第10話 放課後の戦い~1~
やっと話数が二桁だぜ!
そしてまだまだ続くよ!
いきなりの乱入者に、取播き達は唖然とし、やがてハッと我に返った。同時に乱入者ーータクトに向かって、ギャーギャー喚き立てる。
「おいテメェ、いきなり何しやがる!」
「ここを何処だと思っていやがるんだ!」
その問いかけに、タクトはしれっと返す。
「第二アリーナ。それぐらいわかっているよ」
『そういうことを聞いてんじゃねぇ!!』
彼の本気なのかふざけているのかわからない返答に、取播き達から一斉に突っ込まれる。だが、それを無視してタクトはマモルに歩み寄る。
未だわめいている彼らを尻目に、
「加勢する?」
「まぁ、頼むわ」
端的に、しかし一瞬で内容が理解できる言葉を交わしつつ二人はそれぞれの得物を構えた。そんな二人をを見比べたまま、アイギットは目を細めて呟く。
「……それで、君も彼と同じ口かい?」
「はい?」
彼の言葉に首を傾げるタクト。そんな彼を見て、マモルはずいっと前に出た。
「ああ、こいつも同じさ。それどころか、俺以上に苦労してきた奴さ」
「…どう言うこと?」
隣でタクトが全く訳がわからないというふうに状況説明を求めるが、マモルはそれに付き合わず、さらに続ける。
「少なくとも、”練習量”という点においては多分俺やお前以上だぜ」
「…マモル、もしかして…」
彼の言いように心当たりがあり、それについて聞いてみたが、予想道りというかただ頷くだけだった。やはりか、とタクトはため息をついた。
「余計なことを……」
愚痴りつつ、タクトは正眼で構えた刀をそのまま背後にビュッと振るい突きつけた。そこには後ろから襲いかかろうとしていた取播き達がおり、彼の刀を前にその場で立ちすくむ。
彼にしては珍しく、やや低い声音でささやいた。
「そこまでにした方がいいよ。君たちじゃ、僕らの相手は役不足だ」
その低い声音と睨みつけるような眼光に、取播き達は後ずさる。
どう考えても先程の少年とは思えなかった。
いきなり乱入してきたときの出来事でさえ、本当に彼がやったことなのか若干疑いを持った一同だが、今の彼の表情を見て核心になった。
間違いなく、先程仲間を叩きのめした本人だと。だからこそ、取播き達は恐れを振り払い、二人に迫る。タクトはそんな彼らを見て一瞬目を瞑りーーすぐさま見開き刀を振るう。
「霊印流参之太刀ーー」
ーーその牙は、誰の目にも止まることはなくーー
振るった刀が静止、つまりタクトは刀を振り切った姿勢で硬直。
すぐさま、それは起きた。
ーーヒュンーー
刀と言わず、物を振るうさい生じる風切り音。それがなった。なること自体に問題はない。それはいわば常識である。しかし、それでもなお、問題があったーー
「ぐはっ!?」
取り巻きの一人が、やや時間を置いてその場に崩れ落ちた。
彼らの目が驚きで見開かれる中、タクトは静かに放った太刀の名を呟く。
「瞬牙」
超高速の斬撃ーーそれこそ、風切り音が遅れて生じる、いわば”音速超え”の斬撃。風切り音が、刀を振るった”後”に鳴ったのは、これが原因であった。
壱之太刀、爪魔とは違い威力こそないものの、そのスピードには目を見張る物があった。
その攻撃を見てアイギットは驚愕の表情を浮かべたが、すぐにフッと笑い、
「霊印流、か。…初めて見た」
面白げに見つめる彼だが、タクトはその言葉を聞いて目を見開いた。
「え……知っているの?」
タクトとしてはそちらの方が驚きだった。何せ、霊印流は”地球”で作られた、そこだけに伝わる流派。そういった事情があるため、フェルアントでは誰も知らないと思っていたのだが。
「十六年前の改革ーーその時の功労者の一人が使っていた流派だからね。その筋では有名な武術だよ」
アイギットの言葉を聞き、へぇ~と相づちを打つタクト。と言うか知らなかったのか、と隣のマモルがため息を吐く。
「お前……。アキラさんが言ってただろうが」
小声でタクトを突きながら言うが当の本人は、
「……言ってたような、言ってなかったような……」
要するに、忘れたと言うことだろう。ふぅっと深いため息をつき、マモルは後ろを振り返る。
そこには、今にも飛びかかってきそうな取播き達の怒りに染まった表情ーーそれがずらりと並んでいた。
「あ~……。もう覚悟決めた方が良い」
そう呟き、がっくりとうなだれてしまったマモルを見て、取播き達は凶悪な笑みを浮かべた。
「へん、どうやらボコられる覚悟が出来たらしいな」
「訳わかんねぇ術を使うらしいが、所詮多勢に無勢だ。一気に行くぞ!」
『おおぅ!!』
取播きの中のリーダー格がそう叫び、それと同時に彼らが一斉に襲いかかってきた。
しかしーー。
突然、乾いた爆音が鳴り、取播きの一人が突然倒れた。
「なっ!?」
あまりの出来事に、彼らは音の鳴った方へ目を配り爆音ーーいや、銃声が鳴った方を見た。ゴツイ銃を構えながらマモルはニッコリと笑い、
「勘違いしてるみたいだけど」
ーー銀光一閃ーー
刀が空間に”線”と言う軌跡を描く。その描かれた軌跡に触れた取播きの一人が吹き飛ぶ。
吹き飛ばされた彼は、近くにあった物置にぶつかり、派手に転倒する。一連の動作を見て、大半の目がそちらを見やった。
「壱之太刀ーー爪魔」
魔力を纏った爪、という刀は再び空中に線を描き出す。
「覚悟を決めるのは、そっちだぜ」
実力差のありすぎる戦い。人はそれを、”処刑”と言う。