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精霊の担い手  作者: 天剣
2年時
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第22話 刃を向ける先~4~

――学園内に忍び込んだエンプリッター達が戦闘不能に陥った頃。外で行われていた戦いにも終止符が打たれていた。


「はあぁぁっ!!」


気合い一閃、縦一文字に切り抜かれた一刀が、十字槍の使い手の頭部を打ち据え地面に叩き付け、ようやく意識を刈り取った。刃は潰してあるが、これの直撃を受けては意識を取り戻すのにも時間が掛かるはずだ。


「――……はぁ……はぁ……」


荒くなった呼吸を整えながら外で一人戦っていたタクトは、倒れている三人へと視線を向けた。杖と盾の証を持つ精霊使いも、意識を失っている。――三人ともかなりの手練れであり、タクトも自然の加護を発揮して何とか撃退したところであった。


(……大丈夫か、タクト)


「コウ……はは、大丈夫さ。それより、寮にいるみんなは……」


脳裏で語りかけてきたコウに、つい口に出して話してしまった。周りから見れば不審がられるだろうが、幸いここには自分一人だけだ。


――問題は、つい口に出してしまったことの方だ。つまりそれほど、今のタクトには余裕がなかった。


(奴ら、強いと言うよりも、恐ろしくタフだったな)


「うん……刀で殴っても、ダメージを受けていないみたいな感じですぐに襲いかかってきたし……」


――それが彼らの恐ろしいところだった。どれだけ打ち込もうが、どれだけ激しく吹き飛ばそうが、起き上がり、すぐに襲いかかってくる。異常なほど頑丈だったのだ。


正直、こういう相手には真っ正面から戦うのではなく、魔術を用いた搦め手で動きを封じるのが一番なのだが、生憎とタクトは魔術が使えず、仕方がなく気絶させるしか手がなかったのだ。


コウの言葉に頷きながら、タクトは上を――ちょうど自分が降りてきた、割れた窓を見上げた。ここからなら、飛び上がってすぐに元の階へと元の階へと戻った方が良さそうだ。タクトは両足に力を込め、飛び上がろうとした、その時だ。



『――ふぅん、強いじゃないか、”タクト”』



――突如、声が響き渡った。目を見開き、タクトは立ちすくむ。そんな彼を不審に思ったのか、彼の体に宿っているコウが声をかけてきた。


(? どうしたタクト? 上に行くのだろう?)


「……え? ……あ、うん……いや、コウ、今の声……」


(今の声……?)


問いかけると、コウは不思議そうな声音で問い返してきた。――今の声は、コウには聞こえなかったらしい。一応、コウにもタクトを通じて外の様子は感じ取れているはずだが――



『ふふ、空耳なんかじゃないよ?』



「なっ……!?」


(……タクト? どうした?)


”口に出していない自分の考え”を即座に否定されて、タクトは驚きの声を上げた。それに対してコウは、やはり不審そうな――今度は、心配そうな声音で語りかけてくる。



『それにしても、彼らの正体を知っているのに、“殺さずに”しておくなんて……甘いね、君達』



「誰だ!? どこにいる!?」



『僕かい? ……ふふ、僕は上の階にいるよ?』



「っ!」


(お、おいタクト!? 本当にどうした?)


――何故かは分からないが。俺は……この声の主を、知っている……ような気がしてならない。


――知らないはずの声――だけど、覚えのあるような気がして――


タクトはその場で飛び上がる。流石に地面から三階までひとっ飛びというわけにはいかず、途中で法陣を展開、そこを足場にもう一度飛び上がり、三階にたどり着く。


自分が飛び降りた窓から三階に入ると、タクトは無意識のうちに”上の階”を目指して走り出した。




「……ふふ、気づいたね、タクト」


四階――生徒会と、複数の生徒達が結界を張り、襲撃に遭った寮内で数少ない”安全地帯”とかしたその場所に、”彼”はいた。


「さぁ……始めようか」


そして彼は歩き出す。安全地帯の中央――通路の真ん中でたたずむ人だかりを目指して。




「鈴野先輩、大丈夫ですか?」


「うん、私なら大丈夫。……ミリアちゃんこそ大丈夫なの? 疲れているのなら……」


生徒達が住まう寮の四階の通路には、多数の生徒達が集まっていた。そのほとんどが下の階にいた生徒達であり、アイギットの言葉に従ってこの階に非難してきたのだ。今この階全体に結界が展開されており、現状では唯一と言って良い安全地帯とかしていた。


そのうちの複数人の生徒達に結界の維持、強化の手伝いをしてもらっている。


「わ、私なら大丈夫です! それよりも、先輩の方が……」


結界を展開した魔法陣に魔力を注いでいたレナは、声をかけてくれた女子生徒の方が辛そうな表情を浮かべていることに気づき、逆に声をかけてみる。


だがミリアという名の後輩生徒は首を振り、こちらの身を案じてくれる。レナからすれば、まだまだ余裕で結界を維持できそうなのだが――


「その……結界を展開したのも鈴野先輩ですし、展開してからもずっと維持をしているじゃないですか。先輩の方こそ、一度変わってもらった方が……」


「あ……うん、そうだね……ありがとう」


――こちらを気遣ってくれるのはそれか。レナ自身からすれば、まだ魔力量には余裕があるのだが、他人からすると”使いすぎ”に見られてもおかしくはない。


ここで結界の維持を続けていると、心配を通り越して不審がられるかも知れない上に、他の生徒達も交替しづらいだろう。ここは素直に引き下がるべきかも知れない。


「……それじゃ、かわりをお願いしようかな……誰か、結界を――」


「鈴野、手伝うぜ」


「がんばりますよ、先輩!」


「俺たちに任せて下さい!」


結界の維持を誰かに変わってもらおうと、側で佇んでいた生徒達に声をかけると、すぐに名乗りを上げてくれる人達がいた。――妙に男子が多いのが気になったが、彼らに「後はお願い」と声をかけて入れ替わる。


入れ替わった直後こそ結界が一瞬ゆらいだが、すぐに元通りになる。レナは安心して結界の維持を彼らに任せて、少し離れた場所でじっと外の景色を眺めていたコルダの元に歩み寄る。


「……」


浅黒い肌に紫の髪をした彼女は、通路の窓からじっと外の景色を眺めている。――その表情からは、彼女が何を考えているのか全く読み取れない。元々不思議ちゃん体質だったが、今はそれに拍車が掛かっている――ように見て取れた。


「コルダ、どうしたの?」


「……………あ、レナ。どうもしてないよ? ただぼけっとしてた……ような……」


声をかけると、一拍遅れて反応が返ってきた。しかも何とも微妙な反応であり、レナとしてはため息をつきたくなってしまう。


「ぼけっとしていたような、って……」


「あはは……まぁ気にしないで。多分虫の知らせって奴だから」


「……コルダが言うとあまりしゃれにならないって言うか……」


――自称、予感が良く当たる女子と名乗ったりするコルダが言うと、当たりそうな気がしてならない。実際、彼女の予感の的中率は高かったりする。


彼女の言う虫の知らせ、が何なのかわからないが、注意していた方が良さそうだろう。それにしても――


「……襲撃があったとき、コルダとミューナちゃんが一緒で良かったよ」


「そうだね……おかげで結界を手早く張ることが出来たし、アイギットもすぐにタクトとフォーマ先輩に伝えに行ってくれたし。……まぁ、フォーマ先輩のことが一番心配だけど……」


――ちょうど襲撃があったとき、レナはコルダの部屋に遊びに来ていたのだ。下の階から悲鳴と銃声が響いたとき、驚いて通路に出た瞬間窓を割って黒ずくめの二人が襲いかかってきたのだ。


幸い近くにいたミューナと、上の階から悲鳴が聞こえてきたと駆けつけてくれたアイギットの二人が、黒ずくめ達を追い払ってくれたため事なきを得たのだが。


ちなみにアイギットの部屋は三階なのだが、部屋に戻るためにちょうど階段を上っていたときに悲鳴が聞こえたので、そのまま駆け上がってきたらしい。


運良く合流した四人は、レナとコルダ、ミューナの三人が四階に残って結界を展開、アイギットは下の階に行って状況を見てくると同時に、逃げ遅れた生徒達を四階に誘導すると言って階段を下りていったのだ。


ミューナは、数人の生徒達と一緒に、下の階に通じる階段の前で見張りを買って出てくれている。状況が分からない中で、この階は守りに徹しよう、というわけだ。


「三階も襲撃にあったけど、タクトとアイギットの二人が何とかしたし、逃げ遅れていた人達もここに来た。後は二階と一階だね」


これまでの状況を整理しつつ、レナは四階に非難してきた生徒達の話を纏めてみた。まだ寮で起こっている状況の把握が完全には出来ていないが、それでもある程度は分かってきている。


「……それにしても、通信魔法が通じないって、一体何が起こっているんだろうね~」


「……そうだね。私としては、それが一番怖い……」


「へ? 通信できないことが?」


コルダがこの状況について愚痴を漏らすが、レナはそれに対して沈んだ表情で答えた。


「ううん、そうじゃないの。通信阻害の魔術が使えるって事は、相手は高度な精霊使いだと思うの。通信魔法を妨害する……そんなことが出来るんだったら、はじめから寮全体を結界で閉じ込めてしまった方が早いんじゃないのかなって思って……」


「あ、そっか。そっちの方がかなり早いのか……」


レナの言うとおりだ、とコルダは頷いた。元々精霊使いは、詠唱系の魔法を不得手とする傾向がある。それなのに、”不得手とする特定の詠唱系魔法のみを妨害”出来るなんて、でたらめも良いところだ。


それだけの腕前があれば、寮全体を結界で封じ込めた方が手早くすむはずなのだ。なのにそれをしない――出来ないのか、それとも何か――


「ふぅん。当を得た指摘、すごいね。確かにそっちの方が早いんだけど、ちょっと事情があってね」


その時だ。二人の会話に、見知らぬ第三者の声が混ざってくる。その言葉に、コルダはそうなんだと頷いた。


「事情って、一体どんな事情なんだろう?」


「ふふ、こちらの話しさ。君達にはあまり関係のないことかな?」


首を傾げながら問い返すコルダの疑問をはぐらかしながら、レナは突如現れた”彼”は答えた。金の髪に、綺麗に整った少年風の容貌の彼――学園全員の顔を知っているわけではないが、見覚えはなかった。


――しかし――突如現れたその少年を見た瞬間、レナの中で何かがざわめいた。金髪の少年は、微笑みを浮かべたままコルダに向かってそっと手を伸ばし。


「――ちょっと退いてもらえる? おねえちゃん?」


――次の瞬間、コルダの体が勢いよく後ろに吹き飛ばされる。勢いよく飛んでいく彼女は、後ろにあった壁に叩き付けられ、意識を失ったのかずるずると力なく倒れていく。


その光景を見ていた生徒達は、皆訳が分からず硬直してしまう。それはレナも同様であり、目の前で友人が飛ばされたにもかかわらず、ただ呆然と吹き飛ばした少年を見続けていた。


「まさか巫女殿がご一緒とは。……やれやれ、”理”持ちはホントに読めないや」


――でも、だからこそ面白いんだけど。表情に微笑みを浮かべたまま呟く彼は、次にその視線をレナへと向けた。金の髪と同じく、金色の瞳――だが、その瞳の奥深くにある“何か”を感じ取り、レナは体の芯が凍えるような感覚を味わった。


うまくは言えないけど、この少年は、何かがおかしい……! それを肌で感じ取り、レナは震えながら後ずさる。一歩下がったレナの後を追うように、少年が一歩踏み出した。


「でもま、これでしばらくは起きてこないはず。さぁ――来てもらおうか? フェル・ア・チルドレン……№7」


「っ!!?」


フェル・ア・チルドレン。№7。――どちらも自分を示す言葉であり――そして、特に後者は、二度と聞きたくないと思っていた言葉であった。



――『すばらしい……っ! そうか、ついに……!』――


――『やった……! 我々は、ついに得た……!! もう、恐れるべき事は、なにも……!!』――


――『あぁ……この”被検体”は完成だ! 我々の悲願、ついに敵うときが!! 我々は! ”神を、超えられる!!”』――



「あ……あぁ……っ!!」


ドサリと、その場で膝を突くレナ。脳裏に、”あのときの光景”がフラッシュバックする。全身をガタガタと震わせて、尋常ではない様子を見せる彼女を見下ろして、少年はそっと手を伸ばす。


「大丈夫だよレナ。君は、”その記憶を忘れられる”から。だから、ほら。手を伸ばして――」


「あ……」


――忘れられる……?――


自身に差し出された手を見て、レナはそっとを顔を上げて少年を見た。相変わらず綺麗な顔つきに、思わずハッとするような綺麗な微笑みと甘い誘惑に、レナはその手を掴もうと腕を持ち上げて――


「鈴野先輩、駄目です!!」


「鈴野さんから離れろ!」


彼女の異常を察知したのか、それまで固まっていた生徒達がようやく動き出す。それぞれが証を取り出し、あるいは呪文を唱え、レナの目の前にいる少年に襲いかかろうとする。――しかし。


「なっ!?」


「えっ?……きゃあっ!」


少年に斬りかかろうとした後輩は、突如発生した見えない壁に阻まれ、魔法攻撃を放った生徒は、放った攻撃が”反射”され、そっくりそのまま自身を襲いかかってきた。


他の生徒達も同様だ。近接武器は壁に阻まれ、魔法攻撃は跳ね返される。――コベラ式の魔法では、あり得ない魔術に、一同は固まってしまう。


「……ちょっと静かにして貰えるかな? 君達に用はないんだよ」


煩わしそうに生徒達の方を見て諭す彼は、一瞬生徒達に向かって手を伸ばしかけ、しかしその瞬間何かに気づいたかのようにふぅとため息をついて頭上を見上げた。


彼が天井を見上げると同時に、通路の中央――結界を展開していた法陣が、激しく点滅する。それは結界の崩壊が近いことを示していた。結界の維持のために魔力を注いでいた生徒達がこの騒動に驚き、集中を切らしてしまったのだ。


――最も、原因はそれだけではない。法陣は激しく点滅し、そして。


「……君も同じだよ――“トレイド”」


――彼が呟くと同時に法陣が消滅し、天井に突如穴が空いた。天井の一部が綺麗な円形に切り抜かれ、その穴から黒衣を纏った青年が落ちてくる。


落下する勢いをそのままに、切っ先を真下に向けた彼に対し、少年はやはり何もしない。黒衣の青年トレイドの突きは、少年が展開している防壁に阻まれ弾かれる。


「っ――!」


弾かれた瞬間、体を捻って強引に軌道を変え、レナの背後に降り立つ。――少年の顔から、初めて微笑みが消えた。


「む……」


「と、トレイド……さん……?」


やや不機嫌そうな色を浮かべて、レナを抱えて退避したトレイドを見やる。レナの体を軽々と小脇に抱えて少年から距離を取ったトレイドだが――その黒衣が“濡れている”事に気づき、少年から不機嫌さが消えていった。


「あはは……ねぇトレイド。一つ聞いて良いかい? 君は――」


「……誰だお前」


笑みを浮かべたままトレイドにあることを聞こうとした少年だが、その前に訝しげな表情を浮かべてこちらを見やる彼の視線に気づき、はたと目を瞬いた。やがて頬が緩んでいき、やがて我慢できなくなったのか、肩を振るわせて笑い声を上げた。


「はは……はははははっ! そうだね、君と僕とはこれが初対面だよね。でも……僕は君のことを色々と知っているんだよ」


「……質の悪いストーカーか何かか?」


嬉々とした瞳で見据えてくる彼に嫌悪感を抱いたのか、トレイドは知らない打ちに少年から距離を取る。どうやら向こうはこちらのことを知っているようだが――


それにこの声。先程聞こえてきた声と一致する。――つまりこいつは……外見は少年だが、性根が腐った危険人物に変わりはない。そんな奴に目を付けられていたと知って良い気分にはなれないだろう。


そんな彼の心情を知ってか知らずか、彼はまだ笑い声を上げながらも、トレイドに視線を向けてきた。


「僕が聞きたいのはゼルファとルキィのことさ。あの二人を、”一体どうしたんだい?”」


「……………」


ぴくり、とトレイドの拳が震えた。未だ彼に抱えられていたレナは、その瞬間をはっきりと目に捉え、同時に嫌な予感を覚えた。


「と、トレイドさん……?」


震えかけた声音で問いかけるも、トレイドは何も答えず、ただ小脇に抱えていたレナを下ろして、手にした長剣を握りしめる。


「……解放したさ」


「ふぅん、言葉を選ぶねぇ。どこから、何から開放したのかな? ……それに、君の服、所々濡れているじゃないか。まさかとは思うけど……」


にっこりと爽やかな微笑みを浮かべたまま問いかけてくる少年と、状況が掴めず、一体何のことを言い合っているのかわからない生徒達。そして――ただ黙りこくるトレイド。


「あの二人……もう、この世にはいないとか?」


「……お前は、あの二人のことをどう思っていた?」


少年の問いかけに周囲がざわめくが、それを気にせずトレイドは逆に問いかけた。問いかけを受け、少年は目を瞬くも即座に微笑みを浮かべて、


「ふふ、”どうも思っていないよ?” いても構わないけど、いないならいないで構わない。どうせ”君の足止め”用の使い捨てだからね。まぁ最も、ろくに足止めが出来なかったんだから、いらないけどね」


「………」


「あの子……っ」


トレイドは無言で、しかし剣を握りしめ。近くにいたレナは、少年の非情な言葉を聞いて彼を睨み付けていた。


「……お前……」


そんな中、トレイドはぽつりと呟いた。――怒りを宿した黒い瞳で少年を見据えて――


――突如、穴が空いたままだった天井から、何かが落ちてきた。


「っ!?」


――この時初めて、少年の顔が驚きに包まれた。驚愕に目を見開き、落ちてきた――降りてきた“二人”を見て、驚きの声を上げる。


「ゼルファにルキィ?」


「よくも……よくも俺たちを……!!」


大剣を握りしめた大柄な男――ゼルファと呼ばれた上半身裸の体からは、所々血を流してはいるが、傷はそれほど深くはない。怒りを宿した絶叫を上げ、少年に襲いかかる。


「あんただけは……絶対に……ッ!!」


ルキィと呼ばれた小柄な女性は、何故かは知らないがサイズが合っていないぶかぶかの衣服を着て、手にした二振りの細剣を手に襲いかかる。彼女もまた至る所から血を流してはいるが、大丈夫なようだった。


この二人が、トレイドが戦っていた二体の異形の正体である。二人は語らなかったが、二人の姿を変え、操っていたのがあの少年だと、トレイドは早々に察していたのだ。――解放した――それは文字通り、少年の手から解放したということなのだ。


「い、一体どういう……!?」


「悪い、今は長々と話している状況じゃない。……時期にタクトも来る。近くまで来ているんだ、あいつが来るまで、あの人でなしに捕まるんじゃないぞ」


突然の乱入者の登場に、生徒達は驚きの声を上げた。だが、その声には取り合わず、トレイドはレナに目を向けて、注意する。どういう事情なのかは知らないが、あの少年はレナを狙っているのだ。それだけは――絶対にさせない。トレイドはそう己に課して、剣を取る。


「あいつは……俺の大ッ嫌いなタイプの人間だな」


トレイドはそう呟いて、先にいきなり現れ、少年へと襲いかかった二人の後を追うように駆け出した。


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