第17話 日常への帰還~2~
「やぁ!」
「おっと……!」
袈裟斬りに振り下ろされる刀に対し、黒髪の青年――桐生セイヤは事もなしに受け止めて見せた。そしてそのまま、相手の刀を押しやりながら身を屈めて一気に間合いに入り込む。
「っ!」
渾身の一撃を軽々と受け止められたばかりか、流れるような動きでぴったりと距離を詰めてきたセイヤに対し、長めの黒髪を一つにまとめた少年――桐生タクトは表情を引きつらせて後退する。
――だが、その動きを読んでいたセイヤは、後退する彼に合わせて前に前進。この距離を維持したまま、セイヤは踏み込んだと同時に横薙ぎの一撃を振るう。
セイヤの剣は、タクトの細い体に吸い込まれようとして――しかしその直前で、ガッと何かが入り込み、セイヤの剣を止めた。
「……っ」
「おいおい……!」
剣を止めた物――タクトの証である刀の柄で止められたことに驚き、セイヤは表情に驚愕を浮かべた。その驚きが、僅かながら体の硬直に繋がり――
「そこ……だ!」
今度はタクトの方から距離を詰めてきた。――元々縮まっていた距離をさらに縮めてきたのだ。零距離にまで持ち込まれれば、剣は無用の長物とかす。最も、それはセイヤだけではなく、彼もなのだが。
しかし、そこで気づく。彼は刀の刃を用いず、代わりに見慣れない飾り紐が付いた柄頭を猛烈な勢いで打ち据えてきた。
「っ!」
本日何度目になるか分からない驚嘆と共に後方へ瞬歩。一気にタクトから距離を取る。
「はぁ……はぁ……」
「………」
距離を取った従兄を見据えながら、タクトは荒い息のまま打ち上げた柄を引き戻し、刀を正眼に構え直す。一方の従兄――セイヤは無言。しかしその胸中は非情に穏やかではなかった。
――これは、いつの間に”ばけた”んだ……?――
タクトの力量、その成長速度に目を細くさせてじっと従弟を見やる。先程の攻防もそうだが、それ以前の攻防も、こちらの予想を遙かに超えたレベルの物だった。
タクトの方から手合わせを頼んできたときは、内心軽く揉んでやるかといったものだったのだが、開始僅か数秒でその認識を改めた。そして同時に、これは本気でやらなければならないと己を戒めもした。
「………」
明らかにこちらの動きを読んだ行動。そして魔法を使った攻撃に対しても、まるでどんな方法で来るのかが”わかっている”かのように回避する様子。そして、変わり始めた戦い方。
(……まさか……)
彼の戦い方は、セイヤの父アキラと似通っている物がある。相手の筋肉の動きや武器の持ち方、構え――それらを総合的に見て見切り、相手の次の動きを読む戦い方。だが彼の戦い方は、言ってしまえば彼自身の戦闘経験から導き出される、的中率が高い”推測”に過ぎない。
それに何より、その方法では魔法攻撃までは見抜けない。独自性と独創性が高い魔法攻撃は、おそらく父が一番苦手としている戦闘方法だ。
一方のタクトは、そういった“見切り”から相手の動きを先読みするのではなく、もっと根本的な物から先読みしている。
(……まさかタクト、お前………)
内心信じられない思いを抱きながらも、セイヤは彼のその”力”の正体に気づきかけていた。
「……タクト、お前……王の血筋だったんだな……」
「……え?」
刀を正眼に構えた彼にそう呟くと、タクトはきょとんとして首を傾げ――やがて理解したのか、苦笑いを浮かべて首を振る。
「そうみたいだね。……でも、俺としてはあまり実感がわかない、かな……」
伏し目がちに答える彼に、やはりタクト自身も血筋の力――自然の加護に戸惑っているのだろう。
聞けば、王の血には先祖の記憶が宿るという。その記憶を追体験することで、先祖が何を考え、何を思い、そしてどんな戦いをしていたのかがわかる。
しかしあくまで追体験――言わば夢の中で実際に体験するということだ。そのさい、先祖の思考や戦い方に引きずられる者もいる、という報告を、マスターリットとして聞いたことがある。
だからだろうか。タクトの一人称が”俺”にかわったのは。
「……それにしても、まさかお前の口から”俺”っていう言葉が聞けるとは……。なんだか、感慨深いぜ……」
きっとレナあたりは残念がって、マモルは似合わないと笑うんだろうな、と内心で独りごちる。従弟の幼馴染みであるレナとマモルのことを思い出し、ふっと表情を和らげた。
「あはは……俺としても、未だにしっくり来ないんだよね。今でもたまに僕って言いそうに――」
言いかけ、そこではっと口をつぐんであたりを確かめるタクト。ここはフェルアント本部にある地下訓練場の一角であって、周りには誰もいない。――だというのに彼の目の動きは、何かを、あるいは誰かを探しているようだった。
「どうした?」
「え? あ、いや、その……うん、やっぱりトレイドさんはいないよね……」
自嘲の笑みを浮かべながら、頬をポリポリとかくタクト。トレイド――あの黒髪の男が一体どうしたと言うんだ。半ば首を傾げながら、セイヤは問いかけてみた。
「あの男がどうかしたのか?」
「……えっと、その……実は、俺が”俺”呼びになったのは、トレイドさんの影響というか……。僕呼びするとあの人、もの凄く痛いデコピンをかましてくるんだよね」
「……はぁ?」
タクトの言葉に、理解が追いつかない。どういうことだろうか。つまりタクトは、デコピンに屈して僕呼びから俺呼びになったというのだろうか。
「たかがデコピンごときで、どうしても直せなかった僕呼びがあっさり変えられたって言うのか?」
「……まぁ、なさけないけどね」
ははは、と乾いた笑みを浮かべつつ、視線を逸らすタクト。どうやら自覚はあるらしい。しかし、と彼は首を振って弁明する。
「だけど、あの人のデコピン本当に痛いんだよ! なんかこう……パチンコ玉で打ち抜かれたかのような痛みが……!」
「…………」
「ほ、本当なんだってば!」
もの凄く懐疑的な視線を向けたことに気づいたのか、タクトはブンブンブンと手を振って力説する。
パチンコ玉で打ち抜かれたような痛み――きっとそれは、デコピンではない。セイヤはそう結論づけ、剣をふと振り。
「さて。図らずも小休憩となったが……また始めるとしようか」
――和やかな話は終わりだ、と言わんばかりに真剣な眼差しを向け、タクトもはっとして刀を正眼に構え直した。正眼のタクトと、無形の位(片手に剣をさげた自然体)のセイヤ。両者の視線が混じり合い、室内の空気が明らかに変化する。やがて、
「……行くぞ」
「………」
ぽつりと始まりを告げるセイヤの一声に、タクトは頷いた。ほぼ同時に、両者はぐっと身を屈めて、一歩踏み込んだ。
霊印流歩法、瞬歩。たった一歩の踏み込みから行われる、直線的な高速移動。二人の間合いは瞬く間に縮まり。
「霊印流一之太刀――!」
「爪魔!」
上段から振り下ろされる刀と、横一文字に振り切られる剣が真っ向から衝突する。二振りの刀と剣には、それぞれ魔力が覆われており、互いの魔力が反発し合って火花を散らす。
「くぅっ……!」
「ぬおぉぉぉっ!!」
両者の刃は拮抗。だが、それも組み合わさったときの話し。筋力に劣るタクトは、次第に押し返されていく。力負けをして自らに迫ってくるセイヤの長剣を前に、タクトはくっと表情を歪め、
「うぅぅぅおぉぉ!!」
組み合わさった状態で、刀を握る手の力の入れ具合を微妙に変え、さらに刀の反りを利用してセイヤの剣を受け流す。
「――っ……!?」
本日何度目になるか分からない、タクト特有の“流し”を受け、セイヤの表情が歪む。力を乗せた一撃も、魔力を乗せた一刀も、全て彼の流しによって無力化され、それどころか体勢も崩れる。
さらに、力を乗せれば乗せるほど、流された後の体勢の崩れが大きくなる。セイヤは知っている。この流しは、父であるアキラの十八番と言うことを。
爪魔を受け流されたセイヤの体勢は大きく崩れ――その隙を、タクトは見逃さない。流した刀を即座に引き戻し、追撃の爪魔を放つ。
「はぁっ!」
「ちぃっ!!」
迫り来る爪魔に対し、セイヤに行える選択肢は少ない。故に彼は、崩れた体勢を利用して自ら床に飛び込み、転がり込む。
「なっ……!?」
――タクトの目からすれば、セイヤの姿が突如消えたように見えただろう。自然の加護を用いれば彼がどんな動きで、どこに消えたのかがわかるのだが、いかんせん彼はまだ自然の加護を使いこなせてはいない。
それどころか、若干持て余し気味でもある。図らずも、セイヤはその甘さを付くことに成功し、彼は見事背後を取った。そこからさらに、起き上がる勢いを利用して、
「………!」
「っ!」
ぞくっと背筋に冷たい物が走り、タクトは振り向くことも、自然の加護を用いることもせず、前方へ瞬歩を行いその場を離脱する。距離を取った後、体を翻し後ろを向くと、そこには剣を振り上げたままのセイヤがいる。
タクトからすれば、一体いつの間に後ろを、と言いたい所だ。振り上げた剣を下ろし、セイヤはふぅっとため息をついて、剣を構える。
「……さっきから一進一退の攻防だな。まさしく互角」
「はは……俺としては、あまりそんな感じはしないけど……」
互角と称するセイヤに対し、タクトは首を振って否定する。相変わらずの自己評価の低さだな、とセイヤは呆れつつ、しかしそのことに対して突っ込むことはない。
――タクトは否定しているが、セイヤから見れば完全に均衡状態。いや、むしろ若干こちらの分が悪い。特に斬撃を”流して”くる彼の剣には、どうしても後手の対応になってしまう。
それに流しについては、例え動きを覚えたとしても対策するのが難しい。せいぜいが、あまり力を入れ込みすぎないようにするのみ。しかしそれだと剣に力が乗らず、今度は弾かれる恐れがある。
以前はそうでもなかったのだが、彼の剣裁きがここまで劇的に変わったのは、やはり記憶感応か、はたまたダークネス事件の解決に一役買ったからだろうか。それにタクトには、まだ自然の加護による先読みというアドバンテージがある。
この差を、どうやって埋めるとするか、彼は考えた。
「…………タクト」
「何?」
しばし黙考し、出てきた答えに内心ため息をつきたくなる。――このことがばれたら、後で父親であるアキラに何言われるか分かったものではない。
「俺は、お前の従兄だが……兄貴分でもあると自負しているさ」
「それは、まぁ……俺も、セイヤ兄って呼んでいるくらいだし……」
突然何を言い出すのだろうか、ときょとんとしたタクトを見て、彼はほくそ笑む。
「そうかい。ま、兄貴分だからこそ、弟分にはそう簡単に負けてやるわけにはいかない」
「……俺も、負けるつもりはないよ」
「あぁ、そうだろうな。――だからこそ、”勝たせて貰う”」
「――え」
セイヤが言ったその一言と共に、無形の位を取っていた彼が、剣を両手で持ち、顔の横で構えて水平に剣を寝かせた。その切っ先を、相手――つまりタクトに向けて、
「……俺に”コレ”を使わせる気にさせた報酬代わりだ。覚えておけ、タクト。霊印流には、基本となる六つの太刀がある。その太刀を”重ね”たり、あるいは魔法と”合わせ”たりと、柔軟性に長けているが……それらを含めて”基礎”にあたる。ならば当然、基礎の上には応用が成り立ち……つまり霊印流の応用は、己に最も適した”型”をとる」
「……セイヤ、兄?」
瞳を訝しそうに細め、タクトはセイヤの剣に纏う魔力に気づいた。あれは爪魔――いや、違う。爪魔に似ているが、微妙に異なっている。まるで爪魔を元に、自分なりに変えたような――
「行くぞ。うまく避けて見せろ」
「なっ!」
ぽつりと呟いたその一言に、タクトの中で盛大に警鐘が鳴った。同時に、彼の自然の加護の力もあわさり、警鐘は瞬く間に逃げという選択肢を生み出して――
「霊印流、”穿孔の型”――一之太刀、爪魔」
「っ!!?」
瞬歩を用いて、不意の突撃してくるセイヤの一撃。避けられないと判断した彼は、咄嗟に刀を立てて受け流そうとする。
「―――――ぇ」
だが、気がついたら自分の体は吹き飛んでいた。地面と水平になって吹き飛びながら、ややあって壁に衝突し――そのあまりの衝撃に、意識を刈り取られた。
壁に激突したタクトの手から刀――彼の証が転がり、やがてそれはしゅんっと魔力の残滓をまき散らしながら消滅した。一方のセイヤは、剣を袈裟に振り下ろした体勢のまま残心していたが、やがて鋭い呼気と共に残心を解く。
「…………ふぅ」
自らの証をしまい、壁に激突した体勢のまま気を失った彼の元に駆け寄るセイヤ。だが、その表情に浮かぶのは従弟を心配しながらも、何かに対し苛立ちを露わにする表情だった。
「無事だな。……何で親父共は、こいつに憑依やら型の事やら話さなかったんだろうな……もったいねぇだろうに……」
「彼らにも、彼らなりの事情があるんだ、セイヤ」
突如背後から声をかけられるも、気づいていたのか彼は慌てる様子を見せることなく、そっとそちらを振り向いた。――そこにいたのは、宙に浮かぶ銀色の子人、クサナギだった。彼は銀色の瞳で見つめ、
「アキラや、前マスターである風菜の意思に背くするのはあまり感心はしないな。タクトに”型”は見せないよう、厳しく言われていたはずだろう?」
「良く言うぜ。何も教えてくれねぇーのに、一体何を根拠に信じろと言うんだ?」
「…………」
クサナギは何も答えない。セイヤの見返してくる視線は鋭く、ここで吐き出しちまえと目つきが語っていた。――しばしのにらみ合いが続き、やがて折れたのはクサナギの方であった。クサナギは、ふぅっとため息を漏らした後、意外なことを口にした。
「お前は私と同じだな。タクトが持つ才能に期待しているところが」
その言葉に、セイヤは目を瞬いた。彼からすれば、クサナギもタクトに対して過保護だったような気がしていたのだが、あまりそうではないらしい。本心では自分と同様、タクトを鍛えたいと思っているのだろうか。
「それは、まぁな。………剣に関して言えば、こいつは俺よりも才能を持っている。……だから、その才能を伸ばそうとしない……むしろ、才能を自覚させようともしない親父達には、どうしても納得がいかねぇ」
それは、ずっと感じてきたことだった。父親であるアキラの、剣を教える態度が、セイヤとタクトでは大きく異なっている。基本的に二人には厳しく当たっていたのだが、セイヤに対しては彼以上に厳しかった。
今でも思い出せる。夜な夜なたたき起こされて、深夜の道場でいつも以上に厳しく指導を受けていたことを。そのおかげでタクトより遙かに強くなることが出来たものの、子供心には「何で自分だけ」という思いが付きまとっていた。
しかし時が経ち、より強くなった今なら思ってしまう。あの頃は、俺よりもタクトの方が才能があった。その才能を伸ばさず、逆に”セイヤ”という巨大な”壁”を作ることにより、タクト自身に才能を自覚させないようにしたのではないか、と。
そのことは流石に口にはしなかったが、しかし納得がいかないという言葉に、クサナギは思案顔を浮かべて押し黙る。
「……十七年前の改革のことを知らなければ、そう思うだろうな。知っている私からすれば、彼らが過保護に……過度な力を与えないようにする思い、分からなくはない」
思案の末、クサナギがぽつりと呟いたのは、結局はそれだった。改革――表向きの顛末ならば知っているが、流石に裏方のこととなると、どうしようもない。知っているであろう人物は皆、そろって口を閉ざす始末。
「改革ねぇ。……俺が五歳の時か……正直、あまり覚えてねぇんだよな。……何があったのか、親父もお袋も、それに風菜さんも全く教えてくれねぇし」
ちらり、とセイヤはクサナギを見上げる。その視線の意図を悟ったクサナギは苦笑を浮かべながらふるふると首を振った。
「そこで私を見るな。……例えお前と私が同じ考えでも、あの改革のことを私の口から話すのはお門違いだ」
「だよなぁ」
クサナギはあくまで”剣”。剣に事情を聞くというのは、流石にお門違いだろう。父親に聞いてもはぐらかすのみで、やはりここは、クサナギの前マスターである風菜――タクトの母親に聞いて――
『――ねぇ、セイヤ。あたしはね、ここで……この家で、あの人の帰りをずっと待つって決めたんだ』
――突如、子供の頃の記憶が蘇る。あれは確か、夜中の修行を終え、桐生邸に戻ってきた時、車いすに座りながら星空を見上げていた風菜を見たときのことだ。
車いすに腰掛けた、流れるような綺麗な黒髪の美しい女性。そんな女性が窓際で、星空を見上げていたその寂しそうな横顔は、きっと生涯忘れ去ることは出来ないだろう。
――あの人の帰りを待つ――今更ながら、その意味を理解し、セイヤはぽつりと呟いた。
「……なぁ、クサナギ。親父達がタクトに対して過保護なのは……やっぱこいつの”父親”のせいか?」
「……………」
セイヤの問いかけに、クサナギは口を開かない。そこから先のことを話すのは、断固拒否する――そんな意思がはっきりと伝わってきた。
「……そのことについて、私は話すつもりは一切ない。ただ、それだけだと誤解を生む。だからこそ言うが……奴はどこかで生きている」
「――え?」
クサナギが言った言葉に、驚愕を浮かべながら視線を向ける。呆然としたまま、セイヤは問いかけた。
「……まじ?」
「マジだ。嘘をついてどうする」
「い、いや、確かにそうなんだが……なんで、今も生きているって分かるんだ? あの改革以来、ずっと姿をくらましているんじゃ……?」
初めて聞く、タクトの父親の所在――というよりも存命しているということを知り、セイヤは目を見開いて驚き、クサナギに問いかけた。
今の今まで、生きているのか、死んでいるのかさえわからなかったのに、何故こんなすぐ側にいるクサナギが、生きていると断言できるのだろうか。その疑問が伝わったのだろうか、クサナギは肩をすくめて、
「実際にあったわけではない。私自身、あれ以来顔を見たことさえないのだからな。……だが、わかる。”アレ”はそう簡単には死なん。それに”アレ”は特別で……そして律儀だからな。別れ際、前マスターと交わした約束を果たすまでは……何があっても死なないだろう」
自信を持って、クサナギは生きていると言ってのけた。
その言葉が本当ならば、クサナギ自身会っていないのだろう。なのに、彼は「生きている」と断言した。そこから伝わってくるのは、クサナギが、タクトの父親――セイヤからすれば”叔父”に当たる――に向ける、絶対的な信頼。
目を見開いて言葉を失った彼に、クサナギは首を振り、話は終わりだとばかりに高度を上げた。
「……この話は終わりだ。それより、タクトを医務室まで運んでくれ。そこで寝られて、奴に風邪を引かれたら困るし、何よりこいつが残念がる」
宙に浮かぶクサナギは、壁に激突した状態のまま、気絶しているタクトに向けられた。
「――明日は、久しぶりの学園なのだから」