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精霊の担い手  作者: 天剣
1年時
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第18話 生徒会長の捜索 ~3~


「いや~、それにしても綺麗な眺めだよな~」


フェルアント学園の屋上、そこに赤い髪をした、いかにも軽そうな青年がいた。手すりに頬杖をつき、そこから見える眺めを満喫している。トントンと指でリズムを取りながら、空を眺める彼の表情はこの上なく緩んでいた。


「ゆっくり眠りたいけど……まだ駄目だしな~」


そう言ってうーんと伸びをし、それからふうっと息を吐く。


「そうは思いませんか? シュリア先生」

「……ばれていたか」


後ろを振り返ることなく、背後からする気配のみで彼女が来たことを察知し、先手を打ってそう呼びかける。すると、下の階へと続く扉がゆっくりと開かれ、彼女ーーシュリアが現れた。彼女はやや感心しつつ彼ーーギリ・マークのところへと歩いて行く。


自由人丸出しの生徒会長に近づくと、ギリはシュリアの方を向き、


「呼び出しておいて遅れるとは……それでもアナタは教師ですか?」


と、彼女に対し何ともフレンドリーな態度でそう言ってのける。いくら彼女から呼ばれ、そして呼んだ方が遅れたからとは言え、シュリアの普段の態度を知っている者ならば、絶対にしないであろう言葉と態度である。しかし、彼女は今はそのことはどうでも良いのか、


「それについてはすまなかったな。色々とやることがあったのだ」


そう言って彼女は持っていた荷物の中から一つの封書を取り出し、


「フェルアント本部から通達だ。内容は……まぁ、いつもの通りだ」

「……またですか」


そう差し出したが、彼は受け取らず、後ろを向いて目を閉じる。それにシュリアは、はぁとため息をつき、


「まあそう言うな。本部も人手不足なのだ。優秀な人材は欲しい、それだけのこと」


そう言ってのけた。


事実フェルアント本部は、大変な人手不足なのだ。精霊使いの数はそれなりにいるのだが、高ランクーーつまりランクが三位以上の者が、圧倒的に不足している。


そしてギリは、ランク的に言えば四位だが、それは書類上のことで、実質的に三位相当の実力を持っている。


当然、人手不足である本部は、そのような逸材を見逃すはずがなかった。


彼に渡された書類ーーそれには、こう書かれている。



『拝啓ーーギリ・マーク殿

貴殿をフェルリットランク第三位に昇格。同時に、フェルアント所属の精霊使いと認定する。後日、改めて本部に出向せよ。なお、日時はーーーーー』



と、言うわけである。書類に書かれていることを一言で表すと、引き抜き。学園などやめて本部に来い、と言う事だった。彼はまだ三年であり、本来ならば後一年間学業に専念しなければならないのだがーーそんなことはお構いなしである。


卒業したら本部所属になるか、支部所属になるのかという二択なのだが、この文面を見る限り、どこかに行く前に唾をつけておこうという意思が見え隠れしている。


少なくとも、今の本部長が指示したわけではないだろうと、ギリもシュリアも、そしてこの学園の教師陣は皆知っているだろう。


おそらくこれは、自分の保身と利益しか考えていない、ろくでなしの支部長達が独断でやっていることだろう。と言うか、それしか考えられない。


「返事はいつもの通りで」

「わかっているさ。あの馬鹿共に内の生徒をくれてやる訳にはいかないからな」


ギリの言葉に、とても頼もしい言葉を贈ってくれるシュリアに感謝しつつ、


「ありがたいことで……”先輩”」

「……ここでは先生と呼べ」


軽口で返すと、彼女は苦虫を潰したような表情でそう訂正してきた。ギリがまだ一年生の時、シュリアは彼の二つ上の先輩であり、その時から何かとお世話になってきているのだ。


と、そこで何を思ったのか、ふと今思いだしたような表情で振り向き、


「そう言えば……セイヤ先輩とはあの後進展はあったんですか?」

「……お前に言うことはないはずだが?」


うっ、と目線を逸らし、若干間を置いてそう言うが、ギリ相手にその反応はうかつだった。にへら~と嫌な笑みを浮かべると、


「おやおや~、何ですか、その反応は? どうです、ここでその全てをぶちまけるというのは?」

「それ以上減らず口を叩くと、お前のウォーミングアップを十倍に増やすぞ」

「すみませんでした」


からかいすぎたか、と後悔してシュリアの発言に即答で謝罪をする。これ以上下手に刺激して、言ったとおりのことをされたら間違いなく死ねる。


下げた頭を戻し、手すりに寄りかかって何となく上空を見上げる。そのままはぁ~と息を吐くが、その時上空を何度も旋回する”それ”に気づき、ギリは口を開く。


「……あれはシーパと……。そう言えばこの前、セイヤ先輩の従弟に会いましたよ」

「そうか」

「それで多分その従弟ーー」


そこまで言うと、シュリアの背後にある扉が勢いよく開け放たれ、バンッという音が鳴り響く。それに驚き、二人はそれを見やった。


「ふう、やっと見つけた……」

「はぁ~~~……ようやくだ……」


扉が開かれ、二人の生徒が現れた。一人は自分と同じ三年であり、同時に副会長を務めているセシリア。走ってきたのだろうか、若干息が荒くなっている。そしてその隣にはーー。


「ーーセシリアと一緒にここに来ましたよ」

「……ここに来るみたい、と言いたかったのか?」

「……その通りです」


まさか言い切る前に来るとは思わなかったので、途中で言い方を変えたが、シュリアにはあっけなく見破られる。そのことに若干落ち込んだ表情を見せるギリと、状況が掴めないのか、現れた二人は首を傾げていた。


 ~~~~~


その少し前。タクトとセシリアは校内を駆け回ってギリの行方を探しているところだった。


「全然見つからないですね……」

「そうね」


しかし、結果は芳しくなく、二人は一度校内に複数あるベンチーーつまり休憩所で休んでいた。やや疲れたような表情を見せながらタクトは言うが、先輩であるセシリアはこういうことには慣れているのか全く疲れていなさそうである。


そのことにちょっとだけ悔しいなぁと思う。これでも、スタミナには自信があったんだけど。などと彼が思っていると、


「おお~、何やってんだ、タクト」


声のした方を向くと、マモルがよっと手を上げながらこちらに向かってきている。そしてその隣には、彼の精霊であるガルーー大型犬の精霊だーーが、彼のそばをゆったりと歩いていた。綺麗な白と黒の毛並みであり、彼らはタクト達に笑いかけながら、


「もうそろそろ昼飯だけど、行かねぇか……って、無理そうだな」


気安くタクトを昼食に誘おうとしたが、隣にセシリアがいることに気づき、何かを悟ったのかそう締めくくる。それに対しタクトは、


「うん、ちょっと今はね。まぁ、もしかしたら昼食は一緒にできるかもしれないけど」


と、頭の後ろをポリポリと掻きながらそう答えた。わかった、と彼は頷いて、代わりにセシリアを横目で見るなり小声でつつく。


「それにしても、綺麗な人だな~。羨ましいよ、このこの♪」


そう言うなら、笑顔で僕の首を絞めないで欲しい。マモルの手を抑え、これ以上決まらないように抵抗しながらタクトは思う。


それを、セシリアは苦笑いを浮かべなが見やり、ガルはふうっとため息をつく。


「やれやれ。それぐらいで離してやったらどうだ、マモル。……というか、それ以上はまずいと思うが……」


相変わらず笑顔のままーーしかし、目は全く笑っておらず、それが彼の不満を大いに表していた。く、苦しいとタップをしながらタクトは言うが、彼は聞く耳を持たず、それどころかより一層締め付けを強くする。


「ギブギブ!」

「このまま落としてーー」

「そのぐらいにしときなさい」


見かねたセシリアが、ゴンっとマモルの頭にチョップを叩き込み、彼を開放させる。ようやく解放されたタクトは、ゴホッゴホッと息を吐き出しながら、涙目になってマモルを睨みつける。その様子がなぜか愛らしく、偶然一連の様子を見ていた関係のない生徒達ーー特に女子生徒たちからの非難の目を浴びせられる。


マモルは周りを見てそれに気づき、一気に悪ものになったことを理解する。しかしーー


(納得いかねーーー!!)


それが彼の本心であった。自分としては、なぜか綺麗な先輩と並んで歩いているタクトに嫉妬してやった行為なのだが、それがなぜ自分が悪ものになるのか。


むしろ、悪ものになるのはタクトの方ではないのか。そう考えてしまう。ーーまぁ、その考えは、男子にしか通じないことであるのだが。


しかし、居心地が悪くなったのも事実。ここは、素直に撤退したほうが良さそうだなと見切りをつけ、マモルはそそくさとその場所から離れていった。


彼が離れていったのを見届けると、一人なんだったんだろうと、独りごちて。


そして、それを見ていたセシリアが、「これも、才能なのかな?」と呟いていた事にもなんだったんだろうと再度思うタクトであった。


ふうっとため息をつくと、


「もう昼も近いですし、もう少ししたら食堂にでも行きませんか? 多分、昼だったらそこにいると思いますし」

「それもそうね。だったら、それまでは探しましょうか」


分かりましたとタクトは頷いて、そう言えばとあることを思った。


「聞きそびれてましたけど、先輩は何の用事でギリ先輩を探していたんですか?」


今の今まで聞いてなかったことを今になって思い、そう聞いてみると、彼女は重いため息を吐いて、


「彼、生徒会の仕事ほっぽり出していたのよ。それを捕まえようと探していたら、何の気まぐれか、歴史の教室に直行していてね」

「……それでですか」


ホントにもう、お疲れ様ですね、と心から思ってそう労りの言葉をかける。それが伝わったのか、彼女はありがと、と笑顔を浮かべた。


と、その時だった。


(タクト)

「コウ?」


不意に頭に声が響き、タクトは慌ててそう呼びかける。ちらりと横を見ると、彼女も精霊から何かを伝えてもらっているのか、真剣な表情で時折頷いている。


(何? もしかして見つかった?)

(ああ。今は校舎の西側の屋上だ)


西側の屋上ーー先ほどいた、歴史教室の真上である。散々探させておいて、そこにいたのかと落胆するが、今は置いておく。


(わかった、ありがとう。今そっちに行くから、見張っといて)

(了解。……ああ、それから)


そう言ってコウは一呼吸おいて、何かを喋ろうとーー


「えっ?」


隣にいたセシリアが、なぜか驚いた表情をしていた。それに、一体なにがあったんだろうと驚く間もなく、


(なぜかそばに、シュリアがいるぞ)

「……え?」


気がついたら、セシリアと同じ反応をしていた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ギリへの手紙で、拝啓と敬った形式で初めているのに内容は命令文なのが気になります。辞令のようなものであれば、拝啓等は付けないと思いますが…
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