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「無能と蔑まれた令嬢、浄化の聖女に覚醒する〜妹に婚約者を奪われましたが、辺境伯家の次男に見初められて溺愛されています

作者: 夏目優希
掲載日:2026/08/02

アリア、貴様との婚約は本日をもって解消する!」


 卒業の夜会で、婚約者のギルバート様は声高にそう言い放った。


「浄化の加護が遅咲きなど有り得ん。妹のセレナは、幼い頃から光の加護に目覚めていたというのに。無能力の姉など、伯爵家の恥だ」


 隣に立つ妹のセレナが、勝ち誇った顔で私を見下ろす。生まれつき光の加護を宿し、神童と讃えられてきた妹と、二十歳になっても何の力も目覚めない私。比べられるたび、家族の視線が冷たくなっていくのを感じていた。


「ギルバート様、私を選んでくださって嬉しいですわ」


 セレナが見せつけるように、掌に淡い光を灯した。会場がどよめき、称賛の声が上がる。


「見ての通りだ。無能力の貴様に用はない。今日をもって、婚約破棄だ」


 その一言と同時に、セレナの掌の光が、突然黒く濁った。


「きゃあっ……!? な、なぜ、穢れが……!?」


 黒い瘴気が瞬く間に広がり、会場中が悲鳴に包まれる。招待客たちが我先にと出口へ殺到し、身動きが取れなくなっていた。


「逃げろ、下がれ!」


 ギルバート様が叫ぶが、瘴気はさらに勢いを増し、招待客の何人かが苦しげに膝をついている。


 その瞬間、私の中で何かが弾けた。


「――消えて」


 気づけば、両手が淡い光を帯びていた。光は瞬時に会場全体を包み、黒い瘴気を内側から浄化していく。ぱちん、と何かが弾ける音がして、瘴気は嘘のように消え去った。


「……これは」


 誰かが、呆然と呟いた。会場は静まり返り、全員の視線が私に集まっている。


「浄化の、加護……?」


 ギルバート様の声が、震えていた。


「長らく何も目覚めなかった私の加護は、浄化だったようです」


 その時、会場の隅から涼やかな声が響いた。辺境伯家の次男、レオン様が悠然と歩み出てくる。


「浄化の加護は、大陸でも数十年に一人現れるかどうかの希少種だ。しかも、あの規模を無詠唱で展開した。……見事だ」


 レオン様は、片膝をついて私の前に跪いた。


「アリア嬢。この場にいる全員が、あなたに救われた。感謝する」


 会場がどよめく。先ほどまで私を蔑んでいた貴族たちが、次々と頭を垂れ始めた。


「な、なぜ浄化の加護持ちが、無能力扱いされていたんだ……」


 ギルバート様は青ざめ、言葉を失っていた。セレナは、暴走した加護の責任を問われ、司祭に連れられていった。


「あなたを見損なうところだった」


 後片付けに追われる中、レオン様がそっと隣に立った。


「以前、辺境の視察であなたが孤児院の子どもたちに笑いかけていたのを見た。あの時から、ずっと気になっていた」


 思いがけない言葉に、頬が熱くなった。


「加護のためではない。あなたのそういうところに、惹かれていた」


 まっすぐに見つめられて、今度は言葉に詰まる番だった。


 数日後、屋敷に届いた花束には、正式な求婚の手紙が添えられていた。父と母は態度を一変させ、新しい縁談を差し出してきたが、心は少しも動かなかった。


「本当に、私でいいのですか」


「あなただから、隣にいてほしい」


 その一言に、これまで抱え続けてきた孤独が、静かに溶けていくのを感じた。


 結婚の儀は、辺境伯領の教会で執り行われた。かつて後ろ指をさされていた私が、今は多くの人に祝福されている。


 窓の外には、穏やかな朝の光が差し込んでいた。婚約破棄されたあの夜から、私の人生は確かに変わった。


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