第32話 日常、気づいた思い~5~
「……すっごい話だったよね……」
レナの謝罪と、彼女とフォーマの口から語られたフェル・ア・チルドレンという存在。――命を弄ぶ、人道に反した実験のことを聞いたシズクは、桐生邸の縁側に腰掛けて呟く。傷ついた家の修復にやってきた大工さんは休憩に入っているのか、庭の中には見当たらない。
とはいえ塀の向こう側に車の影が見えているので、近くにはいる。声を小さくさせて、彼女は隣のカルアにそう言うのだった。地球では珍しい白髪の彼は、シズクが突如言ったその一言に一瞬眉根を寄せるが、すごい話しとやらが先程のことだろうと察して肩をすくめた。
「お前も似たようなものだろ。大した違いはない」
「………カルアは、その……フェル・ア・チルドレン……だっけ? 知っていたの?」
「……そういう生まれ方をした奴がいるってことは。ただ、レナがそうだったということは、俺も初めて知った……まぁ、どこかでそんな気はしていたのかも知れないな」
彼女と同様縁側に腰掛けていた彼は、どこか遠くを見つめながら頷いた。
――母親の腹の中にいる段階で精霊の因子を埋め込まれ、生まれながらにして魔力炉を、精霊使いとしての能力を持って生まれた子供、それがフェル・ア・チルドレン。言葉にすればそれだけだが、それがどれほど危険なことなのか、実験した科学者は分かっていたのだろうか。
人に精霊の因子を埋め込む――それはつまり、実体化した精霊の肉片を胎児に埋め込むという、馬鹿げた考えの元で行われたものだ。拒絶反応を起こすことは目に見えていた。
現に目覚めるまでのレナのあの状態が、拒絶反応なのだ。あの状態が長く続けば、彼女の命も危なかっただろう。
「で、お前はあの話を聞いてどう思った?」
「え?」
腰掛け、遠くを見やるカルアは何となく問いかけてみた。彼女達――レナやフォーマとは異なるが、しかし根っこの部分では似たような物を抱えている彼女に。
――彼女は”精霊使い”ではない。だが一般人でもない。別の異世界の住人のように、体内に魔力を持っているわけでもない。しかし、彼女達が持つ悩みと苦しみを、少しは共感できたのではないだろうか。
「確かにお前は、普通じゃない。だけど、あの二人だって普通じゃないんだ」
「………」
視線を落として庭に目を向けるシズクの頭にそっと手をいてやる。彼女のきれいな茶髪を撫でながら、カルアはそっと優しげに微笑んで。
「……自分は普通じゃない、なんて思い悩むな。多分あいつらも、今日を限りにそう思うことをやめるだろうよ」
「……うん……」
「気が向いたらで良い。決心が付いてからでも構わない。……自分の口で、伝えるんだな」
「……うん」
消え入りそうな声で頷くシズク。顔を俯かせていた彼女は、やがて押さえきれなくなったのか、隣にいるカルアに飛びかかるように抱きつく。そんな彼女にため息をつきつつも、しかし邪険に扱うことはしないカルアだった。
ポンポンと彼女の頭を撫でてやり、ぐすっと喉を鳴らす彼女を慰めるカルアは、やがてある方向に鋭い視線を向けて、低く唸るような声音を出した。――底冷えのするその口調は、彼の腕の中にいたシズクでさえびっくりするほど怖いと感じさせる。
「――そこの物陰に隠れている奴。……何のようだ」
「えっ……?」
「…………」
彼の視線の先――庭の一角に植えられている桜の木だ。そこには誰もいない――と思いきや、木の陰から気まずそうな表情を浮かべる黒髪の青年が姿を現した。
「……覗きをするつもりじゃなかったんだが……その、タイミングが悪くてな……」
黒衣を身に纏っている彼は、頭をかきむしりながらすまなさそうに言ってくる。よく見れば黒目であり、黒髪黒目の風貌は日本人の特徴と一致するが、そうではないような気がした。
彼の視線はちらちらとシズクとカルアを行き来していた。――含みを持たせたその目の動きに、シズクは先程の自分の行為を思い出し、何となく察した。
縁側に腰掛けながら、隣にいる男性の胸の中に飛び込む――まさしく男女の恋人同士のやりとりだ。今更ながら頬が熱くなってしまう。もう遅いかも知れないが、バッと密着していたカルアから距離をとる。
――だが、肝心のカルアはふんと鼻を鳴らして、
「何を言っているのかわからんな。ずっと気配を殺していたくせに、何のタイミングが悪いと言うんだ?」
――こいつ……。思わずシズクはカルアを殴りたくなった。先程の自分の大胆な行為を全く気にしていないというか、気づいていないのだろう。現に彼が真剣な表情でいなかったら拳を突き出していたことだろう。だが、今はそんな状況ではないことは察することは出来る。
カルアは明らかに警戒していた。現に彼から視線を離すことなく、すっと右腕をさり気なく体の横へ――青年にとって、死角になる場所へと移動させていた。
彼の言葉が本当ならば、ここまで近づかれるまで青年の気配に気づかなかったと言うことだろう。――おまけにカルアが知らないと言うことは、地球支部の人間ではない。現地人――つまり日本人である可能性もあるが、そうとは思えなかった。
おそらく精霊使いだろう、それもかなりの実力の。先程から黒髪の青年から視線を離さないでいるが、隙がない。
「……怪しい奴じゃない、といっても信じて貰えないよな。……そうだな、タクト……桐生タクトを呼んで貰えるか? 黒髪黒目で、左の掌に精霊使いの印があって、右耳がない奴」
――精霊使いの印――やはりこの男も精霊使いだったか。そしてタクトの右耳。彼の特徴を言い当てる彼に、カルアの警戒心は少し下がり、かわりに興味がわいてくる。そして以前支部長であるアキラから聞かされた話を思い出した。
タクトが精霊使いの力を一時的に失った際、それを取り戻す旅に同行させてくれた一人の青年のことを。その青年も、黒髪黒目だった。名前は――
「……名前は?」
「トレイドだ」
――彼が告げた名前に、ひとまず警戒心を下げた。そして隣にいるシズクへ向き直り、告げる。
「悪いがタクト達を呼んできてくれ。それとアキラも」
――久しぶりの桐生邸。以前ここに来たときは色々とばたばたしていたが、今はゆっくり見て回る時間はありそうだ。フェルアントから地球まで転移してきたトレイドは、相変わらず広い家の中を歩きながらそう思う。
二回目の訪問ではあるが、家を案内されて何となく経路が分かってきた。しかし経路が分かってくるにつれて、この家の広さを実感し疑問を抱き始める。妙に見栄えの良い外見や庭とか、客室の多さとその充実さ。一家の家としては大きすぎな上に“整いすぎている”。首を傾げたトレイドは、隣を歩くタクトに声をかけてみた。
「ここ、昔宿だったりするのか?」
「トレイドさん鋭い。昔は温泉宿だったらしいよ。まぁ、旅館というか民宿みたいな所だったらしいけど。そこの持ち主が、母さん達の知り合いらしくて、格安で譲ってもらったとか……」
――その時に色々問題があったらしいけど、と先程再会したタクトは苦笑い気味に説明してくれた。二週間ぶりの再開であり、それほど間が空いていたわけではないが、懐かしさを全く感じない、とも言えない。ともあれ、元気そうで何よりであった。
それに色々とあったのだろう、彼の肩に座る銀色の子人を見てほっと一安心する。タクトの説明に、何か知っているのか後ろを歩くカルアは微妙な表情を浮かべている。だがそのことを問いかけるよりも先に、目を輝かせたシズクが、
「元は温泉宿ってことは、やっぱりあのお風呂って……」
「あはは……うん、本物の温泉だよ。……正直、家に本物の温泉があることに驚くよね……」
苦笑いを浮かべて肯定するタクト。やっぱり、とテンションが上がるシズクを見てホッと息を吐き出した。知り合って僅か一日も経っていないが、今朝から妙に元気がないような気がしたのだ。少し元気が戻ってきたような気がして、胸をなで下ろす。そしてふと気づいたようにトレイドの方へ向き直り、真剣な眼差しで告げた。
「……一応言っておくけど、個人の家に温泉があるのは普通じゃないからね。俺の家が特殊なだけで」
「………当然、そんなことわかってるぞ?」
一瞬の間を置いて、トレイドは頷く。――そうか、普通じゃないのか、などと胸中思いながら。疑うような彼の視線から逃げるために、トレイドはコホンと咳払いを一つ付いて。
「それよりアキラはいないのか?」
「叔父さんはいるよ。……というか、今向かっている最中でしょうに」
「あ、あぁ。そういえば、そう……だったな」
ジトッとした視線でトレイドを見据えるタクトに、年上である彼は居心地が悪そうに視線を背けた。
そんな二人の気軽なやりとりを後ろから見て、カルアは珍しい物を見たと言わんばかりにタクトを見やっていた。後ろから向けられる視線に気づいたのか、タクトは後ろを振り返り白髪の彼を見上げた。
「カルアさん、どうしたんですか?」
「いや、ずいぶんと気安い間柄だなと思ってな。あぁ、無論悪い意味ではなく、良い意味でだ」
苦笑しながらタクトとトレイドの関係をそう表するカルア。彼は、特にタクトの方を見ながら、
「お前がそこまで砕けた口調で話すのも、中々ないと思ってな。少々、珍しいと思ったんだ」
「あ、それわかるかも。マモル達と一緒にいるときよりも、少し口調が崩れているというか」
シズクも同調するように頷いて指摘する。――そんなつもりはないのだが、しかし思い返してみれば確かにいつもよりも気安い言葉遣いになっているような。困ったような表情を浮かべて頬をポリポリとかくタクトとは対照的に、トレイドはニヤリと笑みを浮かべて肩をすくめた。
「これも人徳かな?」
「……まぁ、お前がどういう人間なのかは、ある程度わかったというか……」
「へぇ。ちなみに……カルア、だっけ? から見て、俺はどういう人間?」
「まず天然」
「第一声がそれか」
カルアの鋭い指摘に、タクトは思わず吹き出した。あまりにも的確であり、言葉少なめに彼を表す言葉でもあったためである。隣を歩くシズクは苦笑いを浮かべているが、ちょっとわかるなぁ、と小声で溢していたため、概ね同じようだ。
憮然とした、面白くなさそうな表情を浮かべるトレイド。本人は天然であることを認めたくないらしい。しかし彼のその思いが伝わることはないだろう。――つまり、どうあがいても天然ということだ。
「ったく、本当に失礼な奴が多いな。なぁタクト君!」
「は、はいっ!」
やや鋭く、怒りを含んだ声音でタクトの名を呼ぶ。わざわざ君付けで呼んだあたり、吹き出したタクトに対する思いが見て取れた。彼は声には出さず、口を動かして鋭い視線を向けた。
――後で覚えとけ――
「あははは……」
嫌な予感を感じたタクトは、苦笑いを浮かべながら頬をかき、視線を背ける。そんな二人の親密なやりとりを見て、カルアは肩をすくめたのだった。
「お前達仲が良いみたいだな。……さて」
会話をしつつ、割とゆっくり目に歩いてきたこともあってか少し時間が掛かったが、程なくして目的の部屋にたどり着いた。――そこは桐生家家長、桐生アキラの私室である。だが半ば仕事部屋のようになっているが。
――カルアに言われてタクトとアキラを呼びに行ったシズクだが、彼女よりも先にタクトがやってきて、その次にシズクが戻ってきた。どうやらアキラは今手が離せない状態らしく、「すまないが連れてきてくれ」という伝言を彼女は持ってきた。
その伝言通り、トレイドを引き連れてアキラの私室にやってきたわけだが。その部屋の前で立ち止まり、隅に隠れている人物にカルアは声をかけた。
「どうした、フォールド」
「……アイギットで構わない。珍しい客人を連れているなと思ってな」
呼びかけられたためか、大人しく角から現れた金髪のアイギットは、彼から見て後ろにいるトレイドに視線を向け、複雑そうな表情を浮かべる。その視線に、俺何かしたか? と首を傾げる物の、見当も付かないのか問いかけてみた。
「えっと、アイギットだったか。学園の食堂……いや、学園の襲撃以来か。傷は癒えたか?」
「……あぁ、おかげさまでな。……その、なんだ。あんたの姿を見かけたから、少し気になって付いてきたんだが……」
「そういうことならコソコソせず言えば良いのに」
どこかばつが悪そうに、視線を逸らしがちになりながら言うアイギットに、シズクははぁっと深く息を吐き出して答えた。反論しようかと口を開きかける彼だが、すぐに首を振って、
「……まぁ、そうなんだが……ちょっと、声をかけづらい雰囲気だったというか……」
彼らしくもなく口ごもり、彼の反応に一同首を傾げる。だがこの中で付き合いの長いタクトは何となく察したのか、苦笑を浮かべて、
「あいつ、トレイドさんに少し話があるんですよ。ほら、学園が襲撃された際に命を救ってくれたって」
「あぁ」
タクトに言われ、トレイドは合点がいったのかコクンと頷いた。
――学園が襲撃されたとき、”あの外道”が置き土産として残していった、異形化したエンプリッター達。襲いかかってきたそれらと対峙するとき、トレイドとアイギットはほんの僅かながら共闘していたのだ。
だがアイギットは途中で重傷を負い、その初期治療――主に止血のために――トレイドが関わっていたのだ。結局はコウと憑依を行っていたタクトが治癒したのだが、その時トレイドが出血を止めてくれていなければ危なかっただろう。
「別に記にすんな。アイギットを治したのは俺じゃなくてタクトだし」
「それでもです。……あのときはありがとうございました」
「……ま、礼は受け取っとくよ」
頭を下げて礼をする少年を相手にして、トレイドはめんどくさそうに髪の毛をかきむしり、苦虫を噛みつぶしたような表情で頷いた。――おそらく照れ隠しだろう、そんな彼にタクトは苦笑する。
「それで、タクト達はどうしてアキラさんの部屋の前に来たんだ? 何か用事でもあるのか?」
頭を上げたアイギットは、タクトの後ろ――アキラの私室を見ながら問いかけてきた。私室とは言え、半ば仕事部屋にもなっているこの部屋の主は、タクトの叔父と言うことで忘れてしまいそうになるが、フェルアント地球支部の支部長なのだ。
用事――それも重要な――でなければ、ここには来ないと思うのだが。そんな疑問に、カルアがため息混じりに説明してくれた。
「いや、このトレイドがいきなりやってきたのでな。軽々しく地球に転移してくるのは止めるよう注意するために、アキラにも声をかけようと思った。お前もフェルアント所属の精霊使いなんだ、その辺はきっちり守ってもらうぞ。……まぁ、怒られてこい」
「は……? いや、地球には魔術はないから、転移するときはそれなりに気を遣っているが……」
「そういえばアキラさん、険しい顔していたよ?」
「……俺怒られるのか?」
――自分を指さしながら不安げに聞いてくるトレイドに、ご愁傷様ですと頭を下げるタクト。地球には魔法文化はないため、魔術の秘匿のために無許可での転移等は禁止していたりする。しかし、地球支部では若干形骸化している禁則事項ではあるが。何せ証拠がなければバレない。
――バレなきゃ大丈夫――なお、そう思っていた者の大半は、セシリアによって証拠を見つけられ始末書を書かされる羽目になったとか。彼女が来てから事務系の能率は上がったが、その辺が堅苦しくなった、とは現場の声であったりする。
「……お前等俺を騙したな」
「騙してはいない、黙っていただけだ」
「……以前目の前で転移したときは何も言わなかったのに……って、あのときはフェルアント所属じゃないか……」
――呼び出された理由が、こってりと絞られるためだったとは。ふぅ、深いため息をつくトレイドをよそに、カルアはタクトとアイギット、そしてシズクの方へ向き直り、
「というわけだ、お前達は居間にでもいると良い」
はーい、やら、分かったー、等と言った返事がしてシズクは素直にその場を後にする。だが、アイギットとタクトは疑いの目を持ってカルアを見ていたが、やがて首を傾げながらも立ち去っていく。彼らの背中を見やりながら、俺もあっちに行きたいなー、と思いつつ恨めがましい眼差しでカルアを見やるトレイド。
そんな彼に対しガキか、と呆れたため息をつくカルアはトレイドの非難を受け流しつつ、彼を引き連れてアキラの私室のドアをノックする。――気が進まないなぁ、と息を吐き出しながらも一足先に部屋の中に入ったカルアに続くのだった。
――しかし、部屋に入った途端書類を睨んでいたアキラが目に入り、彼は二人が部屋に入ってきたのを察した途端に書類から目を離した。やや目元に隈が浮かんでおり、トレイドは地球に転移する前にあったミカリエ本部長のことを思い出す。――本部長や支部長といった役職は睡眠時間を削るほど激務なのだろうか。
「すまないなカルア、トレイド。……シズクやタクトはどうした? てっきり、あの二人も来ると思っていたんだが……」
「直前で席を外してもらった。……話すのは、あのことだろう? 彼らには聞かせるべきではないだろう」
「確かにな。……正直、タクトには聞かせるべきかと思ったが……」
部屋に入ってきた二人を見てアキラは首を傾げるが、カルアの言葉に頷きつつもそんなことを呟いた。逆に驚いたような表情を浮かべるカルアだが、しかしまだ早いと首を振る。
「まだ時期尚早だろう。……しかし、どういう風の吹き回しだ? 可愛い甥っ子を大人の事情に巻きこまない方針だったのではないのか?」
「……いつまでも子供達を籠の中に置いておくのは無理だったんだ。飛び立とうとする雛鳥を押さえられはしないさ」
どこか誇らしげに、しかし寂しげに、不安げに――そう口を開いたアキラに目を見開き、しかし納得したような表情で頷き、彼の表情を見てふと思った。どこか吹っ切れた様子のアキラ――もう、大丈夫なのかも知れないと。
「……わかった。なら、今度からはアイツにも確認をとる。……無理じりはしないことを約束する」
こくりと頷くアキラは、視線をその隣――思っていたのとは違う雰囲気だったことに戸惑いを隠せずにいるトレイドに向けられる。彼は、視線をあちらこちらに彷徨わせながら、
「……なぁ、説明してもらっても良いか? 俺が呼び出されたのは、違う件だったりするのか……?」
「……カルア、一体何を言ったんだ?」
「ちょっと脅しをかけたのだが……ふむ」
困ったように苦笑いを浮かべるカルアは、未だにどういうことなのか理解してなさそうなトレイドの肩を叩き、
「先程の、勝手な転移をしたことによる処罰は嘘だ。……といっても、転移云々の方は事実だからな。今後は、勝手な転移は控えるように。……うちの事務担当がうるさくてな」
「……なるほど、そういうことか。まぁトレイドはうちの所属ではないし、目を瞑ってやるさ」
「……了解」
――嘘だったのか。今更ながらに理解したトレイドは、ふぅっとため息をついた。先程の会話から察するに、あの三人を部屋に入れないための口実だったのだろう。とりあえず無駄な叱責を浴びずにすみ胸をなで下ろす傍ら、見事に騙されたと憤り彼らを見やる。――だが、彼らの目を見て、息を飲み込んだ。
彼らの真剣な眼差し――二方向から向けられるそれに、トレイドも真剣な表情を浮かべて応じるのだった。
「――どうしたんだ?」
「君はルフィンと交友があるんだったよな? だから、君には話しておこうと思う。……精霊王の血を引く者として。そして何より、“アレ”の親友として。……ミカリエや、フェルアント前本部長さえ知らない、奴の本当の目的を」
「……本当の目的?」
アキラの口が開かれる。――そこから放たれる、重い言葉の数々に、トレイドはやがて目を見開いていくのだった。