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精霊の担い手  作者: 天剣
2年時
206/261

第29話 剣の章 脱出への道筋~4~

タイトル修正しました。

「……気は進まないが……やるぞ、桐生の小倅」


「へいよ」


――ほんの僅か、時間を遡る。トレイドが憑依を行い、女性へと襲いかかったのほぼ同時に、ログサ達もまた異形へ襲いかかっていた。二本の刃がいっせいに異形へと向かい、しかし異形は無数の腕を伸ばして刃を押しとどめる。


「――っ!」


自らに向かって来る腕を容赦なく切り落とし、しかし切り落とすセイヤの表情は歪む。切り捨てた感触が、まさしく人のそれと同じだったのだ。――従弟の目の前で人を斬り殺したこともあるが、だからといって慣れているか、と言われれば否定する。


――だが、覚悟がないわけではない。いざとなれば、人を斬ることは出来る――歯を噛みしめて、感情を押し殺して、手に感じる感触を無視して、彼は襲い来る腕を切り払っていく。


「っ!」


鋭い呼気と共に一閃、二閃――宙に軌跡を描き、異形への道を開いていく。それはログサも同じ――いや、“気がついたら異形の目の前にいた”。


(はやっ!?)


「――とった」


見ると、彼を襲おうと向かう腕は、体に触れる直前にズタズタに斬り裂かれていた。風の鎧――全身に風という刃を纏った初代“風刃”。怪我を負い、内蔵を痛めているはずの彼だが、それを感じさせない動作で剣を振り上げる。確かに、あの鎧があれば迎撃しなくてすむ。一直線に向かったのならば、向こうの方が早く間合いに入ったのも頷ける。


『―――――っ!!』


「……お望み通りに」


――苦しい、嫌だ、痛い――殺して――


異形の咆哮――いや、叫び。”極め”の段階に到達したログサは、風に関しては無類の強さを誇り、それは音にも通じている。なぜなら、風も音も、それぞれ空気の流れと振動であり、原理としては同じなのだ。


――だからこそ、異形の咆哮は叫びだと分かったのだ。咆哮の中に混じる、無数の叫びが重なり合い、異様な咆哮へと変えている。


“一つ一つの声”に耳を傾ける。そのどれもが、苦悶と苦痛に満ちた声だった。この異形の正体は――


「せいっ!」


暗い気持ちを表さないよう、軽い口調でかけ声を出し、異形を真っ正面から両断する。風を纏った剣腹のない剣が異形の丸い胴体を斬り裂いた。だが両断するまでにはいかず、それどころか切断面から細長い糸が何本も伸び、別れた部分を強引に繋いで傷口を塞ぐ。


「おいおい……再生すんのかよ」


『―――――っ!!』


苦痛に満ちた数々の叫びを聞きながら、ログサは表情をしかめる。さらに、バラバラにしてきた腕が再生、変化して触手と化し、ログサの体を貫かんといっせいに向かって来る。そんなことをしても”鎧”によって逸らされるか斬り裂かれるかの二択だが、彼は上へと飛び上がった。


「中々、場の空気を読むのが旨いじゃないか、後輩」


空中でニッと笑みを浮かべ、後ろから近づいてきた後輩が叫びながら剣を振るう。


「――二之太刀、飛刃!」


剣閃が走り、それにそって純粋魔力で象られた刃が走る。その刃は、触手を遠慮なく斬り裂き、再び異形の胴体を二つに分かつ。だが、やはり先程と同様に再生してしまう。


「ダメージを与えても再生する……お前ならどう考える? 後輩」


「再生する場合、核にダメージを与えるか、それとも再生能力に限界が来るまでダメージを与え続けるか、のどちらかが対処の定石。だが……呪術に詳しくないから何とも言えないが……目の前のこいつは、そのどちらも無理なような気がする」


「奇遇だな、俺もだ」


セイヤの慧眼にログサも頷いた。どうやら後輩も同意見らしい。やはり呪術にとっての天敵と言える浄化が必要になるか。その浄化能力を持つであろう人物は、現在少し離れた場所で戦闘している。


「……こいつをあっちに押しやりたいが、向こうも呪術関係の奴と二対一だ。どうしたもんか……」


「……倒せなくても、動きを止めることは出来るんじゃ?」


「じゃあその案で行くとしよう。――アンネル、エイリをしっかり守ってやれよ」


「いやけが人の貴方が何でそんな元気に――」


言葉を交わして戦闘方法を共有した後、ログサは後ろにいる弟子に告げた。だが返ってきたのは真っ当な指摘であり、それに付き合うと不利になるのは自分だと思ったのか、口を閉ざして異形へと向かっていく。


それに一拍遅れる形でセイヤも追従し、長剣を両手で握りしめる。ふぅ、と息を吐き出して意識を集中させた。


「――触手腕は頼みます」


「あいよ」


突撃した彼らを迎え撃つように、異形の丸い胴体から数十本もの触手腕が襲いかかってきた。しかし前を行くログサはニヤリと笑みを浮かべるのみ。当然だ、今彼は”鎧”を纏っている。――触れただけで斬り裂く風の鎧。


彼を襲う触手腕は、瞬く間にバラバラに斬り裂かれ、動きを止めるどころか鈍らせることさえままならなかった。二人と異形の距離が一気に縮まる。そんな中、ログサの背後を追うセイヤは、集中させた意識のまま、口を開いた。


「――霊印流、”穿孔の型”」


――穿孔の型――霊印流を習得したセイヤが、己の証と太刀筋に最も合うようにアレンジを加えた、彼だけの霊印流。直後、セイヤが持つ長剣の刀身を魔力が覆い、刀身を中心に、渦を描くように螺旋状に”流れ”ていく。


「穿孔一之太刀――爪魔」


――セイヤの太刀筋は、アキラやタクトのそれとは違って真っ直ぐ――言わば直線だった。最も、二人の太刀筋が曲がっているわけではない。二人のそれも当然真っ直ぐだ。だが、剣の道に長くいれば自ずと違いが見えてくる。


自分の太刀筋は、二人のそれとは違うのだと。一見同じでも、決定的に違う――それが証にも反映されたのだろう。二人の日本刀型の証とは異なる、西洋剣型の証がそれを如実に表していた。


手首の力加減は使わない。力を込めて、ただただ思いっきり振り下ろす。それが自分の太刀筋だ。そしてそれを生かすために、より力が入るように、形を変えた爪魔。



『刀は斬り裂く、剣はぶった斬る。当然切れ味は刀の方が上だ。……だが、切れ味が攻撃力に直結しない場合、純粋な攻撃力は剣が上になる』



かつて自身に霊印流の”型”についての教えを受けたとき、アキラはそんなことを口にした。



『お前の証は刀にはならない。お前に最も適しているのは剣なのだ、それは証が証明している。……自分を信じろ。”それ”を生み出したのは、お前なのだから』



「――――ログサ!」


「カッカッカッ!」


セイヤの叫びと共に、ログサはふわりと宙を飛ぶ。直後、彼の背後に隠れていたセイヤは異形の眼前に飛び出し、魔力が渦を巻くように流れる証を振り上げた。


――渦を巻くと言うことは、回転していると言うこと。そして回転は遠心力を生み出し、その遠心力が、剣に力を与える。


セイヤが剣を振り上げたのを見て、異形は触手腕を用いて目の前に壁を作った。これで防ごうという魂胆だろう――しかし今のセイヤの剣に、“その程度の防御”は意味がなかった。彼は構わずに剣を振り下ろす。


「はあぁぁぁっ!!」


『――――っ!!?』


防御した腕を”砕き斬り”、返す一刀で異形の胴をなぎ払う。胴体を粉砕したセイヤは、鋭い瞳で異形の傷口に目をやった。


(――核らしきものはない……なら、やっぱりこっちの方法だな……!)


念のためと言わんばかりに傷口を見回って核を探し、それがないとしても落胆せずに次の策に取りかかる。再生しようと傷口から糸が伸び、別れた部位を繋げようとする異形に目を向けながら、彼はぐるりと回転した。


「――ログサ!」


”常に遠心力を放っている剣”に、自分が回ることで発生する遠心力をさらに乗せ、異形を真下から切り上げ、頭上へと打ち上げた。予想以上に重たかったものの、それでも頭上へと上げることが出来た。


「あいよ後輩!」


さらに、先程頭上に飛び上がったまま、風を操って落下速度を極端に遅くさせたログサが待ち構えていた。全身に風を纏わせた彼は、落下速度を普通に戻し、下から上がってきた異形とすれ違う。


打ち上がっていく異形と、落下してくるログサ。交差は一瞬――しかしその一瞬の後に、ログサの剣が閃き、


――天の風――


謎の声が響く。剣閃が一つ走ると、異形の胴体に無数の斬撃が走った。


『――――――――ッ!!!!』


――いや、あれは斬撃ではない。”鎌鼬”だ。たった一振りで、いくつもの鎌鼬を引き起こしたというのだろうか。ともあれ、異形を切り刻んだ無数の鎌鼬は、なんと生えていた腕を”全て切り落とした”。落下してきたログサが着地すると、一拍おいて数十本の腕がドサドサと落ちてくる。何とも顔を背けたくなるような光景であった。


「……えげつないな、あんた……」


「そんなことよりも、アレを拘束しろ」


引きつった顔で言うセイヤに、フンと鼻を鳴らして指示を出すログサ。はいはいとばかりに頷いて、爪魔を解除した証を足下に突き立てる。――魔力が証を通して石床に流れ込み、宙にいる異形の真下から石柱が飛び出した。


飛び出した石柱は先端が二つに開き、すでにボール型へと刈り取られた異形を完全に閉じ込める形で拘束し、さらに石柱を整形。異形の形に合わせて石柱を細くさせた。――事情を知らない者が石柱を見たら、柱の上に球体をのせたオブジェクトのように見えたことだろう。


「――ほほう、後輩……憑依習得者だったか」


「まあな。だが、マスターリットは全員習得者だ。あんたのときもそうじゃなかったのか?」


「している奴としていない奴がいた。まぁしている奴が多かったが……いや、話は後だ。それよりもまず……おいッ!!」


首を振って話を打ち切ったログサは遠くで戦うトレイドに目を向ける。すると瞬く間に瞳を見開き、叫び声を上げた。つられてそちらを振り向くと、巨大な腕に取り押さえられている。しかし例の異形の姿はどこにもなく、腕の傍らには白い炎が燃やしている何かが転がっている。


一体どういう経緯があったのかわからないが、向こうも窮地に立っていると言うことはわかる。何せ憑依している精霊使いを力で押さえ込んでいるのだ。あの巨腕に、どれほどの怪力があるのか押して見るべし、である。


こちらも早く援護に向かわなければ、と駆け出そうとするも、その直前に離れたところにいるであろうアンネルとエイリの二人に目を向ける。みると、エイリが顔を青白くさせてぐったりしていた――気絶したのだろうか。まだ幼い少女には、刺激が強い光景だったのだ、不思議ではない。


「セイヤ、奴の援護―――」


――に向かうぞ、と言いかけて。ログサは突如、膝を突いた。腹の底から何かがこみ上げ、口から吐き出す。――血だ。


「―――――くそっ……!」


「お、おいログサ!? 無茶しすぎだろッ!!?」


――あまりにも軽快に動くから忘れてしまっていたが、元々ログサはけが人なのだ。それも内蔵に傷を負っているであろう重傷人。よく今まで動けたなと感心する反面、これ以上の無茶はさせてはならないと察してしまう。


「……俺はまだ……戦え――」


「引っ込んでろけが人! アンネル、手を貸してくれ!」


「ほら言わんこっちゃない!」


セイヤが後方で待機しているアンネルに呼びかけると、彼も察していたのか気絶しているエイリを連れて近づいてきた。


「師匠、嬢ちゃんを頼みます! てか大人しくしてて下さいよ!」


「…………」


強引にエイリの体を押しつけ、念を押す。ログサは不服そうな表情を浮かべながらも、渋々といった様子だったが頷いた。それを確認し、アンネルはセイヤと目配せを行い窮地に陥っているトレイドに目を向けて。


「――そんなに急がなくて良さそうだがな」


飛び出していった二人の背中を見ながら呟いたその一言に、答えたかのようなタイミングで壁が爆砕する。突如の爆砕に、二人は足を止め何事だといわんばかりにそちらに目を向けた。


「な……!」


「……うそ……だろ……!?」


二人は、壁を砕いて現れた、長くボサボサの金髪の男に目を見開き、驚きを浮かべて見やる。


――ルフィン。師が探し、自身も探し、そして部下であるリーゼルドに重傷を負わせた男。この街にもいるということは聞いていたが、しかし状況を鑑みて今回は手を引こうと思っていたあの男が、ここに現れたのだ。




「――ふむ、どうやらずいぶんなタイミングで出て来たらしいな」


キョロキョロと辺りを見渡したルフィンは、顎に手をやってそう呟いた。まず近くにいるトレイドと彼を拘束する巨腕を。その次にセイヤとアンネル、後ろにいるログサとエイリ。視線を巡らしていくたびに何とも言えない微妙な表情へと変化していく。


「……おまけに、ほぼ全員に貸し借りがあり、か。……取り立てに来るのはかまわんが、タイミングが良すぎるだろうが……」


ふぅっとため息をつくルフィンは、何の挙動もなしに片足を蹴り上げた。足甲に包まれたそれは軌跡を描き、その軌跡に沿って”炎の斬撃”が飛ぶ。


炎を纏った斬撃ではない――文字通りの、炎の斬撃である。それは巨腕を半ば、色が変化している部分を斬り裂き二つに分かった。白い炎に包まれた、狼が混ざったような姿をしたトレイドが解放される。


「久しぶりだなトレイド。だいたい七年か八年ぶり……と言った所か?」


「……それぐらいになるだろうな。てか、俺のこと覚えていたのか」


「お前のような奴、そうそう忘れることは出来ん。”例の返事”も、まだ聞いていないしな」


「………」


憑依による反動か、それとも魔力を使いすぎたか、疲労の色が見えるトレイドはすでに元の姿に戻って床に座り込んでいる。しかしそれでも、微かに「覚えていたのか」と口にしたのを聞き取ることは出来た。


そんな彼に僅かに笑みを見せた後、ルフィンは視線をアンネルとセイヤに向ける。――セイヤに向けられた視線が、一瞬驚きに染まったように見えたのは気のせいだろうか。


「……アンネルとは少し前にあったきりだな。リーゼルド女史は元気か?」


「元気ではある。……が、あんたのことをトラウマに思っていそうだな」


アンネルの言葉に、セイヤはハッとした。ということは、彼女に重傷を負わせたのは目の前にいるこの男か。証を握る手に力がこもる。が、それを知ってか知らずか、彼は肩をすくめて視線を再び動かした。


背後にいるログサとエイリ。しかしエイリは気絶しており、実質その視線はログサにのみ向けられていると行っても良いだろう。ログサは肩をすくめて、


「……どうやら、今回も決着は付けられなさそうだな」


「……らしいな」


それだけ。それだけの会話を交わして、ログサは踵を返し後ろに目を向ける。腕を半ばから断ち切られた巨腕が、身動き一つせずそこに居座っていた。その巨腕に向けて、すっと視線を細めて異形を見やった。――ゴキリ、と指を鳴らす。


「……ここにいるはずのエンプリッターはどこに行った?」


「…………」


異形は答えない。それでもルフィンは口を開く。


「ここにいたエンプリッターは、いつ消えた?」


「…………」


やはり、異形は答えない。――ルフィンの右手に、風が集い始める。


「お前の正体……”元人間”だな」


「…………」


異形の体が僅かに動いた。そして、ダムが決壊したかのように、口から言葉という水が吐き出される。



『ここにいる、さっき消えた、そうだ。ここにいる、さっき消えた、そうだ。ここにいるさっき消えたそうだ。ここにいるさっき消えたそうだ。ここにいるさっき消えたそうだ。ここにいるさっき消えたそうだ。ここに――――』



――疾風拳。風を纏った拳打が、異形の体に打ち込まれた。


――人を化け物に変える、呪術における禁忌。それを行ったばかりか、“数十人”の人間を贄に捧げて生み出されたのが、この二体だろう。そのうちの一体、すでに体の大半が浄化され消えた異形は、ルフィンの一撃を受けて容易く吹き飛んだ。向こう側の壁まで叩き付けられ、言葉の羅列はようやく止まる。


「……狂ってるぜ……」


並々ならぬ狂気を感じたのか、セイヤは口元を引きつらせながら呟いた。その呟きに同意なのか、アンネルでさえ眉に皺を寄せて異形を見ている。


異形を吹き飛ばし黙らせたルフィンは、険しい表情を浮かべたまま背後を――もっと言えば、異形を石柱閉じ込めたオブジェクトへ目を向けて低い声を出す。


「……いるんだろう? 見ているんだろう?」


『――やっぱり、貴方の目は欺けないか』


声が響く。妙に反響した、少年と行っていい年頃の声が。――その声にいち早く反応したのは、トレイドだった。彼はハッとしてオブジェクトへ視線を向けて、苦々しい顔を浮かべる。


「奴め……”移りやがったな”!」


『じゃなきゃ、君達に声は届かないからね。でも安心して……用事が終わったら、僕はさよならするから』


声が聞こえたと同時に、オブジェクトの球体部分――つまり異形を閉じ込めた箇所が破壊され、中から球体状の異形が飛び出してくる。思わず構えるアンネルとセイヤだが、二人を制したルフィンは相変わらず冷たい視線を――それこそ、斬れそうなほど鋭いものを寄越している。


「一方的な奴だな、お前は」


『ふふ、まぁね。……それで用なんだけど……ルフィン、貴方は正気なのかい?』


「……名も知らぬ奴に口を開く気はない。会話をしたいのなら、まずは―――――」


『名乗る必要はないよ。だって、僕は貴方を知っているし、”貴方も僕を知っている”はずだ。もっとも、記憶には薄いかも知れないが』


「何……?」


異形を――異形の口を操って語りかけてくる相手の言葉に、ルフィンは疑問符を浮かべる。――知っている? 思い当たる節はない。だが、奴の言葉を聞いても、嘘をついているようには聞こえなかった。


「それはどういう――」


『もう一度聞くよ、ルフィン。……貴方の願い、それは正気かい? ”世界のやり直し”……本気かい?』


「………?」


あの少年が”尋ねた”? ――僕は全てを知っている、と豪語していたあの少年が? どういうことだ、と一瞬考え込むものの、例の少年が言っていた言葉を思い出した。


言っていたではないか。”未来視”でもわからないことがあると。――例えば、”神の加護”を受けている場合とか――


(……まさかルフィン、あんた……)


異形から、対面する金髪の男へと視線を向ける。その視線に気づかないのか、ルフィンは相変わらず異形へと目を向けていた。


「……正気だ」


『……そうか。……ふふ、相変わらずだね、貴方は』


「お前は一体何者だ?」


向こうは知っているようだが、ルフィンの方は少年が何者なのか分からないようだ。僅かに苛立ちを込めた声音で問いかけ、しかしやはりというか、少年は答えなかった。


『貴方が知っている者だ。……僕にも目的がある。貴方の願いは、僕のそれを妨害するんだろうね』


――だったら、貴方は僕の敵だ――その言葉を最後に、少年は異形を操ることをやめたのか、異形はぐらりと倒れ込み、その体が溶け出して行く。


「……一体あいつ等は何の話をしていたんだ……?」


「何やら重要な言葉を耳にした気がするが……」


異形の姿がなくなり、危険性はなくなったと判断したアンネルとセイヤは、今の会話に首を傾げていた。世界のやり直し――いったい、どういうことなのか。


「……おい、ルフィン、てめぇ……」


「ログサ?」


その言葉の意味は、すぐに判明しそうだった。ログサはやはり、と言いたげな表情で、そして怒りを浮かべ、滲ませた声音を出したのだから。


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