第一話
街灯の頼りない光の中、二人の少年が走っていた。
一人は背が低く、冬だというのに上着を脱ぎ、腕で心底邪魔そうに抱えながら必死に。もう一人はこの国の男性の平均身長より背が高く、派手な色のダウンを着たまま涼しい顔で。
「おいっ、ハァ、先に、行けよっ」
低身長の方が息も絶え絶えに言うが、
「そうも行かないさ。お前が居ないとな」
その答えに舌打ちし、できるだけ走るペースを上げる。傍から聞けば固い信頼関係だと思うかも知れないが、自分の同僚の性格を知っているから、素直に喜べなかった。
なんにしても、一刻も早く現場に行かなければならない。
そこに正義感だとか善意がないにしても。
・・・・・
ただの学生である野宮成美は、今現在自分の置かれている状況がまったく理解できなかった。
今自分はバイトの後に同僚と遊びに行った、その帰りだ。
時刻はもう深夜零時を回ったほどか。場所は突っ切れば近道になる近所の公園。
そう、そこまでは良い。なんの問題もない。良い年した女が一人でいるには確かに問題ありだが。
では、アレは一体何なのだ?
目の前にいるのは、化け物。陳腐だがそうとしかいえない。
身長は三メートルを超えるだろう。ゴリラの様に足が短く、腕が長い。全身が闇そのもの、と言うほど黒いのに、鈍い光沢がある。丸太ほども太い四肢の先には湾曲した鍵爪がくっ付いていた。
顔も真っ黒だったが、僅かに覗く牙は黄色っぽく、眼も濁った金色をしていた。
そして、その両目は明らかに彼女のことを見ていた。