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精霊の担い手  作者: 天剣
2年時
116/261

第9話 精霊憑依~1~

前回の投稿から間が空きました。本当に、申し訳ないです……(汗


試験が二つほど重なり、そちらに集中しておりまして。しかし、それもようやく終わり、片方は無事合格しました。やったねッ!


と言うわけで、喜ばしい気持ちと開放感の中書いた第9話、始まりです!!

「……」


閉じていた目を開けると、無事に元いた場所に戻ってくることが出来た。その事実に少しだけほっとしつつ、タクトは前にいるトレイドの背中へと視線を向ける。一人佇み、何をするでもなく前を向いているトレイドは、どこか怒っているようにも、悲しんでいるようにもーー様々な見方があった。


ただ一つ言えるのは、彼は今とても複雑な心情を抱いている、ということだけだった。そんな彼を背中越しに見やるタクトは、恐る恐る声をかける。


「あ、あの……トレイド、さん」


「……」


しかし、帰ったのは無言だった。その場に流れる冷たい風は、何も季節だけによるものではないだろう。夕暮れも近づいてきたのだろうか、だいぶ赤みを帯びた空が見上げながら、この凍り付きかけた空気を何とかしようと、タクトはあたふたと慌てながら、


「え、えっと、その……せ、聖地って何ですか?」


「………」


あはは、と苦笑を浮かべながらの問いかけに、トレイドはやはり答えない。うぅ、と沈みかけるタクトを気遣ってか、彼の頭上で座り込んでいるクサナギが説明した。


「聖地っていうのは、世界に必ずある不思議な力点のことだ。そこには強力な力が溜まりやすくて、大魔法を発動させる際に使われる事が多い」


「へ、へぇ~。そんなところに行けだなんて、賢者は一体何を伝えたかったんだろうな?」


「理を浄化させるためだろうが。確かにそれなら、聖地に行った方が良いな」


「……そういえば気になっていたんだけど、浄化って?」


「文字通りの意味だ。今トレイドの理は、ダークネスの浸食を受け、黒く染まっていただろう? あれを元に戻すために浄化させるのだとさ」


ふむふむと頷きつつ、タクトはすんなりと理解できたのは、彼自身もダークネスを宿し、その力の一端を身にしみているからだろう。あれほどの力ーー悪意を、長時間内に宿していれば、どれだけ名高い聖人であろうとも、穢れるのは致し方ない。


頭越しに会話をするタクトとクサナギだが、それはどちらかというと場の空気にいたたまれなさを感じてきたからだろう。クサナギが珍しくトレイドの方を伺いながら、ゆっくりと口を開いていた。


「………」


「理というのは、その世界に住む人の願望が形になった力。相性を考えれば、やはりその理が生まれた世界の聖地で行うのが良いだろうな」


「……く、クサナギ」


クサナギの言葉に、トレイドの機嫌が見る見る悪くなっていくのが伝わってくる。背中越しでこちらの方を一切見ていないにもかかわらず、だ。これ以上悪くされたら溜まらないとばかりに、タクトは小さく叱責して注意を促す。それに対し、クサナギはわかったというように肩をすくめる気配がした。


「あ、あの……トレイドさんは……どうして」


「……今の俺は、少々機嫌が悪い」


「……は、はい」


何がそんなに気に障ったのか、思い切って彼自身に問いかけようとするも、帰ってきたのは警告にも等しい言葉だった。思わず気圧され、タクトは萎縮しながら頭を下げる。すると、そこでようやく彼はこちらを振り向いて、呆れたようにため息をついた。


「少年じゃない」


「え?」


「気づかないか? ……いつの間にか、囲まれている」


「っ!」


言われ、ばっと辺りを見渡すも、周囲には人影一つしない。元々彼らがいる場所は、彼らを中心として周囲がへこんでいる窪地。当然、身を隠せるような場所はない。ーーなら、このクレーターの向こう側にいるのか、とタクトは警戒心を露わにする。


「……なるほど。確かにいる……しかも、なにやら懐かしい気配がするな」


「え?」


頭上でクサナギが座り込み、腕を組んだままそんなことを口にした。その言葉にタクトは首を傾げかけるも、その意味を理解することが出来ずにいた。


「……そうか。出てくる気はない、ということか……」


しばしの間流れた静寂。それを壊すかのようにトレイドは静かに答えーー次の瞬間、証を右手で握っていた。だらりと証をぶら下げたまま、彼は一歩二歩前へ歩き出し、トン、と証の切っ先が地面に触れる。


「っ!」


「えっ!?」


ーー次の瞬間、息を呑む音が聞こえ、慌ててそちらを見ると、先程まではなかった土柱が突き上がっていた。よく見ると、突き上がった土柱は柱ではなく、先端が鋭くとがった槍であり、そしてそのそばには、形状からして狙撃銃だろうか、それを携えた、赤毛を結い上げているスレンダーな女性がいた。


彼女はトレイドに対し苦々しい表情を向け、一方の彼は困ったような、呆れたようなため息をついた。


「またあんたか……。隠れるのがうまいのは、恋人の浮気対策か?」


「はは、そういう使い方をしてみたい物だね。だけど生憎、独り身さ!」


どこかやけになったように聞こえる叫びとともに、彼女は狙撃銃の銃口をトレイドへと向けーーしかしその時にはもう、トレイドは彼女の間合いへと入り込んでいた。


「っ!?」


「さっき言ったとおり、機嫌が悪い……。今度は、あのときのように気絶じゃすまないかもな」


まるで手品のごとく、するりと彼女を間合いに捕らえた彼は、静かに、そして明確な苛立ちを込めながら剣を振るいーー


ーー剣が、彼女の体をすり抜けた。


「っ! 何っ!?」


「ーーはっ」


剣を振り抜いた姿勢で、トレイドは目を見開いて驚きを露わにさせる。目の前にいた彼女の姿が、まるで溶けて崩れ去ったようになくなり、それと時を同じくして彼女の”虚像”があった場所のすぐ隣で、彼女が再び姿を現した。


(幻覚ーーいや、蜃気楼かッ!)


光属性による透明化ーー自分の周りの光をねじ曲げ、姿を隠す光影消。その応用が蜃気楼であり、こちらは光をねじ曲げ、離れた場所に自分の姿を”投影”させることである。自然現象で起こる蜃気楼と原理は同じだが、こちらのほうは光の屈折率が高いため、このようにはっきりと写ってしまう。


「くらいなっ!!」


ジャキン、とほぼこめかみと接するぐらいの感覚で、彼女の狙撃銃が突きつけられる。これぐらいの近距離では、「くらいな」ではなく、「死にな」というほうが正しいーーという、どうでも良い思考を思い浮かべ。


「……っ!」


ありったけの力で、剣を振り切ったままの不安定な姿勢を強引にひねり、それと同時に左手で銃口を上へと押しやった。


タッチの差で彼女の指が引き金を引き、耳元で轟音が響く。ーー鼓膜が破れた。髪の毛も数本持っていかれ、しかし頭を撃ち抜かれはしなかった。


「ーーー」


彼女が苦々しげに口元をゆがめーー聞こえないが、多分舌打ちでもしたのだろうーー、すぐに銃口を戻す赤髪の彼女だが、残念ながらその間は与えない。体をひねって勢いを利用し、ななめ下からすくい上げるようにして剣を振りあげる。


「ーーっ」


その一閃をずざっと大きく距離を離してかわす彼女。本来ならばトレイドもその後を追うが、しかし先程の件があり、追撃しようにも戸惑ってしまう。


(……落ち着け、俺。切り替えろ)


「トレイドさんっ」


「ん?」


つぶれた左耳をそのままに、トレイドはこづんと自分の額に拳をぶつけ、雑念を振り払い、思考を切り替える。先程の、蜃気楼にあっさりと引っかかったのは、苛立ちによって冷静ではなかった点と、以前彼女をあっさりと倒してしまったという慢心による物だろう。


すると背後から、自分を呼ぶ声が微かに聞こえ、そちらを振り返りーーそして、固まった。


彼ーータクトのすぐそばには、あのときの青年がいた。二度ぶつかり合い、一度目は洞窟の中で、二度目はあの結界に捕らわれた中、先の女性とともに。


「………」


「………」


桐生セイヤ。彼は、タクトを庇うかのように、左手で押しやりながら、彼の前へと出ていた。


「………」


「全く、実家にいるはずのお前が、何でここに、あの男と一緒にいるんだ? しかも、クサナギまで連れて」


思わず半眼となり、睨むような視線でセイヤはタクトをじっと見つめる。タクトとしては久々にあった兄代わりの人だが、約一年前に、彼が目の前で人を(外魔者ーー即死刑者だったとはいえ)殺した場面を目撃しており、それ以後、セイヤとあったときどんな感じで接すれば良いのかわからなくなっていた。


一方のセイヤも、それを従弟であるタクトに見られ、彼と同じような迷いがあるが、とりあえず普通に接することが出来てほっとする一方、そんな自分に自己嫌悪を抱いている。


「………」


トレイドはそんな微妙な空気が流れる二人を見て、目を細めた。ーー会話が、うまく聞き取れず、何をしゃべっているのかわからない。


「それは、その……成り行きって言うか……」


「成り行きねぇ~。何だ、お前からついていったのか?」


「う、うん」


頷くタクトを見て、セイヤは嘆息。


「なんだ。……折角、誘拐犯の罪状をつけられそうだったのに。いや、遅くはないか?」


残念がるように言い、しかし目を輝かせてとんでもないことを口走るセイヤは、ものすごく悪い顔をしていた。そんな彼を見て、タクトとクサナギは呆れた表情で首を振る。


「せ、セイヤ兄……」


「それはいかがな物かと……」


トレイドは相変わらず聞こえない。聞こえない、が。ーーなにやら、酷く誤解を招くようなことを言っているような気がしてならない。故に、会話を交わす彼らを見て、一言言ってやろうとする。


「おい、お前ら。一体何をーー」


「その前に、こちらを向け、トレイド」


「っ!」


声をかけようとした瞬間、背後からーーつまり、先の女性がいるあたりから声がして、それに従いそちらへと視線を移すと、新たに二人の男がいた。


うち一人は新顔で、薄い緑の短髪をした、比較的若いーーといっても、二十代後半だろうかーー男がいる。彼は二本の剣を柄頭で連結させたような剣を手に持ち、その隣には槍を構えた紫色の髪の毛の男がいる。


彼の方は名前を知っていた。クーという、槍使いの精霊使いであり、前回剣を交えた相手である。クーは無表情のままこちらをじっと見続け、目が合うと軽く目礼した。


「久しぶりだな、トレイド殿」


「……クー、だったな」


彼の名前を呟くように口にすると、クーはほんの少しだけ口元をほころばせて、


「覚えていたか」


と、どこか嬉しそうに言った。その一言を受け、しかしトレイドは気むずかしい表情で彼をじっと見続ける。探るようにも見えるその視線に、クーは口元に浮かべていた笑みを消し、槍の矛先を向ける。


「クー?」


「………」


突然の部下の行動に、アンネルは疑問符を投げるも、しかしクーはそれを聞かず、ただじっとトレイドを見つめるだけ。その目には、先程まで浮かべていた友好的な物はなく、目の前の相手を”危険”と捕らえていた。


「………」


「………」


クーとトレイド、二人の間に広がる冷たく静かな空気。両者は互いのことをただじっと見続けーーやがて、トレイドは左耳に手を当てて、


「……悪い、そこの姐さんのせいで耳が潰れてて、音が全くわからん。出来れば、大きな声で頼む」


「…………」


ーーその一言が、場の空気をさらに冷たくさせた。まるで、冷たい涼風が吹き荒れたかのように。


「……バカ?」


「……バカです」


トレイドの背後で、桐生従兄弟が聞くように、断言するように呟く。セイヤは唖然としつつ、タクトは項垂れ、予想が確信したのを理解して、重いため息をついた。ーーわかっていたのだ、彼が天然だと言うことを。


「………この空気で、良くそんなことが言えるよな。……KYにもほどがあるだろう」


「これが素なのかね……。それとアンネル、あんたどこでそんな言葉覚えてきたんだい?」


肩すかしを食らったかのように、呆れたため息をついたアンネルとその隣の赤髪の女性、リーゼルドも似たような反応を返してきた。


「……ふぅ」


一方のクーも、呆れたようなため息をついて、先程までの臨戦態勢を解いた。彼の反応に心底あきれ果て、彼が抱いていた懸念ーーここからの闘争方法を考えている、等ーーは、綺麗さっぱり払拭された。


「……え? 何? 何この反応?」


一人だけ難聴に陥っているトレイドは、周囲に流れる空気に気づき、あたふたと周囲を見渡す。そんな彼に、契約を交わしているザイは苦笑する気配だけを漏らし、助け船を出さない。


彼とは長い付き合い故、こうしたほうが後々面白いことがあると理解しているからだろう。


ともあれ、さっきまで流れていた緊張感は皆無となっていた。場の空気が物の見事に崩されたことにアンネルは気づいたが、しかしあまりにも綺麗にーー呆れたという意味でーー綺麗に壊されたためか、ただただため息だけを漏らし、大きな声で呼びかける。


「とりあえず、トレイドさんっ。こちらの言うことに従ってくださいっ」


「……なに!?」


「こちらのッ! 言うことにッ! 従ってくださいッ!」


眉を寄せ、耳も寄せるトレイドに、さらに大声を張り上げるアンネル。その言葉は届き、トレイドは頷きながら証を消そうとしてーーそこで、何かに気づいたようにふと動きを止めた。


「……今、何時!? 太陽は出てる!?」


「はい?」


「太陽は出てるのかって聞いてるんだッ!!」


必死になって叫ぶ彼から、危機感が滲み出ている。それがなにから来るのかわからない彼らは、ただ首を傾げながら太陽を見ようとするが、残念ながらここからでは見えない。だが、時間的にもう日が沈む頃だろう。そのことをトレイドに伝えるため、彼の方へ視線を向けようとした、その瞬間。


「っ!?」


視界の端で、動く何かを見つけた。アンネルはばっとそちらへ振り向き、そんな彼の様子を見た部下達も同様に背後へ視線を送る。すると、リーゼルドは目を大きく開けて証の銃口を”それ”に向けた。


「なんだい、アレは……?」


「俺が知るか。だが……」


警戒態勢を取った彼らは、それぞれ証を構えてそれを見る。リーゼルドの疑問にアンネルは首を振り、しかしこちらに近づいてくる”それ”を見て、小さく呟いた。


「……狼……いや、”魔法生物”か?」


四肢を使って体を支え、黒々とした毛並みを持ち、目が異様に赤い狼を見て、アンネルはそう推測する。その全身からは魔力が感じられ、時折周りの空気が歪んで見えるのがその証だろう。


魔法生物ーー魔力を持った、あるいは魔術的要素によって生まれてきた生物や、魔力を長時間浴びたりなどをして、突然変異を起こした原生生物のことを指す。通称”魔物”とも呼ばれるそれらは、特に後者の変異によって生じた魔法生物は、きわめて危険である。


元々魔力を持っていたものや、魔術的要素によって生まれたものは、大抵危害を加えない限りは何もしてこない。しかし、変異によって生じた魔法生物は、理性がなく、本能の赴くまま殺戮衝動に駆られてしまう。


ずらりと並んだ牙を見せ、低くうなり声を漏らす狼。それにアンネルはやや苦い顔を浮かべて後退した。


「……まずいな、”囲まれてやがる”」


目をふっと動かすと、そこにも狼ーーいや、狼の”群れ”。そう、狼の魔物は、群れをなしてこちらに近づいてきていたのだ。しかも彼らがいるこの場所は、円形に凹んだくぼみ。自ずと、狼たちは彼らの頭上にいると言うことになる。


そしてそこに、ずらりと円形に取り囲んだ狼の群れ。奴らは品定めするように瞳を輝かせてじっと彼らを見つめていた。時折漏れてくる奴らのうなり声だけがこの場に広がっていく。


「くそ、遅かったか」


背後から近づいてきたトレイドの声が真横から聞こえ、証を構えた。そんな彼に、リーゼルドは大声で呼びかけた。


「あんた、この狼どものこと知ってたのかいっ!?」


「あぁ、知ってるさ。それと、大分耳も治ってきたから、もう普通の声で良いぞ」


左耳に指を突っ込み、調子を確かめるトレイドを見て、彼女はふんと鼻を鳴らしながら、


「そうかい。じゃあ説明してもらおうか? こいつらは何なんだ? まさかとは思うが、あんたが呼んだのかい?」


「俺が呼ぶわけ内だろう。呼んだとしても、何で俺まで囲まれてるのさ」


むっと頬を膨らませたトレイドが反論し、


「こいつらは、この辺に住み着いている魔法生物だ。詳しいことは知らないが、どうも太陽が沈むと、”地面から”出てくるやつらだ」


「地面から?」


油断なく頭上にいる狼たちを睨み付け、この窮地を脱出するために、頭を高速回転させるトレイドに、クーが疑問を口にする。彼はそれに答えず、たた頷くことで返答した。


「……っ! こいつらを見るまで気がつかなかったのは、そういう理由か……」


納得がいったというように頷くクー。彼自身、疑問に思っていたのだ。この場にいる精霊使いは皆、腕の立つ者達ばかりなのに、どうしてこの数の魔物が、この距離まで近づいてきたことに気がつかなかったのだろうか。それも、出現方法を見たわけではないが、地面から出てくるという言葉に、納得がいく。


狼どもは、こちらに”やってきた”のではなく、そこで”現れた”のだ。確かにこれなら、気づいた頃にはもう近くにいることになる。


「……二十……三十……四、五十ぐらいか? 俺はさっさとここから逃げ出すことを強くおすすめするぜ。あまり強くはないが……”親玉”に出てこられると大分不利だ」


「なにやら、ずいぶんと詳しいみたいだな?」


意外と博識な面を持つトレイドに、アンネルは口元を引き上げる。そんな彼に、トレイドは首を振り、


「ま、ここは友人がすぐ近くにいるから……」


ちらり、と背後にある祠と、そのそばにいるタクトと彼の身内だろうと思われる青年に視線を送る。彼らは、互いに剣を構えーータクトは剣の姿になったクサナギだがーー、互いに背を向け合いながらこちらのほうをじっと見ていた。どうやら、撤退か強行突破かは、こちらの判断に任せる、ということらしい。


そんな息の合った二人に軽く苦笑してから、トレイドはちらりとアンネルに目を向ける。すると彼は、緑の短髪をかきながら、


「どうも君相手だと、こちらのペースを崩される。とりあえず、協力体制を取ろうじゃないか」


「条件があるな。俺とあの子のことを、見逃してくれないか? もちろん、そちらの迷惑になるようなことはしないし、フェルアント……だったっけか? 後でそこに、何でこんな事をしていたのか説明に伺う」


もう、あの子の叔父にそんな約束を取り交わしてしまったしな、と内心で呟く。あの子の面倒を見ることになったのは、彼のことを知り、さらにこちらの事情に巻きこんでしまったからである。そのため、フェルアントにはその義理はないーーのだが。


ーー神霊祭のとき、迷惑掛けちまったからなぁ……。


はぁ、と深いため息を密かにつく。ちなみに、神霊祭を主催しているのはフェルアント学園であり、フェルアント自体は関与していなかったりするが、知らぬが仏だろう。


内心の葛藤を知るよしもないアンネルは、彼の条件を聞き、軽く目を見開いた。そしてそこで、ようやく笑みを見せ、


「今では駄目なのか?」


「今では駄目なんだ。こちらも、急ぎの用事でね。それが終われば、だ」


断言するトレイドを見て、笑みを浮かべたままアンネルは頷いた。


「……了承した。では、ともにこの場から退避する」


「了解。じゃ、この穴ぼこから抜け出すとするかい!」


リーダーの命令を受け、リーゼルドは己の証を構え直す。その銃口を一体の狼ーーの姿をした魔物に向けた。ワンテンポおいて、銃撃音があたりに響き渡り、一体の狼に命中する。狙撃された狼は、後方へ吹き飛ばされたが、そのかわりとばかりに周囲にいた狼たちが一斉に襲いかかってきた。

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