第9話 波乱 ~2~
アイギット達は不運な目に遭った。
精霊使い達にはそれぞれランクがある。とは言え、ランクが高いからと言って偉いわけではない。ただ単の強さ順であり、それが高いほど強いと言うだけである。
また、コベラ式の特性上外見からは強さなど推し量ることは出来ない。また、マモル”達”が精霊達の事を知らない無知なる世界から来たこともある。従って、彼らにランクがあったとしてもそれは第十位(最低位)あたりだろうと。
その油断が、彼らに自信を与えてしまった。
取播きに起こった不運は、文字道り運がなかった。それだけでしかない。
「終了、っと」
半日前にタクトがシュリアとの模擬戦を繰り広げた第二アリーナ内。マモルの口調は軽く、簡単な用事が終わったとでも言うふうに、両手に持ったゴツイ二丁銃ーー証を指先でくるくると回す。すばらしいまでの余裕ぶりで、ーー一歩も動かなければ、余裕にもなるーー息すら乱していない。
その傍らで、刀を肩に担ぎながらタクトはふうっとため息をついた。
彼らの周りには、倒れうめき声を上げる取り巻き達。数名気絶している者もいるが命には別状はない。一通り見て、もう立ち向かってくる奴らがいないことを確認するとタクトは振り返った。
「マモル、大丈夫?」
「そういうお前こそ…って…。大丈夫か、お前だし」
「いや、僕だからってどう言う意味?」
思わずジト目でマモルを睨むが、それには答えず、アイギットに右手の銃を突きつけた。
「チェックメイトだ」
無表情に銃口を見つめるアイギットに勝利宣言を下した。
~~~~~
時を少し遡る。
マモルがアイギット達に連れ去った直後、その校庭に和気藹々としたタクト達三人の姿が現れた。もっとも、和気藹々としているのはレナとコルダの二人だけで、タクトはたまに会話に参加するだけである。
タクトとしても会話には積極的に参加しようと試みているのだが、女子二人の会話について行くのには彼には重すぎる試練であった。
そのため、二人の会話に耳を傾けながらも、暇つぶしに周囲を見渡していたりする。……どうも周りの雰囲気が悪い気がしてならない。
その時だった。数名の男子達に連れさらわれるマモルを見つけたのは。
(あれって……)
よく見ると、連れ去っていく数名は見覚えがあった。確か、昼食時にマモルにいちゃもんをつけていたグループではなかったか。
そして、彼らが向かっていく方向。あそこは確かーー
「……タクト?」
マモルを連れてどこかに行こうとする彼らを目で追い、なおもしばらく立ち止まった彼に気づいたレナが、どうかしたのかと言うふうに声をかけてきた。
「……ごめん、用事を思い出した。ちょっと先行ってて」
ただ事ではないと直感が感じ取り、レナ達にそうごまかし、先に行くよう促す。
しかし、相手も伊達に幼なじみをやっていない。彼の様子から何かを感じ取り、その用事がなんなのか尋ねてみた。こう切り替えされるとは思わなかったタクトは目に見えてたじろいだ。内心であー、やら、うー、やら唸る。実は彼、こう言うアドリブが大の苦手なのだ。
面識のない初対面の人でさえあっけなく見透かされる。レナはともかく、コルダにも感づかれるだろう。
どうやってこの状況から逃げようか迷っていると、彼女らの後ろからとある人が通り過ぎた。その人はこの状況から逃げるのにうってつけの人物だった。
「お前達、何をやっている」
後ろから突然現れた人物ーーシュリア先生は、二人を見下ろす形で現れた。
「し、シュリア先生!?」
レナとコルダは振り向き、いきなり現れた彼女の威圧感に押され、半ば言い訳みたく播くして立てる。
「そ、その、たく…じゃないや、桐生君が何か隠しているみたいで……」
「…その桐生だが、いないぞ」
『えっ!?』
彼女の指摘に我に返った二人が振り向くと、そこには誰もいない。先程までいたタクトが、きれいさっぱりと消えていた。
それに気づいた二人は、あたふたとあたりを見渡す。
「ええっ、何処行ったの?」
若干声を荒げてコルダはキョロキョロと見渡した。
いきなり消えた。高速移動でどこかに逃げたか、透明化の術を使ったか。だが、コルダはどちらも違うと思った。
確かに二つとも、コベラ式の術の中に存在する。だが、どちらも”詠唱系”に分類されるのだ。
呪文を唱えなければ発動しないし、属性変化術みたく呪文が一言二言ではない。当然、詠唱すれば二人が聞き逃すこともない。
生憎、声は聞こえなかった。しかし、隣にいるレナはタクトがどうやって消えたかを知っているようで、「逃げたな!」とそこにいない彼に向かって叫んでいた。
そんな彼女にコルダは落ち着くよう促す。
「どうどう。落ち着きなって」
「……私馬じゃないよ!」
「……あっれー?」
ーー促すどころか、彼女を怒らしていた。
何が悪かったのかと首を傾げるコルダに、シュリアは「何やっているんだ、お前達は」とため息をついた。