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精霊の担い手  作者: 天剣
2年時
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第39話 予言の子~2~

――自室のベッドに寝転がりながら、ぼんやりと天井を眺めているタクトの瞳には、驚くほど光がなかった。


スプリンティアでの一件の後、叔父であるアキラや母親である風菜に詰め寄り、どうして弟がいたことを黙っていたのかを問い詰めた。だが二人の兄妹は口をそろえて、「これ以上家族を失いたくなかった」と自らの本心を吐露するのみだった。


二人の身の上に関しては、昔に一度だけ話を聞いたことがある。二人の父親と母親――つまり自分の祖父母にあたる――は事故によって他界し、育ての親になってくれた人(この人が異世界から流れ着いた精霊使いらしい)も亡くなったようだ。


幸い育ての親や居候の人がいたため、兄妹二人っきりという時間は長くはなかったようだが、それでも寂しい思い、そして悲しい思いをしてきたのは事実である。


そしてその後は――ここからはタクトの推測だが――“大改革”に参加し、その過程で何人もの仲間達と出会い、そして何人もの別れを体験してきたのだろう。だからなのか、叔父と母が、家族を、そして友人を亡くすことに過敏に反応するのは。


そして、だからこそタクトに真実を教えるのを躊躇い、今まで口を閉ざしてきたのだということにも納得できる。――やがて弟と殺し合い、そして二人とも死ぬなどと、信じたくはなかったし、そして口にしたくもなかった。


それを知ってしまえば、タクトも強くは言えなくなってしまった。母も叔父も、悩み抜いた末に出した答えなのだということを分かってしまったから。それが正しいか間違っているかは、誰にも分からなかったのだから。


「…………」


仰向けになっているタクトは、そっと瞳を閉ざした。そのまま眠ってしまいたかったが、もう睡魔など寄ってこないほど眠った後では、夢の中に入れる気がしなかった。――徐々に強くなっていく”自然の加護”を、これほど疎ましく思ったことはない。


この力のせいで、否応なく他者の気配を感じてしまう。敢えて気配を感じないように制御しようとしても、今の乱れきった心ではそれも難しく、余計に苛立ちが募っていくだけであった。募っていく苛立ちを押さえきれず、彼にしては珍しくやや声を荒げた。


「……さっきから何しているのさ、スサノオ」


自分以外に誰もいないはずの部屋なのに、スサノオの気配をずっと感じていた。先程まで縁側で一人晩酌をしていたと思ったら、急に部屋に現れたのだ。おそらく転移したのだろうが、不可解なことにそれ以降スサノオは声を出さず、しかし気配は消さずにその場に居続けたのだ。


『ふむ、やはり気づくか。それにしてもお前の自然の加護、相当強まっているようだな』


「今の俺の感覚を味わってみると良いさ。……加護じゃなくて、もう呪いだよ」


顔に手を当てて、瞳をぎゅっと閉ざすタクトのぼやきに、気配を強く感じすぎて相当参っているようだなと苦笑する。少し前までなら何とか自然の加護を制御しようとするだろうし、何よりもそう簡単に弱音を溢す奴でもない。


ジロリとスサノオを睨み付け、彼は出て行けと言わんばかりに、


「それで? 何のようでここに来たんだ? あのとき役立たずで荷物だった神剣さんは」


あのとき――というのは一週間前のスプリンティアでの調査のことだろう。確かにエンプリッターの幹部達との交戦中、剣の状態になっているスサノオは何一つ出来ず、文字通りにもつとなっていたのだ。だが彼は首を振って、


『それに関してはこちらにも言い分がある。私を、そしてコウの意識までも奪う完全な自失状態――あれでは私も動けなくなる』


「……俺のせいだって言うの?」


タクトとスサノオには、契約という繋がりがある。あのとき、タクトが受けたショックが相棒である精霊コウや、神霊であるスサノオにまで流れ込み、彼らを眠りにつかせたとでも言うのか。――それならば確かに、こちらに非がある。


ふて腐れたようにスサノオから視線を逸らす彼を見て、ふぅっとため息をつく。まるで子供だなと呆れ、答えなど分かっているが問いかけずにはいられなかった。


『知らなかった真実を知って一週間。そろそろ心の整理は付いたか』


「――付くわけないだろ!」


ベッドの上から上半身を勢いよく起こし、荒げた声音で予想通りの返答が返ってくる。自身を睨み付ける主の口から、半ば洪水のように次々と言葉が吐き出された。


「スサノオは知っていたんだろ!? ならなんで今まで黙っていたんだよ! 叔父さんや母さんが黙っていろって言われていたの!?」


『あぁ、だから黙っていた。当時の私の主は、風菜だったからな。主にそう言われれば、従うほかあるまい』


当然だろう、と言わんばかりに肩をすくめるスサノオ。宙に浮かびながら、上半身を起こしたタクトの射殺すような視線を受け流す。普段の彼からは想像できないほど攻撃的であり、どうやらよほど思い詰めているようだ。


「だからって……っ! 今の主は俺だろ!? だったら教えてくれたって――」


『――そう、今の主はお前だ、タクト。だからこそ言いたい』


タクトの叫びを遮り、タクトを真っ直ぐに見つめる。――宙に浮かぶスサノオの体が、突如眩い光に包まれた――と思ったら、普段の子人サイズから長身の成人男性並みの大きさへと変化する。


「っ!?」


体を大きくさせたと思ったら、そのまま腰を捻った鋭い回し蹴りをタクトの側頭部に叩き込んだ。さほど広くはない自室の中で、ベッドの上から吹き飛ばされて手頃な壁に叩き付けられる。机や棚に置かれている調度品のいくつかが、音を立てて床に落ちていった。


壁に叩き付けられたタクトは、そのままずるずると床に倒れ込む。――強まった自然の加護の影響で、スサノオの動きは事前に予測できていた。避けようと思えば避けられたはず――しかし自身でも驚くほど体が動かなかった。


床に倒れながら呆然とするタクトを見下し、スサノオは冷たい表情と声音で告げる。


『甘ったれるな。自分から何もせずに、答えが得られるはずがないだろう』


「っ……」


『確かにお前は何も知らされていなかった。だがこれまで歩んできた道のりの中で、多少の”ヒント”はあったはずだ。お前は、そのヒントを取りこぼしていっただけに過ぎない』


「……そんなこと――」


――そんなこと、分かっている。一年前の、フェルアント前本部長が起こそうとした事件の際に見えた幻影。数ヶ月前のダークネス事件のおりに発現した自然の加護と記憶感応。そして今回のスプリンティアの調査――答えに繋がるヒントは、確かにあった。


だがそれらを繋げることが出来なかった――ぎゅっと拳を握りしめるのは、スサノオから自身の不甲斐なさを指摘された悔しさから、それとも“本能的に事実を知ることに恐怖を感じた”からか。


拳を握りしめ、体を震わせながらも押し黙ったタクトを見たスサノオは、やがて吐息と共に彼に向けて告げる。


『――タクト、この事実を今知るのと、幼い頃に知るのとでは、どちらの方が良かった?』


「……そんなの、わかんないよ……そうなってみないと……」


地面に倒れたまま、今にも泣きそうな声音で呟いた。今事実を知っただけでも、こんなにもきついというのに、幼い頃に知ったらどうなるのだろうか。今以上に苦しい思いをするのか、それとも冗談だと思い信じなかったか――それは、そうなってみないとわからないだろう。


『あぁ、“もしも”という仮定の話をしても仕方のないことだ。だからこそ“希望”を持てる』


タクトの発言に頷き、スサノオは彼を見下ろしながら続けた。


『絶望的な状況であっても、僅かな望みさえあれば”もしも”という希望を抱ける。そして希望があるからこそ、人は絶望的な状況でも立ち向かうことが出来るのだ』


「………」


僅かばかり目を見開き、しかしタクトは首を振って否定した。


「……でも僕は、未来を知ってしまった。”もしも”なんて希望は……」


――希望なんてない。言葉にはしなかったが、彼はそう言いたかったのだろう。未来という”結末”を知ってしまった以上、もしかしたらというものはない。どれだけあがいても、最後はその未来にたどり着いてしまうのだから。


だが――


『確かにあの予言は、変えることの出来ない未来だ。王の杖の二代目は、同じく二代目の王の剣と相打ちになる。……だがそれを言い換えれば、杖を殺せるのは剣だけなのだ』


「………………」


――項垂れていたタクトの拳が、ぎゅっと握りしめられた。


『無論逆もそうだ。――杖が何をしようとしているのか、まだ詳しくは知らん。だが先代の杖と同じ目的を持っているのだとしたら……多数の犠牲は免れんだろう』


――知っている。先代、つまり前世の王の杖が何をしようとしていたのかを。そしてその過程で、どれほどの人命が失われたのかも。それを止めるために、王の剣は立ち上がったのだ。


頭を抱えるようにタクトは蹲り、壁に叩き付けられた位置からさらに縮こまり、どうしようもないほど思い詰めた声音で、己の本心を吐き出した。


「……教えてよ、スサノオ……俺はどうすれば良いの?」


『…………』


問われてもスサノオは答えない。しかし構わずにタクトは続ける。


「俺がやらなきゃ、たくさんの人が死ぬ……それは分かっているんだ。でも俺がテルトと戦えば……俺もアイツも死ぬ……」


――そう、タクトは今、選択を迫られていた。自身を犠牲にして多数の命を救うか。それともテルトと戦わず、自身の宿命から目を背け、生きながらえるか。どちらを選択したとしても、良い未来は待っていない。


『それはお前の選択であり、お前自身が決めるべきだ。……だがアキラと風菜は、お前を救う道を選んだ』


「――――――え?」


スサノオの言葉に、それまで俯いていたタクトが初めて顔を持ち上げた。今にも泣き出しそうなその瞳を見て、しかしスサノオは努めて冷静に、淡々と事実を口にする。


『知っているだろう? アキラがお前に剣を、霊印流を熱心に教えてこなかったこと。そして風菜が、熱心に魔術の知識を授けてこなかったことも』


「………」


彼は何も言わず、ただこくりと頷くだけ。剣術に関しても、アキラに教えてくれと頼んでも、最初は渋っていた。例の一件――レナが誘拐された一件の後に、渋々といった感じでようやく手ほどきをしてくれたのだ。


だが敢えて自身には合わない剣筋を叩き込み、霊印流についても発展型である“型”については全く教えなかった。風菜も、自身が魔術と魔力の質がかみ合わず、魔術が使えない体質であることを差し引いても、熱心に教えてはくれなかった。


そんな状況にもかかわらず、ある程度の剣の腕と魔術の知識を得られたのは凄まじいが、今は置いておき、スサノオの言葉を待つ。


『それらの根底にあるのは、お前を救いたいという思いだ。己の宿命のことを知らず、宿命を果たす力もない。……つまり』


「……つまり叔父さんと母さんは……多くの命を犠牲に、俺を助けようとて……?」


そんな馬鹿な、と言いたげな表情で、震える声音で恐る恐る問いかけるタクトに、スサノオは大きく頷いた。


『最悪は、その覚悟を決めていた。無論、ただ犠牲を出すだけではなく、早急にテルトを保護し、説得しようと試みてもいたのだ。そうすることで、お前達が背負った宿命を停滞させようとしていたのだ』


スサノオからのフォローが入るものの、タクトはただただ目を見開き驚くのみである。叔父と母が行おうとしていたのは、あまりにも危険な賭であると同時に、全て成功すれば、双子も、多数の命も救われる――そんな道を目指していたのだと。


だがその道を選ぶことが出来なかったとき、彼らはタクトの命を選ぶことを決めていたのだ。多くの命を犠牲にしてまで、タクト個人を救う道を。


「……何で……なんで、僕なんかのために……」


スサノオの話を聞いて、余計に分からなくなったタクトは、俯いて自分の体を抱き込むように小さくなっていく。嬉しいと思う反面、なぜそこまでして自分自身を救おうとするのかが分からなくなってしまった。


――いや、本当は分かっている――気がする。叔父と母の人生を、その最初の思いを考えれば、自ずと見えてきた。


『”家族”だからだ。奴らは家族を失うことを、何よりも恐れている。……あの二人に対して思うところはあるだろう。だが奴らも苦しんだ末にそう決断したことを忘れるな。……そして今も苦しんでいることも』


「………」


今も苦しんでいる――そうさせているのは自分のせいか、と瞳を伏せるタクト。今自分がこうして引きこもっているから、あの人達を苦しませているのか。押し黙り何かを考え込んでいるのを、繋がりを通して感じ取ったスサノオは、これで話は終わりだとばかりに肩をすくめ、元の子人サイズに体を戻すと、その場からすっと消えていなくなる。


転移術を用いてその場から消えたのだろう。再び一人っきりになり、静かになった自室の中で、タクトは動こうともせずに壁に寄り掛かっていた。――スサノオの話を聞いて、ようやく叔父と母の思いが伝わってきたのだ。


「………」


何も教えずに、ひたすら自分を守ろうと、救おうとしてくれた――それは嬉しい。自惚れで、甘ったれた考え故に口に出すことはないが、叔父と母の“愛”を感じた。


「……僕はどうすれば良いんだよ……っ」


叔父も母も、自分を思うが故の行動――分かっていたことを改めてスサノオが突きつけてくれたおかげで、これ以上引きこもり”ふて腐れる”のもばかばかしく思ってくる。だがわき上がってくるぶつけようのない苛立ち、そして苦しみをどうすれば良いのか。


力を込めて壁を叩き付けたくなるものの、さきほどスサノオに先を越されたせいで何となく行う気力がなくなってしまった。苛立ちを露わに、ぶっきらぼうに口にする。


「……入れば良いだろ……別に鍵はかけていないんだからさ」


「あっ……えっと、その……じゃあ入るね、タクト」


――スサノオに蹴られ、壁に叩き付けられた直後だろう。物音につられてやってきたのか、自室の扉の前に誰かがずっといるのは分かっていた。スサノオがいなくなった後もそこから動こうとしない気配の主であるレナに、タクトは声をかけるのだった。


そっと扉を開けて部屋の中をのぞき込んだレナは、ベッドの上ではなく壁にもたれかかっている彼を見て首を傾げたが、しかし気にせずに恐る恐る部屋の中に入ってきた。


以前は躊躇なく部屋に入ってきたというのにどうしたのか、と疑問に思う反面、その原因は僕かと自嘲する。彼女の視線は部屋の様子ではなく、タクトのみに向けられているからだ。こちらのことを気にかけてくる彼女がありがたいと思う反面、煩わしいとも思ってしまう。


「その……さっき凄い物音がしたけど、何かあったの?」


「別に………何でもない」


語るつもりはなかった。ぶっきらぼうに告げる彼に気圧されたのか、レナは一瞬怯んだものの、すぐに気を取り直してタクトの元までやってきた。


「………」


「………」


そのままちょこんとタクトの隣に腰掛け、二人仲良く壁に寄り掛かる形で床に座っていた。彼女の行動に戸惑い、タクトは眉根を寄せて問いかける。


「……何の用なの?」


「……何となく、かな」


レナは首を傾げたものの、大した理由はないのか苦笑を浮かべながらそう口にした。彼女の答えに苛立ちを覚えたタクトは、深く息を吐き出しながら口を開く。


「なら出てってよ。……正直今は、一人にして欲しい」


「じゃあなんで、部屋に入れって言ったの?」


「それは…………」


彼女の問いかけに、すぐに答えることが出来なかった。――部屋の前でずっと待っていたレナが気になったから、と口にするのは簡単だ。だがそれでは、一人にして欲しいという思いと矛盾する。


本当に一人にして欲しいのなら、彼女に部屋に入るように言わず無視するか、もしくは遠ざけるかするべきだったのだ。――本当に自分はどうしたいのだろうか。自らの意思を見失い、タクトは何も答えずに頭を抱え込んだ。


「……それは、どうしてだろうね……」


「……そっか」


頭を抱えて小さく呟いた彼に、レナは優しく微笑んで彼の頭を撫でてあげた。一瞬びくりとするものの、振り払おうともせずされるがままになっている彼に、


「……ねぇタクト。タクトが何に苦しんでいるのか、教えてくれる?」


「………」


頭を抱え、蹲ったまま何も言わない彼を見ても、レナは急かしたりはせず、逆にこちらから問いかけてあげた。


「……やっぱり、弟さんのこと?」


「………」


やはり無言――しかし今度は、小さく首を振った。少なくとも反応はしてくれるらしい。そのことにホッと息を吐いて――ようやく、タクトが口を開いた。


「……それだけじゃない」


「え?」


「弟のこともそうだけれど……何で弟のことをずっと黙っていたのかも……なんで”僕”なんだっていうこと……かな」


そう言って、タクトは小さく、しかし自分の気持ちを初めて他人に吐露したのだった。


初めて知った弟に対する驚きと困惑、そして彼がこれまでやってきたことに対する怒り。さらに弟のことを全く教えてくれなかった風菜と叔父への不満と怒り、そして先程のスサノオの話によって、怒りと不満が少しは和らいだこと。


代わりに二人が背負おうとしていた”罪”のことも、自分に教えずに黙っていようとしていたことに対する怒りが芽生えたこと。――そして、いずれ弟であるテルトと戦い、二人は相打ちとなって死ぬという運命に対する恐怖。


自身の気持ちをぽつぽつと語っていく間、彼女は黙って聞いていたが、風菜とアキラが背負おうとしていたこととを聞くと、流石に目を見開いて驚きを露わにしていたが、口を挟むことはしなかった。


そして、テルトと戦い、そして相打ちとなってお互いに命を落とす、という下りだけは、彼女は口を挟むのだった。


「――そんなの絶対に違う。そんなの、昔はそうだったって言う話でしょ? 昔とは違う……だって、タクトはタクトだもん。昔の、王の剣じゃない。例え本当に王の剣の生まれ変わりだとしても、昔とは違う……なら、”昔と同じ道を歩んで、昔と同じ結末になる”なんて誰にも言えるわけがない!」


「―――――」


そう言いながらレナも不安は隠せていない。けれど、今のタクトの前では、精一杯強がってそう口にしたのだろう。口調に僅かな震えがあった。だとしても、今のタクトにとっては十分に衝撃的だった。


――昔と同じ結末――未来視を持つ弟がそう言うのなら、おそらくそうなのだろう。だが、そのことを知っていれば、“昔と同じ過程”になることは絶対にない。何よりも、今の時点で、昔とは状況が異なりつつあるのだから。



――叔父と母が抱いていた思い。何も教えずに、ひたすら自分を守ろうと、救おうとしてくれた――それは嬉しい。自惚れで、甘ったれた考え故に口に出すことはないが、叔父と母の“愛”を感じた。


けれど――もうその甘えを受けたままなのは止めるべきだ。そろそろ、本当の意味で、自分の足で立ち上がるときなのだ。真実を教えて貰うのではなく、自分の足で真実を探していき、自分で“過程”を歩んでいく。


これから先、自分に必要なのはそれだ。本当の意味で、叔父と母から自立するべきだ。それが自分の思い――だから。


「……話聞いてくれてありがとう、レナ。少しすっきりした」


「……本当に?」


こちらを見やり、心配そうな表情で顔をのぞき込んでくる彼女を見返して、タクトは小さく頷いた。――ただ自分が抱えていた思い、悩みを口にして聞いて貰っただけだったが――それでも、少しは楽になれた。


それに彼女のおかげで、少しだけ勇気が出て来た。まだ希望は潰えていない――あのとき(千年前)とは違う。例え結末は変えられないとしても、“違う過程を歩むのならば、多少の誤差は必ず生じる”。


「………」


「……たく――」


泣き出しそうなほど顔を歪めていたレナだが、タクトがやっと顔を持ち上げたことに驚きの表情を浮かべ、続いて彼に抱きしめられたことによって口を閉ざした。そのままタクトは彼女に語りかけた。


「……ありがとう、レナ」



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