第15話 光の翼~1~
「……ふふ、そうか、とうとうダークネスと彼がぶつかり合ったんだ……」
どことも知れぬ暗闇の中、一人の青年は笑みを浮かべながらひっそりと呟いた。暗闇の中には彼以外誰もおらず、輝いて見える金髪を振り乱しながら首を振った。
「彼の”絶望”が生んだダークネスと、彼に一度滅ぼされかけたダークネス。果たしてどちらが勝つのか、見物だね」
ここではない、とある聖地で行われている戦いのことを思い浮かべながら、青年は微笑みを保ったまま頷きを一つ。ーー当然、この暗闇の中に戦いの様子を表すようなものは何一つない。分かるはずがないのだが、どうやら青年には戦いの様子が手に取るようにわかるらしい。
「……やっぱり、勝負って言うのは、勝ち負けがわからないから楽しいんだよね」
その表情に張り付いた笑みを見れば、誰でもわかるほど青年は上機嫌だった。それほど、この戦いを楽しみにしていたのだろうか。ーーだが、今行われている戦いはまさに死闘。生死がかかった戦いを”楽しい”と言うあたり、この青年の歪みを表していた。
「ーーでも」
上機嫌に笑みを浮かべていた青年が、すっと目を細めて突如思案顔をする。一体何を考えているというのか、青年は真顔で一つ二つ頷くと、再び笑みを浮かべた。
「……”あの人”の前で異界を作るのは、少し勘弁して欲しかったかなぁ……。……まぁいいか、心象術の初歩しか出来ないあの人が、一度見たからと言って容易く真似できるわけでもないし」
上機嫌なままそう結論づけ、青年は”あの人”のことを思い浮かべる。口元に笑みを張り付かせたまま、青年は、
「……やっぱり、わからないっていうのは、楽しいねぇ」
ーー青年が終始上機嫌なのは、まさしくそれだった。わからない、この一点が青年にとっての楽しみなのだ。
青年には全てが分かっていた。未来のこと、過去のこと。数々の異世界の成り立ちや、そこに住まう人間の考え、意思、思想、そして終わり。果てには神々の考えまでもが全てお見通しだった。
人に至っては、その気になれば千億を超える”全て”の人達の考えや行動、過去から未来まで、全てを知ることが出来るのだ。
”未来視”、この力はそう呼ばれているが、若干違う。これは、ある魔法から漏れ出した副産物に過ぎない。
「さて。私はこのまま、事の行く末を見守らせて貰うよ。……そういえば」
クスリと笑みを漏らし、興味を示している聖地での戦いを見守っていた彼は、ある人物のことを思い出した。顔に笑みを張り付かせたまま、彼はぽつりと呟いた。
「父上はどうしているんだろうね?」
~~~~~
「おおおぉぉぉぉっ!!」
『ぬうぅぅぅぅっ!!』
叫びを上げながら白と黒がぶつかり合う。白は神狼ーー神狼の精霊ザイと憑依させたトレイド。対する黒は、ダークネス。互いに突撃し距離を詰め、長剣と大剣をぶつけ合う。
トレイドは、理の影響により普段の証よりも若干肥大化した長剣を用いて、踏み込みを生かした轟撃を放つ。一方のダークネスは、漆黒の大剣を、己の怪力を用いて振り回す。
洞窟内の地面の岩をも砕くその一撃は、到底トレイドに耐えられるものではない。しかし轟撃の技法を用いて撃ち出した長剣は、大剣を見事に受け止めて見せた。
「……っ!」
長剣と大剣が組み合わさった瞬間、トレイドは表情を歪めーー吹き飛ばされる。轟撃の技法を用いて繰り出した一撃の威力は、その一撃にしか宿らない。受け止められ、鍔迫り合いになれば、互いの筋力の地金を晒すこととなる。
いくら精霊憑依を行っているとは言え、今のトレイドにダークネス並みの怪力はない。容易く吹き飛ばされた彼に、ダークネスは即座に追撃を仕掛けた。苦悶の表情を浮かべる床を走り抜け、
『終わりだ!』
吹き飛ばされたトレイドが体勢を立て直した頃には、すでにダークネスの間合いに詰められていた。彼の体目がけて横薙ぎに振り抜かれる大剣に対し、トレイドは感情を表さない瞳でダークネスの目を見返す。このタイミングでは、回避のしようがないはずだ。
振り抜いた大剣、トレイドは剣で止めようとも、避けようともしなかった。本来ならば当たったはず。ーーしかし、トレイドの姿は僅かな影を残して消え、何一つ、手応えはなかった。
斬った感触も、吹き飛ばす感触もなく。前触れもなく消えてしまった相手に、ただダークネスは呆然となる。
ただ一つ違和感が。振り抜いた大剣が、微かに重みを増しているようなーー
「ーー剣の腕は、二流ではなく三流以下みたいだな」
『ーーっ!?』
ーー大剣から声がした。驚愕と困惑を混同した表情でダークネスは自らの大剣に目をやりーー振り抜いた大剣に乗る、白い狼人の姿があった。
全身に纏った白い炎のせいで真白く見えるトレイドは、大剣が振り抜かれたあの一瞬で剣腹に飛び乗り、見事回避して見せたのか。
金の瞳を輝かせ、トレイドは呟きを残して大剣の上からダークネスへ突撃する。武器の上に乗る、という方法によって大剣を封じられたダークネスは、突撃してくるトレイドに何の抵抗も出来ず。
ーーすれ違いざまに剣閃乱舞。ダークネスの体を切りつけ、距離を取った。
『ぐぬぅ……っ!!』
ダークネスが苦悶の声を上げる。トレイドによって斬られた箇所からは、白い炎ーー浄化の炎が燃えさかっていた。
精霊憑依を行っている今のトレイドは、精霊ザイの特殊能力を扱うことが出来る。そしてザイの能力が浄化の炎ーー呪いや怨恨の念を祓う能力だ。負の感情の塊であるダークネスにとって、その能力は天敵に等しかった。
本来の炎のように高温を宿していたり、燃え広がったりという特性はない。が、白い炎によって浄化されているダークネスは、おそらく自身を焼かれているような苦しみを味わっているだろう。
しかも今は、理の力によって浄化の炎も強化されている。がくりと跪くダークネス、今が好機だとばかりにトレイドは奴に向き直り、剣を振り上げーー
ーー突如、ダークネスが苦悶の表情から笑みに変え、その身を浄化していた白い炎が一斉に消えた。
「っ!?」
『ぬうぅぅっ!!』
裂帛の気合いと共に振り返り、ダークネスは自らの背中に突っ込んでいったトレイドの首を掴み、そのまま怨恨の表情を浮かべる人相の床へと叩き付ける。
「がっ………っ!!」
突如炎が消えたことによる困惑、そして首を捕まれた衝撃、地面に叩き付けられた痛みーーそれらもろもろを肺から出た空気に乗せて吐き出したトレイド。苦しみに表情を歪めるトレイドを見て、ダークネスは笑みを張り付かせたまま、
『言ったはずだ、ここは異界……我の世界だと。いくら理の恩恵を受けようとも、精霊ごときの浄化の力、この場ならば我には効かん』
「っ…………っ!!」
その言葉に、トレイドはハッとした。ここはダークネスが生み出した異界。この場所では、全ての事柄がダークネスにとって有利に働くようになっている。
さらに高まる圧迫感。ダークネスはこちらの首を絞めつつ、さらに体重をかけてきた。どうやらトレイドの首を潰すつもりだろう。フェル・ア・ガイである彼にとって、首を潰された程度では死にはしないが、それでも激痛に苛まれ、しばらくの間は動けないだろう。
「っ!!」
気力を振り絞り、手に保持したままの白き長剣をダークネスの腹部に突き刺した。すると、突き刺した箇所から白い炎が燃え上がり、ダークネスの身を焼きはじめる。
『ぐっ!?』
「っ!」
すると、ダークネスが苦しげに呻き、首を押しつぶそうとしていた力が弱まった。その瞬間を見逃さず、トレイドは奴の腹部を思いっきり蹴り、押し退けた。
ダークネスをその場から退け、その隙に立ち上がったトレイドは距離を取った。剣が突き刺さった箇所を押さえつけ、数秒後にはそこから燃えさかっていた白い炎がふっと消えていく。
「ケホ、ケホッ……! あー、くそ、喉潰そうとしやがって。……だけど、何が”我には効かん”だ。十分効いてるじゃないか」
その様を見ながら、トレイドは咳き込みながらもニヤリと笑みを浮かべた。右手に握った長剣の切っ先をダークネスに向ける。向けられたダークネスは、苦々しい表情を浮かべながら剣越しにトレイドを睨み付けていた。
「お前の力は、浄化の炎を消すだけで、無効化している訳じゃない。そして浄化の炎によって焼かれている間は、お前の力は弱まる」
ーーつまり、だ。彼はそう言いながら、ダークネスに突きつけた剣を引き戻し、両手で構えながら、
「浄化が弱点なのは、十年前から変わらない。例え虚勢を張ったとしても、それが限界だろう?」
『…………』
ダークネスは否定もせず、無言のままだらりと佇んだ。完全に剣が下がりきり、一見どこからどう見ても隙だらけに見えるがーートレイドも、そして両者の戦闘範囲から下がって見守っているタクトも気づく。うかつに飛び込むのは不味い、と本能が告げていた。
『……ふっ。ふふっ……確かに、私は悪意の塊。呪術を使うには適している』
「…………」
ぴくり、とトレイドの頬が動く。呪術と聞き、真っ先に思い浮かべるのは先の呪い人形。ーーそういえば、アレを使役していたのは誰なのか。胸中に浮かぶ疑問、それを問いかける間もなく、ダークネスはだらりと下げていた大剣を頭上に掲げる。
『浄化は、呪術にとって最大の弱点。理の加護を受けた浄化の炎は、我の弱点でもある。そしてこれは、対策できるものではない。だからーー』
掲げた大剣が黒い輝きを放ちーーそれに呼応するかのように、ダークネスの足下から黒い泡、ダークネスの欠片が膨れあがり、広がっていく。
「……何をする気だ?」
『…………』
相手の意図が読めず、困惑するトレイド。広がってくる欠片など、気にもとめない。ーー当然である、今の彼は全身に浄化の炎を纏っているのだ。例え触れたとしても、欠片の呪いなど効くはずがない。一方のダークネスは、そんな反応を見せる彼に気づかぬように口元に笑みを浮かべていた。
「……まさか……!」
『ふむ? どうかしたのか、タクト?』
離れたところにいるタクトは、ダークネスが足下に広げた欠片の群れを見て、あることを思い出し顔を青ざめさせる。広がった欠片が、まるで地面に出来た大穴のように見え、大穴から這い上がってくるかのようにして現れる”異形共”のことを。
(ーーーーふむ、タクト、お前の記憶のおかげでだいたいの事情が飲み込め……………まさか、これは……!?)
先程からずっと黙り込んでいた相棒である精霊コウは、タクトの記憶を垣間見ることでこれまでの経緯を理解したようである。理解したと同時に、目の前に広がった欠片の群れに、嫌な念話を漏らした。
(お前達は一体何を言っているんだ?)
一人事情が分からず、訝しげな表情をするクサナギ。しかし彼も嫌な予感がしているのだろう、口ではそう言いながらもすでに臨戦態勢に入っていた。
「トレイドさん気をつけてッ! そいつは大群をーー」
『遅い』
タクトはその場で叫び声を上げーーしかし、野太く、よく響く声が彼の叫びを上書きする。そして、広がった欠片の群れから、何十本もの腕が突き出された。
「うわあぁぁぁっ…………」
「気色悪いな、おい……」
まるでホラーのワンシーンのような光景に、タクトは叫び声こそ上げないものの、弱々しい声音で呻き声を上げる。顔をやや青くさせており、また、その光景を間近で見たトレイドは顔をしかめ、すーっと下がった。どうも怖がっていると言うよりも、気味悪がっているようだ。
突き出した何十本もの腕の側から、さらに一本ずつ追加で現れる。総数は確実に百を超えていた。下手をすると、二百本に達しそうですらある。
どうやら、二本で一つ分、と言う事みたいである。
「二本の腕、か……人型か?」
二百もの腕が突き出されている光景は異常であり、果てしない恐怖感を煽るものなのだが、トレイドは全く意に介さず、冷静に分析していた。ーータクトの記憶通りならば、確かに人型ではある。
二本の腕が地面から引き上げたのは、当然体。頭、胴体、そして足。しかし、足が異様なほど小さくて短く、胴体も小さめだ。そのため、対比で腕が異様に長く、太く見える。全体的なシルエットとしては、霊長類に近い。
そして、頭。髪の毛も鼻も耳もなく、あるのは一つの大きな目と、そして大きな口。一つ目の異形が、そこにいた。その数、およそ百。
流石に百体もの異形が居れば、先程まで静かだったこの場所も、騒然とした空間となる。
「……敵わないから数で押す、と? 浅はかだな」
周囲を見渡し、騒ぐ異形共を無視しながら、トレイドはダークネスにそう告げる。小馬鹿にしたような口調で言ったその言葉は、この騒がしい状況でもしっかりと耳に入ったようだ。
『浅はかか。確かに、我でもそう思う。ーーだが、精霊憑依は、周囲の自然物を魔力に変換し、取り込むことによってその力を十二分に発揮する』
「…………」
ダークネスの言葉に、トレイドはハッとしたような表情を向けてくる。やがて、その顔は苦々しげに歪んでいく。
ダークネスの言うとおり、精霊憑依は自然物、周囲の火、水、雷、風、土を魔力に変換し、変換した魔力を取り込むことによって魔力量を上昇させるのだ。当然、魔力量が増えれば、本人が使う魔法も格段に強化される。
だがーー
『だが。この異界には自然など存在しない。貴様は、貴様の魔力で戦わねばならない』
「……持久戦か……。……だけど」
ダークネスの意図を悟ったトレイドは、そう呟くも即座に長剣をある構えにし、ダークネスに向かって突撃する。弓を構えるかのようにして左手を前に、右手に握った剣を矢として引き絞る。ーー彼が道を踏み外すきっかけを作り、しかし彼の身を案じていた剣士の、得意とする技。
この手の持久戦は、大本を手早く倒すのが定石であり、その大本は異形共を生み出しているダークネスに他ならない。だからこそ、数で押される前に倒すべき。それにーー。
ダークネスの元にたどり着くには、目の前にいる異形の群れを突破しなければならない。だが、今の精霊憑依を行っているトレイドには、その群れはあまり効果がなかった。
憑依を行っているトレイドは、全身に浄化の炎を纏っている。それは、浄化を弱点とするダークネスが生み出した異形にも通じ、異形共は、触れただけで白い炎が移り、浄化されて消滅していくのだ。
ーー意味がない。
「相性が悪すぎだなッ!」
異形の群れを突破し、ダークネスの元へたどり着いた彼は、その勢いのままに突撃し、待ち構えていたダークネスに剣をーージャベリング・アローを叩き込む。
本来剣先から円錐状に展開する魔力の代わりに、浄化の炎を展開させたその一撃は、ダークネスが握る漆黒の大剣によって止められる。
『………っ』
受け止めた瞬間、ダークネスは表情を歪ませ、数メートルほど後ろに追いやった。その技に、一体どれほどの威力を宿していたというのだろうか。ダークネスは足をずりずりと引きずりながら後ろに追いやったのである。
「ーーー」
剣越しに交差する二つの視線。だが、その交差した視線に、トレイドはハッとする。口元を歪めていたダークネスは、やがて笑みを浮かべていた。
「何笑ってやがる……?」
訝しむトレイド。眉を寄せて静かに問いかけると、ダークネスは笑みを張り付かせたまま、ぽつりと呟く。
『今の貴様には、奴らは触れることさえ出来ん。だがーー』
「……っ!?」
途端、周囲が僅かに暗くなる。憑依と共に、自然の加護も発動させている彼は、そちらを向かなくても分かった。異形の群れが、自分に飛びかかってきたのだ。ーーダークネスの真の意図を悟り、彼は瞳を驚きに見開く。
「まさか……っ!!」
『ーー力をそぐことは出来る』
トレイドを押し潰さんとばかりに飛びかかってくる異形の群れ。彼の体を掴んだ瞬間、浄化の炎に焼かれて消滅していくがーーそれでも、僅かばかり拘束される。さらに、相手の数が多すぎた。
(これが、ダークネスの狙いか……っ!)
次々と捕まれていくトレイドは、声を出せずにその場に留められる。無論、異形共は浄化していくがーーしかし、確実に彼の魔力は減少していく。
掴まれ、拘束されている状態では、全身に纏った白い炎を解除できないのだ。解除すれば最後、異形共に完全に拘束され、ダークネスの大剣が牙をむく。だが、このまま白い炎を纏ったままでは、魔力を消費し、炎が消えるか、憑依が解除される。
もしくはーー浮かび上がった嫌な考えをかき消すかのように、トレイドは目の前に居るダークネスを睨み付ける。
「お前……っ! ずいぶんと回りくどいやり方をするんだな……っ!!」
『何とでも言え。我は、貴様の中にある理さえ手に入れれば、それでいい……』
じろり、と動けないトレイドを一睨みし、ダークネスは歩み始めた。
『貴様を殺し、中にある理を引きずり出したら……ここでゆっくりと黒く染めてやる。一度染まっていたのだ、黒く輝くのも早いだろうな』
ーートレイドの理を手に入れる、それがダークネスの目的である。そのために、彼の理を、長い時間をかけて己の力で染めていたのだ。
トレイドが黒騎士となったとき、もしあのまま欠片に汚染された理に飲まれ、黒騎士と化していたら、ダークネスは苦もなく彼の理を己のものに出来ただろう。
だが、もうその手は通用しない。彼の中にあった667個の欠片は全て、理の穢れが祓われたときに消滅してしまった。内側から理を汚染するという方法は、出来なくなっているのだ。
もしダークネスの策通り、彼が黒騎士となっていれば、労少なくしてトレイドの理をーー正確には、一つの理の半分だがーー手にすることが出来たのだ。その策が潰れてしまった今、直接彼から理を奪うまで。
歩き、トレイドを己の間合いに収めると、黒き大剣をだらりと下げたまま、呟いた。
『あの世で、貴様が愛した女と仲良くやるといい』
ーーぴくり、とトレイドの肩が震える。
『じきに、アルトとやらもそちらに逝くことになるからな』
さぞ昔話に花が咲くことだろうーーそう付け加えたダークネスの言葉は、もう彼の耳には入っては来なかった。
ーーアルトは、トレイドが持つ理の片割れを宿している。つまり、俺の理を奪うと言うことは、必然的にもう半分を宿しているアルトもーー
「……てめぇ!!」
全身に力と、魔力が入る。体を覆う浄化の炎が、さらに吹き出しーー拘束していた魔物の群れを一掃する。ほんの僅かな間、拘束から逃れることが出来き、その間を生かして彼はダークネスへと斬りかかった。
『………』
「っ!?」
がむしゃらに振り下ろしたその一刀は、ダークネスの大剣によって難なく受け止められ、その瞬間、彼の体は固まった。足首を掴まれている感触ーー見なくても分かる。異形共が、トレイドの足を掴んだのだ。当然、掴んだその手は即座に浄化されるものの、掴まれた拍子にバランスを崩す。
「っ! やろ……っ!!」
バランスを崩された硬直を突かれ、再びトレイドの体を異形共が掴み拘束する。そんな彼を見やりながら、ダークネスはぽつりと呟く。
『……そうやって猛り、我を忘れて剣を振れ。そのたびに……貴様の命は……魔力は尽きていくのだからな』