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精霊の担い手  作者: 天剣
2年時
149/261

第15話 光の翼~2~

お久しぶりです、天剣です。


カレンダーを見てびっくり、三週間ぶりの投稿……本当に申し訳ありません……(汗


リアル事情により、ネット環境が大きく変わり、なかなか投稿することが出来ませんでした……


ケータイ投稿に切り替えることも考えたんですが、どうもケータイで文章打つのは性に合わないようで……(汗

結局、諦めてPCでの作成に落ち着きました。


と言うわけで、久しぶりの更新です!

第15話、パート2、始まります!

「……我が手に戻れ」


その場で膝を突き、体を休めていたタクトは、立ち上がるなり右手を地面に突き刺さったままの刀へと伸ばし、ぽつりと呟いた。すると、彼の証たる日本刀は、まるで意思を持つかのごとく伸ばした右手に収まった。


「……まさか、異形の大群を生み出してくるなんて……」


証を携えた彼は、目の前に居る異形の群れに目をやり、苦々しげにぼやく。だが、どうやら異形共の一つ目にはトレイドの姿しか映らないらしく、すぐ側に居るタクトに関しては無視していた。たまにこちらに視線を寄越す奴らも居るが、すぐに視線をトレイドへ向けてしまう。


「どうやら個々の意識はあるようだな。だが、トレイドのみ狙えとダークネスに命じられているのか……」


タクトに視線を寄越す異形共を見て、側で浮遊しているクサナギはふむふむと頷いている。こちらに襲いかかってこないのは、クサナギが結界か何かを張ったからだと思ったが、どうやら違うようだ。


クサナギの考察に、タクトは頷いて同意し、彼の中にいる精霊コウのみ、何やら考え込んでいる様子であった。


(……奴ら、何故トレイドのみを狙って……)


(俺たちのことは眼中にない……ってことじゃないか? さっき、ダークネスもこっちのことを完全に無視していたし……)


そこを退け、と一瞥することなく言われたのを思い浮かべながら、タクトは念話で答える。もっとも、それだけではないような気がするが。


一方、異形共に取り囲まれているトレイドだが、彼の全身に纏う白い炎によって異形共は瞬く間に灰となって消えていくーーが、そのあまりの数に、流石の彼も動けない様子。その様を見て、タクトは決心した。


「……クサナギ、トレイドさんの援護に回ろう」


「待て、これはトレイドとダークネスの決闘。手出しは無用だと思うが?」


刀を手に持ち、異形共の群れに飛び込もうとする彼を片手で制し、クサナギは厳しい視線でそう告げた。確かに、これは決闘ーー両者はそう思ってはいないかも知れないが、端から見ればそうにしか見えない。


それに、ダークネスはトレイドにとって因縁深い相手。おそらく、彼一人の手で決着を付けたいのではないだろうか。そういった考えが、クサナギがタクトを留まらせる要因だった。だが、タクトは首を振った。


「一対多数の戦いになっている時点で、決闘じゃないと思う。それに……」


ーートレイドさんは、一人で戦っているんじゃないと思う。こちらを真っ直ぐに射貫く真剣な瞳と声音で、タクトは述べた。訝しげな表情を浮かべるクサナギだが、その瞳の真剣さから、声を出すのは躊躇われる。


「よくわからないけど……トレイドさんのあの姿……多分、ザイが力を貸しているんでしょ?」


「………」


あの姿ーー精霊憑依のことだ。今のトレイドは、彼が契約を結んだ神狼の精霊ザイの面影を宿している。


気づいていたのか、そう言わんばかりの表情で絶句するクサナギに、タクトは笑いかけた。


「……ほら、一人じゃない。それに、あの理もそうだと思うんだ」


金色に輝く三対の翼。以前は漆黒だった翼は、今は神々しい光を放っていた。その翼と光から、彼は何を感じ取ったのか。ふと瞳を閉じた彼の脳裏には、ぼんやりとある女性の姿が思い浮かんだ。


ーートレイドを助けてあげてーー


その女性は、きっとあそこに居る。何故かは分からないが、タクトにはそれがはっきりと分かっていた。それに、女性だけではない。あの理を、何代にもわたって宿してきた人達の記憶が刻まれている。だからーー


「だから……俺たちも遅れながらも、あの人に力を貸そうよ」


「…………」


そう言って、にっこりと綺麗な笑みを見せたタクトに、クサナギは押し黙り。やがて、ふっと微かに笑みを溢して子人の姿が光に包まれ、剣と化す。


『……了解した。共に行くとしよう、我が主』


(……本当に、しばらく見ないうちに、大きくなったな、タクト。………私は今力になれないが……それでも、共に行こう)


自ら剣となることで、力を貸すと答えたクサナギ。直接的な助力は何一つ出来ないが、一緒に居ると行ってくれる精霊コウ。そんな頼りになる相棒達に、タクトは頷いた。


「俺と一緒に、トレイドさんに力を貸そう」


刀を右手に持ち替え、宙に浮かぶ神剣を左手で握りしめた。


 ~~~~~


『さて………』


トレイドの動きを止め、彼の一挙一動に油断なく目をやるダークネスは、大剣の切っ先を向けながら、白い炎に包まれるトレイドに問いかけた。


『残りの魔力は、後どれくらいだ?』


「………」


切っ先を向けられたトレイドは、その言葉には応えず、全身から白い炎を猛らせ、異形共の拘束を振り切る。浄化の力を宿した証をもってダークネスに斬りかかるが、ダークネスはその大剣を片手で扱い、彼の斬撃を防ぎきる。ーー彼の振るう斬撃は、あきらかに弱まっていた。


問いかけに答えないのではなく、答える余裕があまりないのだ。魔力炉のおかげで、魔力を体内で半永久的に生成できるが、炉は生命力を消費して動いている。つまり魔力の生成量を無理に増加させれば、それだけ生命力を消費し、時には死に至ることもある。


彼の疲労は、生命力の消費から来ているのだ。ーーつまり、限界が近い。


もっとも、フェル・ア・ガイである彼は少々事情が異なるのだが、それでも命の危険ということは変わらない。


(……まずったな…………たく、相変わらず燃費悪い……)


僅かに全身を遅う倦怠感に、トレイドは顔をしかめた。彼の体に纏う白い炎は、浄化しか能力がない代わり、魔力の消費量が多い部類に入る。


ダークネスと剣を組み合わせた後、背後から近づいてくる大量の気配を察知し、即座に飛翔能力をもって上空に逃れる。飛びかかってきた異形の群れから逃れ、さらに頭上に白い法陣を展開させた。彼は空中で上下反転、展開させた法陣を足場に、ダークネスへ斬りかかる。


『ぬぅ……』


頭上から、さらに足場を生かして威力を上げたトレイドの一撃を、大剣を掲げて受け止めたダークネスは、やや顔をしかめる。ーーそれだけだ。体勢を崩したり、たたらを踏んだりと行った隙を一切見せない。


トレイドが放った一撃は、ダークネスの怪力には届かなかったのだ。その結果に歯がみし、しかし彼は組み合わさった剣を支点にくるりと回転し、ダークネスの背後に着地する。


「……っ!」


ダークネスの背後を取った彼は、くるりと回転しながら向き直り、たっぷりと遠心力の乗った長剣をその体に叩き込む。


『ぐぅ……っ!?』


「……っ」


螺旋の構えーー回転の遠心力を生かしたその一撃は、ダークネスの背後から放ったことにより、大剣によって防がれることなくその体を切り裂いた。切り口から白い炎が零れ、しかしすぐに炎はかき消え、傷は塞がっていく。振り向いたダークネスの表情は、苦しみに歪んでいた。ーー効いている。


ーー不意に八年前、以前ダークネスと戦った時のことを思い出した。あのときは、己の中にある理を十分に扱うことが出来ず、さらにダークネスの汚染を受けていたため、使う使わないの以前に使えない状態だった。


故に、あのときは精霊憑依だけで戦っていたのだが、精霊の浄化では完全に力不足だったらしく、今回のように目に見えてダークネスが苦しむということはなかった。


さらに、八年前は決定打がない状況の上、体の疲労もピークに達していた。体力魔力共に限界に達していた。そんな状況を打開するために、トレイドは禁術たる”ある魔法”を使ったのだ。


その結果、何とかダークネスを退けることは出来たがーー失ったものが、あまりにも大きかった。八年前のことが脳裏を過ぎった彼だが、しかし今は理を扱うことが出来る。そばにはタクトも居る。”ある魔法”を発動させることはないだろう。


「ザイ……」


「どうした?」


彼の証ーー今は三対の翼を象った顎を持つ、白い長剣に姿を変えた証に憑依しているザイに呼びかける。頼もしい相棒の声に、彼は片頬をつり上げ、


「頼むぞ」


「任せろ」


たった一言の応酬。しかしそこに、彼らの信頼関係が見えてくる。彼はつり上げた頬をそのままに、ぽつりと呟いた。


「”お前達も、頼むぞ”」


その言葉を置き去りにするように、トレイドはダークネスへ肉薄する。宙を滑るように動く彼を、ダークネスは忌々しげに睨み、地面に広げた欠片から異形の腕を生み出し、宙に浮く彼を捕らえようと伸ばした。


ーーだが、その腕を紙一重で避け、蛇行する彼を捕らえることは出来なかった。彼は精霊王の血筋であり、自然の加護を受けている。そんな彼ならば、どこから腕が伸びてくるのか、見なくても感覚が教えてくれるのだ。


どこかの恐怖映像のように伸びてくる腕を全て躱し、トレイドはダークネスの間合いに入り込む。ダークネスも、彼を捕らえるために生み出した異形の腕は全く役に立たないと早々に悟ったため、間合いに入ってくるなり大剣を振るい迎撃する。


その一撃を、宙にいるトレイドはすんでの所で躱し、即座にダークネスへ斬りかかる。重い大剣を振り切った後、後の先を取ったというのに、振り切った大剣を即座に切り返し、返しの一撃がトレイドを襲う。


(何つぅ剣速だよッ!!)


「………っ!」


歯を噛みしめ、これは交わせないと判断した彼は、その一撃をもろに喰らい、地面にたたき落とされた。ダークネスの欠片を敷き詰められた床に衝突し、しかしその反動で飛び跳ねた彼は空中で体勢を整える。


「ーージャベリングーー……っ」


床にたたきつけられた際、体にこびりついた欠片は、全身に纏った白い炎が浄化した。そのことには目もくれず、トレイドは宙に浮かびながらも足下に法陣を展開させ、その法陣を足場に、再度ダークネスへ突撃する。


「アローーーっ!!」


『……っ!』


自身を矢として、投槍のごとく撃ち出した彼。浄化の炎を剣先から展開して突撃してきた彼に、ダークネスは表情を歪め、大剣の剣腹を押さえて彼を受け止める。


再び受け止めたその一撃。しかしその一撃は、最初に受け止めたときのような重さはない。当然だ、彼は疲労しはじめてきているのだから。


『………』


口元に笑みを浮かべたダークネス。その途端、床に広げたままの欠片から異形の群れが飛び出してきた。


「……っ!?」


流石のトレイドも、それまで”いなかったもの”の動きを読むことは出来ず、不意を突かれた。結果、異形共に掴まれーー拘束される。


「てっんめぇ……っ!」


先程と同じ、異形の群れに囲まれ、動きを封じられてしまった状態に陥った。その状態から抜け出すために、全身から炎を吹き上げ、異形共の拘束から逃れる。


『………』


拘束から逃れるなり上空へ逃れたトレイドを見やるダークネス。ーー抜かりなく彼を見据えるダークネスは、口元に浮かべていた笑みをさらに深くさせた。


ーーもうトレイドは、限界が近い。異形共に捕まらないよう宙に浮かぶ彼は、息苦しそうに呼吸を整えていた。おまけに顔色も心なしか悪い。最も、白い炎のせいでそう色白に見えるせいもあるだろうが。


これで五度ーー三回は浄化の炎を大量に噴射し、残りの二度はあの突撃技、ジャベリング・アローにより、異形共を振り払った。ダークネスの目算では、放てても後二、三度が限界と見た。


その目算は概ね合っている。後二回ほど、今のような大量噴射をすれば、トレイドの方が自滅する。


むしろ、浄化の炎以外に魔力を使えばーー例えば、コベラ式の魔法等を使えば、一回が限度だろう。ともあれ、もう限界に近いと言うことに変わりはない。一方のダークネスは、まだまだ余力がある。百体もの異形を生み出したくせに、浄化の炎によるダメージを受けたというのに、大剣を握る手は鈍る様子もない。


正直、このまま戦えば、”ある魔法”を使わない限り、勝つことは愚か、以前のように退けることも出来ないだろう。


(後二度……それで決めきれるかに掛かっているか……)


宙に浮かぶトレイドは、疲労感に襲われながらもダークネスから目を離さず、長剣をだらりと下げている。


ダークネスを消滅させる方法は二つ。一つは、悪意の塊であるダークネスから、悪意を取り除くこと。つまり、何千何万という人達から取り込んだ悪意ーー負の感情を浄化する方法だ。だが、これには多量の浄化が必要となりーー例えトレイドが万全の状態だったとしても、魔力が足りなさすぎて不可能、机上の空論だ。


もう一つはダークネスが持つ”理”を破壊する方法。トレイドが狙っているのは、こちらのほうだ。理をーー神の力を破壊するのならば、同じ神の力で破壊するしか方法はない。


例え一つの理を二つに分けたトレイドの理とは言え、ダークネスと同じ神の力。理を破壊することは出来る。ダークネスを浄化させるよりは可能性が大きいが、問題はーー


(……残りの魔力を一撃に込めて、撃ち出せば……理に届くか?)


ーー理に、その一撃が届くかどうか、であった。例えどれほど威力の高い一撃であろうと、当たらなければ意味がないのだ。ダークネスの理は、負の感情によって作られたあの体によって守られている。言わば堅牢な鎧。その鎧を砕くには、今のトレイドではーー


(ジャベリング・アローは二度とも大剣によって防がれ、異形共の拘束から逃れるために三回炎を噴射した……。無駄に魔力を削られて、向こうの思うつぼになったか……)


半ば八つ当たりのごとくダークネスを睨み付けるトレイドだが、ふと表情を和らげた。


ーー俺と一緒に、トレイドさんに力を貸そうーー


ーーホント、でかくなったな……。先程、確かに耳にしたその一言が脳裏で蘇り、トレイドは場違いながらもそう思った。


(初めて会った時は、雨に濡れていたよな。……あのときの少年を、まさかここまで”信頼”するなんてな……)


土の賢者から話を聞いた後の、魔物の群れとの戦い。道中での手合わせ。森の中での戦いに、呪い人形。そしてーーダークネス相手に、危険を顧みず時間を稼いでくれた。


「………本当に、頼りになるぜ……」


そう呟いたトレイドの眼下で、ダークネスに向かって、異形の群れを蹴散らしながら進む少年の姿があった。


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