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精霊の担い手  作者: 天剣
1年時
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第20話 吹き抜ける風 ~3~

……少しばかり自重せねば、と思いました。


いきなり何が、と言われそうですが……うん、自分が設定魔、と言う事にww


その設定を忘れないようにメモ代わりに書こうと思ったんですが……絶対膨大な量になるww

双剣を振るい、双刃を振るい、時には魔術を使って目の前の精霊使い達を倒していく。服が返り血を浴びるが、全く構わない。


彼らは外魔者として認定されているのだ。そんな相手に、情けは無用であるし、何より生きてフェルアントに捕まったとしても、待っているのは極刑である。彼らはそれだけのことをしていたし、何よりフェルアントもそこまで甘くはない。


「ふう……」


一段落が付き、ため息をついて彼は双刃をビュンと一振り。それだけで、剣に付いていた血糊を吹き飛ばした。


周りで立っている者は、彼一人しかいない。当然皆、彼に殺されたのだ。それだけのことをしたのに、あまり疲れた様子など見せず、むしろ気怠げに瞬きした。


「これで、残るはあそこに隠れた奴だけか」

「そうだな。しかし……」


いつの間にか緑色の鳥ーー彼の精霊、スパラーが、アンネルの顔を伺う。


「どこか……嫌な予感がしないか?」

「お前もか」


スパラーの言葉に、アンネルは苦い顔を浮かべて大樹を見やる。しかし、木の内部など見えるはずがない。


この嫌な予感が自分一人、もしくは精霊一人だけならば、少しばかり用心するだけなのだが、これが二人そろうと、思わず首を傾げたくなる。


なるべくなら、足は踏み入れたくないな、と思うが、悲しいことにこれは任務。それも、彼の直属の上司によるものである。


無下にも出来ず、ふうと再度ため息を吐く。腹を括り、中へ入ろうと足を踏み出そうとして。


ーードクンーー


そんな、大気が震える音を、確かに聞いた。この音はーー


「……見事に当たったな、嫌な予感が」

「………」


そう一人呟くが、自身の相棒たるスパラーは無言のまま、ジッと前を見つめるだけである。


ーードクンーー


再度の震える音。それはどこか、心音にも似ていて、それが一層不気味さをにじみ出している。しかも今度のは先程よりもはっきりと聞こえていた。


それらのことが重なり、アンネルとスパラーは互いに目を細め、ジッと前を見やる。言葉を重ねるでもなく、スパラーはアンネルの中へと戻っていった。


(気を付けろよ、相棒)

「任せとけ!」


自信満々、と言う風に言いたかったが、そう言えたかどうかは自信がない。それほどの何かを、アンネルは大樹の中から感じていたのだ。そしてーー


ーードクン!--


三度目の心音にも似たその音。それと共に、大樹が半壊した。何の前触れもなく、だ。


四方八方に飛び散る木のかけらを、アンネルは目の前に白い魔法陣を展開させ、それを防ぐ。飛び散ったそれは、アンネルの視界を遮り、粉塵を上げて覆い隠した。


アンネルはそれに目を細め、粉塵が収まるのを待つ。しばらくして、粉塵がだんだんと無くなっていき、ついにそれが見えてきた。


「……?」


そのシルエットに、アンネルは思わず目を細める。一瞬、何かおかしい物が見えた気がしたのだ。しかし、それはすぐに再び舞い上がった粉塵によって隠されてしまう。


(……アンネル。今、何か見えなかったか?)

「だよな。なんか見えたよな」


再び意見が一致する。と言う事は、今見えた物は目の錯覚などではなかったのだ。アンネルはそれが気になり、一気にこの粉塵をなくすことにする。


一言呪文を唱え、緑色の魔法陣を展開。そこから一陣の風を吹かせ、その粉塵を吹き飛ばす。そして、隠れていた物を見て、アンネルは驚愕した。


それと同時に何かを感じ取りーーそれが恐怖だとわかるのに数秒要した。


それは、黒い甲冑であった。全身を覆い隠す形のそれは、刺々しい角を、至る所から生やしている。いや、角と言うより、太い針と言ったところか。


よくよく見ると、その針は至る所から生やしているのではなくて、鎧の一パーツごとに1本はある。だが、彼がそれに気づかなかったのは、それを見た瞬間、彼は全身から冷や汗を流し、顔を青くさせて、しゃがみ込んでしまったからだ。


その甲冑から感じる気配ーー死の恐怖。それを、もろに受けてしまったのだから。


「な……なんだ、ありゃ……!?」

(わからない……だけどあれは、アレが持つ剣は……!?)

「っ!?」


しゃがみ込んだまま、彼はそれが持つ剣を目に焼き付ける。それは、まさしく彼が先程殲滅した部隊から回収しようとしていた物ーー神器であった。


全てを切り裂く魔剣ーーアニュラス・ブレード。古風なその剣は、しかし何故か不気味なオーラを発していた。そのオーラは一見魔力だが、黒色であった。


(黒い……魔力だと……!?)


どう言うことだ、と自問する。普通魔力というのは、一貫して白である。しかし、剣が発する魔力のオーラは黒。正反対の配色である。


(どう言うことだ……!? あの剣はそもそも、”魔力なんて持っていない”はずだろ!?)

(わからない、一体どう言うことだ!?)


あの黒いオーラを魔力としても、疑問が浮かび上がる。大抵の神器の動力源は魔力ではなく、未知のエネルギーである。無論、全てが全てそうであるとは言い切れないが。


しかし、断言できる。アニュラスの動力源は、魔力ではない。そう、アニュラスの発見者ーー”アニュレイト”に聞いたのだ。


聞いた話だと、そもそもあのようにオーラを発することはない。と言うか聞いてない。だとしたら、あの黒いオーラは魔力ではないのか。そう思いたくなるが、この感じ方は間違いなく魔力である。


(スパラー、あの黒いオーラ、魔力だよな?)

(ああ、間違いない。……何故黒なのかは、まるでわからないが……)


念のために相棒に聞いてみたが、帰ってきたのは肯定の言葉だった。精霊であるスパラーが言うのだ、間違いなく魔力である。


アンネルは何もわからず、ただ顔を歪ませ、それを見つめるしか出来ない。彼が凝視しているその黒い甲冑ーー黒騎士、とでも呼ぼうか。それは、手に持つ魔剣を、ただアンネル目掛けて振り下ろした。


普通なら、その動作には意味は無かっただろう。アンネルと黒騎士との距離は、ざっと五十メートル。どれだけ頑張って剣を振り下ろしたところで、刃が彼の体に当たることはない。


だが、魔剣は普通ではなかった。


黒騎士が剣を振り下ろすーーその瞬間、アンネルの背筋に冷たい物が走り、本能のままさっと体を横に避ける。ーーまるで、振り下ろされた剣を、避けるかのように。


彼の耳元で、何かが”通り過ぎた”音を確かに聞きーー後ろで、辺り一帯が不自然なまでに静かになった。彼は顔を青白くさせたまま、そっと後ろを振り返る。


そこで見た物は、巨大な大樹が上下に”ずれていた”。ちょうど、真ん中あたりから、縦に剃って。


それを、あり得ない、とでも言い足そうな表情のまま、呆然と見続けーーそして、我に返った。


教えてくれていたではないか。アニュラスは、全てを切り裂く。何もそれは、万物に限った話ではない。万物ーーいや、万物が存在する”空間”すらも切り裂くことが出来ると。


万物が存在する空間を斬る。それは一見、何の効果も無いように思えるが、それは全くの誤解である。


空間を斬る、と言う事を言い換えると、空間をずらす、と言う事である。従って、ずれた空間内にある物も皆ずれる事になる。ただ、ここで一つ問題が起こるのだ。


ずれた空間は、元に戻ろうとするのだ。ずれた空間も、時がたてば元に戻り、何事もなかったようになる。しかし、空間と共にずれた物質は、元には戻らない。ずれたままである。


それが何を意味するのかーー答えは、アンネルがしかと見届けた。


上下にずれた巨大な大樹。そのずれが、やがてなくなり、ぴたりと一致する。だが、ぴたりと一致した次の瞬間。


大樹が、縦に切り裂かれた。ちらりと見えたが、その断面図はあり得ないほどに美しくーー言わば、”元から二つに分かれていた”と言っても過言ではない。


二つに裂けた大樹は、やがて土埃を盛大に巻き上げながら倒れていった。無論、数百メートル先にまで響き渡りそうな轟音を上げて。


それに呆然としつつ、しかしすぐにそれをやらかした黒騎士に目を向ける。黒騎士は、顔を覆うヘルムによって、表情は見えない。しかし、喜んでいるみたいだった。


「くっくっくっ……! やった、やったぞ……! 予定を遥かに狂わせてしまったが、この力はそれをも遥かに上回る……!! この力さえ、この力さえあれば……!!」


冷たく暗い笑いを上げながら、黒騎士は鎧を振るわせていた。アンネルは、その笑いを知っている。冷たく暗い笑いーー狂気の笑みを。


くっと、唇を噛み、恐怖でなくしてしまいそうな闘争心をかき集め、彼は立ち上がる。手に持つ双刃を二つに分離し、逆手に握ったまま黒騎士と対峙する。


だが、黒騎士はそんな彼を見て、冷たくあざ笑う。


「ふん。所詮そんな物なのだな、貴様の力は」

「……野郎……」


その言葉にアンネルはぴくりとこめかみを引きつらせるが、ぐっと息を飲んで我慢する。先程までは、彼の力に恐怖していた黒騎士となったリーダーだが、そんなことは既に星の彼方である。


口調も先程までと打って変わり、大きく出た彼は、さらに続ける。


「大きすぎる力を前にして、絶望する。それが、今のフェルアントなのだな」


ーー言わせておけば!!


そう叫び出しそうになるのを押さえ、黒騎士に気づかれないようにそっと呪文を唱える。小さくて誰にも聞こえないその詠唱は、密かに発動し始めていた。


彼の言葉はまだ続く。


「ならば私は、この力を持って、あの組織を変えるとしよう」


その言葉に、アンネルは硬直した。組織を変えるーーそれは、当然ながら今ここでは出来ないことだ。ならば、彼が行おうとしている事はーー。


直後、黒騎士の足下に魔法陣ーーこちらも黒であるーーが展開された。同時に、それが怪しく光り始めーー。


ーー術発動、間に合うか!


アンネルは残りの詠唱を、先程までの倍の速度で唱える。今までのスピードでは、絶対に間に合わないーーそう判断したからだ。


黒騎士の陣の発光が、だんだんと点滅してきた。転移の兆候である。それを、苦虫を潰すような表情で見てーーしかし、間に合った。


同時に、その表情をしてやったり、と言うような笑みに変えて、彼は叫ぶ。


「さっきからぐだぐだ言ってたがーー仕返しだ!! これで、お前を捕らえる!!」


手を伸ばして、彼を囲むように陣を展開させる。発動させる術は、神器を封印する魔術。それが展開されると同時に、黒い陣の発光が緩やかになりーー。


「っ!! しまったっ!!」


黒騎士が狼狽しーー突如、それに反応するかのように、彼の体ーーもっと言えば鎧の隙間から、黒い何かが吹き出してきた。それに、アンネルは驚きの表情を見せた。


しかし、彼以上に驚いた人物がいた。


「な、何だこれはっ!?」


ーー黒騎士自身であった。


黒い何か、それは一見バブルに見えてた。それにアンネルは眉根を寄せるが、バブルは全く気にせず、むしろどんどんと溢れかえっていく。


やがてそれは、地面にも広がり、彼を囲む。黒騎士を中心として、その黒いバブルは絨毯のように広がり、地面を漆黒で染め上げる。


その様子を見ていたアンネルは、まるで巨大な落とし穴か何かだなと思いーー同時に、二つのことに気がついた。


まず一つ。体が自由に動く。さっきは黒騎士が放つ死の恐怖によって指1本動かすのが困難だったのだが、それが物の見事に消えている。そしてもう一つ、彼が展開していた陣が”消えた”。


魔法陣は、魔術において重要な役割を果たす。当然のことながら、陣が無ければ術は発動できない。それが消えたと言う事は、彼が発動しようとしていた、神器を封印する術が発動できなくなったと言うこと。


何かによって、術自体を消した?


それが、彼のたどり着いた結論である。しかし、彼は知らない。術が消えたのではなく、初歩的な、それでいてもっと大事な物が”硬化”した、と言う事に。


つまり、もっと大事なそれが硬化して使用出来なくなったために、術が消えたのだ。しかし、消えた、と言う一点のみ、同じ事である。


術が消えたことに歯がみし、アンネルは再度呪文を唱えようとして。


(アンネル、あれ!!)

「どうし……た……」


精霊の声に導かれ、そちらを向くと、声が尻すぼみしていく。当然である。目の前で、ホラー映画を思い出させる現象を、間近で見たのだから。


黒騎士が周りに広げた黒いバブル。漆黒の絨毯として染め上げられたそこから、異形が”這い上がってきた”。


先程、黒い穴、と言ったが、そこから文字通り這い上がってきた。そんな光景であった。その光景に、思わず先程とは違う恐怖が浮かび上がってきた。


その異形ーー外魔は、人型の形をしていた。全体は黒く、下半身は太く短い。上半身ーー特に腕は、細く長くなっている。そして頭部は、人ならばあるはずのパーツがなく、あるのは目だけになっている。しかし、その目も全体が赤く染まり、ちょうど真ん中あたりにたった一つあるだけ。口のあたりには、無数の触手がうようよしていた。


はっきり言って気持ち悪いーー生理的に受け付けない状態のそれが、複数生まれてきていたのだ。


その数、ざっと百。


それらが聞きとりずらい叫び声を上げ、流石にぞーっと青くなった顔でその様子を呆然と眺めていたが、その真ん中あたりから聞こえた別種の叫びに我に返った。


「うぐ……あっ……!! あがっ……!!」


周りが黒一色で染まってしまったため、保護色で見えずらくなった黒騎士は、なにやら苦しそうに叫び声を上げていた。


それを、訝しげに見つめーーやがて、その叫びはワンランク上の、叫びから絶叫へと変わった。



『ううぅぅぅあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』



同時に、黒騎士は光に包まれーーその光は天に登っていく。


「くそっ……!」


光と同時に吹き荒れた風に、思わず腕で覆って防いでしまう。その間、何も見えなくなってーーやがて、その風が止まる。と同時に、アンネルは腕を下ろした。そして、目を凝らしてその光景を見て、ハッと気づいた。


「……何処行った!?」


黒騎士の姿だけが、忽然と消えていたのだ。それを見て叫ぶと、その声を皮切りにして”残された”百を超える外魔達が、声にならない叫びを上げ、アンネルに襲いかかったーー。

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