悪役令嬢の取り巻きモブに転生したので、断罪イベントに少しだけ書き足しておきました
乙女ゲーム『星冠のアカデミア』に、私の立ち絵はない。
名前もない。攻略本の人物相関図の、いちばん端。悪役令嬢イザベラ・ヴァルモントの背後に並ぶ灰色の人影のひとつで、キャプションは「取り巻きたち」。
それが今の私、リーネ・コルトだ。
前世の記憶が戻ったのは、王立学園の入学式。講堂で新入生の名簿が読み上げられ、「コルト子爵家、リーネ」と呼ばれた瞬間に、頭の奥で何かが噛み合った。コルト。聞き覚えがある。ゲームの終盤、断罪イベントのスチルの隅で、泣きながら衛兵に連れ出される女生徒のひとり。テキストウィンドウには、たった一行。
〈取り巻きたちも、イザベラに連座して学園を去った〉
一行で退学。一行で人生が終わる。モブの扱いなんて、そんなものである。
◇
生き残る方法は二つ考えた。
ひとつは、イザベラに近づかないこと。けれど、このゲームのイザベラは目についた下級貴族の娘を片っ端から踏みつけにする。近づかなくても、向こうから来る。
もうひとつは、取り巻きの内側に入り、彼女を断罪ルートから逸らしてやること。婚約者の第一王子アルベルトに嫌われないよう、ヒロインに手を出させないよう、横から袖を引く。そうすれば連座も何もない。
私は後者を選んだ。前世で三周した知識がある。公式ファンブックも読み込んでいる。勝算はあった。
イザベラの好物は杏のタルト。ただし人前では「甘いものは下品」と言い張るので、差し出すなら二人きりの時に限る。嫌いな花は薔薇で、好きなのは白い菫。ドレスの色を褒めるより、その色を選んだ理由を訊く方が喜ぶ。
それから、もうひとつ。ファンブックの隅の小さなコラムに書いてあった設定。
〈イザベラは他人の誤字が許せない。気づけば必ず、自分専用の紅玉インクで赤を入れる〉
入学から半月後、私はお茶会の招待への返事を、わざと一文字だけ間違えて書いた。「ご招待」を「ご紹待」に。
翌日、便箋は赤い丸つきで戻ってきた。余白には流麗な字で「手へん。子爵家の教育はどうなっているのかしら」。
そして次の週から、私はイザベラの隣の席に呼ばれるようになる。
手のかかる、少し抜けた、でも気の利く下級貴族の娘。杏のタルトを内緒で持ってきて、白い菫を部屋に絶やさず、ときどき字を間違えては叱られる。イザベラにとって、これほど気分のいい置物はなかったのだろう。
一年が経つ頃には、取り巻きの筆頭の座に収まっていた。
「リーネ、あなたって本当に使えるわね」
褒め言葉だと思って、笑っておいた。
◇
袖を引く計画は、半分しかうまくいかなかった。
二年の春に平民の特待生セシルが編入してくると、イザベラは筋書き通り彼女を目の敵にした。殿下がセシルに笑いかけるたび、扇を握る指が白くなる。「お嬢様の格が下がります」「殿下のお耳に入りますよ」と私が何を言っても、その指はほどけない。
嫌がらせの指示は、いつも口述だ。彼女が言い、私が書く。宛先は、小遣い欲しさの下級生や、学園に出入りする仕立て屋の小僧。セシルの教科書を水浸しにする。靴に縫い針を仕込む。舞踏の練習着の縫い目をほどいておく。
私はそれを丁寧に書き取り、そして相変わらず、一通につき一文字ずつ間違えた。
「リーネ。『縫い針』の『縫』が違うわ」
「申し訳ありません、お嬢様」
「本当に、いつまで経っても直らない子ね」
イザベラは溜息をつき、紅玉インクのペンを取る。公爵家が王室御用達の工房に特注させている、深い赤。王都でこの色を使えるのは、ヴァルモント家の人間だけだ。
彼女はそれで丸をつけ、横に正しい字を書き、ついでに中身まで直す。「縫い針は三本」を「五本」に。「汚す」を「泥で汚す」に。気に入らなければ一行まるごと書き換えることもある。
「清書してから届けてちょうだい。下書きは燃やしておいて」
「かしこまりました」
清書は届けた。燃やしたのは、書き損じの反故紙の方。
赤の入った下書きを床板の下にしまっておいたのは、保険のつもりだった。連座の一行を知っている以上、自分が何を書かされたかの記録は手元に置いておきたい。その程度の用心である。
セシルが実際にひどい目に遭ったことは、一度もない。
靴の針は、履く前に私が抜いた。教科書は濡れる前日に予備と入れ替えておき、ほどかれた練習着は、夜のうちに縫い直して寮の部屋の前に置いた。イザベラには「うまくいったそうです」とだけ報告する。彼女は結果を確かめない人だった。人が困る顔を想像するだけで、満足できるらしい。
ゲームのイザベラも、だいたいこんなものだ。高慢で意地悪で、それでもどこか筋は通す。断罪の場面では、最後に涙を一粒だけこぼす。その一粒のせいで、前世の私は彼女を嫌いきれなかった。
まだ、間に合うと思っていたのだ。
◇
考えが変わったのは、二年の冬の入り口。
イザベラ付きの侍女に、ノーラという娘がいた。年は私と同じ。庭師の娘で、無口だが手際がよく、イザベラの髪を思い通りに結えるのは彼女だけだった。
そのノーラが、ある朝いなくなっていた。
「盗みを働いたのよ」
イザベラは紅茶の香りを確かめながら言う。
「アルベルト様からいただいた青玉のブローチ。あの子の荷物から出てきたわ。父親も同罪ということで、庭師の職は取り上げさせました。住んでいた離れも、今日中に明け渡すよう伝えてある」
十一月の末だった。王都の北の下町は、夜になると水桶が凍る。
「……ご家族は、どちらへ」
「さあ?」
イザベラはカップを置き、窓の外の曇り空に目をやって、ふっと笑った。
「冬を越せるといいわね」
三日後、イザベラの衣装部屋で冬物のショールを探していた時のことだ。宝石箱の二段目、天鵞絨の仕切りの中に、青玉のブローチが収まっていた。
盗まれたはずのものが、盗まれた本人の箱の中にある。
私は蓋を閉め、ショールだけを持って部屋を出た。自分の部屋に戻り、床板を外して、下書きの束をめくる。
あった。十一月の初めに書いた一通。
〈侍女の荷に、例のものを。父親もまとめて追い出すこと〉
書き取った時は、意味がわからなかった。「例のもの」が何か訊こうとして、イザベラの機嫌が悪そうだったのでやめたのを覚えている。末尾の「こと」の二文字は、紅玉インクで書き足されていた。
本文は、私の字だ。ノーラの一家を冬の路上に放り出した手紙は、私の手で書かれている。
その夜、談話室の扉越しに、もうひとつ聞いてしまった。取り巻きの一人、伯爵家のマルグリットが、セシルへの嫌がらせが殿下の耳に入ったらどうするのかと、おずおず訊いていたのだ。
「心配いらないわ。指示の手紙は全部リーネに書かせているもの」
イザベラの声は、はっきりしていた。
「わたくしの字は一枚も残っていない。何かあれば、あの子が勝手にやったことにすればいいのよ。そのために可愛がってあげているんだから」
ああ、と思う。
ゲームのあの一行。〈取り巻きたちも、イザベラに連座して学園を去った〉。あれは連座じゃない。身代わりだ。
あの人は、涙の一粒を持っていない。
ルートを逸らす計画は、その夜で終わりにした。
断罪イベントは、起こす。予定通りに。
ただし、ゲームの結末は「婚約破棄のうえ、北の修道院へ」。静かな祈りの暮らし。三食と暖炉つき。
ぬるい、と思った。
◇
それからの私は、今まで以上に「使える」取り巻きになった。
誤字は一通につき二つに増やした。赤が増えるほど、イザベラは機嫌よく中身まで書き直してくれる。「泥で」の前に「わざと人前で」。「階段で押す」の後ろに「怪我をしても構わない」。本人の字で、本人の赤で。
冬が終わるまでに、下書きは二十三通になった。
それと並行して、ゲームのイベントはひとつも飛ばさないよう気を配った。起きるべきことが起きなければ、断罪の場面にはたどりつけない。好感度が足りないまま舞踏会を迎えれば、殿下は婚約破棄を口にしないのだ。
いちばん手間取ったのは、階段の件である。
イザベラの指示は〈四時過ぎ、東階段、人目のないところで〉。ゲームでは、ここでセシルが足を踏み外し、居合わせた殿下が受け止める。好感度が大きく動く、外せないイベントだった。
ただし、ゲームの殿下が「居合わせる」のは偶然だ。この世界で偶然に賭ける気にはなれない。
その日の昼、私は殿下の側近に、匿名の紙を一枚渡した。〈三階の東階段、四時過ぎ、足元にご注意を〉。
四時七分、背中を押されてよろめいたセシルを、アルベルト殿下が抱きとめた。押した下級生は、その場で側近に取り押さえられている。私が清書した指示書を、懐に入れたまま。
◇
学年末の舞踏会まで、あと十日。
ゲームでは、断罪されたイザベラには逃げ道が三つあった。
ひとつ目は、父親のヴァルモント公爵。娘に甘く、断罪後も裏から手を回して、修道院での待遇を整えてやる。
二つ目は、隣国ルーヴェンの第二王子エドガー。隠し攻略対象で、留学生としてこの学園にいる。イザベラは婚約者のいる身でありながら、保険として彼に手紙を送り続けていた。隠しエンドでは、修道院を訪ねたエドガーが彼女を連れ出して幕になる。
三つ目は、修道院そのもの。北の聖ヘルガ修道院は名門の令嬢の「預かり先」として有名で、一年もいれば静かに俗世へ戻れる。
私は、三つとも閉じることにした。
公爵には、赤入りの下書きの写しを三通、匿名で送った。添えたのは一枚だけ。〈舞踏会の夜、同じものが殿下の手に渡ります。ヴァルモント家として、どちらの側にお立ちになるか、ご一考を〉。
公爵は娘に甘い。けれど、それ以上に家名に甘い人だ。これもファンブックに書いてある。
エドガー殿下には、何もしなかった。ただ、彼が舞踏会を欠席するつもりだと聞いて、セシルに頼んだ。「エドガー様をお誘いしてみては。留学生がひとりきりで寮にいるのは寂しいでしょうから」。人の好いヒロインは、翌日には出席の約束を取りつけてきた。
エドガー殿下が受け取っていた恋文が誰の筆跡か、私はいちばんよく知っている。
聖ヘルガ修道院の院長は、ノーラの伯母にあたる人だった。
これはゲームの知識ではない。ノーラの家族を探し回って、ようやく見つけた下町の安宿で、本人から聞いた話だ。庭師の父親は咳が止まらず、幼い弟は熱を出していた。
私は持っていた金を全部置いて、あの一通を見せた。
「これを書いたのは、私です」
ノーラは長いこと黙って便箋を見ていた。黒い字と、末尾の赤い二文字を、交互に。
責められると思っていた。叩かれても文句は言えない。
けれど彼女は、赤い方の字を指でなぞって、「お嬢様の字ですね」とだけ言った。髪を結いながら、毎朝あの人の書きつけを読まされていたのだという。
それから、伯母に手紙を書くと言った。
◇
舞踏会の夜。
大広間のシャンデリアの下で、アルベルト殿下は楽団を止めさせた。ゲームで何度も見た構図だ。階段の上に殿下、その傍らにセシル。広間の中央にイザベラ。少し後ろに、私たち取り巻き。
「イザベラ・ヴァルモント。今この場をもって、君との婚約を破棄する」
ざわめきが広がる。イザベラは扇を閉じた。
「理由をお聞かせいただけますかしら」
「セシル嬢への度重なる嫌がらせだ。実行した者たちが、君の指示書を提出している」
側近が、束になった便箋を掲げる。私が清書して届けた手紙だ。受け取った下級生たちは、揃いも揃ってそれを捨てずにいた。自分は命令されただけだという証拠を、手放せるはずがない。
イザベラは便箋に目をやり、それから、ほんの少しだけ肩の力を抜いた。
「殿下。その字を、よくご覧になって」
振り返りもせずに、扇の先で私を指す。
「それはリーネ・コルトの筆跡ですわ。この子はわたくしの取り巻きの中でも、ことにセシルさんを妬んでいました。わたくしの名を騙って、勝手にやったのでしょう。監督が行き届かなかったことは、お詫びいたします」
完璧な台詞だった。一年半かけて用意された、身代わりの言葉。
広間じゅうの視線が、私に集まる。マルグリットが青い顔で一歩下がった。
私は前に出て、殿下に向かって膝を折る。
「はい。その字は、私のものです」
イザベラの口元が、わずかに緩んだ。
「ですが、殿下」
ドレスの隠しから、布で包んだ紙束を取り出す。
「こちらが、その清書の元になった下書きです。お嬢様が口述なさり、私が書き取り、お嬢様がご自身で直しを入れてくださったもの。二十三通ございます」
側近が受け取り、一枚を広げて殿下に見せた。
殿下の眉が動く。
黒いインクの上に、深い赤が走っている。丸。二重線。書き足し。「縫い針は五本」。「わざと人前で」。「怪我をしても構わない」。
「紅玉インクだな」
殿下が低く言った。
「王室の工房が、ヴァルモント公爵家のためだけに調合している色だ」
イザベラの顔から、音を立てるように血の気が引いていく。
「……でたらめよ。そんなもの、いくらでも」
「お嬢様」
私は、教室でいつもそうしていたように、少し首をかしげた。
「私、字を間違えるたびに、お嬢様に直していただきましたよね。二十三通、一通も欠かさず。お嬢様の赤は、とても綺麗な字でした」
誰かが、小さく息を呑む音がした。
◇
ゲームなら、ここで幕が下りる。イザベラは修道院行きを言い渡され、涙を一粒こぼして退場する。
私は、台本に少し書き足していた。
「殿下。もう一点、申し上げてもよろしいでしょうか」
殿下が頷く。
「昨年の十一月、お嬢様付きの侍女が、殿下から贈られた青玉のブローチを盗んだとして解雇されました。父親も職と住まいを失っています」
「その話は聞いている。イザベラ本人から」
「そのブローチは、今もお嬢様の宝石箱の二段目にございます」
殿下が側近の一人に目配せをした。側近は一礼して広間を出ていく。
「それから、侍女の荷に盗品を仕込むよう命じた指示も、下書きの中に入っております。二十三通のうち、十四通目です。末尾の二文字は、お嬢様の赤で」
イザベラが、初めて私の方を振り返った。
見たことのない顔だった。怒りでも、驚きでもない。理解が追いつかない人の顔。
「リーネ。あなた、何を」
「お嬢様がおっしゃった通りのことを」
私は言った。
「使える子だと、褒めてくださいましたから」
扉の方で、足音がする。
広間に入ってきたのは、ヴァルモント公爵その人だった。舞踏会に親が顔を出すことなど、まずない。貴族たちが道を空け、イザベラの顔がぱっと明るくなる。
「お父様!」
公爵は娘の横を通り過ぎた。殿下の前で深く頭を下げ、一枚の書状を差し出す。
「殿下。ヴァルモント家は、本日付けでイザベラを除籍いたしました。以後、この者の行いは当家とは一切関わりございません。侍女ノーラとその家族には、当家より相応の償いをいたします」
イザベラは口を開けたまま、父親の背中を見ていた。何か言おうとして、言葉にならずに唇だけが動く。
それから彼女は、弾かれたように広間の奥へ顔を向けた。壁際の席に、ルーヴェンの第二王子が座っている。
「エドガー様……」
縋るような声だった。婚約を破棄されたその場で、他国の王子の名を呼ぶ。それが何を意味するか、考える余裕はもうないのだろう。
エドガー殿下は、ゆっくりと立ち上がった。
「イザベラ嬢。あなたからいただいた手紙は、いつも美しい字でした」
イザベラの目に、光が戻りかける。
「今、そちらの下書きを拝見して、ようやくわかりました。私が受け取っていたのも、同じ手です。あなたは恋文まで、人に書かせていたのですね」
彼はそれだけ言うと、アルベルト殿下に目礼をして、元の席に腰を下ろした。二度と、イザベラの方は見なかった。
戻ってきた側近が、殿下の手のひらに青玉のブローチを載せる。
広間には、もう誰の囁きもない。
アルベルト殿下は、しばらく手の中の青を見つめていた。
「……本来なら、北の聖ヘルガ修道院へ送るところだ」
静かな声だった。
「だが今朝、聖ヘルガの院長から書簡が届いた。侍女ノーラの縁者として、この者の受け入れはお断りすると」
殿下はブローチを握り、顔を上げる。
「イザベラ。王家への虚偽の申し立て、無実の者への罪の擦りつけ、学友への危害の教唆。身分を失った以上、平民として裁く。北方開拓地の救貧院にて奉仕十年。その間の労賃は、全額ノーラの家族への償いに充てる」
北方開拓地。王都より、さらに北。冬が半年続く土地。
イザベラが膝から崩れ落ちた。衛兵が両脇から腕を取る。ドレスの裾が大理石の床を擦り、白い菫の髪飾りがひとつ、転がり落ちた。
引きずられていく途中で、彼女は私を見た。
「どうして」
掠れた声。
「あんなに、可愛がってあげたのに」
私は膝を折り、菫を拾い上げて、その手に握らせた。
「はい。存じております」
この一年半で、いちばん丁寧にお辞儀をする。
「冬を越せるといいですね、お嬢様」
イザベラの目から、涙は一粒も落ちなかった。落ちる前に、扉が閉まったからだ。
◇
舞踏会がお開きになったあと、中庭のベンチでセシルに捕まった。
「リーネさん。靴の針、抜いてくれてたのリーネさんですよね。練習着も」
ヒロインは、やはり勘がいい。
「何のことでしょう」
「最初から、全部わかってたんですか。こうなるって」
私は少し考える。
「展開だけは、知っていました。あの人があそこまでとは、知りませんでしたけど」
「……ちょっと、怖いです。リーネさんのこと」
正直な子だ。だから、この子がヒロインなのだろう。
「大丈夫ですよ。私はモブですから」
立ち上がって、ドレスの裾を払う。
「モブは、誰にも見られていないうちなら、何でもできるんです。見られるようになったら、おしまい。今夜は少し、見られすぎてしまいました」
中庭の向こうで、殿下の側近がこちらを探している。証人としての聴取と、それから礼の話だろう。側近見習いの席を用意する、くらいのことは言われるかもしれない。
断るつもりでいる。人物相関図の端の、灰色の人影。あの場所の居心地のよさを、私はもう知っているから。
翌週、ノーラから手紙が届いた。北の下町に公爵家の荷馬車が着き、薪が山のように積まれていたという。弟の熱も下がったらしい。
便箋の隅に、一文字だけ誤字があった。
私は赤を入れずに、そのまま引き出しにしまった。




