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精霊の担い手  作者: 天剣
2年時
255/261

第40話 それぞれが、前へ進むために~3~

リアル事情により大分間が空いてしまい申し訳ありませんでした。

ただ投降できない期間が出来てしまっただけであり、その間にも執筆は続けていたため、多少の書き溜めは出来ています。

少しの間ですが、週一から周二のペースで投降出来れば……出来たら良いと、思います……。


「―――――」


桐生邸からやや離れた山間部で、数人が跪いて手を合わせている。彼らの目の前には、複数の石が積み重なって置かれており、まるで墓石のように扱われていた。


実際、積み重ねられた石は墓石代わりであった。急ごしらえの墓であることを申し訳なく思いながらも、エンプリッターからの亡命者であるグレムは柔らかな声音で呟いた。


「……苦労をかけた。今は、ゆっくり眠ってくれ……」


「………」


亡くなった部下へ、労いと弔いの言葉を継げるリーダーの姿に、ウルファは何も言えずにただ手を合わせることしか出来ない。――もしスプリンティアへの突入がもう少し早ければ――たらればの話しになってしまうが、ついそう思わずにはいられなかった。


桐生アキラが独断で行った、スプリンティア調査のあと、フェルアントでも正式な手続きを踏んだ後に、もう一度スプリンティア全体に調査の手が及んだのだ。


その結果、例の武器流通ルートから、エンプリッターの”本隊”と思わしき拠点がいくつかあることが判明したり、また一部ではフェルアント内部でも”裏切り者”がいる事実が判明したりと、向こうでは色々と大騒ぎになっている。


そんな中でひっそりと届いた報告がある。――エンプリッターから逃亡した一部の精霊使いが、死亡していたという報告。その一部の精霊使いを詳しく調べてみると、グレム派――つまり彼らの部下であり、仲間であった者達だったのだ。


彼らを殺害したのは、“鎧を着た人物”ではないかと噂が立っている。――その鎧に、中身はないということを知っているのは、彼らだけであった。おそらくスプリンティア調査で、トレイドとアキラが消滅せしめたあの“外魔”が犯人(人として良いかは別として)であろう。


そう考えれば、アキラは部下の敵を取ってくれたことになる。グレムは墓前でふっと笑みを浮かべて、頬をかきながら呟いた。


「――しかし、いつの間にか借りを作りすぎたな」


我々を信用してくれたこと、亡命を受け入れてくれたこと、そして部下の仇を取ってくれたこと。現在に至っては、正式に地球支部の食客として扱われている。まさに至れり尽くせりのこの状況、ありがたいことこの上ないが、逆に申し訳なくも思えてくる。


「作ってしまった借りを、どうやって返していこうか……?」


「我々と、地球支部の目的は同じです。なら、今は彼らに協力するべきかと……」


「そうだな、うん。……そうだな」


目的――地球支部のそれは、エンプリッターとフェルアントとの戦争を止めるというのが目的だろう。そして我々は、理想実現のためには、まずエンプリッターをどうにかしなければならない。


そう思えば、確かに今のところ目的は同じだ。独り言に答えてくれたウルファの言葉は、グレムが考えていたことを肯定してくれたように聞こえて、彼はふっと表情を和らげる。


「……今は、こんな粗末な墓ですまない。もう少ししたら、もっと良いものにするからな」


積み重ねられた石の側に花を手向け、グレムは立ち上がった。背後でずっと控えてくれていた仲間達に目を向けて、こくりと頷く。スプリンティアにいた仲間達との合流は叶わなかったが、同士は他の異世界にもちりちりになっているはずだ。


彼らとの合流を急ぐべきだろう。このままでは、スプリンティアの時と同様に、仲間達が殺されてしまうかも知れない。そうなる前に――この墓に眠る者達を、これ以上増やさないためにも。


それにもう一つ、グレムは懸念していることがあった。


「……今のエンプリッターには、幹部達がいない。実質、あの少年……テルトが組織を乗っ取ったと言っても良いだろう」


彼の呟きに、ウルファはコクンと頷いた。スプリンティアの調査に同行した彼女は、テルトによって操られたエンプリッターの幹部達と戦い、そして彼らを倒したのだ。だからこそ、現状のエンプリッターの危うさにいち早く気づいていた。


もしこのまま彼が組織を動かしていくのならば――一体何をしでかすか予想も付かない。何せ、微笑みを浮かべながら外道じみたことを行える少年なのだ。彼を野放しにしておくことは、あまりにも危険すぎる。グレムは頷いた彼女を見て、ぐっと拳を握りしめて、


「テルトを倒して、戦争を止める。……今はそれを第一の目的とし、地球支部と協力しよう」


これからの自分達の方針を、改めて語るのだった。


 ~~~~~


目の前の扉をノックした後、返答を待たずに黒髪の青年は無遠慮に扉を開けた。


清潔感が保たれた病室の中央にあるベッドの上で、一人の大男がふぅっとため息をついて来訪者を見やっている。


「……何のようだ?」


「いや、様子を見に来ただけだ」


黒髪の青年――トレイドは、あの一件で大怪我を負ったゼルファの具合を確かめにやってきたのだ。数日前に比べれば、確実に顔色が良くなっていることにトレイドはホッとする。


――スプリンティア調査から帰還した彼らは、まずいち早くゼルファの傷を癒やさなければならなかった。それまで魔術で治癒を施していたが、彼が負った傷は深く、時間稼ぎが精一杯という状況であり、一刻を争う事態であった。


その後何とか彼をフェルアント本部内にある医務室に運び込み治療を受け、様態が安静したのはそれから数日後であった。そして意識を取り戻したのは、つい二日前である。


「そうかい。毎回毎回、暇人だな、あんたは」


「正直暇人ではあるな。詳しいことは俺もよく分からないが、どうやら今後の動向について、各支部長達で意見が割れているらしい」


病室の隅に置かれている椅子を持ってきて、彼のベッドの近くに座り込んだトレイドは肩をすくめる。これはセイヤから聞いた話なのだが、各支部長達の間でエンプリッター本隊がいる場所へ襲撃をかけるべきという意見と、停戦の呼びかけを行うべきという意見、そして今は動かず、向こうの出方を見るべきと言う意見の三つに分かれているらしい。


話を聞いたとき、個人的にトレイドは三つ目の意見に賛成であった。こちらから仕掛けるのも十分良いと思うのだが、どうしてもあの少年――テルトのことが頭を過ぎり、慎重な意見が出てしまう。


「ま、当然だろうな。あの馬鹿げた魔術に鎧……正直勝てるビジョンが浮かばねぇ」


「……確かにな」


ふぅ、とため息をつきながらゼルファは呻いた。かくいうトレイドも、今の体でなければ数回は殺されているのだ。その意見には同意できる。


”時を止める”などと言ったデタラメな魔術――かどうかも怪しいが――や、例の”外魔神”を使役できることを考えると、脅威度としては彼一人でかつてのエンプリッターを上回るかも知れない。


「……そういや、あの鎧……外魔神っていうようだが、一体何なんだ?」


「外魔神か……俺も詳しく聞いたわけではないが……外魔人の原型に当たるそうだ」


呟いたゼルファの問いかけに、トレイドも頬をかきながら答えていく。あくまでざっくりとした説明を、医務室で暇を持て余しているログサ・マイスワールから聞いたのだ。


”外魔人”とは、フェルアントで「人の形をした魔物」という意味合いを持っている。多くは死刑が確定している大罪人に付けられ、”その場での殺害”が認められることとなる。当然容易には外魔人と認定されないが、一度認定されれば、一般人でも殺害が可能となる恐ろしい制度と言えた。


その制度はかつて”精霊王”が存在していた時期から未だに続いているようだ。なぜそこまで続くのか――


「大昔の精霊王時代、一度フェルアントが滅ぼされかけたことがあるみたいだ。その原因が外魔神……当時は何とかそれを討伐したみたいなんだが、その脅威を忘れないようにと、少しもじって”外魔人”って制度を作ったのかも知れないな」


「………」


――後半部分は、完全にトレイドの推測であった。とはいえ、それほど的外れな推測でもないとは思っている。ややげんなりした表情を浮かべて押し黙るゼルファを見て、トレイドは首を傾げたものの、肩をすくめて彼の調子を問いかけた。


「それで、いつ頃”復帰”出来る?」


「……復帰?」


「そう、復帰」


トレイドがかけてくれた言葉があまりにも以外だったのか、思わず問い直したゼルファだが、返答は変わらなかった。復帰、とは一体何に復帰するということだろうか。困惑する様子の彼に、トレイドは首を傾げて、


「いや、俺と一緒に動けるようになるのはいつ頃だって話」


「……復帰って、その復帰か?」


困惑を隠せないゼルファは問いかける。つまり彼は、暫定部下として復帰できるのはいつ頃だと聞いているのだと、ようやく理解したのだ。あの話は、今回のスプリンティア調査だけではなかったのか。


「それ以外に何がある」


「……ははっ」


真面目な表情で口を開くトレイドを見て、ゼルファはゆっくりと笑みを浮かべていった。まさか学園襲撃時、テルトに一矢報いるという個人的な思いがあったとはいえ、彼に協力した自分を誉めてやりたかった。


「――しばらくは無理だろうな。だが……何とか、”戦争”が始まる前には何とかするさ」


「そうか。……やっぱり、お前から見ても戦争は起きるか」


フェルアントとエンプリッターの戦争――現状、すでにエンプリッターから宣戦布告を受け、すでにいくつかの支部が陥落している。すでに戦争が起きている状態だが、彼らの言う戦争は少し異なる。


――”フェルアント本部”とエンプリッターの戦争、つまりこの世界で本格的な戦いが起きると彼らは予想しているのだ。それが起きる具体的な時期までは予測できていないが、それでも近いうちに起きるだろうと。


「そういえばルキィの奴はどうなった? あいつも――」


「彼女も、これ以降も……この戦争が終わるまで力を貸してくれるそうだ。ありがたいよ、本当に」


頬をポリポリとかきながら肩をすくめるトレイドに、そうなるだろうなとゼルファは苦笑した。袂を別った姉と再会し、もう一度やり直すことが出来るようになったのだ。おまけにテルトの行いによって、完全にエンプリッターとは縁を切ることにしたらしい。


何せ彼の手によって、実験台兼捨て駒にされたのだ。おまけにトレイドには救われ、部下として待遇されて、彼には頭が上がらない。おまけに姉との復縁のきっかけになったとなれば、その恩を何とかして返したいと思っているだろう。


――彼女とはやや異なるとはいえ、恩を返したいという思いはゼルファも同様だった。大男はベッドの上でトレイドを見やり、ニヤリと口の端に笑みを浮かべた。


「ま、フェルアント側の犬になるつもりはないが……あんたの犬にならなってやるよ」


「――少しは、調子が戻ってきたか」


以前見せていた粗暴さを久々に見せた彼に、トレイドは一瞬きょとんとした表情を浮かべた後、同様の笑みを浮かべつつそう答えたのだった。


「また宜しく頼むぞ、ゼルファ」


 ~~~~~


風が吹けば枝が揺れ、木々のざわめきが木霊する。いや、ざわめきどころか騒音に等しい。なにせ立ち並ぶ木々の大きさは、高層ビル並の高さと横幅を持っているのだから。巨木が立ち並ぶ森の中で枝を、時には白い法陣が表れ、それを足場に飛び移る者達がいた。


共通の服装をした彼らは、時折呪文を唱え、展開させた様々な色の法陣から炎や水、雷を生み出して、その全てを後方から迫り来る一人の男へ向けて解き放つ。


後方から迫り来る男――その人物のみが、彼らとは異なる格好をしている。彼は自身に向かって迫り来る炎や水を、手甲を付けた腕で”振り払う”だけで消滅させていた。実際には、“自然物を魔力に変換”し無力化しているだけなのだが、端から見れば炎が突如消えたように見えるだろう。


「くそ、なんなんだアイツは!」


「――――」


共通の服装――フェルアント所属の精霊使いであり、その一部隊に所属する彼らは、男の異様さに表情をしかめる。何せ彼らが全力で放った魔術を、まるで虫でも払いのけるかのような気安さで消滅させているのだ。


「とにかく奴に追いつかれるな! まともにやり合っても勝ち目はないぞ!」


共に行動する一人が声を上げる。それも当然だろう、彼に向かっていった者達は皆、迫り来る男の格闘術により、一人の例外もなく瞬く間に意識を奪われたのだから。


――ほんの十数分前、巨木の根元で休息を取っていた彼らは、突如として現れた男に襲撃されたのだ。何の前触れもなく、いきなりである。当然応戦したのだが、彼の格闘術によって瞬く間に十数人と無力化させられ、敵わないと判断した彼らはその場から撤退を選択したのだ。


だが男は精霊使い達を追撃し、ここまで追ってきているのだ。おそらくあの男も精霊使いであろう、気配でそのことはわかる。


(これほどの使い手がなぜこんな所に! まさか、エンプリッター側は我々に気づいていたのか……!)


逃げる精霊使いのうち、一人が苦々しい表情を浮かべたまま胸中叫んだ。最近様々な異世界でエンプリッターが活動しているとの情報を掴み、実態を調べるためにやって来た彼らは、そのことを勘づかれたのではないかと推測した。


――実際は大きく異なる。まず彼らを襲撃した男は、エンプリッターではない。とはいえ、フェルアント所属の精霊使いでもないが。男はある目的を持って、独自に行動しているのだ。木々や、展開した法陣を足場に宙を飛ぶ精霊使い達を追う男は、やがて右腕を前に突き出した。


「――――」


「ぐっ!? 何だっ!?」


突き出した右腕を、ぐっと握りしめ――逃走している精霊使いの数人が、まるで何かに絡め取られたかのように動けなくなった。よくよく体を見ると、至る所に細い何かが光を反射していた。これは――鋼線か。


体中を鋼線によって絡め取られ、動きを封じられている――これは。気づいた数人は、歯を噛みしめながら方向転換し、動きを封じられた彼らを助けようと駆けつける。


「くそっ!」


「構うな、にげ――」


一方、動きを封じられた数人は皆、首を振って逃げろと言いかけて。その途中で、今度は赤く染まった何かが視界を横切った。助けようと駆けつけた数名は、その赤い何かによって吹き飛ばされ、巨木に叩き付けられる。


「――仲間を見捨てないその意気は良し。……まぁ、元から手加減はしているが」


「っ――――」


声がした方向を見やると、そこには法陣を足場にして宙に立ち、片足で蹴りつけた姿勢で固まる襲撃者がいた。


片足を上げた状態で綺麗に立っていた男は、やがて体勢を元に戻すとくるりと視線を拘束した自分達に向けて、こくりと頷いた。――男は無表情であったが、しかし――無表情という仮面の下に、何か別の感情を宿している、そんなふうに感じ取れた。


「すまないな。お前達の魔力……貰っていくぞ」


「な、なにをする――」


そう言って懐から一冊の本を取り出す男。古ぼけた表紙をした、ボロボロのそれを見て、彼らは言葉を失った。フェルアントで耳にした噂話を思い出す。


――恐ろしく強い謎の”野良精霊使い”が、他人から魔力を集めるために、フェルアントやエンプリッター、または精霊使いや一般人を問わず、無差別に襲っていると。そして奪った魔力を、一冊の古ぼけた本に集めているとも。


おそらく、目の前にいるこの男こそが、噂の襲撃者。フェルアント所属でも、エンプリッター所属でもない、はた迷惑な奴。


「安心しろ、痛みはない。――ただしばらくの間、気絶するだけだ」


「や、やめ――」


パラパラパラと本が開き、ページが勝手に捲られていく。やがて文字が書かれていない、白紙のページを開くと、本自体が怪しく輝きだし――その輝きと同種の光が、自分達を包み込む。


「あっ……ぐぅ……っ!」


同時に感じるのは、自分達の持つ魔力があの本に吸い込まれていく感覚と、体内から魔力を失うことによって生じた疲労感。そして徐々に暗転していく視界――男の言うとおり、確かに気絶していくのだろう。


「くっ………っ!?」


最後のあがきとばかりに体を動かそうとして、けれども鋼線によって動きを封じられている以上、どうしようも出来なかった。


「―――く……そぉ………」


どうしようも出来ない無力感。何も出来ない悔しさ。そういった物を感じながら、彼らは意識を手放していった。


「………」


拘束したまま意識を失った彼らを、手近な巨木の枝に移してやる。また先程蹴り飛ばした者達も、魔力を回収した後に安全を確保した。その間に、逃走する者達との距離は離れたが、急げばまだ追いつく範囲にいる。――少なくとも、自身の”自然の加護”の範囲内にいるのは確実だ。


空中に法陣を展開し、それを足場に追跡を再開する。どうやら先行して逃走した彼らは足を緩めずに逃げ続けているようだ。だが追いつくのも時間の問題である。“自然の加護”を用いて彼らの逃走ルートを予測し、先回りしようと木々の間を駆け抜け――


「――――――」


――自然の加護が、異質な気配を察知した。宙をかけていた男は、展開した法陣を足場にその場で立ち止まる。この異様な、肌が粟立つような感覚。そして底冷えするような、正気でいられなくなるような”恐怖”――十七年前に感じたそれと同じ物であり、遙か昔に、トラウマを刻みつけた物だった。


「――上」


気配が感じる方向――頭上を見上げ、男は拳を振りかぶる。頭上から急速に向かって来る”人型の鎧”に、男は風巻く拳を叩き付けた。


「疾風拳」


それは、一つの台風に匹敵しかねない風圧を束ね、拳に纏わせた拳打。当然の如く彼自身の証――手甲が持つ”知識”によって呪文詠唱を省いたその技は、上空から奇襲を仕掛けてきた鎧を再び頭上へと押し上げた。


上空へ押し上げられた鎧には、その一撃によって至る所に罅が入っていた。その罅から、黒い靄のような物が漏れ出している。それを見て、男は確信する。


先程感じた恐怖と黒い靄――大昔にも、そして十七年前にも見た”外魔神”の特徴である。男もまた精霊王の血筋に当たるため、外魔人に対してどうしようもない恐怖を覚えてしまうのだ。


――だが、彼はその恐怖を押さえ込むことが出来た。故に、こうして外魔人相手に戦うことが出来る。それはおそらく、彼はある意味”新生”であるが故に。


「――紅蓮脚」


押し上げた鎧が落下してくる――それをしっかりと見極めながら、男は左足の足甲に意識を向けた。足甲の表面が赤く染まり、熱を帯びていく。一体どれほどの熱を放っているのか、左足の周りのみ、陽炎が生じていた。


疾風拳が風の属性変化術ならば、紅蓮脚は火の属性変化術。多量の炎を圧縮した蹴りを、落下してきた鎧に容赦なく叩き込む。蹴りが鎧に触れる瞬間、足甲に纏った炎が炸裂し、重い蹴りの威力と炎が鎧を襲った。


全身を炎に包まれた鎧は近場の枝まで吹き飛び叩き付けられ、それ以降は動かなくなった。そのことを確認しながら、炎が枝全体に延焼しないようにコントロールしつつ、振り返ってとある方向へと目を向けた。


そこには、金髪の少年が一人で佇んでいる。――男と似た髪色の少年は、どこか嬉しそうに、懐かしそうに、そして――寂しそうに、笑顔を浮かべて男を見やる。


「――またあったね、ルフィン……父さん」


「……そうか、俺の子……双子の弟……テルトか……」


――王の生まれ変わりであり、二代目精霊王でもあるルフィンと、彼の息子である二代目王の杖であるテルトは、こうして再び相まみえた。



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