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精霊の担い手  作者: 天剣
1年時
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第22話 神器

……気がついたら、3週間近くぶりの更新。ここはアレだな、うん。


スミマセンでしたーー!!(土下座


その分若干長くなっていますが……未だリハビリ中なので、おそらく長めなだけの駄文。

結界の中心に、それはいた。


鎧のいたる所から針が突きだした、刺々しい黒い鎧を身に纏ったそれは、手に古風な剣をぶら下げている。


異形の発生源になっているそこでは、その鎧からはなんの気配も感じられなかった。


顔を覆うヘイムを被っているというのに、その僅かな隙間から漏れてくる呼気の音が、全く聞こえないーーつまり、息をしていない。


「………」


鎧ーー黒騎士は、真っ正面を見つめ、自身の周りにいる異形達と共に結界に閉じ込められる。それなのに、黒騎士は全く動じない。ーーまるで、そうなることを待ち望んでいたかのように。


(……強く……)


黒騎士が常に考えていること、それはそのことだった。強くなる。ただ強くなることが、それの目的であった。鎧から黒いバブルを吹き出させて、一歩一歩進むそれには、もう人の意識はなかった。体を動かしているのは、もっと違う何かーー。


手に持つアニュラス・ブレードを、黒騎士は振り上げる。今結界の外にいる数名の精霊使い、最初の得物は彼らだと思いながら。


全てを切り裂く力を持つ神器、アニュラスを。黒騎士は振り下ろした。


 ~~~~~


ーーほんの一瞬の出来事だった。閉じ込めきれなかった数体の異形を全て打ち倒したタクト達は、結界を見つめながら応援の精霊使い達が来るのをずっと待っていた。


油断はしていたが、何よりも、目の前で起こったことが信じられない思いが強かった。何せ、今目の前であり得ないことが起きたのだから。


「……うそだろ……」


アイギットの声が聞こえたが、それに何か言葉を返すことは出来なかった。自分も、同じ思いなのだから。


「結界が……切り裂かれた……?」


レナも、目の前の現状を見て、そう呟きを漏らす。ーー彼女が展開させた結界が、大きな音を立てて砕かれた。それを見て、驚きを隠せない。


「……っ! みんな、ボケッとしていられないよっ!」


目を見開き、ボケッとその状態を見ていたが、やがて異形達が動き出したのを見て、タクトは渇を飛ばす。そして、証を取り出し、構えた。


結界が壊れたことにより、封じ込めていた異形達が動き始めたのだ。みなもそれに気がついたのか、ハッとした表情になると、二人は慌てて呪文を唱え出す。ーーしかし一人だけ、全く動じていない人がいた。


「………」


「……? コル……!」


コルダである。彼女は、結界が壊れても動じずーーいや、やっぱりと言うふうにため息をついた。そのため息の意味を、タクトは尋ねたかったが、しかしそれは出来なかった。異形の群れが、一斉に襲いかかってきたのだ、尋ねられる訳がなかった。


「くっ……爪破!」


彼は舌打ちを一つ放つと、即座に四之太刀、爪破を使う。ただし、今度のそれは、相手に切っ先を向けるのではなく、地面に突き刺して魔力を解き放った。


すると、彼を中心にして衝撃波が走り、襲いかかってきた複数の異形達を吹き飛ばす。そして突き刺した状態から、一気に刀を振り上げ、目の前に斬撃を走らせる。


「伍之太刀ーー残刃ざんば!」


だがその斬撃は、刀本体によって放たれた物と、”魔力で構成された”、4本の斬撃、計五本の斬撃へと変える。分裂した五本の斬撃は、それぞれ五体の異形を同時に切り裂いた。


太刀を分裂させる、それが伍之太刀、残刃である。飛刃とは違い、刃を飛ばす事は出来ないが、一瞬で手数を増やすことが出来るが、霊印流の基本の太刀の中では消費魔力が一番大きい。


目の前にいた五体の異形を切り伏せると、横にいるそれが腕を振り上げる。そのことを横目で確認すると、自身の頭上に魔法陣を展開、彼は器用にそこに飛び上がる。


振り下ろされた爪を避け、タクトはそこから剣先に魔力を収束させーー


「四之太刀、爪破!」


陣から飛び降りるなり、そのまま剣先を地面に突き刺し、魔力を解放。発生させた衝撃波で周りの異形を吹き飛ばす。


「ふぅ……っ!」


一息つく間もなく、全身に悪寒が走り、タクトは直感に従ってすぐさま刀を拾って後ろへと瞬歩。ーー直ぐ側を、何かが”通り過ぎた”。


(……一体何が……!?)


周囲を見渡そうとするが、それより先に異形達がタクトに襲いかかる。それに顔を歪め、迎撃しようとしてーーその必要はなかった。


頭上より飛来した炎が、その異形達を焼き払ったのだ。しかも、その炎は一つではなく、複数があちらこちらに降りかかり、異形を容赦なく焼いていく。あまりの熱さに、彼らが聞き取りにくい声で叫びだしたがタクトにはその声は聞こえていなかった。


「タクト、大丈夫!?」


「ふぅぅ……。ありがと、レナ。おかげで助かったよ」


「よ、よかったぁ~……」


彼女の慌てた声を聞いて、今度こそ一息つくと、タクトはそれを放った人物に礼を言う。距離が離れているので、声が届くかどうか心配だったが、レナは安堵のため息をついてホッとする。


「熱いか? なら、すぐにそれを冷まさせてやるよ」


と、今度はレナの隣にいるアイギットが凄惨な笑みを浮かべて手を突き出す。すると、その先に魔法陣が展開。そこから水を放つ。


「水龍!」


彼の叫びに答えるかのように、その水は龍の形を型取る。ーーシュリアとの模擬戦の時、彼女が放った炎竜を、アイギットはまねてみたのだ。その水龍は、異形達を次々と飲み込み、吹き飛ばしていく。それを見たレナは、頭にあることが浮かび上がり、呪文を一言唱える。


「アイギット、それで雨を降らせて!」


「……雨? ……これで良いのか?」


彼女の問いかけに、意味がわからないまま水龍を上空へ放ち、そこで形を維持するのをやめる。すると、水龍は一瞬で形を失い、水が雨のように降り注ぐ。


「うん、それで良いよ! タクト、コルダを安全な場所へ!」


そして、彼女は魔法陣を展開、それを黄色に輝かせる。それを見て、アイギットは気づいたかのように目を見開き、タクトは反対に頬を引きつらせた。


バッと振り返り、コルダがどこにいるのか目を光らせーー直ぐに見つかった。彼女は弓矢を手に、襲いかかってくる異形達をその矢で次々に葬っていく。


「コルダ、逃げるよ!!」


「わかった!!」


タクトは彼女に近づき、そう声をかける。すると彼女は、矢を1本放ち、異形を倒すと勢いよく返事を返し、そのまま駆け足でタクトの側までやってくる。彼女の手を掴むと、そのまま瞬歩を使い、その場を離脱した。


「行くよ……これで、終わりだよ!!」


レナは、目の前に展開させた黄色の魔法陣から、雷を発生させる。バリバリバリと電気がたまり、その雷は一斉に異形の群れに襲いかかった。


ーー先程の水龍の雨によって、”濡れた”異形達に。


雷が集団にぶつかった瞬間、濡れた体を通して雷が良く通り、ダメージを倍加させる。異形達は聞き取れないほどの甲高い声で、身を焼き付くさんばかりの痛みに鳴き声を放つ。だが、その鳴き声もだんだんと小さくなっていき、ついには消えた。


雷が自然に消えると、そこに残っていた異形達はなく、代わりに白い灰があるだけだったーーそれも、吹いてくる風によってあちこちに飛ばさる。


それを確認すると、タクトはようやく終わった、とばかりにため息をつきかけーーあるものに目が行った。


「…黒い……鎧…?」


「タクト……?」


呆然とした表情の彼に、コルダはそう呼びかけるが、その言葉は耳に入らなかった。彼が見た物、それは黒い鎧であった。しかし、鎧の至る所に針が突きだしており、刺々しい物となっている。


そして、その手に持つ、古びた剣にも。その剣を見た瞬間、背筋にいやな物が走った。ーーぞくりというような物が。そしてそれは、先程見えない何かを躱したときと同様の物だった。


「…なに、アレ……? それに、タクト…?」


いつの間にか近づいてきたのか、レナ達も鎧を指さしてそう言う。しかし、コルダの時と同様、全く反応しない。レナもそれにどうしたんだろうと思い彼の顔をのぞき込みーーすぐに、異常なことが起きているとわかった。


「だ、大丈夫!? すごい汗……!」


「………」


顔中から汗をーー冷や汗という名の汗を流し、タクトは無言でゆっくりと刀を握る手に力を込める。ーー危険過ぎる。それが、タクトの思いだった。


「……なんなんだ、この冷や汗は…?」


どうやらアイギットも感じているようで、彼も顔色を悪くさせながらそれを見ていた。


皆が注目する中、黒騎士はゆっくりとした動作で手を前に突き出す。すると、体中からあふれさせている黒いバブルが、より一層あふれてくる。


バブルが下の地面に落ちて広がり、黒騎士の足下を黒く染め上げる。すると、黒く染まった足下から手が生えてきた。


「なっ……!?」


「うそっ……!?」


そのあまりの光景に、一同は息をのむ。黒く染まった地面ーーまるで巨大な穴となったそこから、登ってくるような感じで手が現れたのだ。そして、その手が体を”引っ張り上げ”、異形が姿を現した。


「……そうやって出てくるのかよ……。きりがない」


顔を盛大に歪ませ、悔しそうにアイギットは呟いた。倒しても倒しても”湧き上がってくる”のなら、それを湧き上がらせている元を倒さなければならないがーー生憎、この数を相手取ることは出来ない。それをわかっているからか、その表情には、もはや戦意はなかった。ーーそれは、他の三人も同様だったが。


(……アレを使おうか……)


そんな中、状況を見かねたコルダが、そう胸の中で呟く。あるのだ、彼女には。この状況をひっくり返す、”切り札ジョーカー”が。


しかし、それを使うにはためらいがあった。コルダは周りをちらっと見やりーー過去の光景が蘇る。大人が、親友が、親がーー自分のことを、化け物を見るような目つきで見ていることを。


『だけど、話したくなったら……。誰かに聞いて欲しかったら、僕たちに相談して。力に、なるから……』


すると、脳裏にタクトのその言葉が木霊する。それを聞いたとき、彼女は思ったのだ。ーーようやく、本当の”友達”を見つけたのだと。


奇しくもアイギットと同じ事を思ったのだが、そのことは二人とも知らないであろう。そう思い、彼女は苦笑する。


(タクトって、人を引き寄せる物を持っているよね、ベラ)


(そうね……。使うの?)


ベラーー彼女の精霊は、コルダが言った言葉に頷き、そして確認をするかのように問いかける。コルダは、その問いになんの躊躇もなく頷いた。


(うん。……もう、友達を失いたくないから……)


そうベラに返し、己の中に眠る力を解放しようとしてーー。


突如、銃声が響き渡った。それと同時に、二体の異形が倒れ、塵と化した。そのことに驚き、その場にいた四人は一斉にそちらを振り返った。


「悪いな、遅くなった!」


「……良いところでしゃしゃり出てくるな……」


銃声を響かせた人物ーー茶髪の長身の少年は、両手にゴツイ銃を二丁構えながらこちらに向かって走ってくる。アイギットはその人物の一言を聞いて、嫌みとも取れる事を呟く。ーーしかし、その表情には笑みが浮かんでいた。それに少年ーー宮藤マモルは、にやりと笑い、


「やっぱ、ヒーローは遅れてやってくる物だよね、うん」


「………」


彼のその言葉に、一同は無言。と言うか、若干イラッと来た。マモルは、周りの目が冷たくなったことに気がつかず、さらに続ける。


「それに、心強い助っ人を呼んできたぜ!」


「助っ人?」


オウム返しのように、レナがそう口にする。マモルは彼女の問いに頷くと、彼の背後から複数の火球が異形の群れに衝突、一気に炎がふくれあがる。


「全く、久しぶりのオフだってのに、物の見事に潰してくれてよぉ~……」


「そう言わないの。後輩が危険な目にあっているって言うのに、先輩である私たちが後ろから見ていて良いの?」


「それに、アンタの場合、いつもオフみたいな物だろ」


その火球が飛んできた方向を見ると、とある三人がこちらに手を向けた状態で立っていた。ーー交わしている会話には、全然緊張感がないが。


タクトはその三人のうち、二人に心当たりがあった。ーー以前生徒会長の捜索をした中であるセシリアと、その捜索対象であったギリである。


最後の一人は見たことはない。眼鏡をかけており、かなりの童顔で三人よりも年下に思えるが、交わす言葉の気安さから、同い年かも知れない。


「ギリ先輩に、セシリア先輩……? ひょっとして、助けに?」


「よ、久しぶり!」


「そうよ…って、のんきに挨拶している場合じゃないでしょ!?」


相変わらずのやりとりを交わす二人を見て、タクトははぁっとため息をついた。状況が飲み込めず、オロオロしているアイギットとレナ、コルダは互いに顔を見合わせる。


「ええっと……三人は、一体どう言う?」


「それは後にしてくれ。今はーー」


レナの言葉を童顔の少年ーーフォーマは遮り、ある一点に指を差して、


「ーーアレを捕らえるのが先決」


「そうだな……さて、やるかお前”達”!」


「え……俺達も?」


「流石に俺達三人じゃ、あの数はまずいんでな。手ぇかしてくれ!」


フォーマの言葉に頷いた後、タクト達を見てそう言う。それを聞いたアイギットが、自分たちを指さしてそう問いかける。ーー空気的に、”後は任せろ!”的な雰囲気だったので。するとギリは、いっそ清々しいほどにまで素直にそう言った。


それを聞き、一同は思う。ーー大丈夫か? と。

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