦笑を浮かべた。ーーだけど、それが彼らしいとも思う。隣を見れば、フォーマも釣られて笑っている。


ーー腹の底では、違うことを考えながらーー


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