第12話 語られるべき時~4~
ーー………っ!--
「……え……」
目の前で広がる甘酸っぱい幸福感を感じていたタクトは、微かに声が聞こえたような気がして辺りを見回した。だが、この場にはトレイドと手を繋ぐユリアに、彼らを微笑ましく見守っているサヤに、その弟で、やや仏頂面であるライ。彼らとタクトを含めた五人しかいない。
ーーあたしの………聞こえる!?ーー
「……っ」
気のせいだよな、と首を傾げるタクトだが、再び、今度ははっきり聞こえたその声に、タクトはハッとした。何より、その声には聞き覚えがあった。
タクトの視線は、トレイドと二人で手を繋いだユリアへと向けられていた。彼が耳にした声は、彼女の声そっくりだったからだ。だが、目の前にいるユリアは、幸せそうな表情でトレイドと手を繋いでいる。これは一体……?
ーーねぇ、あたしの声が聞こえてる!? ”タクト君”!ーー
ユリアのものらしき声は、今度ははっきりと聞こえた。そればかりか、自分の名前を呼びーータクトは目を見開いて反応した。
「……ユリア……さん?」
ーー良かった、聞こえてるみたいね。タクト君、お願い! あいつを止めて!ーー
「えっ……?」
何を言っているのだろう。そんな表情で、タクトは天井を見上げた。
トレイドの話が本当なら、ユリアは彼を庇う形で、死んでしまったはずだ。すぐ側にいるユリアも、どちらかというと誰かのーーおそらくトレイドのであろうがーー記憶から再現されたものに過ぎない。
記憶の再現ーーつまり、過去に起こった出来事を忠実に再現しているだけだ。聞こえた声のように、”明確な意思を持った意識”など、あるはずがない。だというのに、
ーーあいつに、これ以上……っ!!ーー
「あなたは………」
聞こえるこの声からは、意識を感じられる。それも、切羽詰まったーー誰かの身を案じている、心配そうな声音なのだ。だからか、タクトは恐る恐るユリアのものと思われる声に問いかけた。
「あいつって……トレイドさんのことですか?」
ーー……そう。でもごめん、時間があまりないの! だから、詳しいことは聞かないで、受け取って!ーー
「……受け取る?」
何を、と言わんばかりの表情を浮かべたタクトだが。次の瞬間、頭に直接何かが流れ込むような感覚を味わい、苦悶の表情で跪く。
「うっあぁっ……!!」
痛みと言うよりも、不快感が激しい。急に感じたそれに、立っていられなくなったのだ。
精霊人
精霊になった人間、人間になった精霊、その両方をさす言葉
「……っ?」
不快感を味わった末、脳裏に浮かび上がったのはその言葉だった。精霊人ーー知っているような、知らないような気がする不思議な言葉。だがその言葉に、タクトは底知れぬ不安と恐怖を覚えた。何故かは分からない、分からないがーー
人間が精霊になることは出来ないし、精霊が人間になることも出来ない。そんなことは精霊使いにとっては常識であり、それ以前に、この世の理という奴だった。
この世の命は全て、生物として生きていくが、生きている最中別の生物になることは敵わない。それが出来るのは輪廻転生、死した後、全ての記憶がなくなり、新しい生物に生まれ変わるのみ。
その理から外れた存在、それが精霊人なのか。不快感が消えつつある頭でタクトはそう思い、同時に視界が急に暗くなっていく。
暗転に包まれていく視界の中、タクトが耳にしたのは、やはりユリアの声だった。
ーー君に全部渡したよ! 今はわからないだろうけど、きっとわかるから! だから、これ以上あいつに……!ーー
しかし。彼女が言おうとした言葉を全て聞くことは敵わず。その前に、彼の視界が黒く染まり、意識を失った。
~~~~~
「ほら、アウストラに着いたぞ、旦那」
「礼を言うよ運転手。ついでに、商いがうまくいくことを祈っとくよ」
翌日。夜が明けてすぐの明朝に出発した馬車は、家庭で朝食が振る舞われる頃合いだろうか。目的地に無事到着した。
流石にこの国ディアヌーンの首都だけあって、まだ朝早いというのに人影がそれなりにある。街を囲む城門をくぐってすぐの所で、トレイドはタクトを引き連れて馬車から飛び降り、運転手に礼を言う。彼はからからと笑いながら、後退気味の頭をさすっって去って行く。
馬車に乗り馬を扱うあの人は、人は良いのだが、あまり口を開かないーー開きたがらないのだろうか。基本的に無口な人で、どうにも取っつきにくい。特に今日は今朝から願著だった。だが、
「………」
「少年、その表情をやめろ」
目を半開きにし、青白い表情でうつらうつらしているタクトに呼びかけ、その肩を揺する。だが、帰ってくるのはうんっという消え入りそうな声だけで、時折ぶつぶつと何かを呟いている。正直、トレイドから見ても不気味であり、きっとあの運転手がこちらを避けていたのは彼が原因だろう。
「お前眠いのか?」
「………」
「……駄目だ。しかし困った、こいつがこれじゃどうしようもねぇ」
黒髪をポリポリとかきむしり、トレイドはタクトが紐皮で腰に吊った長剣ーークサナギの方へ目を向ける。辺りを見渡した後、トレイド手製の鞘に収められたその長剣を見てぽつりと呟く。
「……タクトの奴、どうしちまったんだ?」
『さぁ? 私にも分からん』
クサナギが鞘から僅かに飛び出て、刀身を僅かに響かせながら反応した。
現在、タクトの相方であり、剣でもあるクサナギは、文字通り剣状態のまま鞘に収められている。ディアヌーンでは精霊文化はなく、普段の姿である銀色の子人状態で浮いていたら大騒ぎになるからだ。ーーもっとも、精霊文化のお膝元であるフェルアントでも、驚いた表情を向けられることは多々あるが。
『分からんが、流石にこのままというのは不味いな。……仕方ない』
クサナギはそう言うなり、キンッと音を立てて鞘に収まった。すると、一間置いてタクトがはっと目を見開いて辺りをキョロキョロする。
「……もう、アウストラに着いたんですか?」
「今さっき、な。それにしてもお前さん、眠いのか? さっきも聞いたが、反応がなかったぞ?」
トロンと眠そうな眼をしたタクトを見て、トレイドはため息混じりにその肩を叩く。だが、彼はかくんと首が傾き、端から見てもわかるほどに、船を漕いでいた。ーーもう眠りかけているのだ。
「……もう眠りかけてるのかよ」
「……はっ」
一瞬にして眠りの世界に足を一歩踏み入れたタクトに気づき、呆れたように再度ため息をついたトレイドは、肩をかくんと落とす。一方のタクトは、彼の呟きに反応したのか、再び一瞬にして現実世界に戻ってきた。
『トレイド、どうもタクトの脳は正常に動いていないようだ。夜更かしでもしたのだろうな、どこかで眠らないと何の役にも立たないだろう』
軽くタクトの体調を検査したのか、クサナギはトレイドにのみ聞こえるように彼の今の状態を囁いた。
「寝てねぇのか? ……全く、何で夜更かしなんぞ……」
『……お前の過去を聞いたからだと思うが?』
今の体調を聞いたトレイドは、何やっているんだか、と言わんばかりの表情で黒髪をかきむしり、一方のクサナギは小声でそう突っ込んだ。
ーータクトの脳がまともに働いていないのは、今朝見た夢のせいなのだが、二人のあずかり知らぬ所で起こったこと故、気づくはずがなかった。うつらうつらと今にも倒れそうなほど体が揺れているタクトは、二人の話し声にハッとして気を取り直す。
「…………」
だが、即座に瞳が半開きになった。彼が意識を保っていたのは僅か数秒。その様子に気づいたトレイドは本日三度目となった、重々しいため息を吐き出した。
「……休める場所に行くとするか」
『その方が良さそうだな。……しかし、剣状態か……くそ、久しぶりに女性とふれあえるまたとない機会だというのに……っ!』
「お前黙ってろよ。良いか、ここには魔法石の加工に手慣れた職人が大勢いる。……お前ほどの名剣に、字を刻むことができる腕前の奴らだって、探せば出てくるだろう」
『………………』
「よし、良い剣だお前は。そのまま、しばらく黙ってろ」
トレイドの、遠回しの脅しに恐れをなしたのか、長剣であるクサナギは押し黙り、タクトの腰に吊られたまま彼ごと移動を開始する。
この脅しは今日が初めてというわけではなく、以前からーーディアヌーンに転移してきたときにトレイドから提案されたものである。
ディアヌーンは魔法石の採掘量が世界一の国であり、採掘された魔法石に宿る魔力を使った、独自の魔法が普及している。そのためか、魔法石の加工技術も持ち合わせ、首都であるここアウストラでは、魔法石そのものを使った工芸品も数多く作られている。
おそらく、クサナギの刀身に字を刻むことぐらい出来る腕を持った職人もいるだろう。そのことを聞かされたクサナギとしては、頬を引きつらせて彼らの言葉に屈するほかなかった。ちなみに、刻まれる言葉の候補として、おしゃべり剣、お馬鹿丸出し剣、軟派小粒剣、などなど、クサナギとしては遠慮願いたい名前ばかりである。
彼自身が剣なのだから、自分の体に不名誉なことばかり書かれるようなものなのだ。何としても阻止せねばならなかった。
トレイドはその後、タクトを引きずるようにして近場の宿のお世話になり、二階にある客室に入るなり彼をベッドの上に無造作に放り投げる。そこそこの衝撃があったはずなのだが、彼はそれに答えた様子も見せず、すでに寝入っていた。
「……たく」
ベッドの上で眠りについたタクトを見て、トレイドは髪の毛をかきむしる。彼が朝や寝起きに弱いことは知っていたが、今日のは格別だった。寝ていないだけなのでは、と思うほどに。
クサナギは、あんな話の手前、眠れるわけがないと漏らしていたが、トレイドとしてはそうは思わない。ーーそう思えるのは、当事者だからか、それとも慣れてしまったからか。彼は自らの手に視線を落とし、ぐっと拳を握りしめる。
脳裏に浮かぶのは、昔の自分。この国で、この街に料理人として、義賊として暮らしていた自分だ。その時の自分と、今の自分ーーあまりにもかけ離れた存在になってしまった。能力的にも、精神的にも、肉体的にも。
それでも、昔の自分と今の自分、共通していることがある。それはーーただ一人の少女を、今も愛しているという一点。
故郷を離れて、今年でちょうど十年。十年ぶりの帰郷だ。ーー今度の帰郷は、いつになるのだろうか。
「………未来のことなんか……”あいつ”以外誰にも分からないよな」
自嘲気味に苦笑を浮かべ、トレイドは最後に眠っているタクトを一目見て、
「少年が起きたら、後は頼むぞ、クサナギ」
『………』
返事はない。おそらく、あの脅しのことを根に持っているのだろう。再度苦笑したトレイドは、それでもきっちり頼まれてくれるだろうと思い、部屋を後にする。行き先は花屋。届ける先はーー
ーーあの場所、孤児院跡。
トレイドが出て行って数時間後。太陽は昇りきり、ちょうど正午近くの時間帯になったときに、タクトはようやく目を覚ました。
「………」
目を覚ますも、未だに頭が働かないのか、ぼぅっとした視線で天井を見やる彼に、ベッド際に立てかけられた長剣が、手作りの鞘から僅かに飛び出し、
『ようやく起きたか、この寝坊助め。コウの苦労が知れるってものだ』
「………」
胡乱げな視線を長剣ーークサナギに向け、タクトはしばしじっとクサナギを見やった。途端、クサナギは大人しくなり、じっとタクトの出方をうかがっている。
『……寝起きの可愛らしい女のぶっ!!』
ーーうかがっていたのは、いつ襲いかかろうかということだったらしい。母親譲りであるタクトの女性的な顔立ちと、寝起きの無垢な瞳がじっと見つめていれば、確かに可愛らしく映るだろう。本人は断固否定するだろうが。
ともあれ、タクトの裏拳をまともに食らったクサナギは、力を失ったのか、ずるずると下がり鞘に収まった。そして、その一件でようやく覚醒したのか、タクトは上体を起こして辺りを見渡し、
「……宿?」
『あ、あぁ……お前さん、ずいぶん眠そうだったからと、トレイドがな。当人はどこかに行ってしまったが』
トレイドの話しになった途端、口調に不機嫌さが混ざるのを、クサナギは隠そうともしなかった。一瞬首を傾げるも、即座にあのことかと理解して、相方に苦笑を浮かべた。そしてタクトは先程の自分の身に起きていたことを思い返していた。
あの異様な眠さーー起きたときは、眠たさのせいで考える力が全くなかったが、一眠りした今ならわかる。昨夜見た夢のときに、ユリアから渡された知識のせいだ。渡された知識というのはーー
「………あれ?」
ーーおかしい。どんなことを渡されたんだっけ?
何かを渡されたことは覚えている。そして、脳に直接情報を渡されたことによって脳に負担が掛かり、それが睡魔となって表れたのもわかっている。ーーなのに、肝心の情報の内容については、全くわからない。いや、思い出せないというのが正しいのだろうか。
「……?」
そのあまりにもな不自然さに、タクトは眉をひそめて考え込んだ。ーーと同時に、久しぶりに感じる”あの声”が聞こえてくる。
ーーガーディアン・フォース
その声が聞こえた途端、思わずタクトは唯一使える、自らに強力な自己暗示をかける鍵の呪文を心の中で唱え、ふと瞳を閉じた。すると、自らの心象世界が目の前に広がる。
目を開ければ現実世界、目を瞑れば心象世界ーーそんな不安定な場所にいるタクトは、暗く分厚い雲の隙間から日の光が差し込み、荒野を照らす心象世界の中にいた彼を見やった。
彼はもはや定位置となっているのか、枯れてしまった大木に寄りかかるようにして座り込み、タクトが近づくとまるで今気づいたかのように目を開け、驚きをあらわにさせる。
「……まさかここまで来るとは。私が呼ばなくても、自分の意志でここに来れるようになるとはね。驚いたよ」
「……僕自身、確証があったわけじゃないけど、何となくそんな気がしたから」
「稀にいるんだよね、”何となく”でとんでもないことができちゃう人が」
タクトの心象世界にいる、彼よりも年上の男は、そういって微笑みを漏らした。言葉とは裏腹に、タクトがここまで来れたことを喜んでいるように思える、そんな笑みだった。
「君がここに来たってことは、私に聞きたいことがあるのかな?」
「聞きたいことというか、確かめたいことというか……というよりも、僕を呼ばなかった?」
どこか歯切れ悪く、どう尋ねようか迷っているふうに見える。頭をかきながら呟きを漏らすタクトだが、すぐにここに来るきっかけとなった、誰かに呼ばれた感覚を思い出し、男に尋ねた。
だが、男はそれに首を振り、
「……いや、呼んでないよ。僕がその気になって呼べば、君はここに来るんだ。わざわざ君に来てもらうように呼びかけなくてもいいってことさ」
「そうなんですか……」
どうやら今まではここに来れたのは、一方通行ーーしかも強制だったようだ。呆れたというような溜息と漏らすタクトだが、心象世界に響いた声に気づき、顔を上げた。
『タクト? おい、タクト!』
「……クサナギの声?」
「どうやら、現実世界で相方が呼んでいるようだね」
行くといい、今度はゆっくりできるときに、またーーそういってこちらに手を振る男を見て、タクトはしばし迷うも、男の言うとおりだなと頷きーー意識を現実世界のほうへと引き戻した。
タクトの心象世界に住まう彼から見れば、目の前にいたタクトが突然消えたように見えた。意識をこちらではなく、現実世界に戻したのだろう。その様を見て満足げに頷くと同時に、どこか安心したようにほっと息を吐き出した。
「……やれやれ、危うく気づかれるところだった。相方には感謝しなければ……」
頭をポリポリとかきながら、男は大木に寄りかかりながら座り込む。ーー先程のタクトの様子から、”思い出せない事”について問いかけようとしていたことが伝わってきた。そのことについて、どう誤魔化そうか悩んでいたのだが、うまい具合にクサナギが彼を呼びかけてくれたため、流してくれた。
ユリアが彼に伝えようとした情報ーー彼が覚えている記憶を”思い出せないよう”封鎖したのは、この男であった。
男は視線を大木へ向けると、その視線によってか大木の影に隠れていた”黒い塊”が様子をうかがうように表れる。黒い塊は、やや高めの、少女の声音で男に問いかける。
『……なんでタクト君に伝えてくれないの?』
「あの子にはまだ早すぎる話だ。……避けては通れぬ道ではあるが、しかし、まだその時ではない」
ーー黒い塊から発せられた声は、”彼女の声”そのものだった。彼女の声は、どこか男を非難する色を含んでいる。
『だからといって……トレイドにまた”アレ”をさせたらっ!』
「……彼に”禁忌”を触れさせないようにするため……そのために、あの子を利用するのか?」
『……っ』
じろり、と穏やかな彼にしては珍しく睨むような瞳で黒い塊を見やった。その眼力は凄まじくーー元々の穏やかさとの差が激しいせいか、そう思えるのだろうーー、黒い塊は怯んだように言葉を詰まらせた。しかしーー彼女の声は続く。
『だって……あの馬鹿を止められるのは、あの子しかいないんだもん……っ』
懇願と、悲痛とーーそして、嫉妬だろうか。様々な思いが重なり合い、複雑な気持ちとなっている彼女が吐き出した言葉を受け、男は分厚い雲が立ちこめる空を見上げて、呟いた。
「……愛は人を盲目にさせる。よく言ったものだ」
『……え?』
男が言った言葉が予想外だったのか、間の抜けた声を出して問い返した。それに対して、男は笑みを浮かべて、
「トレイドなら大丈夫だ。ダークネスの本体と戦うこととなっても、今回はタクトがいる。クサナギもいる。そしてーー多分彼は、この故郷で己の過去に決着を付ける」
『………』
これは私の予想だけど、と付けたされたが、それでも彼の予想は、黒塊にとっては思いがけないことだったのかーー反応もなく、ただ男の言葉に聞き入っていた。
「ーー見守ろう。そして祈ろうじゃないか。”君を亡くして”以来、時を止めたままだった彼が、再び時を動かすことを」
彼は黒い塊ーーその正体は、タクトの身の内に宿ったダークネスだーーに視線を向け、そう言った。目の前にあるのは、タクトの精霊使いとしての力を奪った元凶である。しかし男は、それを破壊しようとはせず、ただじっと見つめていた。
彼には見えて、そして分かっていたのだ。ダークネスを通じて、”彼女”がタクトに情報を伝えたことを。
”彼女”の意識がどこにあるのかはわからない。いや、ある程度の見当はついているも、確証がないために未だ不明なのだ。
だが、もしも男が考えているとおりなのだとしたら、世界は皮肉で出来ていると言っても過言ではない。あんなに近くにいるのに、そのことに気づくことは決してない。
それでもーートレイドはこの地で、自らが宿している力に気づくはずだ。その時こそーー
「ーー君の思いは、届くはずだ」
その言葉は、慰めではなく、その場しのぎの虚言でもなくーー絶対にそうなるという力強い言葉だった。