第18話 生徒会長の捜索 ~1~
新学期が始まって以来最初の授業故か、新しく学ぶことはなく、そして先輩達は退屈そうな表情で西村の話を聞いていた。
流石、全学年共同で学ぶだけはある。来年は自分もあんな風に退屈するのかな、等と思いながらタクトは授業は受けていた。
鐘の音が鳴り、授業の終わりを告げると、皆そそくさと荷物を整え教室を出て行く。タクトもそれにならい、教科書やら筆やらを片付けると教室を後にする。
(おい、タクト。忘れてないか)
(? 何を?)
教室を出て数歩もしないうちにコウからそう言われ、タクトは首を傾げる。
(忘れているな……。後であの生徒会長に聞くことがあったんだろう)
「あっ」
思いだした、とでも言うように表情を変え、タクトは後ろを振り返り教室の中を見渡す。何であの生徒会長は自分のことを知っているのだろうか。おそらく、あの決闘事件のせいであろうが。
そう考えると、納得のいくことになる。生徒会長であるならば(あまり信用ならないが)、情報にも通じているはずだ。
(……よくよく考えると、変に勘ぐる事じゃなかったかな?)
うーんと悩みながらそう結論づけるが、やはり気になる。と言うか、決闘騒ぎのせいではないと、勘が働いているのだ。
(ま、聞く気になったんだし、聞いてみよう)
そう思いながら教室を見渡すが、誰もいない。生徒のほとんどが戻ってしまったようで、教室にいるのは西村と一人の女子生徒のみ。彼女は教室を見渡している彼を見やり、彼女は微笑んだ。
「桐生君どうしました? ここにはもう誰もいないですよ?」
「そうですよね。……あの、この席で寝ていた生徒会長、何処行ったか知らないですか?」
そう言いながら彼が寝ていた机のあたりに行ってそう聞いてみる。
「ああ、彼なら多分……屋上あたりじゃないですか? ……と言うか、何で彼が生徒会長だと?」
「一度話したことがあって、その時に知ったんです。……彼が生徒会長だと、やはり苦労しているんですか?」
「え、ええ、まぁ……」
はははっと笑いながらそう言う彼女の表情には、どこか疲れた色が見える。やはり、かなり破天荒な生徒会長様らしい。
「……お疲れ様です。じゃ僕、探しに行きますね」
「あ、待って下さい」
心からお疲れと言って、タクトは教室を出ようとしたが、それを西村が待ったをかける。振り向き、何ですかと問いかけると、
「セシリアさん、ここにいる桐生君も、彼を探しているみたいですよ~」
教室にいる一人残された女子生徒に西村はそう呼びかける。すると、銀髪なのか白髪なのかわからない髪色をした生徒がこちらを振り返った。
(うわぁ……)
(むぅ……)
タクトは彼女をポケーと見つめ、コウは感嘆の意を漏らす。顔立ちの整った人であり、かなりの美人である。
彼女はホッと息を吐くとそのままこちらまでやって来るなりタクトの方を見て、
「あなた、あの馬ーーもとい、ギリを探してるの?」
「え、ええまぁ。と言うか今、馬鹿って言うところでしたよね?」
「……否定はしないわ」
(……お疲れ様です)
若干諦めた感じでそう言う彼女に、西村の時と同じで同情する。そんなタクトの胸中など知ってか知らずか、
「まぁいいわ。私一人だとどうしても手が足りないのよ……。彼を探すの、手伝ってくれる?」
その問いかけに彼は頭をかいて、
「うーん、まぁいいですけど……。そんなに見つからないんですか?」
「そうなの。ギリの奴、隠れるのは超一流なのよ。おかげで生徒会でもさんざん苦労してきているんだから」
ふうっとため息をつきながら言う彼女の言葉を聞いて、タクトは首を傾げた。
「……さんざん苦労してきた?」
「ええ、私は生徒会の副会長をやっているの。……そう言えば自己紹介がまだだったわね。私の名前はセシリア。セシリア・フライヤって言うの。それで、アナタは……」
「あ、僕はタクトって言います。桐生タクト。よろしくお願いしますね」
生徒会ですか……それは大変ですね、等と思いながら頭を下げた。すると彼女は微笑みながら頷いて、
「ええ、よろしくね。もう教室にギリはいないみたいだから、とりあえず外に出ましょうか」
タクトに外に出るように促すと、彼女は西村の方を向いて、
「それでは先生。また次の授業に」
「ええ、また」
微笑みながら言うセシリアに対し、西村も同様に笑いながら別れの挨拶をした。
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「それで、何処を探します?」
「そうねぇ」
歴史の授業を行った教室から出ると、二人はまずこれからの作戦を立てる。タクトはうーんと考えながら、
「コウ、出てきて」
魔法陣からコウを呼び出す。陣から出てきた赤い鳥の姿をしたコウを見て、セシリアはへーっと感想を述べる。
「不死鳥なんだ、アナタの精霊。中々すごいのと契約を交わしたじゃない」
その褒め言葉には苦笑いを浮かべて、
「まぁ、僕にはもったいない精霊ですよ」
「そう思っているのはお前だけだ。私は、お前と契約を結ぶことが出来て良かったと思っているぞ」
不死鳥ーーコウからの思わぬ褒め言葉に、タクトは心がムズかゆくなるのを感じた。それに追従するかのようにセシリアも、
「そうそう。人が精霊を選ぶのではなく、精霊が人を選ぶものよ。良かったじゃない、その精霊に選ばれてさ」
そう言ってウィンクする彼女を見て、タクトは思わず見ほれてしまった。再びポケーとしだすか、それを頭上にいるコウが彼の頭を突いて元に戻させる。
「え、ええっと。とにかく、ギリ先輩を探しましょう。上空はコウ、お願いできる?」
「ま、よかろう。あの赤髪だな」
「ええ、そうよ。……それとコウ……だっけ? アナタだけで空から探すのは少し難しいんじゃない?」
セシリアのその言葉に、コウは少し悩んだが、やがて小さく頷いた。
「そうだな。この学園は広い。私だけでは何かと大変ではあるが……」
「やっぱし?」
彼女はそう言うと、タクトがやって見せたように魔法陣を展開させると、やがてその魔法陣から、白い小鳥ーーいや、ハヤブサかーーが、現れる。
「アナタのように幻獣タイプの精霊じゃないけど。でもこの子、中々頭は良いわよ」
そう言いながらタクト同様、肩にそのハヤブサを乗せると、
「シーパって言います。よろしくお願いしますね」
「……もしかしなくても、その子も空から探させるんですか?」
鈴が鳴るような、清らかな声を聞いてタクトはそう思った。するとセシリアは、
「ええそうよ。それにこの子、何度か奴を探し出しているから。ね、シーパ♪」
そう問いかけると、シーパは「はい」と頷いて答える。彼女(彼?)も、やる気満々のようだ。
「うーん……じゃあお願いします。僕たちは学園の中を探しましょう」
「ええ、わかったわ」
そう言うと、セシリアと共に廊下をかけだし、精霊達は窓から外へ出て、空高く飛び上がってギリの捜索を開始した。