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精霊の担い手  作者: 天剣
1年時
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第17話 歴史の狭間で

翌日ーー

フェルアント本部にて、一つの騒ぎが起こっていた。

元々フェルアントというのは、精霊使いフェルリットを束ねる組織であり、その世界の名をそのまま使っているのだ。つまりここで言うフェルアントというのは組織の方であり、その本部での騒ぎと言うことである。

現在本部ーーと言うか本部長がいる部屋の中で、たった今帰ってきた精霊使いの報告を聞いているところだった。


「ーーなるほど。どうやら、封印が解かれ始めているようだな」

「ええ、多分。今までの兆候から察するに、その可能性が高いかと」


フェルアント本部長にそう若干崩れた敬語で話すのは、先程プーリアから帰還してきたあの男である。二十代後半である彼は、青い短髪をした頭をかき、ふうっとため息をついた。


「ですが、流石に俺一人だと調査に限度がありますよ。何とかならないんすか?」

「そうぼやくな。私とて何とかしたいのだが、例の支部長達がな」

「……またすっか。奴らも懲りませんね~」


それを聞いて呆れたーーと言うか若干感心したのか、やれやれと言ったふうに首を振る彼はそうぼやく。本部長は、その支部長達とのやりとりを思い出し、


「まったく……地位に就くというのは、因果な物だな。こうも身動きが出来ないとは」


と、忌々しげに言い放つ。それを聞き、男は顔を引きつらせた。


「い、いや~、確かにアンタが動いたら奴らも黙るでしょうけど……。ですが、そうしたら奴らも中立であるアキラさんに泣きつくんでは?」

「アキラは泣きつかれても動かんだろう。元々奴らは私やアキラ、そしてお前さん達をただの駒としか見てないからな。おそらく蹴飛ばすだろうよ」


その時の様子を想像したのか、お互い顔をにやつかせ、クックックッと含み笑いを漏らす。


「そうでしょうね。まぁ良いでしょう、最悪、学園に頼んで何とかしてみます」

「……ホントに最悪だな。……こうなったらいっそ、”マスターリット”の募集をかけてみたら……」


本部長は難しい表情を浮かべ、そう提案するが、ものの2秒で却下された。


「いやいやいや、俺ら一応暗部の人間ですからね。そう言ったことを公の場でするのは……」

「そう言えばそうか……。すまん、配慮が足りなかったな」


本部長はそう言って頭を下げたが、逆に慌てたのは男の方である。


「いや、気にすることないですよ! と言うか頭を上げて下さいよ」


男のその一言で本部長は頭を上げたが、それでもやはり何か思うところがあるのか、思案顔で何かを思い詰めていた。それを見て、男は、


「……どうかしましたか?」

「いや、何でもない」


首を振りつつそう言ったが、やはり何かを考えたままなのは変わりない。


「……まあいい。それよりも、厄介な”神器”が目覚めた物だな」

「ええ、全くです」


考え事をいったんやめ、そう呟く。神器ーーそれが何を意味しているのか知っている二人は、そろってため息をついた。


「ここでだべっていても仕方がない。よろしく頼むぞ、”マスターリット”リーダー、アンネル・ブレイス」

「ま、仮のリーダーですけどね。頼まれました」


そう言って男ーーアンネルは茶目っ気たっぷりに言うと、そのままその部屋を後にした。


 ~~~~~


数日後。

休みが終わり、学園では授業を行っていた。

学園で行う授業はたくさんあり、それらは必ず受けなければならないと言う事はない。と言うか、その全てを受けていたら卒業が遙か彼方になってしまうらしい。

そのため、長い学園の歴史のなかで、すべてを受けて卒業した者は皆無である。

それほどの授業量を誇る学園でも、授業の人気に差が出てしまう。それは精霊使いの元々の役割に縛られてしまうからである。と言うのも、元々精霊使いというのは、一言で言うと戦士だからである。


「……歴史の授業ってここ?」

「ああ、多分な」


ある教室の前でタクトと、彼の肩に止まっているコウが会話をしていた。タクトはその答えを聞くと、躊躇なく扉を開ける。

今日の授業には、いつものメンバーはいない。なので、適当に話し込んでいる輪の中に入っていこうかなと思っていたが。


「………へっ?」

「ほう……」


扉を開けて、二人は思わず声を出した。その教室には誰もいない。


「ええっと……間違えたりしたかな、僕?」

「いや、教室を間違えたりとか、日時を間違えたりとかはない。……どう言うことだ?」


タクトよりも聡いコウは、周りを見渡して冷静に分析する。しかし、何もない。


「……これは……帰った方がいいかな?」

「いや、ダメだろう」


呆れた風に言うコウの言葉を引き継いだ。


「そうですよ、まだ授業は始まってないんですから」

「うわぁ!?」

「なっ……!?」


それも、後ろから。

いきなりのことに、二人は慌てて後ろを振り向く。するとそこには、栗色の髪を一つにまとめた、所謂ポニーテールの女性がそこにいた。

彼女はニッコリと笑うと、


「珍しいですね、歴史の授業でこんなに早く来る生徒さんは。新入生ですか?」

「え、ええ、そうですけど……。あれ?」

「? どうかしましたか?」


彼女の問いかけにタクトは呆然としながらそう答え、その後すぐに首を傾げた。


(この人、どこかで会ったような?)


記憶の中に引っかかる物があり、タクトはそれを思い出そうと必死になる。


「あの? どうしたんですか?」

「何をほおけているんだ?」


女性とコウ、両方から言われ、タクトはようやく我に返った。


「わ! ごめんコウ!」

「……コウ?」


何かに反応したのか、女性はコウの名を呟き、ふと何かを考える仕草をする。


「コウ、コウ……。あ、もしかしてアナタ、桐生君!?」


思い出したかのように言う女性の言葉に、タクトははいと頷いた。


「えっと……。僕ってそんなに有名ですか?」

「まぁ、入学早々決闘騒ぎなど起こせば有名になるわ」


コウの言葉に、それもそうか、と納得しかけたが、女性はクスリと笑いそれを否定した。


「いいえ、違いますよ。まぁ確かにそれもあるんですが……。その辺は、彼と似ていますね」

「彼? ……もしかして、セイヤですか?」


若干思い当たる節があり、タクトはそう聞き返す。すると女性は頷き、


「ええ、そうですよ。そう言えば自己紹介がまだでしたね。フェルアント学園教師、西村アヤカ。二十歳になったばかりの、ぴちぴちの独身です♪」

「いや、聞いてない」


その女性ーー西村アヤカの自己紹介に、コウがぴしゃりと言ってのけた。

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