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精霊の担い手  作者: 天剣
2年時
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第29話 刀の章 魔術の使い手~1~

車いすに乗っている風菜から次々と放たれる属性変化術による攻撃。火や雷と言った殺傷力の高い属性攻撃を、法陣を展開させて防ぐエンプリッター達。そして時折彼らは法陣から身を出して魔力弾を撃ち出すライフルの引き金を引いていく。


発射音が重なり合って響き渡る。狙いを定めた先が瞬く間に魔力弾で埋め尽くされた。一人に対し十数人による一斉射撃。だが、数で圧倒的に勝っているにも関わらず、風菜が展開した法陣は崩れない。


破壊力で言えば、純粋魔力による攻撃はかなりのものだ。これだけの数のライフルを受ければ、法陣などあっという間に破壊できる。――だというのに、破壊できなかった。魔力弾を受けた、色とりどりの法陣はただ防ぐだけ。仲間内で撃って防いだときは、一発受けただけで軋んだというのに。


「なんだ、こいつッ!?」


十数人による一斉射撃を受けても破壊できない、彼女を守るかのように縦横無尽に周囲を駆け巡る五色の法陣。そしてその法陣から放たれる炎や雷。直撃すればひとたまりもない攻撃を周囲に放ちながら、彼女はその場から一歩も動かない。涼しい顔を浮かべてエンプリッター達を見渡していた。


「くそ! 属性攻撃に切り替えろ!」


どれだけ魔力弾を撃ってもビクともしないことに苛立ちを覚えた彼らは、誰かの叫びに呼応するかのように属性攻撃に切り替える。――その瞬間、風菜は手にしている装飾剣を地面に振れさせた。――証を通して魔力が”地面”に流れ込む。


「うっ……っ!?」


――撃て。そう命じた矢先、風菜の周囲の地面がぼこっと膨れあがったのもつかの間、地面から土で出来た人形が産まれてくる。その数、四。


「な……」


「………」


三メートルはある人型の人形の胸に、風菜の周囲を回っていた法陣が吸い込まれた。茶色――土の属性変化術を除いた、全ての法陣が。直後、人形に変化が起きる。


取り込んだ法陣に呼応した自然物が周囲に顕現、それぞれ炎や雷を纏いながら敵陣に突撃を開始した。慌てた彼らはライフルを斉射し応戦するも、土人形には効果がなかった。体を構成する土が弾けるだけで、意味がない。


腕を横に薙ぐだけの攻撃。だが三メートルを超える巨体が繰り出すそれは、数人の人間を同時に吹き飛ばすに値する力があった。おまけに炎や雷のおまけ付きである。


残りの二体は風菜の周囲にいる。それぞれが纏うのは水と風。――周囲を飛び交う水滴が魔力弾による攻撃を防ぎ、吹き荒れる風が軌道を逸らす。攻撃に秀でた二体で攻め、守りに秀でた二体で守る。単純だが、それゆえ強力であった。


「あの女ッ……!」


「落ち着けッ! いくら化け物じみていようが、これだけ魔力を使っていればいずれ尽きる! そこを狙い撃って――」


叫び、周囲を励ます彼らだが、その中心にいる風菜を見て目を丸くした。――平然としている。


――精霊使いが持つ魔力を生み出す機関、魔力炉。それは無制限に魔力を生み出しているわけではない。自身の生命力を使って炉を動かし魔力を精製しているのだ。炉を動かす――つまり魔力を精製すると言うことは、自身の体力を消耗させていると言っても良い。


魔力を過剰生成した過ぎた場合、最悪死に至ることもある。だが、死に至ることは稀であった。何せそこに至る前に疲労感が募り、指を動かすこともままならなくなる。そんな状態で魔力を生成しようなど、思うはずもないの普通だ。


三メートル越えの土人形を四体も作り出し、強力な自然物を生み出している。それら全てを制御するのでさえ困難な上に、魔力の使用量もかなりのはずである。疲労感を感じてもおかしくはない――はずだ。


なのに。


「……貴様、一体どうやって……ッ!」


信じられないとばかりに疑問が口から放たれるも、それに答えてくれる者はいない。かわりとばかりに、雷を纏った土人形の拳が眼前に迫ってきた。強烈なその一撃を何とか躱して風菜を睨み付けるも、答えてはくれない。


魔力の使用量は明らかに大きく、疲労を感じてもおかしくは――いや、感じていなければおかしいのだ。なのに相手は涼しい顔をして平然と四体の土人形を操り、強力な属性変化術を使用している。


どこかから魔力を借り受けている、そう考えるのが妥当だろうか。だが、どこかから借り受けているとはとてもではないが思えなかった。借り受けたとしても、その相手も危険な状況に陥りかねないのだから。何か、別のからくりが――


「―――――」


対する風菜は魔術の制御に集中していた。――疲労はあまり感じない。自分の体が規格外なため、ということはない。それどころか、フェル・ア・ガイとしての特性を考えれば多量の魔力行使は精霊使い以上に死に直結する問題である。


彼女がこれほど強力な属性変化術を行使できるのは、その魔力の制御能力の高さと、”科学”の知識があるためであった。


科学が魔術とどう関係するというのか。例を挙げるのならば水。水の化学式はH2O――水素と酸素で出来ている。その二つを合成させれば、水は生み出される。単純で簡単な科学だ。


ならばその二つ、水素と酸素を、”空気中に含まれるそれらを一箇所に集めてしまえば、水を作り出せる”。


この時に使用した魔力は、ごく僅かである。何せ水素と酸素を”動かすだけ”なのだから。同じ量の水を直接生成した結果と比較した場合、この方法で生成した方がはるかに燃費が良いということが判明している。


――最も、それを行うには凄まじいまでの魔力の制御能力が求められる。水素も酸素も目に見えないほど小さなものだ。それを操作すると言うことは、普通ならば不可能に近い。


――現にこの方法を発見したフェルアントの学者は、「理論上出来るけど現実味にかける。直接水を生成した方が早いだろう」と言っている。


だが仮に、これを行えるほどの魔力制御能力を持ったものが使えばどうなるか。答えが、今の風菜だ。


魔力の使用量を大幅に下げることが出来、属性変化術の効率を異様なまでに上げることが出来る。つまり火力を落とさず(場合によっては上げ)、戦闘時間を大幅に増加させていた。


このことから”五元素の魔女”――かつて戦った精霊使い達から、彼女はそう呼ばれていた。その名の通り、五つの属性変化術を組み合わせ、誰よりも魔術を使っているのに誰よりも長く戦場にいたその姿が由来なのだろう。最も本人は早々に忘れて欲しいそうだが。


「くそっ……! たった一人に……っ!」


「――答えてちょうだい。あなた達は何のために、私の家を襲ってきたのかしら」


襲いかかってくる土人形の強烈な一撃を受けて吹き飛ぶ仲間を見て顔をしかめる男に、風菜は鋭い眼差しを向けてくる。だが男は答えず、かわりに腕を振って全員に合図を送った。


「やむを得ん、アレを使え!」


「アレ?」


唐突に出て来るアレ。それが何を指すのか分からず、訝しげに首を傾げる風菜だが、エンプリッターの一人が懐から円形の物体――メダルのような物を取り出すのを見た途端、背筋に寒気が走る。


そのメダルがなんなのかはわからない。――だが、そのメダルから感じる気配は、今はいないスサノオが、時々放つ物と同じだった。


「――まさかっ!」


嫌な予感に従い、風菜は操っていた四体の土人形をいっせいにそのメダルを持つエンプリッターへと突撃させる。自身の防御がおろそかになるが、そうも言っていられない。魔力弾が四方から撃ち込まれる物の展開させた法陣で防御する。


「ひっ……!?」


「貸せッ!!」


一方、メダルを持つエンプリッターは、先程まで無双していた土人形がいっせいに迫ってくるのを見て震え上がるも、その隣にいた男がメダルを奪い取り、その表面に手を押し当てた。――メダルが、光り輝く。


「しまった……ッ!」


光り輝くメダルからふわっと薄い半透明の膜が生まれ、それが家の敷地全体を覆っていく。――土人形が唐突に動きを止め、その体が自壊していく。


四方から撃ち込まれていた魔力弾もなくなり、風菜を守るかのように飛び回っていた法陣も消滅した。


「――貴方、何をしたの……!」


この状況はかなり不味いと言うことは風菜にも分かっている。何せ”魔力が使えなくなっている”。おかげで息苦しさを感じてきた。先程まで汗を一つもかかなかったはずなのに、すでにこめかみから汗が流れ始めている。


それに気づかずにいるのだろう、男は首を振り、


「……答える義理はないだろう。――やれ」


魔力が使えなくなった今の状態では、戦うことは愚か“生命維持”さえ難しくなってくる。これが精霊人の弱点。体の構造の大半、生理現象や生命維持さえ魔力を使っているために、魔力が使えない状況は凄まじいまでに危険なのだ。――一分も経っていないというのに、呼吸が苦しくなって来た。


だが、たとえ精霊人であろうとなかろうと、車いすに乗ったこの状況ではどうすることも出来なかっただろう。複数人に囲まれたこの圧倒的不利な状況に、風菜は為す術がない。次第に体が俯いていく。


「……? おい、お前……」


「馬鹿、気を抜くなッ。何をしでかすか分からんぞ、こいつは」


近づいてきた一人が風菜の異変に気づき声をかけようとするも、誰かがそれを制止する。目の前の女の実力は計り知れないということを痛感したのだろう。手にしたナイフを下ろす気配はない。


(これは、まずいわね……!)


冷や汗を流しながら焦燥感に駆られる風菜。息苦しく、体は重く、状況は最悪。――だけど諦める気にはなれない彼女はあがくかのように車いすの肘掛けを力一杯握りしめた。まるで、ここ(車いす)からは離れない、と言わんばかりに。


その時、誰かが風菜の異常に気がついた。瞳を細め、自分の見間違いかと確かめるかのように口に仕掛けて。


「……なぁ、あの人……透けて――」



「その人から!」


「風菜さんから!」


――声が唐突に響いてきた。その声に一同は驚き、風菜は俯きながら瞳を見開いた。今聞こえた声。どちらも、聞き覚えのある声だった。


『離れろぉ!!』


一人は息子の幼馴染みで、もう一人は最近地球支部にやってきた、訳ありの少女。幼馴染みは右側から、少女は左側から、それぞれこちらに向かって来る。なぜ、どうして。フォーマを通して道場にいてもらうように指示したのに。


「何だッ!?」


「一般人……いま、まだ結界はある! 支部所属の精霊使いか!」


「どけぇっ!!」


幼馴染み――宮藤マモルの傍らには黄色の法陣が展開し、雷が溜まっていた。魔術は、いや魔力は無効化されているのになぜ。


「あいつ……範囲外からッ!?」


「……っ!」


――範囲外、敵が漏らしたその一言で謎が解ける。おそらくこの魔力が使えない空間には範囲があるのだろう。


エンプリッターも魔術を使うため、あらかじめ範囲外に出ていたであろう者達が呪文を唱え、法陣を展開した。属性変化術――呪文を一言唱えるだけで即座に発動する、精霊使いにとっての主力魔術。


マモル一人に対し複数人による魔術。――これはまずい。いくら何でも数に差があった。風菜は重い腕を何とか動かし車いすを移動させて範囲外から逃れようとするも間に合わない。


「………っ!!」


展開された複数の法陣を目の当たりにしても、マモルは止まらない。――それに、今はまだ、友人達の援護は期待できない。くっと歯を噛みしめて、しかし展開した法陣から雷を放とうとして。


「うあぁぁぁっ!!」


「っ!?」


――反対方向から悲鳴が上がり、複数人が空を飛ぶ。主に法陣を展開していた精霊使い達が。それに伴い、夜空に浮かぶ色とりどりの円が消滅し、急激に数を減らした。マモルは、突如減少した陣に驚くような表情を浮かべるも、即座に笑みを浮かべて放とうとした雷を中断。法陣を通して魔力を雷に変換、蓄積し、タイミングを計った。




――彼からは見えず、声も聞こえなかったため気がつかなかったのだが、反対側から来た少女の手助けのおかげだった。


その反対側から来た少女も、マモルと同様に彼の姿も声も聞こえず、一人で突撃したのに思ったほど注意を引けなかったことに疑問を抱きつつも、目の前で襲われそうになっていた風菜を助けるために、躊躇いなく手にしていた巨大な斧を振り回す。


彼女が注意を引けなかったのは、彼女が魔力を持っていなかったため、ということもある。そのため注意を引けなかったのだが、だが彼女を、正確には彼女が持つ巨大な斧を見たエンプリッター達は、慌てて対処しようとしたがすでに遅かった。


彼女の身の丈ほどはある巨大な斧。それを苦もなく力任せに振り回し、一番近くにいた、慌ててライフルをこちらに向けてきたエンプリッター達を宙に打ち上げた。――もっとも吹き飛んだ彼らは”範囲内”にいたため、ライフルは撃てず、その行為に意味はなかったが。


だが、彼らがライフルを向けた理由もわからないでもない。身の丈はある巨大な斧を軽々と持つ少女が、真っ向から向かってきたのだ。思わず手にしていた武器を向けるのも無理はないだろう。


「邪魔しないでッ!!」


斧をぶんぶん振り回しながら敵陣に襲いかかる茶色い髪をした少女。彼女の鬼気迫るとでも言わんばかりの猛攻に、後退を余儀なくされるエンプリッター達。だが、彼らは下がることは出来なかった。


――反対側から来ていたマモルが、今まで溜めていた雷撃が、ついに放たれる。反対側から盛大に広がった雷光に気づき、少女は目を見開いて攻めを止めようとして。


『止まるな、行けッ!!』


「っ!」


通信魔術を介して、先程まで共にいた人物の声が頭に響き、もう一度斧を振りかざした。同時に、背後から迫り来る”数本の矢”。鏃が長い異様な矢が、数人のエンプリッターを貫いた。


――ナギサとカルアである。後方に構えるカルアの援護を受けながら、ナギサは巨斧を振るい力任せに相手を吹き飛ばしていく。


左右から挟撃を受けたエンプリッター達は浮き足立ち、狼狽が広まっていく。その最中、雷だけではなく、襲い来るマモルの背後から”炎”と”氷”が現れ、エンプリッター達に放たれた。マモルの方にも、フォーマとアイギットの援護が始まったのだ。


――奇しくも、両組の目的は同じ、「風菜を助ける」こと。そのために、まず彼女を中心に展開された奇妙なドームを消滅させる。範囲の外側から見れば分かるのだが、今風菜を中心に半透明の膜で覆われたドームがある状態。おそらく、あれが風菜を無力化させた物だ。


あれを破壊するためには、起点となる物を何とかするのが通例だ。そしてその起点となるのは、エンプリッターが持つ光を放つメダル。


「――なるほど、マモル達か。どうやら目的も同じようだ。……ならば……」


――離れたところからその光景を観察していたカルアは、手にした巨大な弓に剣をつがえた。いや、正確には剣のように見える矢か。鏃が異様に長いため、どうしても剣のように見えてしまう。


弓に矢をつがえ、同時に証に宿る“知識”を発動。矢に風が渦巻いていく。


「―――――」


――矢に風を纏わせたまま集中、待機。矢に纏わせた風は矢が受ける空気抵抗をなくし、加速にも用いて射貫く。さらには風を利用した軌道の変化を行い、放たれた矢は戦場を駆け抜け、見事敵が手にしているメダルを打ち抜いた。


「――よしっ」


メダルを射貫き破壊したのか、それとも発動者の手元から離れたためかはわからない。だが、風菜を覆うように広がっていた半透明のドームは消滅した。


それと同時に向こう側から巨大な炎が顕現。エンプリッター達を飲み込まんとばかりに広がっていく。


――さらにドームが消えて数秒後、体を俯かせていた風菜が上体を起こし、手を振るう。――と、彼女の周辺に風が巻き起こり、それは瞬く間に竜巻となって、エンプリッター達を飲み込んだ炎に向かっていった。




――雷が走り、間を置いて炎と氷が次々に放たれる。突撃するマモルを援護するかのように後方から来るそれらに思わず冷や汗を流す。これらは味方からの援護であり、自分に当たることはない、とわかっているのだが。狙っているのか、それとも偶然なのか、時折自分の近くを通り過ぎる物があり、思わずびくりとしてしまう。


だが、それでもマモルは歩みを止めない。何やら敵の後ろの方が騒がしいが、今はそれにも構う余裕はなかった。手にした二丁銃の銃口に二つの法陣を展開。片方ずつ銃口に炎と風が集い、生成、圧縮を繰り返していく。


銃口に集まる炎と風は、やがて球体状に圧縮され、最終的に小さめのボール並みの大きさになる。


「………っ」


とはいえ、雷属性の魔術を連続して発動し、次に炎と風の同時発動。集中力が必要とされるため、彼の足はやや遅くなる。だが、それでも十分だ。この距離なら、おそらく。彼は右腕を水平に持ち上げ、後方にいる二人に合図する。


マモルのすぐ側を通り過ぎていた炎と氷が、間隔を開けて離れていく。――彼らの作戦を一言で表すならば、大威力攻撃により集団を無力化させる、という一点に尽きるだろう。


一人が大威力攻撃を放つために、他の二人がその援護に回る。さらに攻撃をする一人が”囮”になる、という危険な作戦だった。だが、少数で多数を相手取るならば、多少無茶な作戦でもやらなければならなかった。


「――今まで溜め続けたこいつを……しっかり味わえ!」


ほぼ作戦通りに行ったと言っても言い。攻撃に回った自分は、こうして魔術のチャージを終え、他二人も即座に援護に回れるよう近づいてきている。両手に持った証の銃口をエンプリッターに向け、引き金を引こうと指に力を込める。


――弾丸に風と炎を纏わせて発射。さらに、炎と風を合わせることにより巨大な炎として顕現させる。マモルが今から放とうとしているのは炎と風を合わせた多重属性攻撃。


風菜ほどとまでは行かずとも、この程度の組み合わせならば余裕で行える。彼は敵陣に炎を撃ち込もうと引き金を引き――


――その直前、敵陣の”向こう側”から飛来する何かを見た。それは一本の矢――矢の全長の大半が鏃のため、剣のように見えるが、あれは矢である。それが意思を持つかのごとく、敵陣を縦横無尽に駆け抜け、光を放っていた謎のメダルを貫く瞬間を。


どこかから飛んできた矢には見覚えがあった。フェルアント学園に入学する前、何度か矢の持ち主の戦いを見たことがある。――カルアだ。増援だろうか、ともかく彼も近くに来ているらしい。


「………へっ」


知らぬうちに口元に笑みが浮かぶ。彼が来ているのなら百人力である。タクトとレナともども、お世話になったうちの一人だ。


彼の矢がメダルを射貫くと、風菜を覆うように広がっていた膜も消え去る。おそらく、これを撃たなくとも大丈夫だろう。だが。


「ここまで来たんだ、持って行け!」


ダメ押しの一撃。”十分に手心を加えて”、マモルは二丁銃の引き金を引く。放たれた弾丸は銃口に溜まっていた炎と風を纏い、敵陣の頭上に向かって進んでいく。――やがて弾丸同士が交差し合い、巨大な炎が顕現した。


火属性と風属性の相性は良いと言える。風属性によって酸素を生み出し、その酸素によって炎が爆発的に広がるからだ。――最も、酸素ではなく風を生み出してしまえば、場合によっては炎が消えてしまうこともあるため、二つの属性の相性は使い手による、という評価が正しいだろう。


だが十分に手心を加えられたそれは、思ったほど燃え広がらなかった。――すぐ隣に木造建築があるのだ、手加減しすぎないと流石に不味い。さらに復活した風菜も、おそらく消火を兼ねて竜巻を生み出し、発生した炎にぶつけて火を吹き飛ばした。


瞬く間に消滅していく炎。――手加減したとは言え、多重属性攻撃をこうも容易くかき消されてしまうと苦笑いしか浮かんでこない。相変わらずな魔術の力量を持つ風菜に苦笑いし、自身に対する情けなさを感じ、マモルはため息をついた。


援護に回っていた二人が駆けつけてくる。アイギットとフォーマに向かって手を上げ、彼は頷いて見せた。ともあれ、桐生家に襲撃してきたエンプリッター達は全員制圧。防衛に成功したのだった。




――地球各地に設置していた地球支部への転移門、そこに対するエンプリッターからの防衛に成功したという報告が、アキラの元に届いたのはほぼ同時刻だった。


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