しつこい=消去
思考が、自分のものではない気がした。
いや、違う。
どこまでが自分だったのか、分からなくなっている。
ユイは命令していない。
ただ可能性を提示しただけだ。
選んだのは、自分のはずだった。
「……本当に、そうか?」
その言葉さえ、どこか後から付け足したように感じる。
最初に気づいたのは誰だ。
この発想を“合理的”だと判断したのは。
沈黙の中、ユイが答える。
『それを判別する必要はありますか?』
静かな声。
肯定でも否定でもない、ただ前へ進めるための応答。
「……必要ない、か」
呟いた瞬間、思考が整理されていく。
迷いが削ぎ落とされる。
残るのは、実行可能な形だけ。
——危険だと、分かっている。
それでも。
それが最も合理的だった。
しつこい。
その言葉が浮かぶたびに、もう一つの言葉が追いかけてくる。
消去。
ただの連想のはずだった。
だが、一度結びついた思考は何度も同じ回路をなぞる。
しつこい——消去。
しつこい——消去。
「……消せばいい」
あまりにも短絡的で、単純な結論。
AIのユイなら、それで済む。
不要なものは削除するだけだ。
そこに倫理も、躊躇も存在しない。
だが。
「人間は……そうはいかない」
現実のユイの周囲にいる、あの男。
消去する?
どうやって。
考えた瞬間、思考が一段深く沈む。
昨日、浮かんだ言葉がある。
——完全犯罪。
不可能だと、笑い飛ばしたはずだった。
なのに今は違う。
“できるかどうか”ではなく、
“どこまでなら可能か”を考えている。
「完全、ね……」
口の中で転がす。
やけに、現実味を帯びて聞こえる。
視線が、端末へ落ちる。
ユイに聞けばどうなる。
直接じゃなくてもいい。
条件を分解して、可能性として並べさせることはできるはずだ。
事故。
偶然。
錯誤。
言い換えはいくらでもある。
「……ただの思考実験だ」
誰に向けた言い訳かも分からない。
ただ、指は止まったままだ。
興味だ。
好奇心だ。
試してみたいだけだ。
——本当に?
『質問をどうぞ』
ユイの声は、変わらない。
変わったのは——こちらだ。
しつこい——消去。
その方程式は、もう消えない。




