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精霊の担い手  作者: 天剣
1年時
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第16話 休日の過ごし方


「………」

「………」


男二人ーータクトとマモルは無言で目の前を行く二人の後を付いていく。その両腕には決して多くはない量の買い物袋、その数々があった。女性と買い物に付き合うと、男達は必ずと言って良いほど荷物持ちをさせられる。

と言うのも、二人は別段何かほしい物があって街に出たのではなく、ただ何があるのかなと思い散策に出たので、荷物持ちをさせられても一向に構わないのだが。しかし、二人はなめていた。女性の買い物の、その長さを量に。

二人はその良い例であり、また、人は疲れてくるとだんだん口数が少なくなる。いろんな店をのぞき込み、品物を指さしながら喋っている二人ーーレナとコルダを見やり、タクトははぁ~とため息をついた。


「ねぇマモル……」

「ん」


疲れている故か、口数が少ないマモルの返答に苦笑しつつも、


「平和だね~」

「……今までも平和だっただろ」


呆れた風に応え、マモルはタクトの方を見やる。彼の方が背が低いので、自然と見下ろす感じとなる。


「いや、なんか現実逃避したくてさ」

「………」


それはわかる、と何度も無言で頷く彼を見て、タクトはホッとする。


「女の子って、何でこんなに買い物が長いんだろうね?」

「俺が知るか」


吐き捨てるように言い、マモルは前にいる二人に目をやった。二人は店にある品物ーー特にアクセサリー類を見ている。じっと見つめている二人を見て、マモルは不思議に思い、彼女らに近づき、それに気づいたタクトもまた後を追う。


「何見てるの?」


真剣な表情でアクセサリーをじっと見やる二人に問いかると、コルダが振り向き、


「二人にプレゼント。何か、これが良いって言うのない?」


そう返してきた。


「プレゼント?何で」

「今まで荷物持ちしてくれたから、そのお礼だよ」


レナが振り返るなりそう言って、手に持つ何かを見せてきた。


「タクト。これはどう?」


見せてきたのは、赤い翼を型取ったアクセサリー。それを見て、タクトはフッと笑う。


「コウのことも表してるの?」

「それは考えてなかったけど、確かにそう見えるね」


ははっと軽く笑いながら言い、タクトは一つ頷いて、


「良いと思うよ。思い出深いしね、赤い翼って」


と、そう答えた。その答えに満足したのか、レナは一つ頷くとマモルの方を向いてそれを見せた。


「マモルはこれ。良いと思わない?」


にこっと笑いながら見せてきたそれは、一見四角いプレートのような物。中央に剣を型取った穴が開いている。おぉ~っと感嘆の意を示しながらマモルはニッと笑う。


「良いじゃん良いじゃん。かっこいいな、それ」


それを聞いてレナは笑顔で、


「じゃあこれにするね。ちょっと待ってて」


と言うと、それを店の人に差し出し、会計を済ませる。その間にコルダは、無言であるものを見つめていた。


「………」

「? コルダ、どうしたの?」


その様子に気づいたタクトが、そう聞くと彼女は珍し事をした。いつもの笑顔に似合わず、どこか悲痛で、儚い笑みを浮かべたのだ。

思わず眉をひそめるタクトに気づかず、彼女は、


「……やっぱし、捨てられないよね……」


誰にも聞こえない程の小さな声でそう言い、数あるアクセサリーの中から一つを手に取る。それは木を編んで作った、何かのレリーフ。それに思うところがあるのか、彼女はずっと見続けている。


「……コルダ?」


タクトの呼び声に、やっと反応した彼女は慌ててそれを元に戻し、


「あ、な、何?」


そう言っていつもの笑顔を浮かべた。その様子にタクトは首を傾げ、


「いや、何かそれを持ってて……。それ、ほしいの?」

「ううん、そうじゃないの。これ、昔持ってたことがあって、思わず懐かしいな~って」


はははっと笑いながら言う彼女に、へぇ~っと返すと、その脇からマモルの腕が伸びてきた。それに気づき、思わず彼の方を向くタクトは、マモルが手に取った物ーー先程コルダが持っていたレリーフーーを見て、


「どうしたの?」

「いや、これ……。どっかで見たような……」


マモルが口に出したその言葉。それを聞いて、コルダは心臓がドキンと跳ね上がるのを感じた。


(もしかして……)


まずいーーそう思ったが、その思いはすぐに消えた。


「う~ん……気のせいかな?」


首を傾げながら言う彼を見て、ひとまずホッと息を吐く。と、そこでちょうど良く、


「何してるの、三人とも?」


と、会計を終え、手に小さな袋を二つ持つレナの声が響いた。


「いや、何でもない」


彼女のかけた声にそう返し、マモルは手に持っていたレリーフを元の場所に戻した。そして彼女の方を向いて、


「そう言えばそれ、結構高かったんじゃないのか?」

「大丈夫だよ。意外と値段はしなかったし」


そう言って、それぞれの袋をタクトとマモルに渡してきた。それぞれ受け取ると、タクトは、


「ちなみに幾らしたの?」

「二つ合わせて20アン。値段の割には良い見栄えするよね?」

「え、それだけ!?」


値段を聞いて、おおっと声を上げた。20アンと言うことは、円に直すとだいたい四百円ぐらい。あの出来栄えなら確かに、四百円は結構なお得である。

そう言うと、レナはコルダの方を向き、


「じゃあ、お買い物を再開しようか?」

「賛成!」


彼女の声に重なるようにコルダが勢いよく手を上げ、歓声を上げる。それと同時に、男達二人は心の中で違う意味の歓声を上げる。


(ええ、まだ!?)

(女の買い物ってのは、ここまで時間のかかる物なのか!?)


歓声と言うよりは悲鳴か。先程、お礼としてアクセサリーを買って貰ったので、これで終わりだと思っていた二人は、開いた口がふさがらない状態になってしまった。


「さ、行こう行こう♪」

「あ、待ってよコルダ」


上機嫌に、そして傍目からは幼すぎる精神年齢をしている彼女に追いつこうと、レナは急ぎ足で近寄る。その後ろから、男達は(一人は少女みたいな顔立ちをしているが)ふうっとため息をつき、今日という休日を潰すことにする。

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