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精霊の担い手  作者: 天剣
1年時
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第10話 放課後の戦い~3~

打ち込んだ氷塊によって、巻き上げられた土埃(アリーナの床は全て地である)が視界を覆い隠す。そのため、アイギットは氷塊を放った姿勢のまま、土埃が消えるのを待った。


「………」


無言で視線を向こうにやり、やがて土埃が収まり出す。


「………」


舞い上がる埃を通して、うっすらと何かが見え始めた。それが目に入った瞬間、彼は倒せなかったかと、舌打ちを一つしてして呪文を唱え始める。もちろん、詠唱した術式は属性変化術。

魔法陣を展開させ、氷塊を生み出す。

そして、土埃が収まったと同時、氷塊を飛ばそうとしてーー


「なっ……!?」


目の前の光景に、思わず驚きの声を上げた。

土埃が消えたそこには、まるで落書きのような形をした土人形が二体。しかも、ご丁寧に舌まで突き出すという、一見笑っちゃいそうな物であった。

そして、その土人形の足下にはオレンジ色の魔法陣。つまり、土属性変化術である。


偽物フェイク……!?それじゃあいつらは……」


目を大きく見開き驚愕の表情を浮かべ、アイギットは周囲をくまなく見渡す。


「何処だ……。どこにいる!」


声を大にして、左右に目を配りつつ叫びーー


「上だよ」


ぽつりと呟かれた言葉ーーそれが耳に入ってきた。

声のした方に顔を上げ、声をかけてきた奴を目撃する。見つけた彼ーータクトは、足下に白い魔法陣を展開させ、それを”足場にして”空中にぽつんと立っている。それを見て、アイギットは再び驚愕の表情を露わにさせ、歯をくいしばった。

霊印流ーーどうやら、聞いていた以上に厄介な物らしい。聞いた事では、霊印流の強みは早さと容易さ、そして技ーー太刀の豊富さ。

どれも当時はあまり強くはなさそうだなと思ったのだが、どうやらそれは完全に間違いだったようだ。聞いたのと実際に目の当たりにするのとでは全く違う。

タクトは魔法陣の上に立ったまま、瞑目し。次の瞬間、二人の周りに白い魔法陣が所狭しと乱立する。


「なっ……!」


そのあまりの光景に、辺り一面キョロキョロと見渡すアイギット。しかし、その視界の大半が魔法陣で埋め尽くされている。


「これは、一体……。……っ!」


訳がわからず呆然とするだけの彼は、タクトのその後の動きを目の片隅に捉えた。嫌な予感が全身を走り、アイギットは彼の方へと向き直る。


「霊印流歩法ーー」


そして、彼は最初の一歩を踏み出そうとしてーー


「っ!まさか」


そこで、アイギットはあることが頭をよぎった。そして、深く考える間もなく、彼は直感で予想道りになると確信した。


「瞬歩ーー”乱”」


タクトの呟きの最後に付け足された”乱”という言葉。それが何を意味するのか理解するのにはさほど時間はかからなかった。二人の周囲に張り巡らされた魔法陣。それら一つ一つを足場にして”連続で瞬歩を行う”。タクトはまさにそれをやっていた。

もはや彼の姿は確認するのですら困難になり、アイギットの目には微かな影しか見えない。

魔法陣と魔法陣を、まるでピンポン球のように飛び跳ねながらタクトはアイギットに襲いかかる。襲われたアイギットはただ己の証であるレイピアで、タクトの斬撃を受け流すのが精一杯であった。

何せ、四方八方ーー前後左右、さらには上からまで斬撃が降り注ぐのだ。とてもじゃないが、反撃など出来そうもない。ましてや、呪文を唱える僅かな時間さえ、相手は与えてくれない。


「くっ……!」


顔を苦痛の表情で歪ませ、アイギットはタクトがしたように己の前に防御魔法陣を展開させた。しかし、安心する間もなく、魔法陣の横から繰り出される刀に気づき、バッと横に飛ぶ。

かろうじて回避に間に合ったが、下手したらまともに食らっていたかもしれない。思わずぞっとしたが、流石にアイギットはエリートを自称するだけはあった。

冷や汗を流しつつ、回避したと同時に属性変化の呪文を唱え、反撃の用意に出た。そしてそのまま体勢を整えると、足下に青い魔法陣を展開、そのまま巨大化する。

辺り一面青く染まった地面に目をやりながらも、その目の片隅に何かが飛んで来るのが見えた。が、それをろくに確認しないまま、アイギットは魔力を一気に解放した。


「魔力の消費が激しいから、あまり使いたくはないんだが……。もう、そんなことも言ってられないしな」


そう言って、アイギットはニッと笑った。そして発動させる。己の中の、最高の一撃を。


ーー語り継がれるは、氷結の世界ーー


次の瞬間、青い魔法陣から”それ”が現れた。

辺り一面氷の世界。地面の上はおろか、アリーナの壁にまで氷が張っている。体感温度が急激に下がっていき、思わずくしゃみが出そうになる。

だが、現れたのはそれだけではなかった。

氷の塔ーーそれがふさわしい形容か。太く長い柱が魔法陣から現れ、その頂点にはいくつもの突起があっる。その光景を見て、タクトは驚きのあまり思わず足を、瞬歩を止めてしまった。

ーーつまり”スキ”が出来た。


「馬鹿、足を止めるな!」


どこからか響いてきたマモルの叫びを受け、タクトはハッと我に返る。が、あまりにも遅かった。アイギットは口元に笑みを浮かべながら、


「ーーこれで終わりにする」


あまりにも遅い、しかし、もしかしたら間に合うかもしれない回避行動をとるが、やはり間に合わない。彼はアイギットのその呟きを聞いて。

突然、塔にひびが入った。

その亀裂は一気に全体まで走り。次の瞬間、塔は砕け、大小様々な破片がタクトに襲いかかってきた。

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